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プロモーターたちのジレンマ

  • ダンスミュージック産業の成長は、パーティー主催者たちを締め出しているのか? 現在のダンスミュージックが抱える最も広範な問題のひとつを、Angus Finlaysonが解明する。

    「昔から良くはなかったよ、プロモーターにとってはずっと辛い状況が続いている。でも年月が経つにつれて、もっと障害が増えてきた。間違っている、今の状況は。ダンスミュージックカルチャーは商品化される為に生まれたんじゃない。そんなの誰にとっても良い空気を生まない。」

    George Patrickはグラスゴーとエジンバラ、アバディーンを拠点に、小規模のハウス/テクノパーティーBigfoot's Tea Partyと並行して様々なレギュラーイベントを主催している。プロモーターとしての活動を開始して8年。彼は今、これまでにないほどの困難に打ち当たっている。

    DJのギャラは経済のインフレよりも速いペースで上昇中。ということは、アーティストのギャラがエントランス収入に見合わないという事態が度々生じる。また、UK国内外でのフェスティバルブームは、DJと彼らのエージェントにとっての小規模のクラブナイトの優先順位を下げている。DJを妥当なギャラで確保するのが困難な場合もあり、Patrickの手がけるパーティーの中でも国際色の薄いアバディーンの街ではことさらだ。「もしブッキングに成功したとしても、今度は莫大なギャラを払わなければならない。必然的にエントランス料金もバカ高くなる。そんなことしてもクラブが活気を失うだけだ。結局それを払うのはクラバーたちなんだから。」

    これはPatrickだけに言えることではない。UK各地のプロモーターたちが同様の不平不満を感じている。

    「俺が引き合いに出しているギャラの中にはとんでもない金額のものもある」と、昨年10周年を迎えたノッティンガムのパーティーWigflexを主催するLukas Coleは語る。「パーティーを始めたばかりの頃は500ポンド前後でブッキングできていたDJも、今は8,000ポンドを要求してくる。500人程度しか入らないヴェニューでだよ。例えチケットが完売しても採算なんて取れない。」

    イビサのZoo Projectでブッカーを務めるGraeme Stewartは、自身の地元ミドルズブラでも13年間に渡りパーティーを主催している。「10年くらい前に、Riffraffでほどほどの規模感のブッキングでスタートした頃は、今ブッキングしているアーティストを半額程度で呼ぶことができた。200〜350人規模のクラブだと、その差にかなり影響される。」

    9年間続くパーティーmeandyouのオーガナイザーのうちのひとり、Alexander Taberによると、マンチェスターでの状況もそう変わらないという。「最近はプロモーターも多いし、新しいヴェニューも増えてきた。お互い同じようなことをやっていて、シーンはある意味飽和状態になっていきている。みんな同じアクトばかりブッキングしているように見えるよ。」

    実際、これはUKに限ったことではない。この数ヶ月間、筆者はダンスミュージックにおける主要地域で中小規模のイベントに関わる、様々なプロモーターやブッカー、クラブのオーナーたちに話を聞いた。そしてその大多数が、イベントの運営が今まで以上に難しくなってきているという事実に同意を示した。

    この問題の兆候は、どんな地域でも同じレベルで起きているというわけでは決してない。ダンスミュージックが根付いている街では、そうでない街以上に影響を受けている場合が多い。イビサやベルリンといったホットスポットには、こうした問題を避ける独自の業界ネットワークが存在する。一方、ロンドンを含めたその他の街は、より差し迫った事態となっている。

    だが、この兆候は今確実に起きている。時折、ダブリンやイスタンブール、リスボン、ロサンゼルスといった全く異なる街のプロモーターたちが、全く同じ苦情のキューシートを読み上げているように思えることがある。跳ね上がるギャラ、一握りの限られた人気DJ、地元のプロモーター同士のみならず世界的なフェスティバルネットワークやその他の大型イベントとの間でますます激化する競争。そして、かなり大きなスケールで見受けられるアンダーグラウンドの職業化は、より多くの仲介人、より多くの付帯的なコストを生む一方、タイトなマージンで運営するプロモーターたちから柔軟性を奪ってしまう。

    こうしたプロモーターたちの間では、フラストレーションに満ちた雰囲気や、あからさまな悲観論が均一に見られた。全員というわけではないが、中にはもうお終いだと嘆く者もいた。ニューヨーク拠点のプロモーターRic Leichtungは、こうコメントしている。「バブルが起きているのは明らかで、しかももう弾けていると俺は思う。」











