Navigant Research
自動運転にとって、2016年は大きな節目となる一年だった。
グーグルの親会社アルファベットの自動運転事業はWaymoとして独立。テスラが製造している車には、法整備が整えばすぐにでも使用できる無人の自動運転対応ハードウェアがすでに搭載されている。それ以外にもAutoXなど数多くのスタートアップが自動運転業界での存在確立にしのぎを削っている。
アメリカの調査会社ナビガントリサーチ(Navigant Research)は自動運転技術の開発を行っている全ての企業に対する調査を行い、リーダーシップグリッド(右図)をリリースした。調査では今後10年間で、どの会社がレベル2、レベル3、そしてレベル4の自動運転車をどのタイミングで市場に出すことができるのか査定している。ナビガントは2015年の7~9月期に最初のリーダーシップグリッドをリリースしているが、同社は「自動運転技術はそれ以後に飛躍的に進歩している」と指摘する。
(参考までに、レベル2及びレベル3の自動運転とは、ある程度以上複雑な運転に対応できるが、基本的には運転手による操作に依存する車を指す。レベル4の自動運転とは、限られた地域において人間による操作が一切ない状態で運転可能な車を指す。より詳しい説明はこちら)
https://waymo.com/ontheroad/
リーダーシップグリッドに掲載された企業は、先見性、市場開拓戦略、提携先、生産戦略、技術力、商品力、マーケティング及び流通、品質の高さ及び信頼性、製品のポートフォリオ、持久力の10の基準に基づいて査定された。各企業にはそれぞれのカテゴリーにおけるパフォーマンスに基づき、100点満点中の総合スコアが付けられている。
2017年もしくは2018年にレベル2の自動運転を行う計画を発表した企業と、レベル4の自動運転の公開デモンストレーションを行った企業のスコアは若干高めに査定されている。
自動運転システムを市場に売り出す最初の企業は一体どこになるのか。緊張が高まるこのレースを制する可能性のある18社をランキングで紹介しよう。
18位 百度(バイドゥ)
Baidu
中国のインターネット企業・百度(バイドゥ)は2015年以降、自動運転技術の公開テスト行っている。2015年12月には同社の自動運転技術を搭載したBMW 3シリーズを使った自動運転による約30キロのルート走行を成功させ、車線変更やUターンなどの技術も披露した。
2016年11月には、無人運転の電気自動車に一般人を乗せて走行するというトライアルを行ったが、この試みはわずか1週間で打ち切られた。同社はカリフォルニア州で無人運転テスト実施の許可を取得しており、サニーベールにオフィスを構えている。
北京に拠点を置く百度は、2018年に共有のシャトルサービス用の無人乗用車を小口生産する計画だ。同社による自動運転車の大量生産は、2021年に開始される予定。
ナビガントリサーチは100点満点中47.1点という総合スコアを付けており、昨年11月でBWM社との提携を終了したことを特筆事項として記載している。
17位 nuTonomy
Thomson Reuters
2013年にMIT(マサチューセッツ工科大学)からスピンアウトした、ボストンを本拠地とするnuTonomyは自動運転業界において音もなく着々と駒を進めてきた。
2016年8月、nuTonomyは世界初の自動運転タクシーの公道走行試験をシンガポールで実施した。同社は走行試験をさらに拡大させ、同年11月には本拠地のボストンで走行試験を開始している。
nuTonomyは2016年、ベンチャーファンディングから2000万ドル(約22億円)の資金を調達。シンガポール政府やフォードの会長ビル・フォード氏が創設したベンチャーファンドのFontinalis Partnersらが投資している。
ナビガントリサーチによるnuTonomyの総合スコアは100点満点中51.6点となっている。
16位 Uber
Business Insider/Corey Protin
昨年9月に自動運転車の試験をペンシルベニア州・ピッツバーグで開始した際には注目を集めたUberだが、ナビガントのリストでは比較的低い位置づけとなっている。
2015年5月にはカーネギーメロン大学から数名のロボット工学の専門家を獲得、ピッツバーグに拠点を設置したUberは、2016年9月にピッツバーグトライアルをローンチさせた後、同年12月にカリフォルニア州からアリゾナ州に拠点を移している。
