ニュース画像

WEB
特集
世界が注目 おいしくなった“日本ワイン”

日本ではここ数年ワインがブームって知っていますか? ワインの消費量は10年で1.5倍に増えていて、中でも日本で収穫されたブドウで造られた「日本ワイン」が注目されています。日本ワインは、海外での評価も高まっていて、名だたる国際コンクールで受賞するものが増えているのです。日本ワインといえばブドウの栽培が盛んな「山梨」や「長野」というイメージがありますが、今やワイン造りを行っていない県を探すのは難しいほど盛んになってきているんです。いったいなぜこんなにも「日本ワイン」造りが広がっているのでしょうか。(おはよう日本・金武孝幸ディレクター、札幌放送局・小林紀博記者)

日本ワイン その魅力とは

東京・渋谷にある「ワインバル」。平日にもかかわらず、お客さんで満員です。皆さんが口にしているのは、日本ワイン。
この店では、北海道から宮崎まで、60種類の日本ワインをそろえていて、鳥取県出身のお客さんは、出身地である鳥取のワインを楽しんでいました。お客さんに話を聞くと、「昔の日本のワインって、ぶどう酒って感じでしたけど、今のは本当にワイン。おいしい」と話していました。

ニュース画像

2年前に大手飲料メーカーが銀座にオープンしたワインバーでも30種類のワインを取りそろえています。この店の売りは、そのブドウの産地でとれた食材を使った料理の数々です。例えば北海道産の赤ワインに合わせるのは「エゾシカ」、長野産の白ワインには、地元の名物「信州サーモン」のカルパッチョの組み合わせを提案しています。

ニュース画像

このように、日本ワインの産地が広がったことで、ワインと地元の食材とを合わせた食事の楽しみ方ができるようになったんです。サッポロビールワイン事業部の倉橋典子マネージャーは、「産地なりの特徴がある食材と一緒に提供することで、バリエーション豊かな食事と日本ワインの楽しみ方というものを強く広めていきたい」と話していました。

ニュース画像

ブドウの品質がアップ! その裏にきめ細かな工夫

これだけ日本のワインが世間に親しまれるようになった背景には、ブドウの品質が上がったことが挙げられます。
山梨県にある、140年の歴史を持つ、日本で最も古いワインメーカーを訪ねました。かつて日本のワインは傷が付いたりして食用のブドウとしては売り物にならないものを使っていましたが、このワインメーカーではワイン専用のブドウを使って醸造しています。訪れた時、畑ではちょうどブドウの木の剪定(せんてい)作業の真っ最中で、新しい枝を次々と落としていました。

ニュース画像

この作業は果樹として売られるブドウの栽培ではよく見られますが、それをワイン用のブドウで手間暇かけて行っているんです。収穫できるブドウの量は減ってしまいますが、味や香りの成分が凝縮されてよいブドウになるといいます。メルシャンの松尾弘則工場長は「たくさん実をつけてしまうと、いろんな成分が分散してしまう。収量を制限することによって、より私たちが求めているようなブドウを得ることができる」と話していました。

ニュース画像

香り高さの追求で進化する日本ワイン

さらに、収穫のタイミングを見極める研究も進んでいます。日本のワインは長年、海外のものに比べて香りが弱いのが課題だと言われてきました。そこでメーカーでは、ブドウの持つ特徴的な香りの成分が最大となる時期を特定しようとしたのです。
たとえば「甲州」という品種では、最も香りの成分が多いのは実が熟す前の9月中旬で、その後は急激に減少しています。かつてはブドウが熟したあとに収穫することもありましたが、研究の結果、より香りの高いワインを造るには、実が熟す前に収穫したほうがよいことがわかったのです。

ニュース画像

キリンワイン技術研究所の清道大輝さんは、「特徴的な香りを最大限引き出すようにブドウの収穫期を選んだり、栽培を行ったり、醸造したりすることで香り高いワインを造ることができてきている」と話していました。

ニュース画像

ワインの産地 脚光を浴びる北海道

日本ワインが注目を集める中、急速に存在感を増している産地があります。冬は厳しい寒さとなる北海道です。
実は、北海道はワイン用のブドウの栽培面積が日本一。ブドウ畑がどこまでも広がっている風景を見ることができます。

ニュース画像

6年前にワイナリーを開き、有機栽培のブドウを使う、こだわりの「オーガニックワイン」を造っている上田一郎さんは、「北海道ではワイナリーやブドウ農園もどんどん増えている。ワインの味も毎年、出品会で賞を取ったり、どんどんレベルも上がってきている。他県にも負けない」と話します。

ニュース画像

北海道で相次ぐワイナリーの開設

北海道では近年、上田さんのような人が増えていて、ワイナリーの数は10年間で2倍以上の33軒に上っています。北海道でワイン造りが盛んになった背景には、平均気温の上昇で栽培できる品種が増えたことが挙げられます。フランスを代表する高級ワイン用の「ピノ・ノワール」の実は、春から秋にかけての平均気温が14度以上でよく育つと言われています。これまでは、ヨーロッパの寒い地域の品種しか栽培できませんでしたが、北海道のぶどうの産地では、平成10年以降、平均気温が上がっていて、「ピノ・ノワール」が栽培しやすくなっているのです。

ニュース画像

さらに行政の支援もワイナリーの新規開設を後押ししています。北海道庁ではワイナリーを開きたい人に向けて、生産のノウハウを海外の専門家などから学ぶことができる研修講座を行っています。

北海道に海外も注目

北海道に熱い目を向けているのは国内の生産者だけではありません。
フランスでおよそ300年続く老舗ワイナリーの代表も北海道でワイン造りを行うことを決めました。フランスの老舗ワイナリーのエチエンヌ・モンティーユ代表は、「北海道でのワイン造りにとても可能性を感じているのでこの場所を選んだ」と話していました。

ニュース画像

日本ワイン 広がる可能性

ワイナリーの増加で、ワイン用のブドウの苗木が足りなくなるという事態も起きています。全国でもそう多くない苗木業者に注文が殺到しているのですが、さばききれずに注文を断るケースが増えているというのです。
各地の自治体も日本ワインの増産の動きに水を差さないよう、苗木生産に補助を行うなど対策を取り始めていますが、しばらくは、苗木の入手を諦めざるをえないワイナリーも少なくないということです。 ただ、来年の秋からは、日本のブドウを使って造られたワインだけが「日本ワイン」として表示することが許されるため、国産のブドウを使ってワインを造ろうという動きは、ますます活発になるものと見られています。
3年後には東京オリンピックが開催されることもあり、日本ワインが世界からも一層注目されるようになると関係者は期待を寄せています。

金武孝幸
おはよう日本
金武孝幸 ディレクター
小林紀博
札幌放送局
小林紀博 記者