    これらの背後にあるのは一体何なのか?それは、成長だ。

    International Music Summitによる毎年恒例のBusiness Reportによると、世界のダンスミュージック産業は過去10年間で、金額ベースで約2倍に膨れ上がっており、2011年には年間40億ドル前後だったのが2016年には71億ドルになったという。エレクトロニックミュージックはひとつの記録メディアとして勢力を伸ばした——’10年代初めにはUSとUKのチャートを賑わし、現在急成長するストリーミング市場においても成功している。しかし、もっとも大きな変化はイベント(興行)で起きている。

    EDMがダンスミュージックをメインストリームへと押し上げたアメリカでは、国内のエレクトロニックミュージック・フェスティバルの総動員数が2007年から2013年にかけて毎年50%ずつ伸びた。Ticketmasterが2016年に行った調査によると、UKにおけるダンスミュージック・フェスティバルの数は2000年から2015年の間に500%増加しており、「ライブダンスイベントの需要は拡大し続けている」という。またヨーロッパ圏内では、少なくとも7人に1人が最近ダンスミュージックイベントに参加したと、IMSは推計している。

    しかし、こういったことがアンダーグラウンドとどう関係しているのかと疑問に思う人もいるだろう。結局のところ、こうした驚くべき数値の裏には、GuettaやElectric Daisy Carnivalといった大物の存在が影響しているわけで、Wigflexやmeandyouはその脇にいる小魚に過ぎないのだ。しかし両者が同じ海を泳ぎ、同じ流れに影響を受けているのもまた事実。ダンスミュージックは'90年代後期以降、ある意味メインストリームの存在となっており、その規範に同調する若者たちは、あらゆる形のダンスミュージック・カルチャーと触れ合う傾向が強い。ダンスミュージックにおける重要都市のイベントを調べたければ、Resident Advisorのリスティングをチェックするだけで済むし、副業を持つ中堅DJたちに銀行の残高を尋ねれば、世界のアンダーグラウンドが史上最高の盛り上がりを見せていることが伺えるはずだ。

    「世代交代があったように感じる」と、International Music Summitの創設者のひとりであるBen Turnerは語る。「アメリカやヨーロッパ各地の若いキッズが、クラブに行ける年齢に達した。彼らはテクノロジーを身近に感じ育った世代。彼らが聴く音楽の拍は、コンピューター制御されたエレクトロニックなもので、ただカチカチいうだけだ。」

    こうした変化は物事の進み方にどう影響するのか?筆者が取材した人たちの不満は、拡大し続ける業界の産みの苦しみを反映しているだけなのだろうか?あるいは、Ric Leichtungが語ったように、我々は現在バブルの中にいて、'90年代や当時のスーパースターDJたちのように最終的には弾けてしまうのだろうか?

    もしくは、我々は、この業界がゆっくりと、しかし否応なく形を変えていく様子を見ているのかもしれない。方や、世界的なエンターテインメント企業や収益の大きいブランドパートナーシップによってトップダウンで運営されている。方や、ダンスミュージックの中心地では一握りの大手プロモーショングループの間で勢力が分割されている。その他の地域では、フェスティバルのロジックが優位を占めている。そしてどんなレベルのシーンにおいても、徹底的にプロフェッショナル化されている。

    だとすると、この新しい世界も満更でもないのかもしれない。エキサイティングな新たな可能性が生まれてくることもあるだろう。だが、それは同時に、ある種のダンスミュージックイベントを拒絶してしまうかもしれないことをも意味するのだ。

    「昔はドアを開けてみて、それなりに忙しく、良いパーティーになればいいなと思っていた」と、Graeme Stewartは語る。「それが今じゃ、キッズがものすごい早い段階でチケットを買うようになった。クラビングの全体的な体験をしようとしているというか... みんながチケットを買って、“OK、今後はアパートメントを探そう。月曜は休みを取るよ...。” まるでフェスティバルへ行く考え方みたいだ。」











    このことは、イギリスでのクラビングにおいて2010年代になって顕著になった。リバプールの大型クラブCreamの創設者のひとりであるJames Bartonは、2015年のTicketmasterの報告書でこう綴っている。「もし私があなたを、Creamとクラブカルチャーの全盛期だった1996年の世界へ連れ戻したとすると、あなたはキッズたちが毎週土曜日に夜遊びに出かける様子を目にするでしょう。それが今では普通ではなくなってしまった。特別なことになってしまったのです。今のキッズは、ビッグな経験、ビッグな瞬間にお金をかけたがる。この世代は感動を欲している。ビッグなプロダクション、1番ビッグなラインナップを求めているのです。」

