バカにされ続けたプロレス人生。元祖アイドルレスラーが、トップに立つまで - 女子プロレスラー・桜花由美の生き様

バカにされ続けたプロレス人生。元祖アイドルレスラーが、トップに立つまで - 女子プロレスラー・桜花由美の生き様

桜花由美さんはプロレスリングWAVEを率いる女子プロレスラー兼会社役員。2001年にデビューし、今年で16周年を迎えるベテランです。まさにDRESS世代ともいえる桜花さんにプロレスのこと、これからの夢のこと……いろいろとインタビューさせていただきました。


艶やかで大人の色香漂う見た目と、リング上で見せる強烈な蹴りのギャップ。若い子にも容赦なく、本気で戦いを挑んで勝ちにいく。自分に正直に生きる――デビューから16年、自身の生き様を素直に見せるプロレスで、女子プロレス界で人気を誇ってきたプロレスラーの桜花由美さん。2007年にはプロレスリングWAVEを立ち上げ、今年は記念すべき10周年を迎えます。これまでどのような思いで走り続けてきたのでしょうか。

■声優志望だった女の子が、プロレスラーとしてデビューするまで

――プロレス界に入ったきっかけはなんでしたか。

もともとは声優志望で、中2で事務所に入り、地元・茨城から東京まで毎週末、レッスンに通っていたんです。アニメ『クリィミーマミ』の声優・太田貴子さんが好きで、憧れていて、声優になれば太田さんに会える、と思い込んで(笑)。でも、声優の業界は狭き門。

事務所からは「役者の勉強もしなさい。10年で芽が出ないなら諦めたほうがいい」と言われていて、ちょうど8年経ったときに、アクション女優オーディション「アストレス」(活動期間は2年)に応募したんです。合格後、「プロレスラーとしてデビューしてね」と言われ、プロレスラーと混じって練習を始めたのがきっかけです。

――2001年に入門後、約半年でデビューされています。当時、プロレスに対する思いはどういうものでしたか。

痛いことが好きではなかったので、プロレスも嫌いでした。その昔、再現VTRでブル中野さん役を演じたとき、「プロレスラーにならない」と訊かれたときも、「絶対にならない」と即答したくらい(笑)。

――それでも、まずは2年間やり遂げられたのは、その先に声優や役者の道が待っていると信じていたからですか

もちろんその思いもありますが、プロレス業界の人たちから、「アストレスはプロレスを踏み台にして女優になる人たちでしょ」とバカにされるのが、とにかく悔しくてたまらなかったんです。

今でこそタレント兼プロレスラーみたいな枠はありますが、当時はなかったんですよね。腰掛けだと思われても仕方ない面はあるけど、やるからには本気で取り組みたくて。

また、アストレスの活動期間は2年と決まっていて、2年がんばってダメなら、事務所に所属して10年、芽が出なかったということ。そのときは、役者や声優ではない、普通の道を模索しようと決めていました。

デビューして1年以上経って、ようやく「一レスラー」として認められるようになったものの、周りから付けられたキャッチフレーズは、「歌って、踊って、おまけに弱い」。対戦相手に痛い攻撃を加えるのも、加えられるのも嫌だったと桜花さんは振り返ります。試合中、リングの上で痛みを感じて泣くことも、一度や二度ではありませんでした。

■格上の相手と戦いを重ねる日々。大きな怪我も

――現在の桜花選手は顔面蹴りを中心とした、ハードな攻撃に定評があります。当時の、その「痛いのが嫌」というスタンスから、いかにして脱却したのでしょうか。

私はあまり攻撃を仕掛けないのに、どうしてこんなに攻撃を受けないといけないんだ……と鬱憤がたまっていました。その反動で、あるとき、対戦相手に張り手を食らわせて。すると、お客さんがすごく湧いたんですよね。それを機に、思いっきり攻撃するのって楽しいかも! と感じるようになったんです。

――そこから躍進が始まって。

4カ月後くらいにザ・ブラディー選手とTWF世界タッグ王座のベルトを獲得しました。尊敬する先輩であるザ・ブラディー選手とこのベルトを守り続けたい……と思って、日々稽古や試合に励んでいたなか、団体で選手の大量離脱がありました。