これは、Uberがサンフランシスコでの自動運転パイロットテストを開始すると、当局から自動運転に必要な許可を事前に取得していないこと理由に、カリフォルニア州陸運局(DMV)から自動運転のパイロットテストの停止を命じられたためだ。DMVがVolvo XC90sの自動運転車16台の登録を抹消すると、Uberはカリフォルニア州を後にし、アリゾナ州へと拠点を移した。
Uberは今年1月、ダイムラーとの提携を発表した。提携についてナビガントは「これは社内での技術開発がうまく行かなかったり、自社の自動車によるオペレーションが高額になり過ぎた場合のリスクヘッジである可能性がある」と指摘する。
なお、UberはWaymoのLIDARシステムに関する知的財産を侵害しているとして、Waymoに訴えられている。
ナビガントリサーチによるUberの総合スコアは、100点満点中54.5点となっている。
15位 ホンダ
Reuters/Noah Berger
ホンダは自動運転車に関してかなり控えめな立場を取っている。
同社は現在、完全な自動運転ではなく、現状の自社乗用車に運転アシスト機能を搭載させることに焦点を絞っている。カリフォルニア州でのテスト走行許可は取得済みだが、ナビガントのレポートによると、走行試験は2016年に非公開のコースで行ったのみにとどまっている。
ただ、Waymoがホンダとのパートナー提携に興味を示しており、ホンダはWaymoの自動運転技術用に車両を提供する可能性が高いとされている。
ナビガントリサーチは、ホンダに100点満点中55.1点との採点を下している。
14位 ZF
2016年1月、オバマ前大統領がZFの自動運転技術を視察した
Reuters/Jonathan Ernst
ドイツの自動車部品メーカーZFはナビガントのリストで驚くほど上位に食い込んでいる。
これはZFのCEOであるStefan Sommer氏が、CES 2017でNVIDIAのPX2処理プラットフォームと自動運転システム「ProAI」を商品化すると発表したことに大きく影響を受けている。つまりZFはNVIDIAコンピューティングプラットフォームを製造する初の企業となる。ProAIは2020年以降に製造される自動車に搭載される予定となっている。
またZFはミシガンに拠点を置く、自動化システムを供給しているTRWを2015年に買収している。
ナビガントリサーチは、ZFに100点満点中64点という総合スコアを付けている。
13位 トヨタ
トヨタの自動運転自動車
Toyota
他社と比較して、自動運転車に対して控えめなアプローチを取っているトヨタだが、相当額の投資を行っている。
その証拠に今後5年間でトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)に10億ドルもの投資を行うとしている。TRIは「事故を起こさないクルマ」の実現を目標としている。
ナビガントリサーチのレポートは、世界で最も大きく、利益率の高いOEMとして、トヨタは完全自動化された自動運転車を作り出すリソース及び専門性を兼ね備えていると評価している。
ナビガントリサーチは、トヨタの総合スコアを100点満点中64.2点としている。
12位 テスラ
Tesla
予想に反して、テスラはトップ10入りを逃した。
同社の自動運転機能はこれまでに数多くの紆余曲折を乗り越えて来たが、ナビガントはテスラのレベル4への到達を疑問視する理由があると述べている。
テスラの自動車には、現在Autopilot 2と改名された自動運転機能を改善させる新規ハードウェアシステムが内蔵されており、完全自動化への基盤を築いている。同社は今年中にその技術力の高さをデモンストレーションする目的で、ロサンゼルスからニューヨークまで自動運転走行を行う予定だ。
2015年に初めてAutopilotが搭載されて以来、テスラ車の事故率は40%減と驚異的に下がっている。
しかし、テスラのAutopilotシステムは昨年5月、システムが機能している状況で、死亡事故を起こした。運転者には事故を回避するだけの十分な時間があったとして、高速道路交通安全事業団はAutopilotの責任ではないとしているが、ナビガントはレポートの中で、Autopilotをオンにした状態で他の作業を行うなど運転者による誤用がこれまでにも多発している点を指摘。また、障害物を検知するためのレーザーを発するセンサー、LIDAR技術なしで、レベル4の自動運転を実現できるかどうかは疑わしいと分析している。
ナビガントリサーチは、テスラの総合スコアを100点満点中64.5点としている。
11位 PSA
YouTube/ PSA Peugeot Citroën