    Bartonは現在、Live Nation社のエレクトロニックミュージック部門代表を務めている。同社は最近、ダンスミュージック関連の買収プロジェクトの一環として、マンチェスターWarehouse Projectの過半数の株を取得した。強力なラインナップを携え、来シーズンの内容を予告発表する方式によって、Warehouse Projectはこうした“ビッグな体験”を提供する新世代のイベントの一端を担っている。これらのヴェニューは、若いクラバー達の習慣を反映しているのだ。あるいは、形作っていると言ってもいいのかもしれない。Ticketmasterの報告によると、UK国内のダンスミュージックイベントにおいては、“3人に2人以上の参加者”が“最低でもイベントの2ヶ月前にチケットを購入している”という。

    「今はずいぶん早いうちからイベント情報が公開される」と、Stewartは語る。「交通の便もいいし、滞在先はAirbnbを借りればいい。それに電車の切符も安く買える。バーンズリーやコルチェスターのような街に住むキッズたちは、10年前よりも遥かに楽に大都市へ行けるようになった。つまり、そういう街で音楽を続ける小規模なアンダーグラウンドなパーティーは、今や大都市相手に競争しなければならないということ。ミドルズブラでは、2時間以上離れていても尚我々のパーティーに影響を与えかねないということで、Warehouse Projectのラインナップを必ずチェックしている。」

    イングランド北部にある、とある中箱のブッカーは、シーズンごとのラインナップをかなり前から発表し、クリエイティブ的に面白いラインナップよりもインパクトの大きいそれを重視する、というモデルの採用を余儀なくされたと明かしてくれた。クラバーたちは現在、フェスティバルによって形成された消費者心理を持っている。リスボンでも同様の問題があると指摘するLux FrágilのPedro Fradiqueは、こう述べた。「これだけ払えば、このくらいの結果になるというのが想像がつく。」

    そしてもちろん、こうした大型イベントがDJのギャラに影響する、という事実も存在する。「例えばプロモーターが2000人規模のイベントを開催し、チケットは1枚40ポンド、バーの売上げも取るというのであれば、何故その収益がアーティストフィーに反映されるべきではないのかが私には理解できない」と、Stewartは続ける。「それを全部プロモーターが持っていくのはフェアじゃない。そんなのは、フットボールクラブがSkyの売上げを貰っているにも関わらず、選手は高い年俸を貰うべきじゃないと言っているようなもの。ただし、マンチェスター・ユナイテッドに所属していた選手が、翌週に同じ年俸でシュルーズベリーに移籍するなんてあり得ないけどね。」











    大西洋を渡ると、フェスティバルは更に劇的に、だが違った形で変化している。'00年代末頃にEDMが爆発的な盛り上がりを見せた当初、それは主にフェスティバルに起きていた現象であり、アメリカの既存のクラブシーンにはあまり関係のないことだった。だが、その後衝撃の余波はあらゆるレベルのポップカルチャーへと及び、アメリカは現在、ディスコ全盛期以来のスケールでダンスミュージックの興隆を経験している。

    「昔はよくこんなふうに例えられていた、“悪い音楽は良い音楽に繋がる”と。全くその通りだと思うよ」と、ボストン出身で現在はニューヨークを拠点に活動するミュージシャン/プロモーターのJohn Bareraは語る。「エレクトロニックミュージックシーンはこの街でも明らかに成長している。そこではより多くのDJと、より多くのプロモーター、より多くの競争が生まれている。」

    おそらく、この成長が最も顕著に現れているのはLAだろう。この街には昔から素晴らしいダンスミュージックシーンが存在するが、ここ5年間ほどで若く熱心な人たちが流入してきたことによって、新たな活気が生まれた。

    「(EDMは)人々がエレクトロニックミュージックを深く掘り下げる為の入り口になったように感じる。それがシーンの成長の仕方だ」と、Nik Wilsonは語る。 「5年前、ここでEDMバブル全体が膨らみメインストリームとクロスオーバーした時、人々は皆エレクトロニックミュージックファンになり、そのままハマった人の好みは成熟していった。結果として、数年経った今いい結果が生まれていて、サウンドもより洗練されきた。」

