本当は違う映画のタイトル!?~邦題の意味とオリジナル・タイトルの真意~
Why So Serious ?
「よーし! 今日はこの映画を観るぞ!」と映画館なりレンタルなりで観始めて、タイトルがド~ンと出た瞬間「アレ?」と思うこと、ありませんか?
ポスターやパッケージにあるタイトルがオリジナルのタイトルと全く違っていて、観ているのが本当に自分が観たかった映画なのか若干不安になってきます。日本オリジナルで付けられたタイトル「邦題」です。
日本で公開やソフトリリースされる映画のタイトルの中には、元の外国語のタイトルをそのまま訳したものではない、翻案、意訳、超訳されたものが多くあります。日本人にとって馴染みの無い単語や言い回し、文化的な背景が解らないと理解しずらい言葉などを“平均的な日本人”向けに変更するのです。
それら、邦題と元のタイトル/原題を並べてみて、タイトルに込められた意味や真意を探ってみます。
最近の話題作にも邦題いっぱい!
古い映画には「~~危機一髪!」とか「~~の大冒険」といった、いかにも日本オリジナルの邦題が付けられて、最近の映画は英語をそのままカタカナ表記したものが多いような印象があるかもしれません。しかし、見つからない様に微妙な変更している邦題もあります。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
(C)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED
(原題:Mad Max Fury road/直訳:「気狂いマックス 怒りの道」)
シャーリーズ・セロンが演じた「フュリオサ(Furiosa)」の名はラテン語で「怒れる女性」を意味しています。その語源はローマ神話復讐の女神の名「フリアエ」です。同じ「フリアエ」を語源として持っている言葉が原題にある「フューリー(怒り)」です。つまり、原題は「フュリオサの道」と言い換えられます。本作で描かれるのは、フュリオサが“自分の道”をつき進む情景であり、真の主人公は「フュリオサ」だと示唆したタイトルなのです。
また、本作にはオリジナルの造語が多く登場しています。「水」は「アクア・コーラ」、ウォー・ボーイズを称える掛け声「カムクレゼ! フカシマ!(神風+クレイジー/福島)」などなど。これらは日本語字幕で一般名詞などに置き換えられています。
『オデッセイ』
(C)2015 Twentieth Century Fox Film
(原題:The Martian/直訳:「火星人」)
火星に独り残されて、農地開拓するハメになったマーク・ワトニーが「アメリカでは誰の土地でもないところで農地開拓すると、その人の土地だと認定される。つまり、この火星はアメリカの法律上では私の土地であり、私は火星の所有権を持った最初の人間、つまり火星人なのだ!」と皮肉まじりに自称した「火星人」が原題になっています。
対して『オデッセイ』はホメロスの叙事詩「オデュッセイア」が元だと思われます。トロイア戦争を勝利した王オデュッセウスが帰路の途中、セイレーンに幻惑されたり、人食いの一つ目巨人と対峙する壮大な物語です。「旅から帰ってくるまでの長くて困難な道行」ということで名づけられたのでしょう。
原題をただ翻訳した「火星人」で公開したら、タコっぽい火星のエイリアンが登場する映画なのかと勘違いされたカモしれないですね! しないよ!
『ゼロ・グラビティ』
(原題:Gravity/直訳:「重力」)
宇宙空間からの帰還を描いた『ゼロ・グラビティ』の邦題を直訳すると「無重力」で、原題「重力」と全く逆の意味になります。重力が無いことで起きる困難を描いているので、むしろ「無重力」が正しそうに思えるのですが、本作が描くのは「引っ張られるような生への渇望」でもあるのです。
サンドラ・ブロックが演じるライアンは些細なことで自分の子供を亡くしています。そのことが常に心にあり「生」に対して積極的になれないでいます。そんな彼女が、宇宙空間で事故に会い、自分の「生」の後ろには多くの「死」があることに気付き、あらためて「生」を渇望し、地球への生還を目指します。その「生」の「引力」を表したのが原題の「グラビティ」なのです。
ただタイトルを「重力」としてしまうと、「むしろ無重力じゃね?」と観客を混乱させると思ったのでしょう。
他にもいっぱい! オリジナル邦題
サブプライムローン破綻による世界経済の崩壊を描いた『マネー・ショート 華麗なる大逆転』の「マネー・ショート」という言い回しは英語にありません。「マネー! ショート!」とアメリカ人に言った場合「おカネ! タリナイ!」とカタコトに聞こえるとは思いますが。原題は「Big Short」(空売り)です。邦題は出演者ブラッド・ピットの過去作『マネーボール』を匂わせたかったのでしょう。
『リリーのすべて』の原題は「The Danish Girl」(デンマークのお嬢さん)で、劇中奥さんが一度こう呼ばれているのですが、実は旦那さんも同様に「デニッシュ・ガール」だったという複雑な意味を持っています。邦題は2人の女性が登場するという共通点で『イブの総て』を匂わせたかったのかもしれません。
『インサイド・ヘッド』の原題は「Inside Out」で「内側を外に出す」が転じた「洗いざらい告白する」という慣用句です。邦題では原題の「インサイド」を残し「頭の中で起きた物語」として「インサイド・ヘッド」となっています。
ホラー映画は語感で決めろ!
邦題といえば、ホラー映画ファンにとっては80年代に配給会社「東宝東和」が付けた、ぜんぜん意味が無いタイトルが思い浮かぶことでしょう。
『バタリアン』(原題:The Return of the Living Dead/直訳「帰ってきた生ける屍」)
『ゾンゲリア』(原題:Dead & Buried/直訳「死と埋葬」)
『ガバリン』(原題:House/直訳「家」)
それぞれ、完全に意味の無い音の羅列で、濁点がつくとカッコいいという潔い理由だけで名づけられた傑作邦題です。中でも『バタリアン』は劇中に登場するゾンビにも「オバンバ」「ハーゲンタール」など、勝手に名前をつけて当時の子供たちを多いに喜ばせました。語感サイコー!
