「女性天皇」賛成派は愛子様に生涯独身で通していただくつもりか?【憲政史家・倉山満】

 女性天皇に68%が賛成! 反対は12%。5月24日の毎日新聞が報じている。

 だから、どうした?

 現在の皇室典範では女性天皇(女帝)は認められていない。では女帝容認論者は、悠仁親王殿下の皇位継承を阻止し、愛子内親王殿下の御即位を目論んでいるのか。毎日新聞が何を企んでいるのかよくわからないが、悠仁親王殿下と愛子内親王殿下の対立を惹起したいのではないかと勘繰りたくなる。

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倉山満氏。憲政史家 撮影/林紘輝

 平成17年にも似たようなアンケートが次々と繰り広げられ、「愛子様が天皇になれなくてよいのか?」という女帝論、「今の皇室典範では愛子様のお子様が天皇になれないのだぞ!」との女系論が、多くのマスコミでヒステリックに絶叫されていた。しかし、「女帝と女系の区別がついているのか」との一声に、その種のアンケートは尻すぼみになった。

 最初に大事な結論を言っておく。皇室は一人の例外もなく、男系で継承されてきた。その男系とは男女差別であるとの誤謬がまかり通っているが、それを言うなら、むしろ男性排除の論理であると何人がわかっているのだろうか。

 アナタは女帝に賛成ですか? と聞かれたら、私は「絶対に反対とは言わないが、無理やり推進する話でもない」と答える。

 皇室に関して迷った時の根本基準は一つ。先例だ。そして、どの先例に従うべきかどうかを考えるために、吉例を探す。

 確かに、女帝には先例がある。伝説の時代の神功皇后(神功天皇)は数えないので、有史以来、十回ある。推古天皇、皇極天皇(斉明天皇)、持統天皇、元明天皇、元正天皇、孝謙天皇(称徳天皇)、明正天皇、後桜町天皇である。皇極天皇と孝謙天皇は重祚(ちょうそ)といって返り咲いて天皇に二度おつきになられたので、八方十代である。女帝は飛鳥時代から奈良時代にかけて集中し、明正・後桜町の二代だけは江戸時代である。

 さて、この八方には共通点がある。未亡人か、生涯独身である。

 推古、皇極、持統、元明の四方は即位の際に未亡人であり、その後も再婚されなかった。元正、孝謙、明正、後桜町の四方は、生涯独身を通された。

 なぜか。女帝の配偶者に権力を握らせないためである。

 推古天皇は、敏達天皇の未亡人である。聖徳太子と蘇我馬子との三人で、飛鳥時代を指導した。崇峻天皇暗殺という動揺に際して、擁立された。

 皇極天皇は、舒明天皇の未亡人である。中大兄皇子(天智天皇)の実母でもある。大化の改新前後の動揺期に、二度も擁立された。

 持統天皇は、天武天皇の未亡人である。壬申の乱に勝利した天武天皇の威厳は偉大だった。それだけに後継をめぐる争いは激しく、天皇の候補者が多すぎたので擁立された。

 元明天皇は、草壁皇子の未亡人である。草壁皇子は、天武天皇と持統天皇の実子である。草壁皇子も、その子・文武天皇も早逝した。しかし、草壁皇子の系統に皇位を継がせようとの執念が、元明天皇擁立をもたらした。

 以上の四方五代の天皇は、激しすぎる古代の政争のゆえに、擁立された。繰り返すが、全員が未亡人で再婚していない。

 元正天皇の時代は、皇族どうしの結婚が普通であったが、それでも遠慮された。配偶者の皇族が権力を持つのが警戒されたからだ。

 称徳天皇は、愛人と噂された道鏡が皇位につこうとし、国を挙げての大騒動になった。我が国の歴史において、明確に天皇になろうとの意思を示した民間人は、道鏡ただ一人である。ここに、女帝は生涯独身か未亡人の不文法が確立した。そもそも、江戸時代まで850年間、女帝が絶える。

 明正天皇は、父・後水尾天皇の政治的意思で即位させられた。明正天皇の母は徳川和子、二代将軍・秀忠の娘である。後水尾帝と秀忠は激しく対立し、帝は抗議の意味で明正天皇に譲位された。それがなぜ、抗議になるのか。明正天皇は、皇室の先例(不文法)により、生涯独身を余儀なくされるからである。結果、秀忠の曾孫が天皇になることはできなくなる。明正天皇は、わずか五歳で即位し、十九歳で譲位された。その間、後水尾上皇の院政が敷かれ、女帝にはなんの実権もなかった。そして最後は尼となり、七十四歳の生涯を閉じる。政治に翻弄された人生だった。

 後桜町天皇は、宝暦事件などで緊迫していた、朝廷と幕府が絡んだ複雑な政治対立を緩和するためだけに擁立された。そして後桃園天皇の若すぎる崩御も乗り切り、光格天皇を支え続けた。なお、光格天皇は現在の皇室の直系の祖先である。そして七十四歳まで静かに暮らされた。後桜町院は、皇室と日本国の繁栄のために女の幸せを自ら捨て、その私心のない姿が国母として尊敬された。

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日本一やさしい天皇の講座

天皇はいかにして権力を手放し立憲君主になったのか。そして今回、論点となった譲位、女系、女帝、旧皇族の皇籍復帰の是非について、すべて「先例」に基づいて答えることで、日本人として当然知っておくべき知見を集約した一冊。

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