    Wilsonは、ハリウッドのクラブAvalonのタレントバイヤーにして、ウェアハウススペースLot 613の共同経営者のひとりでもある。かつてロンドンのMinistry Of Soundで働いていた彼は、この街に移住して以来、シーンの急速な変化を目の当たりにしてきた。「(LAは)ほとんどロンドンやニューヨークのようになりつつある。実際、今は毎週末、すごく良いパーティーがたくさんあるし、彼らはとてもクオリティの高い世界的なアクトを呼んでいる。僕が4年前にここに引っ越してきた時はこんなんじゃなかった。それが今は毎週末、素晴らしい選択肢がたくさんある。」

    しかし、この新たなイベントとプロモーターの蔓延にLAの街自体が持ちこたえられるかどうかは、現時点では定かではない。Far AwayというパーティーのメンバーであるDJ/プロデューサーCooper Saverは、自身がWilsonの言う新しい世代の一員だと認識している。「この手の音楽バブルは、数年前よりも近づきやすいものになっていると思う。自分でパーティーをやるのが、そこへ関与して全体の様子を見るのに一番良い方法だ」。しかし、彼はシーンの肥大化を心配しているようだ。「たくさんあるパーティー全部にお客さんが入るほど、遊ぶ人間は多くないと思う。どのイベントへ行っても数百人くらいで、たくさんイベントが被ったりなんかしたら、誰にとってもいい結果にはならない。」

    このことは、人気DJに対する需要の増加にも繋がっている。Making ShapesのJeni Ericksonは、「特定のアーティストのブッキングの奪い合い」が、「LAのプロモーターたちの間における激しい争い」に繋がっていると主張する。「今この街のアンダーグラウンドでは、少なくとも6つの人気パーティーブランドが活動しているから、エージェントとアーティストにとっては選り取り見取りだよ。」











    ギャラの上昇は、既に非合法のウェアハウスパーティーにとって経済的に厳しい状況を生んでいる。「ほとんどのパーティーがシークレットだったりアフターアワーズだったりするから、文字通り全部自分で払わなければならない」と、Saverは説明する。「場所とサウンドシステムを借りて、バーも入れる必要がある。その他にアーティストをブッキングするとなると、あがりを出す余裕なんてほとんどない。基本的に、アーティストのギャラが4000ドル以上する場合は、自分は楽しみの為だけにパーティーをやっているんだという事実を認めざるを得なくなる。ほとんどの場合、プロモーターには利益すら出ていないんじゃないかな。」

    この問題が改善しないのは「気取ったプロモーターが増えた」ことが原因だと、ある匿名希望のプロモーターが答えてくれた。もともと資金力を持った人間たちが、シーンに入り込む為に自ら進んで損をしているというのだ。もちろん昔からそうだったが、ダンスミュージックが世界中で社会的な地位を獲得していくにつれ、この現象はどんどんと悪化していっている。

    「どうやら資金がたくさんあって、例え1回のショウで1000ポンド損しても気にしないような人たちもいるみたいだ」と、ロンドンを拠点にパーティー兼レコードレーベルBleeDを運営するCasper Clarkは語る。「(ダンスミュージックシーン)全体の価値が高まれば、そこで一枚噛もうとする人間も増えていく。そしてそこには、周りよりも裕福な人たちがいるという事実を、俺たちは受け入れなければならない。」

    新しいプロモーターの流入がLAのシーンを底から圧迫している一方で、EDMフェスティバルのインフラには上からの圧力がかかっている。昨年SFX Entertainment社が破産した時、多くの人がEDMの終焉を叫んだが、安定した状況を生んだぐらいで、まさかの崩壊とはならなかったようだ。2016年のIMSの報告書によると、「近年の(EDMの)爆発的な普及の痕跡は、サステナブルで広範囲に及ぶ魅力へと変化しつつある」という。ニューヨークのパーティーTrouble & Bassを主催するVivian Hostは、ここ数年でEDMフェスティバルは「激増し、どれも他の地域でサテライトイベントを開催している」と語る。

    穏やかな天候が魅力の南カリフォルニアは、そうしたフェスティバルのホットスポットとなっている。Live Nationは、3月のBeyond Wonderland、9月のNocturnal Wonderland、そしてEscape Halloweenを手がけるInsomniac Eventsの「クリエイティブなパートナー」だ。またLive Nationは、毎年LAで2つのフェスティバルを主催するHardも所有。そして同社の競合であるAEGは、CoachellaやFYF Festを主催するプロモーターGoldenvoiceを所有している。

