東急ハンズの執行役員 オムニチャネル推進部長である長谷川秀樹氏は、2008年にアクセンチュアから同社に転じて以来、売り場の社員をエンジニアとして育て、業務システムの内製化を推進したり、小売業向けのシステムを専門に開発するハンズラボを設立するなど、ITによる改革を推進してきた。その過程で、エンジニアの働きやすさや生産性の向上も追求している。
【画像】社内システムを刷新し、東急ハンズの業務効率化を進めてきた長谷川氏がワークスタイル改革に目覚めたきっかけとは
ITmedia エンタープライズとITmedia ビジネスオンラインの共催で行われたセミナー、「勝ち組企業に学ぶ 『“イノベーションの武器”としてのワークスタイル変革』」で、長谷川氏が「従業員と経営の両方にとって都合の良いワークスタイルとは」と題して語った内容を紹介する。
●長時間労働をいとわなかった、若きコンサルタント時代
外資系コンサルティング会社というと、昼夜を問わずに働くタフなイメージがある。新卒でアクセンチュアに入社した長谷川氏も、やはり長時間労働をいとわないタイプだった。
「20代の頃は、先輩が土曜日に出社するのに『お前は出なくていいよ』と言われたら、『不公平だ。俺も出させろ!』と食ってかかるようなタイプでした(笑) 働いた分、先輩だけスキルアップするのはずるいと思ってたんですね」
しかし今は、働く時間の長さと優秀さは比例するものではなく、なるべく短い時間で生産性を上げるのが良いと考えるようになった。同氏が社長を務めるハンズラボでは、ほとんど残業のない労働環境を実現しており、有給休暇の100%消化を強力に推進している。
そんな“ホワイトな”経営者になるに至った背景には、アクセンチュア時代の英国での経験があったという。欧州諸国の労働時間は、統計的にも日本と比べて短いが、同じ会社のプロジェクトでも「国が変わるとここまでやり方が違う」ということを、長谷川氏は身をもって知ったのだ。
●英国赴任で身についた“残業しない”働き方
まず驚いたのは、有給休暇に対する意識の違いだという。会議で進捗の遅れを指摘されたチームリーダーが「私、来週はバケーションでいないんです」と平然と答え、プロジェクトマネジャー(PM)も「それなら仕方ない」と他のメンバーに協力を要請する――そんな場面を見て、「休暇に対する権利意識」が大きく違うと感じたそうだ。
日々の労働時間に対する考え方も、日本のシステム開発の現場とは全く違っていた。プロジェクトに入ったばかりの日本人が「最初だからやる気を見せよう」とちょっと残業をしたら、PMが飛んできて怒ったのだ。「入ったばかりのメンバーに残業するほど仕事があるはずはない。何をやっているんだ!」と問われたのだが、PMがそこまでナーバスになるのには、理由があった。日本でシステム開発の費用を見積もる場合、必要な工数を出し、さらに残業分も見込んで人件費を計算することがほとんどだろう。だが、英国のプロジェクトでは、「残業はない」という前提で見積もりされていたのだ。
「見積もりには、バッファはスケジュールに入れているとしても、残業をする前提での時間チャージは組み込まれていない。そりゃ、PMが飛んできて怒りますよね。残業したら赤字になるわけですから」
最初は「そんなんでプロジェクトは回るんかい!」と驚いた長谷川氏だが、日中に集中して仕事をし、時間になったらスパッとやめてプライベートを楽しむという欧州流の良さが分かるようになり、帰国後も残業をしない働き方が定着したという。
●店舗中心の働き方をIT部門向けにカスタマイズ
東急ハンズに入社後、長谷川氏はIT部門の働き方に関わる改善を幾つか手掛けた。1つは有給休暇の取得推進だ。その背景には、休日が少なく、メーカーに比べると給与水準も低いという小売業の待遇への疑問があったという。
「小売業は休みの日が少ないんです。年間107日。これはひと月に9日間(2月は8日間)だけで、それ以外は祝日も正月も夏休みも休みではない。分かっていたことですが、祝日が休みの会社から来た自分からすると、大きな違和感がありました。さらに、同じ流通業なのにメーカーさんの方が休みが多くて給料も高いと。『これはいかんな』と思って、まずは自分の部署で、“有給の100%消化”を徹底して言ってきました」
言うだけでなく、有給を消化しない者は評価を下げることとした。それでも従わない人には最終手段として、「休めないのは、あなたの同僚や部下がどんくさいからやろ? 彼らの評価も下げとくから」と話す。渋っていた人も、周りの人に迷惑をかけまいと、休むようになったという。
IT部門には、新たにフレックスタイム制も導入した。きっかけは、会社全体で残業時間が厳しく取り締まられるようになったことだった。それ自体は良いことだが、IT部門の場合はシステムの不具合対応など、どうしても定時以外に仕事をしなければならないことがあり、残業を目標時間内に収めるのが難しい。そこで、部署限定でフレックスタイム制を導入したところ、他の一部部署も後を追ったという。
同社のワークスタイルは小売業のビジネスに最適化されたものだったが、部門や業務単位でみると改善の余地があったのだ。
●エンジニアの働きやすさを実現する働き方改革
その後設立したハンズラボでも、残業をしない働き方を続けている。請負契約ではなく、「準委任契約で任せてくれる相手のみと取引する」といったビジネス上の工夫もあるが、働く側のマインドの問題も無視できない。
「残業って、仕事があるからやるという人もいますけど、案外、『会社にいることが好き』だとか、『長時間働くことが会社への貢献だ』と思い込んでいるとか、好きでやっている人も多いんじゃないかと思います。でも、エンジニアの場合は、スキルアップしたいなら会社にいる必要はないんです。夜の勉強会とかもあるので、そういうところに行く方がいいんじゃないでしょうか。われわれ管理職以上の人間は、『残業はしない方がいいよ』と言い続けていくべきだと思います」(長谷川氏)
また、休日を増やすことも、エンジニアの採用という観点から、ぜひとも実現させたかったという。
「前職では休みだった祝日に働かなあかん。そういうところへ、わざわざ転職しますか? ということなんですよね。家族がいて『えー、お父ちゃん、今度から祝日に遊んでくれへんの?』みたいなことになったら、そりゃあかんと」
休日を増やすことで、親会社の東急ハンズより待遇が良いという状態になることには抵抗も大きく、苦労したというが、2017年の4月からは土日祝日が完全に休みとなる120日の休日が実現するそうだ。
その他に、1カ月のうち3日は会社の外で仕事をして良いという「3days Outing」を導入したり、従業員に定期的にアンケートを取り、「隣の部門の電話の声が気になって集中できないからヘッドホンを使用したい」などといった、合理的な提案があれば採用している。
「従業員は、基本的には楽しく働いて給料が多い方がいいと思っているので、アンケートをとっても、正直、しょうもない提案もあります。全部聞いていたら会社が傾きますので、合理的で良い提案があればピックアップする。そこはバランスを考えながら制度改革をどんどんやっています」
既存の常識や感情論にとらわれず、あくまで合理性をテコに改革を進めていくというのが長谷川流。「合理的な武器」としてPCやモバイル機器も良いものを与える、というのも、その考え方の一端だ。
今後の展望として、天候や体調などに応じて柔軟に出退勤できるようにするなど、制度をたゆまずアップデートし、短い時間で生産性を上げることを追求していきたいと語った。
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