結局残ったのは私たちアストレスだけ。不安よりも、「アイドルレスラーでしょ」とバカにされているアストレスをプロレス界に認めさせてやる、という思いが勝っていました。

私自身は団体のトップに立つことになり、他団体のトップとの対戦の場を設けられる機会が増え、自分の実力以上の相手と試合を重ねていました。明らかにキャパオーバーだな、と感じることも多かったですが、アストレスの存在感を示し、認めてもらうためには、戦うしかなかった。

――目の前の大きな壁にがむしゃらに向かっていって、大きく成長された時期なのではないでしょうか。ただ、その後、大変な怪我をされたんですよね。

大好きな選手の追悼興行で膝を怪我したのが始まりでした。完治していない状態で試合に出たり、抜けたりを繰り返していると、膝がまったく動かなくなったんです。膝が伸びなくて、くの字に曲がったままで、歩くときも脚を引きずるようにしていました。

その後、大掛かりな手術をするんですが、麻酔がかかっている状態のなか、大人4人がかりで膝を押しても、膝は全然伸びなくて……。復帰するまでの2年間は、毎日リハビリと治療院に通う生活でした。

■つらさをエネルギーに変えるのが得意。何度でも這い上がってみせる

――その2年で、プロレスを嫌いにはならなかったんでしょうか。

「プロレスなんかやらなきゃよかった」と後悔したことはありますね。いつか子供ができたときに、自分が子供を抱っこできなかったり、子供が周りから、「おまえの母ちゃん膝が曲がってる」とバカにされたりしたら嫌だな、とは考えていました。

――それでも、くさらなかった理由は。

欠場中に団体の解散が決まり、最後に練習試合に参加させてもらったんです。約2年ぶりのプロレスで、不安はたくさんありましたが、久しぶりにリングに上がるとびっくりするくらい楽しくて。

前みたいに、受け身をとれるようになって、動けるようになったら、楽しくプロレスできるだろうなと確信しました。と同時に、膝は現役の間にまっすぐ伸びたらいいかな、と思えるようになったんです。最近少しずつ伸びてきました(笑)。

――エピソードをお聞きしていると、桜花選手ってなんて強い人なんだろう……と感じずにはいられません。

つらい状況を燃料にしてがんばれるタイプなんでしょうね。むしろ怪我がなかったら、プロレスをやめていたかもしれません。順風満帆にいっていると、物足りなさを感じるんです。

■38歳。今の夢は団体のさらなる成長と、市議会議員当選

――現在はWAVE立ち上げ10周年を迎え、8月12日には10周年記念大会を控えています。順風満帆にいっている気がしますが(笑)。

今も大変ですよ(笑)。ふたりで立ち上げた団体ですが、初年度はお客さんが入らないし、「1年もたない」なんて言われていました。山あり谷ありで、いろいろありながらも、無事に10年やってこられて、今では20人近くの団体になっています。

途中でやめようかなと思ったこともありますが、自分に負けたくなかったですし、周りを見返したくて続けてきました。「絶対に負けない」と思ったら成し遂げることができるんだと、WAVE10年の集大成となる大会で伝えたいですね。

――WAVE10周年に対し、個人ではもうすぐデビュー16周年。現在の夢はなんですか。

ふたつあります。ひとつ目は、今38歳なんですが、現役中、40歳までに地元、茨城県古河市の市議会議員になること。茨城って住みたい街ランキングみたいな調査で、とにかく人気がないんです。理由は「何もないから」(笑)。

確かに何もないかもしれません。帰るとなんとなく寂しい気分になりますから。でも、明るくて魅力的な街に生まれ変わらせたら、人が集まってきて、賑やかになりますよね。

いつか、古河市で凱旋興業をやるのも目標なんです。現役レスラーのうちに市議会議員になれば、プロレスに興味を持つ人も増えるでしょうし、プロレス業界にとってもプラスになると考えています。