    こうしたフェスティバルは、インディペンデントなクラブよりも多額のギャラでオファーする上に、イベントの前後数ヶ月間に同じ地域でパフォーマンスを行うことを阻止する為、エクスクルーシブ契約へのサインをアーティスト側に要求する。該当エリアは周囲数百キロに及ぶ。つまり、InsomniacのラスベガスでのフラッグシップイベントElectric Daisy Carnivalのブッキングが、LAにまで影響するということだ。例えばあるアーティストがこれらのプロモーターと2回のギグを契約したとすると、そのアーティストはほぼ1年間LAでプレイできなくなる。

    フェスティバルがますますアンダーグラウンドなブッキングのアイディアに目を向けている今、それは重大なことを意味する。Coachellaの2017年のラインナップには、Ben UFOやMarcel Dettmann、Floating Pointsが含まれている。そしてInsomniacは昨年、カリフォルニアでのイベントにFour Tet、Rødhåd、Jackmasterを招聘した。ウェアハウスパーティーのプロモーターたちは、彼らのコアアーティストがもうじきフェスティバルにブックされてしまうのではないかという不安を抱えている。「厳しくなりそうだ」と、ある人物はこぼしていた。

    これはより広範な動態を反映しており、例えばかつては相反すると考えられていたメインストリームとアンダーグラウンドの領域が、今ゆっくりと交わってきている。一方では、商業的関心がこれまでニッチとされてきた音楽に向かっており、もう一方では草の根的な音楽カルチャーが、次第にプロフェッショナル化されている。フェスティバルはしばしば、この2つの世界の交差点となる。

    「メインストリームとアンダーグラウンドの間にあるギャップがなくなっていきている」と、Pedro Fradiqueは語る。Lux Frágilのオープン当初ブッキングしていたようなアーティストは、「数年経つと有名になり、その後フェスティバルに出演するようになった。最近では、(僕が呼んだ)50人しかお客さんが集まらないようなアーティストが、次の年にはフェスティバルに出るなんてこともざらにある。」















    アメリカ大陸のもう片側では、ニューヨークもまたEDM以降の余波を受けている。ニューヨークの街には、フェスティバルや、そのエクスクルーシブ契約の影響に対する免疫がない。(The New York Timesは最近、ニューヨークにおけるLive NationとAEGの競争状態について報じている。)

    「毎月のように新しいフェスティバルが生まれ、新しいクラブがオープンする」と、Nicolas Matarは語る。「ロンドンやベルリンよりもニューヨークの方がたくさんイベントがある週末もある。ニューヨークにそんなにたくさんオーディエンスがいるとは思えないけどね。シーンは今までにないくらい大きくなってきているけど、まだロンドンやベルリンほど大きいとは言えない。」

    MatarはマンハッタンのクラブCieloを運営しているほか、ニューヨークのナイトライフ復興期にあった2013年には、ブルックリンにOutputをオープンした。しかし彼は現在、今の状況がサステナブルではないと感じているという。「ずっと争奪戦状態にあるし、DJはギャラを貰いすぎている。結果としてDJと彼らのマネージャーたちだけが利益を得て、プロモーターとクラブオーナーの利益幅は減ってしまった。」

    Matarの推測によると、過剰な数のプロモーターとイベントによってDJのギャラがおかしなことになった「3年半前ほどから」、事態は混乱し始めた。「要するにニューヨークは、そうやってDJの獲得を巡って競い合う人間たちの影響で、DJが北米で最も高いギャラを貰えるマーケットになった。そこで多くのエージェンシーやマネージャーがしてきたミスは、“OK、ニューヨークのマーケットはバカでかい、高額のオファーもたくさんくる、だったらうちのアーティストに年に4〜6回プレイさせよう”という考えだ。でも、それは単純に多すぎる。この街のほとんどのクラバーは、国内、あるいは世界各地のフェスティバルにも参加する。だとすると彼らがニューヨーク市内で遊びに行く動機は?この状況が続けば、多くのクラブは経営が成り立たなくなるだろう。」

    自滅を招きそうなこのマーケットにおいて、大箱はリスクを負うのが困難になってきている。保守的なブッキングは、大掛かりな経費をカバーできる可能性が高い。一方で小規模の主催者は、クラビングブームにあやかろうとする大箱が、シーンを弱体化させたと感じている。

