「ブラック企業リスト」が厚労省ウェブサイトにて公開された。電通過労死事件をうけて昨年末に公表した「過労死等ゼロ」緊急対策の一環としての試みだったのだが、過労死の要因にあたる長時間労働についての公表は40社程度に留まっており、リストの大半が工場や工事現場での危険作業によるものであったことが目を引いた。
ワタミや電通などの過労死事件から、ブラック企業=長時間労働というイメージもあるのは当然だが、直接的に生死に関わるブルーカラーの法令違反もまた同等に重んじられるべきであるだろう。働く場所を問わず日本全体で労働環境の改善が行われることを願ってやまない。
と優等生じみたことを並べてみたが、「どの程度の違反で晒し上げとなるのか」の基準がちょっと気になっていたので、書類送検事案の内容を違反法令別に下記に報告していく。何らかの参考となれば幸いである。
1.労働安全衛生法の違反(212社)
全体を通して「労働安全衛生法」の違反が最も多く、リスト全体の約3分の2を占める。安衛法は労働災害の防止を目的とした法律であるため、違反内容も「作業床の手すり未設置(24社)」や「安全帯・墜落防止措置なし(26社)」等を含めた155件が危険作業によるものだった。ひとことに危険作業と言っても、軽作業での保護帽未着用から、機械停止手順の省略、現場監督不在の作業とさまざまではあったが、現場作業は危険と隣り合わせであるため、「少しなら大丈夫」という安全軽視の姿勢を厳しく取り締まることは正しい。
また、一部「無資格での重機等の運転(18社)」や「労災に関する虚偽の報告(37社)」などの違反も見られた。リストに記載されている企業はおそらく下請けの中小企業が殆どなので、人材不足による無資格者の登用や労災隠しも珍しいことではないのだろう。
下記に、安衛法違反の中で印象に残ったものを幾つか抜粋する。
【危険作業部門】
●高さ約23mの作業床の端に手すり等を設けることなく、下請負人の労働者に作業を行わせたもの(青森県・建設業)
※足場高さ23mはリスト中で最も高かったのですが、下請けの命を何とも思っていない所も高評価の理由です。
【虚偽の報告部門】
●約300日間の休業を要する労働災害が発生したのに、休業3日とした虚偽の労働者死傷病報告を提出したもの(大分県・設備工事)
※他の違反企業はせいぜい3日か4日、あっても15日の中、堂々の297日のサバ読み。かなりの度胸が伺えますね。
2.最低賃金法の違反(62社)
次に多かったのは「最低賃金法」の違反で、334社中62社がこれに該当した。違反内容は「賃金未払い・遅延(53社)」が大半であったが、数人の社員への一律未払い等の事由で書類送検へと至った企業の数々を見ていると、リスト記載の企業で働く従業員の方々が色々と大丈夫なのか不安である。
また、外国人実習生や障害者を最低賃金以下の給料で労働に従事させた5社についても、こちらの項目で計上した。後述する労働基準法と併せて、外国人実習生に対する法律違反を行った企業がリスト内に約20社ほど存在しているため、外国人留学生の就職窓口などで情報を共有して頂ければ幸いである。
法令違反のうち印象的だったものは下記の通りである。
【給与未払い部門】
●労働者6名に9か月分賃金を支払わなかったもの(福岡県・建設コンサルタント)
※文句なしの最長です。HPには「暮らし良さって何だろう?」の記載があり哀愁を感じます。
【給与支払い遅延部門】
●労働者10名に、2年11か月にわたり所定賃金(累計総額約5,000万円)を所定支払日に支払わなかったもの(兵庫県・運送業)
※「石の上にも三年」と言いますが、あとちょっとでしたね。
3.労働基準法の違反(60社)
最後に「労働基準法」の違反である。違反内容は「36協定違反(33社)」が圧倒的に多く、また「割増賃金未払い(7社)」についてもシッカリと〆て頂いており微笑ましい。
さらに、労働基準監督官に対し改ざんされたタイムカードや賃金台帳を提出する「虚偽の報告(4社)」についてもきちんと裁いて頂いているとわかり大変に感動している。みんなで証拠を取って、労基署の皆様にご来社いただこう。
印象的だったものは下記の通りである。
【虚偽の報告部門】
●労働基準監督署長に対し、労働者の労働時間の記録について虚偽の報告をしたもの(長野県・医療法人)
※タイムカードを改ざんされたら、会社を殴るチャンスです。
【違法な労働部門】
●関連法人3事業場と共謀のうえ、外国人留学生の労働者6名の意思に反して、労働を強制させたもの(宮城県・関連企業4社)
※これヤバくないですか?334社中ナンバー1の邪悪さ。
4.おわりに
取り急ぎ、以上となる。「ブラック企業リスト」内の全334社について、1社ごと調べて業種別に分けたりグラフにしてみたり等を行う気はないので、気の向くどなたかに一任する。
個人的には、タイムカードの改ざんや割増賃金の未払いに対しても労基署が動いていることが分かったので、「いつでも告発できる」という心の余裕が生まれて大変スガスガシイ気持ちである。「ブラック企業リスト」は今後も毎月公開されるようだ。日本の未来がほんの少しづつ、明るくなってきているのが嬉しい。