ヨーロッパ第二位の自動車メーカーPSAは、完全自動運転車を2020年には公道で走らせる計画だ。PSAの自動運転車4台はフランスのパリからボルドーまでのおよそ600キロの道のりを2015年10月に完走している。
ZFはPSAの自動運転機能を搭載した自動車向けにカメラやレーダー、ソフトウエアを供給することを2016年に発表している。これらの車種は2018年には公道に登場する予定だ。
ナビガントリサーチは、PSAに100点満点中65.3点の総合スコアを付けている。
10位 ヒュンダイ・モーターグループ
Cadie Thompson/Business Insider
ヒュンダイは「2016 エラントラ」に搭載されたレーンキープアシストなど、高性能なドライバーアシスト機能を展開してきた。ヒュンダイは2020年には自動運転機能一式を搭載した乗用車の生産を開始する計画だが、完全な自動運転に本腰を入れるのは2030年以降だとしている。
CES 2017でヒュンダイはアイオニック電気自動車の完全自動運転の試作品を披露した。
ナビガントリサーチは、ヒュンダイの100点満点中の総合スコアを66.4点としている。
9位 デルファイ
Thomson Reuters
自動車部品メーカー大手のデルファイは、2022年までに自動運転車を一般向けにリリースする予定だ。デルファイの自動運転のアウディ車(上部写真)は2015年にアメリカ横断を成功させている。
デルファイは2016年11月、インテルと自動運転システム用に高性能のコンピュータープロセッサーを購入する契約を締結した。インテルは最近、自動運転技術で知られるモービルアイを153億ドルで買収したばかりだ。
「デルファイは今回のリーダーボードレポートの中でも最高位にランクインした自動車部品メーカーであり、過去3年で急激な成長を遂げている」とナビガントはレポートに記している。
ナビガントリサーチは、デルファイの総合スコアを100点満点中70.7点と採点している。
8位 ボルボ
Uber
ボルボは時間をかけて運転アシスト機能をリリースし、2020年までに「死亡事故を起こさない」車を製造する計画だという。
スウェーデンの自動車メーカーであるボルボは、スウェーデンの都市ヨーテボリとロンドンで家族連れに自動運転車を体験してもらう企画をDrive Meプログラムの一環として行っている。ボルボはまた100人のボランティアが公道でドライバーレスのVolvo XC90sをテストする「高度な自動運転実験」を中国で実施する計画だが、開始時期は明らかにしていない。
ボルボとUberは2016年8月に3億ドルのアライアンスを組み、自動運転車の開発に共同で取り組むことで合意。現在アリゾナ州でテストを行っている。
ナビガントリサーチは、ボルボの総合スコアを100点満点中73.4点としている。
7位 Waymo
Waymo
グーグルの自動運転車プロジェクトとして2009年に発足して以来、Waymoの車は300万キロ以上を走行してきた。
Waymoはフィアット・クライスラーとパートナー提携し、2社は2017年中にロボットタクシーのサービスを立ち上げる予定だとの報道もある。Waymoによると、同社はすべてのハードウェアを自社で生産しており、LIDARシステムを90%コストダウンすることが可能だとしている。LIDARは高額なハイエンドシステムであり、通常であれば1台につき7万5000ドルのコストがかかるとされている。
Waymoは自動車製造を手掛けるもりはなく、パートナー提携を通じて、他社に自動運転のプラットフォームを提供する考えだ。
ナビガントリサーチはWaymoに100点満点中73.4点の総合スコアを付けた。スコアはボルボと同じだが、Waymoの方が実行力において勝るとの評価だ。
6位 BMW
BMW
BMWは高度な運転アシスト機能をBMW7シリーズや5シリーズなどの高級車向けにリリースしている(上部写真)。
例えば同社の「ドライバーアシスタント・プラスパッケージ」は、レーンキープアシスト、パーキングアシスト、渋滞アシスト機能を提供する。
BWMは2021年に完全にドライバーレスな車をリリースする計画で、インテルやモービルアイと提携している。
ナビガントリサーチは、BMWに100点満点中75.2点の総合スコアを付けた。
5位 フォルクスワーゲン・グループ
Audi
フォルクスワーゲン(VW)・グループは、2006年のDARPAグランドチャレンジで勝利を収めて以来、自動運転システムの開発を手掛けてきた。VWのブランドであるアウディは、2012年にネバダ州で自動運転の許可を取得した最初の企業であり、カリフォルニア州での許可も得ている。
