私が音楽を担当した約30年前の作品『トップをねらえ』
エヴァの庵野さんの監督デビュー作品。
先日、惜しくもこの作品のプロデューサーさんだったバンナムの高梨氏が
お亡くなりになられて、同士が一人減り、悲しい思いをしたところですが、
今日は、それとは違う『キー』のお話を書きます。
この作品の第1作目と2作目には、物語上1万2000年の隔たりがあります。
つまり、2は1の1万2000年後のお話と言う訳です。
私が、この作品のエンディングテーマ『時の河を越えて』を1で、
そして『立つ鳥跡を濁さず』の題名で2で作曲しました。
それぞれのテーマは、お互いメロやハーモニーは似ているけど
微妙に違うように作りました。
これは、長い時間の間に、この曲が伝承されていく過程で、細部が変化した事
を意味します。
そして、(ここからが本題)
『1に比べて、2の方を、あえて半音高く作曲しました』
その訳は
今現在の標準の『 A 』の音を441ヘルツとすると、300年ほど前のバロックの時代は
415ヘルツをAの音(今なら、ちょうど半音下の A♭)で取っていました。
(今でも、チェンバロの調律はこの高さで行われている)
それから少し時代は進み、ハイドンが残した音叉は422・5ヘルツ
モーツアルト、ベートーベンもこの高さ。
そして、その何年か後に、ヴェルディが433ヘルツにA音を規定します。
その後も、どんどんピッチが上がり続け、現代の441ヘルツにたどり着いたという事です。
なぜ、こうなったかというと、ピッチが上がる事によって、より緊張感が増し、
楽器の特性も相まって、より音がキラキラ輝くように感じるからなのです。
300年かけて、我々人類の音を感じる感覚も、より現代的になって行ったからに
違いありません。
しかし、昨今の『デジタル』が中枢を占めるようになると
その A音の固定化キーの固定化は絶対となり、もはや今後それ以上は
変化しないだろう事が予測されます。
しかし、私は考えました。(ここからが SF)
人間の耳は、未来にはもっと進化して、1万2000年も経てば、もっとデジタルの他に
違う概念が現れていて、それによって、またピッチの上昇は続く!と。
300年で半音上がったけれど、次の半音が上がるのには、
その変化にも伴い、1万年以上かかると仮定して(あくまで SF)
わざと、半音上げて作曲しました。
(でも、未来のこの曲の楽譜は半音下になっているに違いありません、
もちろん楽譜も違う形になっているでしょうが)
1万2000年かけて、メロも変わり、キーもピッチが変わり、でもその曲は
残っていて、ノリコたちの帰還を讃える!
何とロマン溢れる展開でしょうか?
ま、どんなお仕事でも、自分なりのロマンがあった方が楽しいので、
当時は、こんな事を考えて作曲しました。
1と2のエンディングを、こんな意図を感じながら聴き直してもらえると
また違った味わいがでるかも?