日本の人口減少をはね返し経済成長をけん引してきた、アベノミクスの成功の鍵である女性の労働参加の躍進は間もなく勢いを失うかもしれない。職場での女性活躍を促す政策はウーマノミクスとも呼ばれるが、急速に上昇した女性の労働力率(人口に占める働く意思のある労働者の割合)は既に高水準。女性の労働力率は結婚・出産期に当たる年代に低下して育児が落ち着く40歳代で上昇するM字カーブを描いたが、既にフラット化が進んで改善の余地は限られている。

  世界的に見ても高い日本の高齢者の労働力率と合わせて考えると、4年以上上昇を続けた労働力人口の増加は生産年齢人口が減少する中、あと1、2年以内に減少に転ずる可能性が高い。上限に近づく労働供給の先細りは日本銀行の期待する賃金上昇による物価上昇に寄与しうるが、同時に潜在成長率の低下にもつながる。残り少ない労働力供給の改善策である育児・介護サポートの充実や海外の人材受け入れについて、財源ねん出のための増税を避け、外国人技能実習生や留学生の数を増やすといった小手先の改革では「奇跡」は続かない。

•生産年齢人口が減少する中、増加する労働人口はアベノミクスの主要な成果の一つだ。女性と高齢者の労働力率は上昇し、男性の労働力率は下げ止まった。
•労働力人口の上昇は景気回復に伴う労働力需要の増加と、働くか働かないかの境目にいる女性の労働参加を促す措置と法制の施行を反映している。

•女性の労働力率の増加は日本だけでなく、世界的に見られる傾向だ。
•ただし、日本は 過去5年間で労働力率を6ポイントと先進諸国の倍のペースで改善させて、米国を追い抜いた。

•女性の労働力率の上昇、特に2、30歳代の女性の改善は、かつてM字カーブと呼ばれた女性の労働力率の年齢ごとの変化の平たん化を進めた結果、追加的な改善の余地は限られる。
•スウェーデンは、女性の労働力率のピークが90%を超え、ほぼ完全にフラット化している。日本のピークは8割程度で10ポイントの差があるが、この差を埋めるためにはスウェーデンが導入している25%の付加価値税率、日本より高率の所得税に近い水準まで国民の負担を上げなければ、女性の労働参加を促すために持続的に育児・介護サービスのサポートをすることは難しいだろう。
•女性労働参加の限界が見え始めた以上、より抜本的に女性の労働参加を促し労働生産性を増やす枠組みが必要だ。例えば高校からの教育改革で理系女子だけでなく「経営・経済女子(https://www.jcer.or.jp/policy/pdf/concept20130719.pdf)」を増やすなどといった取り組みが求められよう。

•2006年の改正高年齢者雇用安定法の導入に伴う60歳から65歳への継続雇用の義務化などを機に、日本の高齢者の労働力率は急速に上昇した。55歳から64歳の労働力率は74%と既に世界的に高い水準にあり、大幅な上積みは難しい。
•社会福祉の充実したスウェーデンは引退が早いため高齢者の労働力率はそれほど高くない。米国では64%、ドイツでも70%程度である。

•女性と高齢者の労働力率の上積みが難しい中、残されたのは有力な手だては外国人労働者だ。日本の外国人労働者は2016年に100万人を超え、前年比2割近くの伸びとなっている。建設業界では4割以上の伸び。2020年の東京オリンピックに向けたインフラ建設需要で、外国人労働者受け入れの伸び率はさらに高まろう。

•ただし、外国人労働者のうち4割は、相対的に低賃金となりやすい留学生のバイトや技能実習生だ。アジア新興国の所得が増加する中、こうした枠組みで外国人労働者が増える保証はない。
•ブルームバーグ・インテリジェンスでは、2015年から2030年に労働力人口は720万人、10%以上減少すると試算している。多少、外国人労働者が増加しても、焼け石に水だ(国立社会保障・人口問題研究所の2017年の人口・外国人移動の中位推計を参照し、各年齢の労働力率が2016年の水準で一定となるとの仮定を置いている)。
•女性や高齢者の労働力が急速に上昇するという「奇跡」や開国すれば無制限に外国人労働者が日本にやってくるという「幻想」は長くは続かない。

-原文の英語記事へのリンク:JAPAN INSIGHT: Flat ’M’ Curve Spells End of Womenomics Miracle

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