2015年、Audi A7はシリコンバレーからラスベガスまでおよそ890キロの道のりをオートパイロットモードで走り切った。
アウディはNVIDIAと提携し、2020年までに自動運転車を市場に送り出す計画を発表している。
ナビガントリサーチは、フォルクスワーゲングループに100点満点中75.9点の総合スコアを付けている。
4位 ダイムラー
Screenshot/YouTube/Daimler
ダイムラーはメルセデス S-クラス、E-クラスなどのブランドの車種に準自動走行機能を搭載したことで4位に入った。
2015年、メルセデスの大型トラックが自動運転で公道のハイウェイを走行したのも歴史に残る功績だ。ダイムラーはドライバーレスのトラックが2020年には一般道路を走れるよう計画を進めている。
「ダイムラーは、技術開発の分野では今後も他社をリードするだろう。しかし高級ブランドという位置づけを考えると、一般大衆は手が出にくい」とナビガントはレポートに書いている。
ナビガントリサーチは、ダイムラーに100点満点中77.7点の総合スコアを付けている。
3位 ルノー・日産アライアンス
Thomson Reuters
同社は高速道路の自動走行を可能にする機能「ProPILOT」を日本でリリースした。ルノー・日産は今後、同機能をヨーロッパ、アメリカ、中国市場でリリースする予定だ。2020年に完全自動運転が可能となるまで、ProPILOTに自動運転機能を追加し続けるようだ。
日産はコールセンターを活用し、自動運転だけでは対応しきれない運転状況への支援を模索している。
ナビガントリサーチは、ルノー・日産の総合スコアを100点満点中82点とした。
2位 ゼネラルモーターズ
Chevrolet
ゼネラルモーターズ(GM)は自動運転車に対して何度も大規模な投資をしている。
デトロイトに拠点を置く同社は2016年1月、Lyftに5億ドルを投じ、自動運転車による配車サービス・ネットワークの構築を目指している。また、同年7月には5億8100万ドルで、自動運転車のスタートアップ・Cruise Automationを買収している。
GMのCEOメアリー・バッラ(Mary Barra)氏は昨年12月、ミシガン州でシボレーボルトの電気自動車による自動運転実験を開始すると発表した。同社はサンフランシスコ及びアリゾナ州のスコッツデールでもテストを行っている。
バッラ氏はBusiness Insiderの取材に対し、最初の一般向けの自動運転車はシボレーボルトの電気自動車になると語った。また、安全確保のため、さまざまな道路状況におけるテストを集中して行っていると明かした。
バッラ氏は「自動運転をめぐっては、そのほとんどが『このくらいの距離を走行した』という話になりがちだが、本当に重要なのは走った距離よりも車がどれだけ学習したかだ」と強調した。
ナビガントリサーチは、ゼネラルモーターズに100点満点中84.8点の総合スコアを付けた。
1位 フォード
Ford
そして、堂々の第一位はフォードだ。
デトロイトに拠点を置く自動車メーカー・フォードは、2021年に配車サービスもしくはカーシェアサービスにドライバーレスの自動車を提供する予定だ。同社は自動運転のテスト車をこれまでの3倍にあたる100台に増やし、アリゾナ州、ミシガン州、カリフォルニア州でテスト走行を行っている。
「これまでも言って来た通り、我々は(自動運転車を)最初にリリースする企業ではないかも知れない。しかしリリースする時は、我々のブランドの極意 —— 誰にでも手が届くプロダクトになるだろう」とフォードCEOのマーク・フィールズ(Mark Fields)氏は2016年3月に述べた。「高級車を購入できる層だけでなく、誰でも手に入れられるということが何よりも大切だ」
フォードは2005年のDARPAグランドチャレンジにエントリーした頃から自動運転の実現に向けて研究を重ねてきている。
フォードと百度は2016年にLIDARメーカーのVelodyneに1億5000万ドルを投資した。2017年2月にはピッツバーグに拠点を置く「Argo AI」という秘密主義の人工知能(AI)スタートアップに今後5年で10億ドルという巨額の投資を行い、自動運転技術の向上を目指している。
ナビガントリサーチは、フォードに対し100点満点中85点の総合スコアを付けている。
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(翻訳:まいるす・ゑびす)