馴染みが無いなら勝手に馴染ませろ!
ヒット作の監督や出演者の新作を売り出すため、全く新しい作品としてイチから宣伝し直すのは、なんだか面倒くさい。そんな映画宣伝部の悩みを解消したのが邦題でした。
『続・激突!/カージャック』(原題:The Sugarland Express/直訳「シュガーランド急行」)
『サスペリアPart 2』(原題:Profondo Rosso(イタリア語)/直訳「深紅」)
『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』(英題:The Good,The Bad,and The Ugly/直訳「イイ奴、悪い奴、それと醜い奴」)
それぞれ、前作とは全く関係の無い映画ですが、同じ監督の、同じジャンルの作品ということで、続編っぽいタイトルが付けられています。
ただ、スピルバーグの『続・激突!/カージャック』は「遅刻したアメリカン・ニュー・シネマ」と評されることもある作品で、サスペンス・アクション映画だった『激突!』とは本当にぜんぜん関係ありません。
このタイプで有名なのはスティーブン・セガール主演作「沈黙」シリーズでしょう。つながりがある作品も無い作品も、セガール主演なら全て「沈黙の」と付けられ、ネタとして取り上げられることも多い邦題です。
前作は無かったことに!
逆に、シリーズものの続編だけを独立した形で売り出したい場合にも、邦題は便利に使われます。
『チェイス!』(原題:Dhoom3(ヒンディ語)/直訳「騒乱3」)
『デッド・コースター』(原題:Final Destination 2/直訳「最終目的地2」)
『ワイルド・スピード MEGA MAX』(原題:Fast Five/直訳「早い5」)
シリーズものを途中から観る習慣の無い人にとって、タイトル末尾に「2」とか「3」など数字が入っていると「……前作観てないから観ない!」と敬遠する理由になってしまいます。そんな心境を回避させるため、シリーズものだと匂わせないタイトルがつけられた作品は多くあります。
インド映画の大人気シリーズ3作目の『チェイス!』1作目、2作目は日本でソフトリリースさえされていませんが、すっごく面白いんですよ!
史上最悪な邦題!
馴染みの無い文化背景や、複雑な暗喩/隠喩で困惑しない様に、映画配給会社は洋画に様々な邦題を付けてきました。しかし、そんな苦労がそのまま報われるとは限りません。長い会議、頭をひねってヒネり出した邦題でも、「最悪!」のそしりを受けるのも致し方なしと思えるものもあります。
有名なのは『バス男』でしょう(初リリース時のジャケットはコチラ)。原題は「Napoleon Dynamite(ナポレオン・ダイナマイト)」で、デタラメにカッコいい名前のクセに、ひょろっとフニャフニャした捉えどころの無い男というギャップが楽しい作品です。
『バス男』は2ちゃん発の実話(とされる)『電車男』にあやかったタイトルですが、今となっては元の『電車男』も鑑みられることの少ない存在で、見切りをつけられブルーレイのリリース時には「ごめんなさい。調子に乗りました」という謝罪付きで『ナポレオン・ダイナマイト』に改題されています。
『20世紀少年』にあやかろうとした『26世紀青年』も同じタイプです。日本では『バス男』と同じ20世紀フォックスからのリリースなので、同じ人が付けたタイトルかもしれません。
しかし、『バス男』も『26世紀青年』も、映画の持つ愉快な雰囲気を日本へ伝えるために、馴染みのある語感へ変えるという努力の痕跡はありありと見えてくるあたり、愛らしいタイトルだと言えます。
その一方で、何か、色々な努力をすべて放り出した、捨て鉢とも思える邦題があります。
『ホワット・ライズ・ビニース』! 日本人には言われたところで何の情景も浮かびません! 直訳すると「軒下あたりに横たわっている何か」で、やはりボンヤリとした意味です。
『ザ・ウォーク』のロバート・ゼメキス監督作によるサスペンス・スリラーで、自然豊かな家に引っ越してきた夫婦が、隣家の謎をオモシロ半分で追いかけていったら、タイヘンな目に会う…… という、ネタバレを回避して詳しく説明するのが難しい作品です。
と、思えばこの『ホワット・ライズ・ビニース』も、うまく作品を表現した邦題かもしれません。
難しい邦題の世界
そもそも外国語を日本語に訳すというのは不自然な行為です。たとえば「ガッデーム!」という悪態は日本でも馴染みがありますが、私たちは「ガイジンの「ちくしょうめ!」みたいな意味」という漠然とした認識しかしていません。
「ガッデーム!」を英語表記すると「Goddamned !」になります。ムリに直訳すると「神呪い!」という感じでしょうか。「神様に呪われたわ、マジクソさいあく!」といったニュアンスになりますが、一方で「You are Goddamned Right !」(お前マジクソ正しいわ!)という強調としての使用方もあるので、単に「ちくしょうめ!」とは言い切れなくなります。
そういった背景を踏まえつつ、詳しく説明すると長くなってしまう言葉のニュアンスを日本語で近似する言葉に置き換えるのが翻訳という行為です。
邦題も同様の理屈で付けられています。日本人にとって馴染みのある言葉で、スッと内容がイメージできる言葉に変えるのです。なので、原題とニュアンスが変わってしまうのは当然のことと言えるでしょう。
とはいえ『バス男』は……