なぜ『逃げ恥』『カルテット』は人気を得た?TBS土井裕泰が語る
CAMPFIRE- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:関口佳代 編集:矢島由佳子
日本のエンターテイメント業界の最前線で戦い続ける人物に話を聞く連載『ギョーカイ列伝』。第10弾に登場するのは、『逃げるは恥だが役に立つ』や『カルテット』など、人気ドラマの演出 / チーフプロデューサー(『カルテット』のみ)を務めたTBSテレビの土井裕泰。
漫画原作を新垣結衣、星野源ら出演で見事テレビドラマに昇華し、「恋ダンス」が社会現象にもなった『逃げ恥』。先の読めないストーリー展開と軽妙な会話が熱狂的なファンを生み、椎名林檎の主題歌を俳優陣が歌うタイトルバックも印象的だった『カルテット』。どちらもSNSなどを通じて爆発的な話題を呼んだが、その成功の要因はどこにあったのか?
1990年代からドラマのディレクターを務め、『愛していると言ってくれ』や『ビューティフルライフ』などのヒット作にも携わってきた土井は、「時代が一周して、ベーシックに立ち返る時期に来ている」と語る。それはテレビ業界のみならず、広くエンターテイメント業界で起こっていることと、間違いなくリンクしていると言えるはずだ。
「ストーリーを描くのではなくて、人間を描く」というのが、ドラマの基本だと思っています。
―『逃げるは恥だが役に立つ』(以下、『逃げ恥』)のヒットの要因について、土井さんはどのように捉えていらっしゃいますか?
土井:おそらくですけど、放送前は作り手側もここまでのものになると思ってなかったと思うんです。大学院まで出て就職先のない女の子と、35年間彼女がいなかった男性が主役って、連続ドラマの主人公としてはちょっと異質というか、「地味じゃない?」って言われるようなものでした。でも逆にそれが、今を生きる若い人たちの気分をちゃんと掴んで代弁していた、その結果かなと思います。
―やはり、まずは作品そのものの魅力がありましたよね。
土井:近年は原作もののドラマ化がすごく多くて、『逃げ恥』は漫画原作だったんですけど、脚本の野木亜紀子さんはただ二次元を三次元にするのではなくて、テレビドラマでしかできないものに昇華したいという気持ちと、その技術を持ち合わせている方なんです。
たとえば、『逃げ恥』は原作にもいろんなパロディーが出てくるんですけど、それをドラマでもやるのはリスクを伴うことだと思うんですね。でも、野木さんはそこを恐れずに、原作にあったものをそのままドラマに入れるのではなく、ちゃんとテーマ性を持たせてドラマのなかに組み込んだ。それを実現させて視聴者に伝えるためには、誰も手を抜けないというか、単なるお遊びではなくて、そういうところこそ真剣にやらないといけないんですよね。
この予告編の冒頭にも、パロディーが
―『逃げ恥』の劇中にはホントにいろんなパロディーが登場して、間違いなく作品の魅力のひとつになっていたと思います。
土井:第1話の冒頭がいきなり『情熱大陸』のパロディーで始まるっていう(笑)。とても大きな冒険をしているわけで、作り手の真剣さがすごく問われていたと思います。
僕が演出した回(第3話、第4話)で言うと、『エヴァンゲリオン』のパロディーをやっていて、ああいうコアなファンがいるものこそ、絶対に手を抜けない。なので、すごく緊張感もありました。
―一方、『逃げ恥』の次のクールに放送された『カルテット』はオリジナルのドラマでした。
土井:『カルテット』に関しては、「オリジナルを作りたい」という想いからスタートしました。もちろん、原作と向き合うことは楽なことではないし、その面白味もたくさんあるんですけど、オリジナルの連続ドラマでしかできないこともあると思うんです。
僕がディレクターの仕事を始めたのが1993年で、これまで岡田惠和さん、北川悦吏子さん、野島伸司さん、野沢尚さん、遊川和彦さん、井上由美子さんらの、ホントに錚々たる脚本家の方たちと仕事をさせていただいてきました。もちろんそれぞれが個性的なんですけど、「人間に対する見方がとても多面的で深い」という点では共通していて、それこそが僕が学んできたテレビドラマの基本だと思うんです。
―『カルテット』の脚本を担当された坂元裕二さんにも、そういった魅力を感じられたと。
土井:坂元裕二さんは、これまでTBSではほとんど書かれてなかったんですけど、他局で書いていらっしゃるオリジナルドラマを見て、絶対にもう一度お仕事したいと思ってたんです。それで、3年くらいかかってやっと実現したのが『カルテット』でした。
―『逃げ恥』にしろ、『カルテット』にしろ、主人公がどこかに弱さを抱えたちょっとダメな人で、でもそれを肯定するという感覚は共通しているように思いました。
土井:一言で言えば「ストーリーを描くのではなくて、人間を描く」というのが、ドラマの基本だと思っています。『逃げ恥』にしても『カルテット』にしても、そこに一人の人間がいて、その人の日常をちゃんと描くことで、その先に必然的にストーリーが生まれてきたような、そんなドラマだったと思うんです。
そういう、ごく基本的なことに立ち返って作ってる気もします。『逃げ恥』で言えば、主人公の二人だけではなく、古田新太さんだったり、周りの人たちも一人の人間として描くという姿勢が大きかったと思っていて。そういう点も、『カルテット』と共通していたかもしれないですね。
ウェブサイト情報
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リリース情報
- 『カルテット』(Blu-ray BOX)
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2017年7月7日(金)発売
価格:25,920円(税込)
製作著作・発売元:TBS
販売元:TCエンタテインメント
- 『カルテット』(DVD BOX)
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2017年7月7日(金)発売
価格:20,520円(税込)
製作著作・発売元:TBS
販売元:TCエンタテインメント
プロフィール
- 土井裕泰(どい のぶひろ)
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1964年生まれ。TBSテレビ制作局ドラマ制作部・ディレクター。ドラマ『愛していると言ってくれ』『ビューティフルライフ』『GOOD LUCK!!』などに携わる。映画『いま、会いにゆきます』『涙そうそう』『ビリギャル』の監督も務める。近年では、『重版出来!』『逃げるは恥だが役に立つ』の演出を手がけ、『カルテット』ではチーフプロデューサ/演出を担当。2017年10月クールの金曜ドラマも担当することが決定している。