5年に一度の「ドクメンタ14」から見えた、魅力的作品とギリシャの現実。
アテネ→ドイツのカッセルで開催中の「ドクメンタ14」。5年に一度、通常はドイツで行われるこの国際現代美術展に、デジタルクリエイターのナカヤマン。がアテネに訪れた。先のヴェネチア・ビエンナーレ(Part1, Part2)に続き、彼がギリシャで見たアートの光景とは。
まずは「ドクメンタ」について簡単に説明する。ドクメンタは5年に一度、ドイツの都市カッセルで開催される国際現代美術展だ。ヴェネチア・ビエンナーレに匹敵するほど美術界に与える影響が大きいとも言われているが、初回開催は1955年。アーノルド・ボーデのディレクションの下、ナチスによって弾圧されたモダン・アートの価値再提案のコンセプトで開催された。
アテネ訪問の前にギリシャ人の知人に聞いてみたが「ここ数年、アテネを訪れるたびに寂れていくのが分かる」状況らしい。ドクメンタ14を訪れると当然、上記コンセプトの展示と同時に、現状のアテネを目の当たりにすることになる。体験してみての感想だが、アテネで作品を見ることで伝わる何かは確かにあると感じた。
シューラーの没年制作のデスマスクと、彼女の詩を再構築した作品で構築されたインスタレーション。詩はDavidsによって、半ば強引に魂を吹き込まれておりゾッとする。詩のひとつはタイピングされた紙から単語ごとにアートナイフで切り取られ別の紙に貼り付けて移植され、別の詩はDavidsの髪の毛の刺繍によって言葉が綴られている。
Davidは死をもって生を表現し、生をもって死を表現すると評されるアーティストであるが、見ればその表現が如何に言い得たものかが分かる。異常な迄に細やかな作業、気が遠くなる程の制作時間が想起され、発狂しそうになる。見るものまでを巻き込む「時間の再構築」にも感じてくるほどだ。
もちろん魅力的な作品群を純粋に楽しむということも可能だし、重要だ。それに相応しいアートワークが沢山揃っている。しかし、少なくともボクは、その魅力的な作品からメッセージを読み取ろうとした瞬間に、自分の脳内だけでは「道が途切れる」ことに気づき、少し混乱し、凹んだ。
現地メディアによると、アダム・シムジックは「借金・移住・欧州連合の危機などアテネが抱えるテーマを、ゆくゆくは世界共通の課題になり得るもの」として提案している。重要な先行サンプルとしてのアテネ。
ネットが発達して、情報を作ることも得ることも容易な時代になった。余るほどの情報量の中で、難解な情報、心理的に距離のある情報はスルーされていく。他人を批判するつもりはない。実際ボク自身もそういう日常を送っている。だからこそ、アート、イベントやエンタテイメントが視野を広げてくれるのであれば、それはとても価値のある瞬間だと思う。
6月10日(土)からはアテネに加えて本拠地カッセルでの展示が始まっている。「ドクメンタ14」は9月17日(日)までの開催。ぜひ体験してみてほしい。
デジタルクリエイター。ルイ・ヴィトンやグッチ、ディオールなど多くのラグジュアリーブランドをパートナーに活動。2017年5月1日に新会社「5cream1ouder Inc.([scream louder]Inc.)を米国に設立。評価の高いプロモーション領域での創作活動に加え、アート関連のさまざまなプロジェクトを開始した。マーケティング・カンファレンス『ad:tech2017』では、ファッション業界から初めてキーノート・スピーカーに選出され話題になっている。
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