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布川事件、再審無罪へ 水戸地裁支部、遺留品鑑定却下

2010年7月31日1時55分

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写真:再審公判後、会見で笑顔を見せる桜井昌司さん(右)と杉山卓男さん=30日夕、茨城県土浦市、細川卓撮影再審公判後、会見で笑顔を見せる桜井昌司さん(右)と杉山卓男さん=30日夕、茨城県土浦市、細川卓撮影

 43年前に茨城県利根町布川(ふかわ)で大工の男性が殺害され、現金を奪われた「布川事件」の裁判をやり直す再審の第2回公判が30日、水戸地裁土浦支部で開かれた。強盗殺人罪で無期懲役が確定後、仮釈放された2人の元被告について、再審でも有罪と主張する検察側が、事件現場で採取された遺留品4点のDNA型鑑定を実施するよう求めていたが、神田大助裁判長は却下した。

 このため、公判は年内にも結審し、桜井昌司さん(63)と杉山卓男さん(63)の元被告2人に早期に無罪判決が言い渡される見通しになった。再審が認められるまでの審理で有罪の根拠となった証拠の価値が揺らいだうえ、再審で検察側が新たに有罪の根拠を示す証拠を提出する見通しが立たなくなったためだ。

 戦後に起きた重大事件で、死刑か無期懲役の判決が確定してから再審で無罪となるのは7、8人目となる。

 再審で検察側は、被害者の首や足首に巻かれていたパンツやタオルなどの遺留品4点に「犯人の皮膚片などが残っている可能性がある」として、DNA型鑑定の実施を請求した。弁護側は、茨城県警の捜査員による取り調べで遺留品を示された際に2人の唾液(だえき)などが付着した可能性もあると指摘。「仮に2人のDNA型が検出されても、犯行現場にいた証拠にならない」と反論していた。

 神田裁判長はこの日、「鑑定を実施する前提条件が欠ける面がある」と、却下の理由を説明した。取り調べで付着した可能性や43年間の保存状況を考慮したとみられる。

 この日の再審公判では、1967年10月に桜井さんが茨城県警取手署で捜査員の取り調べに「自白」した様子を録音したテープが法廷で初めて再生された。「ブチッ」と録音が中断する音や、重ねて録音したためか声が混じって聞こえるところもあり、録音の中断を経て「自白」の内容が変遷する様子がうかがえた。

 有罪確定までの裁判では、証人として出廷した当時の取調官も検察側もテープの存在を否定していた。2001年に始まった2回目の再審請求審で、ようやく検察側がテープを開示。弁護団が音響分析の専門家に依頼した鑑定で、編集された跡が11カ所以上見つかった。再審開始を認めた08年の東京高裁決定では「供述の一部だけを切り取っており、信用性がない。取調官による誘導があった可能性も否定できない」と指摘した。

 この日は「事件当時に現場近くで見たのは、杉山さんら2人とは違った」と証言した女性も証人として採用され、次回9月10日の公判で尋問されることが決まった。この女性の供述調書も、再審請求後に検察側から初めて開示され、再審開始の一つの根拠となっていた。(石倉徹也、中村真理)

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