奇界の車窓から / 自らパワースポットと言い張る石碑があった件
2017.05.16
世界中の奇妙な場所を撮影し続ける写真家・佐藤健寿。ここ「奇界の車窓から」では、写真集に載せるほどでもないけど、ちょっぴり奇妙だった写真を紹介してもらいます。3回目は、自称パワースポットや分かりづらい駐車場など、ちょっと不思議な世界をお送りします。
「自称パワースポットな石碑」
- スミ
- 佐藤さん、最近忙しそうですね。
- 佐藤
- ちょっと本の校了作業や出張が重なってまして。
- スミ
- どんな本ですか?
- 佐藤
- 「世界不思議地図」っていう本なんですけど、読んで字のごとく、世界中の不思議なものを集めた地図みたいな事典みたいな本です。
- スミ
- 面白そうですね! 例えばどんな不思議が?
- 佐藤
- それこそツチノコ、雪男みたいな未確認生物から、水晶のドクロみたいなオーパーツとか。あとは財宝伝説とか、少数民族とか、世界を漂流した男とか、もう奇妙なものならなんでも。
- スミ
- 最高じゃないですか! 一家に一冊は置いておかないとですね。僕も買います!
- 佐藤
- ありがとうございます!子供向けを意識したんですけど、結果的には簡単に説明できないことも多くて、よくわからない仕上がりになりました。さりげなくアマゾンのリンクも貼っておきますね。
https://www.amazon.co.jp/dp/4023315737 - スミ
- アマゾンへのリンクが貼れたところで、今回もそこまで不思議じゃないけど佐藤さんが引っかかったものをお願いします。
- 佐藤
- はい。最近見たグッと来たものというと。
- 佐藤
- これなんか結構好きでしたね。あるお寺にあったんですけど。
- スミ
- 自分でパワースポットって言っちゃってる!
- 佐藤
- 多分、言われてないんだろうな、という。
- スミ
- 「身も心も癒される」って書いてますよ。
- 佐藤
- 誰も言ってくれないから、ついに自分から言っちゃったんじゃないかなと。
- スミ
- 確かに!その香りがぷんぷんと。
- 佐藤
- 締めが「言われて居ります」ですから。
- スミ
- 誰から? っていう。
- 佐藤
- 言ってくれないから自分で言います、と。
- スミ
- 自称「パワースポット」ですね。
- 佐藤
- せめて「力の源泉」とかなんか婉曲しそうなものなんですけど。
- スミ
- 自分で言っちゃうと、ありがたみがグッとなくなりますね。
- 佐藤
- いろんな言葉を考えたけど思い浮かばなかった感じがいいですよね。「もういいよ、パワースポットで」っていうやりとりがあったのかなとか想像すると楽しくなりますね。
- スミ
- 「出ずる波動」ってのも胡散臭いですね。
- 佐藤
- ギリギリですね。もう一歩踏み込んだら疑似科学とか言われかねない。
- スミ
- そもそも、ここは水源か何かですか?
- 佐藤
- いえいえ、お寺の境内にあったものです。ネットで見ても全然パワースポットって言われてないんですよ。そのお寺が。
- スミ
- 癒されました?
- 佐藤
- ある意味、癒されましたね。「ふふふ」っていう。
「難解な駐車場」
- 佐藤
- これはつい先日なんですけど。
- スミ
- うん? これは?
- 佐藤
- 仕事柄、取材でレンタカーを借りて駐車場に止めることが多いんですが、巨大駐車場って結構、こういうモヤっとするものが多くて。
- スミ
- フロアごとに別の動物が?
- 佐藤
- 多分そうですね。軽いダジャレが仕込まれてるんですが、電化製品屋なんですよ。イカ、カニとかキタキツネとかあまり関係ないだろうという。
- スミ
- イラストもリアルでかわいくないですしね。
- 佐藤
- そうなんですよ、これはまだましな方なんですけど。
- 佐藤
- これは秋田だったと思うんですけど、駐車場に止めて、どこか行って、帰ってきたときにこれに気づいたんですよ。
- スミ
- シルエットクイズみたいになってますね。
- 佐藤
- そう、ほとんど謎かけで。
- スミ
- これも駐車場のエレベーター?
- 佐藤
- そうです。降りる時にちゃんと階を見てなくて、いざ戻ろうと思ったらこれが。自分が猿の階だったか猫の階だったかなんて全くわからないんですよ。
- スミ
- ああ、停めた時に猿とか猫とか意識しなかったんですね?
- 佐藤
- そうそう、それで、とりあえず適当な階でおりて見たら、すっごいわかりづらい場所に…
- 佐藤
- こんなイラストがありまして。外へ抜けるエレベーターの横にあったんですが、つまりこれが唯一の「階の情報」だったと。
- スミ
- ん? ネズミですか?