ふたつ目は、都内に自社ビルを建てて、1階が道場兼プロレス会場、2階が事務所、3階より上は賃貸に。野望はいろいろありますよ。

――プライベートでの、恋愛・結婚、妊娠・出産といったライフプランについては、どう考えていますか。

結婚について言うと、近年、結婚がすべてじゃないなあと思うようになり、「しなくもいい」と考えるようになりました。昔は結婚したいと思っていたんです。でも、よくよく紐解いてみると、自分は結婚がしたいんじゃなくて、「結婚式をしたかった」んだと気づいたんです。

それからは「主夫がほしい」と思う時期もありました。私が働くので、あなたは実家で母と子供の面倒を見て、と(笑)。そんな時期を経て、もう、結婚はいいし、別に夫はいらないと思うフェーズに入りました(笑)。

でも、子供はほしい、という気持ちがあります。ただ、妊娠・出産でプロレスを1年近く休むのは無理……なので、産むチャンスがあったとしても、海外で代理出産を選択すると思います。

――桜花選手のような、自立していてかつ知名度のある女性が、「こういう生き方もあるんだよ」と新たな選択肢を、自分の身をもって示してくれるのは、後進も勇気をもらえるような気がします。本日はありがとうございました。

■女子プロレスは「女の生き様」のぶつかり合いを見て楽しんで

桜花選手率いるプロレスリングWAVEには、二十歳前後の若者からアラフォー世代の熟女まで、さまざまな女子レスラーが所属しています。そんな女子プロレスの世界で見られるのは女の生き様。

「無様でもいい。カッコつけなくていい」と指導を受け、リング上で感情を素直にぶつける試合を16年、重ねてきた桜花選手。「すごいことをしているわけでもないのに、見るとなぜか心を揺さぶられて、泣けてくる試合がある。そういう試合を見せたい」と語ります。女の生き様をじっくり見てください。

最後に、プロレスの楽しみ方は人それぞれですが、桜花選手がすすめるのは「声を出してストレス発散」。自分が応援する選手の名前を呼ぶのはもちろん、自分がその選手になったつもりで、「いけー」「やり返せ」などと叫ぶのも◎。選手がストレス発散の代弁者になってくれる効果も!?

桜花由美(おうか ゆみ)さんプロフィール

プロレスリングWAVE所属のプロレスラー。茨城県古河市出身。2001年8月デビュー。(株)ZABUN専務取締役も務める。Twitter @ohkayumi

■8月12日 大会情報

10th anniversary「CARNIVAL WAVE~NEVER ENDING 大田区 STORY~」
日時:2017年8月12日(土)
時間:開場13:30・開始15:00
場所:東京・大田区総合体育館
詳細はこちらから
http://pro-w-wave.com/archives/3619

Text/池田園子
写真提供/プロレスリングWAVE

【編集部おすすめ】「銀行員を辞めたことに1ミリの後悔もない」女子プロレスラー・雪妃真矢の決断

https://p-dress.jp/articles/3812

女子プロレスラーとして活躍する雪妃真矢さん(アイスリボン所属)は、自身のキャリアを大きく転換した人のひとり。銀行員からプロレスラーへ、大胆な人生の選択をしたように思えます。その決断に到った背景や思いをインタビューしました。

この記事のライター

人生を自分らしく楽しむ大人の女性たちに、多様な生き方や選択肢を提案します。

関連するキーワード


プロレス

関連する投稿


慶大→博報堂のエリートコースから外れて。プロレスラー・三富政行の選択

慶大→博報堂のエリートコースから外れて。プロレスラー・三富政行の選択

慶大、博報堂出身という、異色の経歴を持つプロレスラー・三富政行。「安定」「エリート」の道を手放し、あえて「普通」ではない道へ進んでいった彼をインタビュー。自分らしい生き方を選択し、今どう感じ、どう生きているのか迫りました。


