素晴らしきかな、
引きこもり
徹底した寛ぎの薦め
文:SSENSE
写真:Rebecca Storm
素晴らしきかな、
引きこもり
徹底した寛ぎの薦め
文:SSENSE
写真:Rebecca Storm
Wi-Fi以前、スマートフォン以前、ミーム文化以前、すなわち、どこかに物理的に実在する必要性がテクノロジーによって消去される以前、家の中でひとり、何もしないことだけで成立したサブカルチャーがかつて存在しただろうか? 神は死に、ロックは死に、パンクは死に、すべてがNetflixと家で寛ぐことに置き換わった。現在のクールな若者は、携帯を切り、家でリアリティ番組をストリーミングし、ベッドの上でセルフィを投稿し、鬱と不安にまつわるミームをシェアする。家にいること自体がサブカルチャーになった。ひとりでいることに後ろめたさを感じないサブカルチャーだ。スケーター、クラブキッズ、パンクス、メタルヘッズ...誰もが「現実世界」での自己主張を諦め、素晴らしき在宅の驚異を楽しむことに甘んじているのだろうか? それもいいではないか? 家にいるからといって、探検していないわけではない。アパートの部屋は、潜在する可能性に溢れた広大な領域だ。大きな世界だ。その大部分を、あなたは自宅に居ながら楽々と体験できる。
お風呂は深淵
1954年、超越リラクゼーションを追求していたジョン・C・リリー博士が、初の感覚遮断タンク、別名「アイソレーション タンク」を発明した。このタンクが家庭用品にならない限り、超リラックス状態にいちばん近くて手頃な行為は入浴だろう。水に浸かることで、優勢な交感神経系が副交感神経系へ切り替わる。「休息と消化」モードである。水中浮遊は、一種の身体ホメオスタシスをもたらし、深奥部の陶酔システムを開放する。リリー博士は、精神に限界はないと考えた。だからキャンドルを灯し、バス バブルとバス ソルトをたっぷり用意して、バス タブを疑似アイソレーションタンクに変えよう。入浴は、浮遊療法あるいは熟考された自己治療の時間になる。
ストリーミングは
流れ
かつてエンターテイメントは、滴る雫のごとく、毎週1話に限定されていた。そんなペースの遅い満足を追う日々は、遠い昔の遺物となった。シーズンの合間、スクリーンからの娯楽が枯渇するのを耐え忍ぶ必要は、二度とない。現代の流れは、絶え間なく動き、更新され続ける。ブックマークしたURLをクリックするだけでピュアな喜びが滴る点滴だ。失態ばかりを集めた映像集、ドキュメンタリー、はるか前に死亡した著名人のインタビュー、スペインのメロドラマ...ひたすら果てしなく大量に貯蔵した文化の経典が出番を待ち受けている。流れにチャンネルを合わせ、目盛4本分の音量で流れ続ける水音を浴びながら、超越状態を降臨させよう。そのうち物憂い興味を失ったら、携帯を取り上げ、支流へ足を踏み出すかもしれない。多くの経路から流れ込み、飽き飽きするほど過剰な刺激の絶えざる噴流として終わるからこそ、流れは美しい。吸収することはたくさんある。鎮静を誘うスクリーンの発光を浴びて、完璧なマインドフルの状態に浸ろう。
ベッドは島
抱擁されてるみたいな感じに折り畳んだ羽毛布団。とても気持いいけど、別の肉体がもたらす戸惑いはない。前後関係が存在しない抱擁...なんて素晴らしい夢だろう。冬は暖かいフリースのシーツにくるまって、夏は爽やかな格子柄のコットンに覆われる。自分で誕生させた無人島で、ついにひとりっきり。上陸を許したのは、「WorldStarHiphop」のミュージック ビデオを見るラップトップ コンピュータ、抹茶味のポッキー、Leloのアダルトグッズだけ。この3つだけは絶対手放せない。人間は人生の1/3を寝て過ごすが、ベッド島でまったり過ごすのと寝るのは違う。本当に違う。前者は休息の状態、静かなる覚醒の状態だから。世界から過剰な情報を与えられ、その抱擁を楽しめなくなったときに横たわるべき場所は、まさにここだ。