    Ric Leichtungは、ニューヨークのMarket Hotelや285 Kent、Palisadesのような小箱で、9年間に渡りブッキングを行っている。 「大箱ができた時に喜ばしいことは一つだけ。そういう箱には最高のサウンドシステムや、他のもの全てが備わっているから」と、彼は語る。「でもそういう店には大金が絡んでいて、事実上アートとカルチャーで金儲けをしているということになる。カルチャーにおけるビジネスは、常にバランスが保たれていなければならない。“これは自分のアート的なヴィジョンに合っているか?これで生活していけるか?”でも、そこで妥協しなければならない部分もあると思う。」











    「ここしばらく、みんな本当に貪欲になってきている」とコメントするのは、Trouble & Bass主催のVivian Hostだ。彼女が主催するパーティーTrouble & Bassは、かつてVerbotenを拠点としていたが、同店が閉店して以降はそれよりも小さなクラブで行われている。「クラブは“この人が今ホットな新しいプロモーターらしい、この人かもしれない”なんてふうに迷走していて、色んなことがめちゃくちゃになった。店側は1つのプロモーターにお金をかけるのが嫌になったみたいで、彼らを信用しマンスリーパーティーを任せるようなことはしなくなった。それがシーンに大きな損害を与えていると思う。」

    そんな移り気な空気によって、ニューヨークの街は二極化した。大規模なクラブやウェアハウスパーティーは、裕福なハウス/テクノのクラウドを手に入れた。その他のイベントは、低層のヴェニューの活気はあるものの、不安定な体制に捕らわれ、一貫性のあるクラブナイトを作ろうという努力は、目に見えない費用や今にも壊れそうな機材、そして営業停止のリスクなどに妨げられる。(近年では285 KentとPalisadesが閉店に追い込まれた)。

    「プロモーターとしての活動を辞める人がかなり多いように感じる」と、Hostは続ける。「それに会場を転々としなければならない人も増えた。誰かが4ヶ月間同じ場所でパーティーを続けたと思ったら、その次はどこか他の場所で開催されたりする。常に追いつめられてるようなもんよ。」

    この不安定な状況の中、(短期間だとしても)勝ち抜いているのは、アーティストと彼らのブッキングエージェントだ。「(エージェンシーにおいて)草の根部分で活動する人たちと人気業界人たちの間のギャップは急速になくなってきている」と、Leichtungは言う。「本当に素晴らしいプレスリリースがあれば、例えそんなに人気のないアーティストであっても、普通だったら(エントランスの売上げで)稼げないであろう、1つ上の金銭的なレベルにも行ける。」

    集客力のあるDJたちは、交渉の場において有利な立場にある。「確実に集客できる、ある一定層のビッグネームDJを巡って熾烈な競争が繰り広げられている」と、John Bareraは語る。「名が知れていて評判の良いDJというだけで、ギャラを吊り上げることができるんだ。」

    筆者が今回取材したプロモーターたちの間で、エージェントの存在は共通の悩みの種だった。ここ最近、ダンスミュージックシーンにおける彼らの力が増してきていると、多くの人が答えた。それは、以前はDJのブッキングがカジュアルに行われてきたはずの、シーンの低い位置でさえも見受けられる。また、大箱やフェスティバルを重視するあまり、エージェントが小規模のプロモーターを衰退させているという非難の声も上がっていた。













    「そういうエージェンシーのやり方がどんどん企業化してきているように感じる」と、Hostは語る。彼らが「中小規模のプロモーターに余裕を与える」ことはほとんどないという。「もし自分のアーティストに大箱やフェスティバルのブッキングを取るのに成功したら、金銭面から見て、中規模のプロモーターと契約する理由なんてどこにもないでしょ?」

    マンチェスターでは、Alexander Taberが「シーンのプロフェッショナル化とエージェントの存在」はmeandyouが抱える大きな課題の1つだと指摘する。「効率性とアーティストのキャリア形成において、エージェントが重要な役割を担っていることは間違いない。でも小規模のプロモーターにとっては、エージェントの介入によって世界的なアーティストのブッキングがどんどん難しくなっている。高額なアーティストのギャラとエージェンシーフィー、ホテル代、箱代、セキュリティー代など、例えキャパシティ150人ほどのパーティーをプロモーションするにしても、やらなければならないことはたくさんある。そういう金銭的な部分や、小規模のイベントを運営することのカルチャー的な重要さを、エージェントがもっと理解することが必要。そうじゃないとこの先やっていけないよ。」