- 佐藤
- 多分ネズミですけど、これを降りる時みて「ああ、俺はネズミの階だ!」って普通思わないじゃないですか。ただの壁のイラストかと思うし、むしろ気にもとめない。
- スミ
- ええ、そうですし、さっきのシルエットの中にネズミっぽいのいないですよね?
- 佐藤
- そう! いざ戻ろうとした瞬間にあのシルエットクイズになるわけですよ。
- スミ
- で、結局佐藤さんは何階に停めたんでしょう?
- 佐藤
- 多分、2階の猫のシルエットが正解ですね。
- スミ
- ちょっと待ってください! 佐藤さんが停めたフロアにはネズミのイラストがあったんですよね?
- 佐藤
- ええ。
- スミ
- でも、エレベーターの表示には猫のシルエット。
- 佐藤
- そのあたりも今見てもよくわからない・・・。
- スミ
- ネズミ、野球やっちゃってますしね。難解過ぎる!せめて画風を合わせてほしいですね。
- 佐藤
- そうなんですよ。で、あとでこれもツイッターで報告したら、見た人たちが読み解いてくれて。イヌ(ワン)=1、ネコ(ニャァ)=2、猿(さる)=3、鹿(しか)=4。まではわかったんですけど、結局5はなぜツルなのかもわからないし、ツルなのかさえわからないという。
- スミ
- あ!フラミン5(ゴー)!
- 佐藤
- フラミン5・・・!! ありがとうございます。さすがの柔軟な思考力ですね・・・。
- スミ
- 素直にゴリラでいいですねよね、5階は!
- 佐藤
- ですね(笑)。それならシルエットで間違えようがない。鳴き声パターンもあるし、名前パターンもあるしで、もうなんか色々。
- スミ
- 分かりやすくするたのイラストが逆に難解に。
- 佐藤
- で、結局僕の階は猫だったと思うんですけど、そこにまた看板があって。
- スミ
- わぁ!さらに別の展開が!
- 佐藤
- もう意味がわかんないんですよ。普通に数字とアルファベットとかにしてくれと。
- スミ
- ダメです。完全に混乱しました。
- 佐藤
- 逆に楽しくなりましたね、これを見た時は。昨今言われる情報デザインに対するアンチテーゼなんじゃないかという。
- スミ
- らくだは女性専用なんですね。
- 佐藤
- そうなんですよ。そこの繋がりも曖昧だし。なんで女性がラクダなのと。「楽だ」みたいなことなのかな・・・。
- スミ
- 多分そうですね、停めるのが楽だ。
- 佐藤
- くじらはなんだろう。
- スミ
- 大きいってことですかね? ダジャレはなさそうですし。
- 佐藤
- 王様感ですかね。
- スミ
- うーん、全然わからない。
- 佐藤
- こういう製作者が考えすぎた結果、ものすごくわかりづらくなってるものはやはり好きですね。「いかのおすし」同様。
- スミ
- 確かに「いかのおすし」と同じ根っこを感じますね。
- 佐藤
- 前回紹介した「オレは誰?!」もそうなんですが、社内コピーライターの暴走といいますか。
- スミ
- それか、あれですかね? 縦割り行政的な。それぞれの持ち場間で情報共有できてないっていう。
- 佐藤
- できてないし、多分、他の人があんまり興味もないんだろうなという。わざわざ「わかりづらい」とか言い出しても角がたつし、みたいな。
- スミ
- 忖度ですね!
- 佐藤
- 忖度が過ぎます。
- スミ
- でも、その結果、佐藤さんの大好物が生まれてる!
- 佐藤
- ですね、過度な忖度の結果がパブリックになって全員が困惑する感じが痛快で、こういうのは好きですね。
「猫好きには伝わる! ロシアの猫の可愛らしさ」
- 佐藤
- あとは、ちょっと前にロシアに行って来たんですが。
- スミ
- あ! クレイジージャーニー見ましたよ。
- 佐藤
- ああ、ありがとうございます。そのときにちょっと気になった、というかホノボノしたチラシを見つけまして。
- スミ
- これは? 迷いネコ?
- 佐藤
- そう、「猫探してます」のチラシかと思ったんですよ。
- スミ
- はい。
- 佐藤
- で、ものすごくよくいるタイプの柄の猫だし、この写真もなんかすごくありふれた感じの写真だから、これは・・・無理だろう、と思ったんですけど。
- スミ
- ですけど?
- 佐藤
- ガイドに聞いて見たら「猫を保護しました」のチラシで。
- スミ
- ええ!逆?