「銀行員を辞めたことに1ミリの後悔もない」女子プロレスラー・雪妃真矢の決断

「銀行員を辞めたことに1ミリの後悔もない」女子プロレスラー・雪妃真矢の決断

女子プロレスラーとして活躍する雪妃真矢さん(アイスリボン所属)は、自身のキャリアを大きく転換した人のひとり。銀行員からプロレスラーへ、大胆な人生の選択をしたように思えます。その決断に到った背景や思いをインタビューしました。


【DRESSプロレス部 活動報告】全日本プロレス「2017 チャンピオン・カーニバル」を観戦して

【DRESSプロレス部 活動報告】全日本プロレス「2017 チャンピオン・カーニバル」を観戦して

DRESSプロレス部では4月22日(土)、東京・品川で開催された「全日本プロレス」の大会「2017 チャンピオン・カーニバル」を観戦してきました。


全日本プロレス4月22日大会に2名様をご招待【DRESSプロレス部に入部して観戦に行こう】

全日本プロレス4月22日大会に2名様をご招待【DRESSプロレス部に入部して観戦に行こう】

DRESSプロレス部に入部して、プロレス団体「全日本プロレス」の大会観戦に行きませんか。4月22日(土)18:00〜開演の大会に2名様をご招待します。


【DRESSプロレス部 活動報告】広く。さん×井上野乃花 部長トークイベント

【DRESSプロレス部 活動報告】広く。さん×井上野乃花 部長トークイベント

3月9日にDRESSプロレス部で開催した『プ女子百景 風林火山』著者・広く。さん×井上野乃花 部長によるトーク&ワークショップイベントの模様をレポートします。


最新の投稿


婚活で親しくなった男性から宗教に勧誘される……【大人のお悩み相談室 #1】by サツキメイ

婚活で親しくなった男性から宗教に勧誘される……【大人のお悩み相談室 #1】by サツキメイ

DRESS公式占い「愛を引き寄せる星占い」でもおなじみ、占い師・サツキメイさんによる連載「大人のお悩み相談室」がスタート。生き方や働き方、恋愛、結婚etc.迷える女性たちの相談にのっていただきます。お悩みを丁寧に受け止め、寄り添いながら回答してくれる、DRESS世代の占い師・サツキメイさんへのご相談、お待ちしています。


うつ病かと思ったら、副腎疲労症候群だった。

うつ病かと思ったら、副腎疲労症候群だった。

副腎疲労症候群(ふくじんひろうしょうこうぐん)をご存知ですか? 朝起きると人生が灰色に感じられた……。ホルモン治療の夢のような効果が消えた後は、崖から転げ落ちるような感覚があった。これはうつ病? ようやくたどりついたのは副腎疲労症候群という聞きなれない病。DRESS世代の女性にとって、他人ごとではないかもしれません。


フランス女性に話題のコスメブランド「アンディッシェ」が日本初上陸

フランス女性に話題のコスメブランド「アンディッシェ」が日本初上陸

フランスの数々のメディアに取り上げられている、今話題の化粧品ブランド「アンディッシェ」が、いよいよ日本初上陸。7月5日、ジェイアール名古屋タカシマヤで開催されるイベント「ナチュラル ビューティー スタイル展〜コスメ編〜」にて、「アンディッシェ」が国内で初めて登場します。


ヨコハマトリエンナーレ2017「島と星座とガラパゴス」8月4日に開幕!

ヨコハマトリエンナーレ2017「島と星座とガラパゴス」8月4日に開幕!

2001年より3年おきに横浜で開催する国際アート展・横浜トリエンナーレ。「島と星座とガラパゴス」をテーマに世界の今を考える。全38組のアーティスト+1プロジェクトが参加し、8月4日(金)~11月5日(日)まで開催。


他人の目を気にせず、自分全開で生きていこう

他人の目を気にせず、自分全開で生きていこう

例えば今日着ていく服を選ぶとき、人前で自分の意見を述べるとき、あなたは自分のアイデアよりも他人の目を優先して決定を下していませんか? 本当はこっちにしたい、だけどみんなにどう思われるか……という思いで、自分の願いを後回しにすること。無意識にやっているその選択は、知らず知らずのうちに自分を傷つけているかもしれません。


DRESS部活