衣装は竜巻
洋服ダンスは、自分の個性を明示するための義肢コレクション、柔らかな兵器庫である。定期的にメンテナンスしないと、残存して、過去の自分を思い出させる。脱皮後のヘビの抜け殻と同じ。もちろん、ヘビがチェーン店でショッピングしたらの話だが。無慈悲な断捨離が大流行するのも当然だ。それでなくても引越しは大仕事なのに、何年も袖すら通さずに放置した不要な衣類を詰め込んだゴミ袋など、無いに越したことはない。第一、私たちは過去の細片を振り切って前進してもいいのだ。その方が健康的かもしれない。だけど、価値があるのは、清潔で一貫性のあるクローゼットより、それを目指す道のりだ。ひっくり返して寝室の床にぶちまけたタンスの中身は、衣服によって心理を測定する方法、自己の内面へ潜って見慣れない領域、忘れてさえいる領域へ踏み入る旅路だ。私たちは、残っていた自己の断片を取り戻して、価値の高いものへ新たに作り替えることができる。たとえ、それが上手くいかなくても、金塊の山を守る龍のように、積み上げた安物の丘の上で寛ぐことはできる。
別れは崖っぷち
「ハート ブルー」で、キアヌ・リーブス演じる経験の浅いサーファー、ジョニー・ユタは、パトリック・スウェイジ演じる粗野で日焼けしたキャラクター、ボディに強く言われ、地元の人たちと真夜中の波に乗りたいという誘惑に負けてしまう。「クレイジーにならなきゃな」。うねる波間に浮き沈みしながらジョニーは言う。ボディは「オマエはそんなにクレイジーか?」とからかって、泡立つ黒い波の上で自分の技をひけらかす。アパートの中でできるサーフィンが、カウチ サーフィンかワールド ワイド ウェブ サーフィンに限られるとき、「家にいる、外出する」「付き合う、別れる」の選択は、結局「する、しない」の応酬に落ち着く。わざわざ家から出る必要があるか? 出かける価値があるか? パートナーを見つける必要があるか? 今は水星が逆行の位置にあるので、別れるのはタイミングが良くないか? やっぱり家にいて、ゆっくりしよう。でも、家にいて、本当に寛げるだろうか? 思いのままに選択できる崖っぷちで、グラグラ揺れる。手間取るほど、選択は重くなる。何をするのも不可能に思えてくる。しかし、「やっぱり家にいた方がいい」という動かし難い重荷を抱えつつ、完璧なメイクをしてアクセサリーもつけた状態でいることが、まさに2017年らしさなのだ。自分以外に必要なものがないとき、最大の孤独は人の中で感じうる。だから、構うことなんかない。予定と決別して、恋人とも終わりにして、自分にのめり込もう。
冷蔵庫は狩猟
夜食は過剰評価されている。夜食は深夜の食事2.0、永遠ではない驚嘆が冷却された領域で繰り広げるフル コースの逸脱行為である。フリースに身を包み、腰を落ち着け、自制心を解き放とう。味覚システムを100%甘やかして、味覚を頻繁に入れ替えよう。よく言われるように「食べたものが人を作る」のなら、変身する絶好の機会を手にしているわけだ。あらゆる香辛料は、元来の意図を超えた役割りを果たし、Ben & Jerry’sのクッキー アイスクリームは冷凍庫にある。人には親切にすること。だから、名前が書いてない場合を除いて、ルームメイトのストックに手を出してはいけない。MTVの豪邸訪問番組で紹介されたリル・ウェイン(Lil Wayne)をヒントにして、ヒプノティックをラッパ飲みしよう。
写真:Rebecca Storm
スタイリング:Olivia Whittick
ヘア & メイク:Laurie Deraps / Teamm Management
モデル:Ramona Hallemans / Another Species