    シカゴのsmart barでタレントバイヤーを務めるJason Gardenは、高額なギャラに手が届かないことを理由とした、「“年寄りの誰々がヨーロッパでいくら稼いだ”という論争」をよく耳にするという。「僕の考えでは、エージェントの一員であるということは、自分のアーティストがプレイする街のローカルマーケットをちゃんと理解できるということ。そういう論争の中で“ヨーロッパで”という言葉を聞いた時はちょっと引いたよ。そんな言い方は、パーティーやパズルの重要な役割を果たしているエージェントやアーティストの、全てとは言わないけど半数を無視していることになる。」

    ブッキングエージェンシーの影響力の上昇をもたらした誘因は何か?その答えもまた、メインストリームとアンダーグラウンドの衝突の中にある。

    「僕が7年前に初めてエージェントになった時は、僕たちの知る限りエレクトロニックミュージックを手がける(大きな)エージェンシーは6つか7つくらいしかなかった」と、ロンドンのインディペンデントエージェンシーで働くエージェントは振り返る。EDMブームを追って、「今はWilliam Morrisみたいなメジャーなエージェンシーはどこも(エレクトロニックミュージックの)大きな部署を持っている」。このことが競争を高めており、エージェントにとっては将来有望なタレントを獲得する為に、従来よりも早い段階でアーティストと契約する必要が出てきた。「今まで以上に先を読んでアーティストと契約しなければならない。まだ活動し始めたばかりのアーティストの場合だってある。」

    アーティストが一度成功すれば、この業界の逞しさがあるからこそ、そこからフルタイムのミュージシャンにキャリア転向することも実現可能になる。だが、キャリア転向した後にレコードの売上が落ち込んだ場合は、DJとしての収入に頼ることになる。

    「(アーティストの)フルタイムとしてのキャリアについて考えているなら、彼らの家賃の支払いや納税の義務、将来的には家族を養う可能性まで考えなきゃならない」と語るのは、POLY. ArtistsのKeira Sinclairだ。「それに、キャリアがどのくらい続くかということも。彼らの今後の人生に安定をもたらすのか?って。でもそれがネガティブなことだと捉えられているのは残念。音楽を作って、プレイすることで生活していけるなんて、素晴らしいことだと思わない?」













    それでは、エージェントが小規模なプロモーターよりも大規模なイベントを好むことについてはどうか?筆者自身のロンドンのエージェント(匿名)は、「大きなプロモーショングループが、かつてないほど大きな力をつけている」と認めた。それは、「適切なエージェントへ所属することによって実現できる、膨大な数のショウ」が理由だという。

    だが、これを完全にマイナスの力と捉えるべきではないと、Coda Music AgencyのSandy Marrisは主張する。「そうした大きなイベントは、こういうサウンドをより幅広いオーディエンスに伝えることのできる貴重な存在。そのお客さんたちが、その後もっと音楽を好きになってくれる可能性もある。大型フェスティバルでDJを見る、それは正に僕が(この世界に)ハマった理由。」また、彼ら(大型イベント)は「DJたちに自分のやりたいことで生活していけるだけの多額のギャラをオファーすることができる。そうすればDJたちは、もっとたくさん小箱のショウを受けることも可能になる。お互いに必要な存在なんじゃないかな。」

    重要なのはバランスを保つことだ。「ロジックは至ってシンプルだと思っている」と、Marrisは続ける。「プロモーターを敵に回したいというなら話は別だけど、オランダで土曜の夜に開催される1万人規模のメガレイブと、日曜の夕方の小さなパンククラブに、同じギャラを要求するなんて意味がない。」

    プロモーターたちの話を信じるならば、全てのエージェントがこの最善の方法を取っているという訳ではなくなる。しかし、事態の原因を全て彼らのせいにするのも間違っているように思える。結局のところ、彼らは機械の歯車の1つにすぎず、機械が速度を増し、ぜんまいがキツく巻かれれば、彼ら自身が操作する余裕もなくなってくる。プロモーターのように、彼らもまた、今ダンスミュージックカルチャーに起きている根本的な変化の影響下にあるのだ。

    今回取材した人のうち多数が、事態はどこに向かっているのかについてじっくり考えていた。「だったら不動産バブルはどうなる?」と、John Bareraは言う。「クソなポップスとか。言っている意味分かる?音楽産業は虚弱すぎるように俺は思う。ギャラがこのまま際限なく上昇するわけない。きっとどこかで崩れ落ちるはずだ。」その崩れ落ちが、'90年代末にダンスミュージックシーンに起きたことは有名だ。しかしその後、グローバリゼーションとデジタル革命が事態を大きく変えた。

