触り初めから最後まで、興奮しっぱなしでした。
Devo、ハービー・ハンコック、マイケル・ジャクソン、ポーティスヘッド……。名だたるミュージシャンを支えてきた伝説のシンセサイザー「Minimoog Model D」が、40余年の時を超え復刻し、2017年5月からKORGより発売されることになりました。
昨年、東京ビッグサイトで開催された楽器フェアでも復刻版Minimoogが展示されていましたが、発売が始まった今、改めてもう一度触ってみたい、弾いてみたい……。そんなことを思っていると、KORGショールームに実機が展示されているというではありませんか。であれば、行かいでか、よみうりランド駅ッ!
駅を出ておよそ1分、KORGショールーム入ってすぐのゴールデンスポットにソレはありました。これこそ、無数の名曲を彩ってきた名機、その復刻版。1970年代のオリジナルを踏襲しつつ、MIDIやCV/GATE、LFO Rateの搭載といった現代的アレンジもほどこされています。
では触ってみた感想……の前に、よりディープに感動共感していただくためにMinimoogの簡単な紹介と仕組みの解説をば。Minimoogは世界初の鍵盤一体型ポータブルシンセサイザーで、それまでのタンスのような巨大なシンセでやっていた音づくりをこのサイズで可能とした画期的な製品です。アナログシンセの多くはモノフォニック(単音)しか出せず和音演奏には不向きでしたが、分厚いベースやキレのあるリード音は世界中のミュージシャンを魅了し続けています。
全てのアナログシンセはVCO(Voltage-controlled oscillator)=電圧の制御によって音を発信します。Minimoogのパネルでいうと左の「Oscillator Bank」が音のスタート地点で、出された音は全ていったん「Mixer」へ。音の元となるオシレーターが3つあるので、どんな風に音を混ぜるかを調整するわけですね。オシレーターの波形には、サイン波、ノコギリ波、パルス波、三角波などの種類があり、切り替えることで音のキャラクターが変化します。チューニングやオクターブレンジの切り替えもOscillator Bankで行ないます。
ミキサーの次は倍音を調整する「Filter」です。Cutoff Frequencyを上げると周波数の高い部分が削られ、音がこもってきます。これをローパスフィルター、もしくはたんにローパスと言い、こうした音響合成を減算方式といいます。その横のEmphasis(エンファシス)は機種によってはPeak、Resonanceともいい、フィルターの境界部分を強調させるはたらきがありますが、これは文字では説明しにくいけど図だと一発なタイプなので図をどうぞ。
こんな感じです。エンファシスはある一定を超えると自己発振を起こし、フィルター自身から音程が聞こえるようになります。880Hz付近で発振を起こせば「ラ」の音が聞こえてくるという次第です。発振を利用するとシンセ独特のスペーシィなサウンドが聞こえるようになり、これを利用したレーザー音や怪獣の鳴き声といったSEは、一度はどこかで聞いた事があるはず。ピーヨォォオ、みたいなやつです。
フィルターの下にあるのはLoudness Contour。エンベロープともいい、音の時間変化を調節するセクションです。鍵盤を押してすぐに音が出るのか、「フゥゥウー」と徐々に音量が上がってくるのかなど、そういった変化量を調整します。このエンベロープは先ほどのフィルターセクションにもあり、フィルターのかかり具合をエンベロープで調整することで、音に時間的な変化をつけることも可能です。
Loudness Contourを通れば、音はいよいよスピーカーへ届けられ、私たちの耳へと届きます。紹介していない機能は他にもありますが、Minimoog自体の仕組みはこのように非常にシンプルで、パネルの左から右へと音が流れているという感じです。シンプルゆえ音づくりも容易、しかしその変化量はとキャラクターは強烈といったところでしょうか。
では、改めて触ってみた感想を。
うん、うん……、ヤバい、終電無くなるまで余裕で弾いてられるこれ。
それほどにツマミを動かした時の音の変化が、指に吸い付くキータッチが、そして分厚いローエンドが気持ち良い。Minimoogはエンファシスを下げると低音成分が増大し、オクターブを下げてベースとして弾くとたまらなく分厚い音を出すことができます。エンファシスをフルテンまで上げた時の自己発振も強力で、脳髄を突き刺すこの超々高周波はピュアアナログならでは。
しかし、弾いてみて一番に感じたのは鍵盤の弾きやすさでした。本っ当に弾きやすい。FATARのTP-9という鍵盤らしいですが、弾きやすいは触りやすいとはまさにそのようで、つい指を滑らせたくなる気持ち良さすら感じました。鍵盤を押したならツマミも回す、ツマミを回したなら鍵盤も押す。演奏のしやすさという、楽器本来の意味を完全にクリアしています。
せっかくなので、同じくKORGのガジェットシンセシリーズ「Volca Keys」と「Volca Sample」に合わせて弾いてみました。
なんて贅沢、なんて至福。キレのあるリードもブリブリのベースもみょんみょんのモジュレーションも、全部が超ゴキゲンです。楽器って楽しいな、ドーパミンじゃぶじゃぶだなと、改めて実感しました。楽器って、楽しいんです! 楽しい器なんです! ……うつわってなんだ?
レジェンダリーシンセ「Minimoog Model D」。40万円台という価格は簡単に手が出せるものではありませんが、触った後ではお値打ちにすら感じてしまいました。サウンドの奥深さはもちろん、楽器としても本当に素晴らしい。この感覚はYouTubeで音を聞くだけでは知りえない、指先から伝わる感動というやつでしょう。
生産台数も少ないため置いているお店もそう多くはないと思いますが、もし見つけたならぜひ実際に触って、弾いて、いじってみてください。アナログシンセの原点にして頂点、その感動を、ぜひ。
そういえば、プログレッシブ・バンドYesのRick Wakemanが先日のARWツアーの合間にKORGショールームに立ち寄ったらしく、その時にこのMinimoogを弾いていたそうで。
つまりこれは、間接Yesしたということ……!?
・『聖剣伝説2』や『攻殻機動隊』の名曲をVolca FMでカバー
photo: ギズモード・ジャパン編集部
image: ヤマダユウス型
source: KORG (Japan), KORG Import Division/Facebook
(ヤマダユウス型)