- 佐藤
- どっちにしてもわかりづらいんですけど。この猫の写真は「面白い」とかそういうのではなく。この屈折した可愛らしさに心を惹かれました。
- スミ
- ああ、確かにネコの目つきに屈折感が漂ってますね。
- 佐藤
- 多分、びっくりしてるからこんな写真しか取れなかったんだと思うんですけど、なんか保護した人の愛情が伝わってほっこりしました。
- スミ
- 今まで紹介してもらったちょっと奇妙な写真とは系統が違いますね。
- 佐藤
- ですね。これは猫好きの人しかわからないかもしれないんですけど。大したオチもなくてすいません・・・。
- スミ
- いえいえ。ネコが保護されてよかったですよ。
- 佐藤
- なんだか可愛かったというだけの話なんです。
- スミ
- たまにはほっこりもいいものです。
- 佐藤
- そうなんです。限りなく野良猫に近い写真のわかりづらさが猫好きとして響きました。
- スミ
- ロシアって野良猫多いんですか?
- 佐藤
- いやあ、そんなこともないけど、普通ですね。寒いので、基本的には家の中にいるんだと思います。
- スミ
- ああ、そうか、寒いんですもんね。
- 佐藤
- でも猫好きは猫好きっぽいですね。ロシアンブルーとかいますし。
- スミ
- 護したネコをチラシで報告するくらいですもんね。
- 佐藤
- そうですね。基本的には好きなんだと思います。
- スミ
- 佐藤さんもネコ派なんですね。
- 佐藤
- どちらかといえばそうですね。動物全般好きですが、飼うなら猫派です。
- スミ
- さっきの駐車場でも無意識にネコフロアに停めてましたしね。
- 佐藤
- フラミン5フロアじゃなくてよかったです。あのまま行ってたら「鶴のフロアかもしれないです」とか係員に説明してるところでした。
- スミ
- そして、係員から「あれはフラミンゴです!」って訂正されたり。
- 佐藤
- そうですね、「5階はクジラPじゃないんですか?!」とかこっちも憤慨してたかもしれないですね。
- スミ
- 何の言い合いなのか、傍から見たらまったく分からない!
- 佐藤
- 最高ですよね。駐車がエンターテインメントになる。
- スミ
- そこは、迷わないように分かりやすいサインがほしいところですけどね!
- 佐藤
- 次行ってもまたあの駐車場を使いたくなってる自分がいますね。
- スミ
- すっかり、あの駐車場の虜じゃないですか!
- 佐藤
- わかりづらいけど、最終的に設計者の勝ちですね。気になってしまう。
- スミ
- 情報デザインの本質に迫っている、、、、のか?
- 佐藤
- 他の駐車場なんて何も記憶にないですから。そういう意味ではやはりいい駐車場だったのかも・・・。
- スミ
- なんだか今回は動物系でしたね。
- 佐藤
- この前撮った動物園の写真もあるので、それはまた次にお見せします。
- スミ
- 佐藤さんが動物好きっていう意外な一面を知りました。動物園の写真楽しみです。
プロフィール
名前 | 佐藤 健寿 |
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武蔵野美術大学卒。フォトグラファー。世界各地の“奇妙なもの”を対象に、博物学的・美学的視点から撮影・執筆。写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)は異例のベストセラーに。著書に『世界の廃墟』(飛鳥新社)、『空飛ぶ円盤が墜落した町へ』『ヒマラヤに雪男を探す』『諸星大二郎 マッドメンの世界』(河出書房新社)など。近刊は米デジタルグローブ社と共同制作した、日本初の人工衛星写真集『SATELLITE』(朝日新聞出版社)、『奇界紀行』(角川学芸出版)、『TRANSIT 佐藤健寿特別編集号〜美しき世界の不思議〜』(講談社)など。NHKラジオ第1「ラジオアドベンチャー奇界遺産」、テレビ朝日「タモリ倶楽部」、TBS系「クレイジージャーニー」、NHK「ニッポンのジレンマ」ほかテレビ・ラジオ・雑誌への出演歴多数。トヨタ・エスティマの「Sense of Wonder」キャンペーン監修など幅広く活動。
- 佐藤健寿 THE WONDERLAND 奇界
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プロフィール
名前 | 住 正徳 |
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職業 | 執筆/デザイン/映像制作屋 フリーランス |
物事を正しくみる目がないことを賞賛され、副編集長に就任。 椎間板ヘルニア、十二指腸潰瘍、いぼ痔を抱えるため繁忙期にはどれかが疼く。
- https://twitter.com/sumimachine
- https://www.instagram.com/sumimachine/