    「今と比較してみても、'90年代におけるDJの大爆発は恐れ戦くほどのものだった」と、IMS創設者の1人Ben Turnerは振り返る。「それが全て2000年頃に崩壊したんだ、ヨーロッパとUK周辺では確実にね。今のシーンはとてもグローバルになっていて、この業界には前よりもしっかりとした基盤ができた。その理由は世代のシフトだと僕は思っている。今のキッズは、ただ流行っているからといってエレクトロニックミュージックを好きなわけではない。彼らが皆ロックのファンになるわけなんてないよ。」

    IMS Business Reportの著者であるKevin Watsonは、崩壊とは反対のことを予想している。それは更なる世界的な成長と、発展途上国における第二次EDMブームの可能性だ。彼はインドを例に挙げ、18歳から24歳までの人口をアメリカのそれと比較した。「もしインドに、現在のアメリカにおけるフェスティバル普及率のたった半分だけでも存在していたら、Tomorrowlandsがもう18回開催されるようなレベルだ」と、彼は推測する。「かなり大きな潜在的成長力がある」。ラージャスターンにて開催されているフェスティバルMagnetic Fieldsのようなイベントが、アンダーグラウンドなサウンドへの興味をインドに植え付け始めている。

    Watsonの推測が正しければ、この世界的なダンスミュージックシーンのピークと見られる現状は、将来起こる急騰の始まりにすぎない可能性もある。産業としてのこの業界にとって有益かもしれないが、草の根的なクラブカルチャーにとっては喜ばしいこととは言えない。しかし、あるプロモーターはビジネスの観点から見て、クラブ業界における“チェーンストア”が全く魅力がないわけではない、と考える。彼らにとってマイナスな発展に思えるようなことも、実はダンスミュージックが世界を席巻する要因に成り得る。

    その他のプロモーターたちは、もっと気楽に考えているようだ。「ここで起きている小さいスケールのことはこの先も変わらないと思う」と、Ric Leichtungは語る。「情熱があって、金銭的な利益よりもアーティストの一貫性を尊重する小規模のプロモーターや、アップカミングなアーティスト、新しいヴェニューは、これからも存在し続ける」。George Patrickも彼に同意した。「自分がそうしたいと思うのなら、道は開ける。」

    小規模のプロモーターが直面している問題に、可能性のありそうな解決策を提案する人たちもいた。より大きな団体のいるオープン市場で競争するのではなく、お互いに協力することもできる。(そのようなことが現在LAで起き始めており、彼らはイベントの開催予定日をGoogleドキュメントで共有し、市内のクラウドの取り合いを防いでいる。)あるいは、ビッグネームのゲストDJへの固執から抜け出し、その代わりにレジデントやローカルタレントを重視するのもいいだろう。

    ダブリンのBodytonicの創設者であるTrev O'Sheaは、オリジナリティこそが鍵だと考える。「Factory Records、Optimo、Underground Resistance、Paradise Garageなどが、他とは違うことをして、クリエイティブで、そして自立する為に行ってきたことについて読んだり聞いたりした中で、たくさんのインスピレーションを受けた。僕は、新しい世代のプロモーターたちが、誰がクリエイティブで賢いのかを切磋琢磨していく様子を見たい。ゲストDJだけを中心にパーティーを考えちゃダメだ。リスクを冒し、新しいことに挑戦して、もし最初はダメだったとしても、何度も何度も挑戦してほしい。それだけの価値があることだから。僕を信じて!」
    • 文 /
      Angus Finlayson
    • 掲載日 /
      Fri, 21 Apr 2017
    • 翻訳 /
      Tomoko Naoshima
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      English
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      自主プレス系シンセファンクの愛好家から人気レーベル/メールオーダービジネスのオーナーへ。辺境ソウルミュージックのスペシャリストAndrew Morganを追ってMatt McDermottがワシントンDCのPeoples Potential Unlimitedに潜入。

    • Kiko Navarro: マヨルカの風

      80年代末にアメリカから海を渡った音楽は、マヨルカ島の少年に衝動を与えた。スペインの観光地から独自の立ち位置でハウス・シーンに貢献する彼の道程と情熱を、Nagi Suganoが訊いた。

    • プロデューサーのためのケーブル論

      音楽を制作する上で必須となるケーブル。基本的知識から聴き比べのガイドに加え、Ena、Stereociti、Rashad Beckerの3人がケーブルにどのような見解をもっているのか、Daisuke Itoが訊いた。

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