乱高下 そのわけは?
「ビットコインが最高値を更新」ーーーことしに入って、ビットコインの値動きについてのニュースを目にすることが多くなりました。目を引くのは、振れ幅の大きさです。ビットコインを扱う日本の大手取引所によると、1月5日には、1ビットコイン=15万円の大台まで値上がりしたかと思えば、その日のうちに、一気に9万円を切るまで急落。私は、円相場の原稿を書くため、ふだんから外国為替市場の動向を見ていますが、ビットコインの値動きの激しさには驚かされるばかりです。
では、なぜ、こんなに価値が変動するのでしょうか。仮想通貨の動向に詳しい関係者によると、ビットコインの取り引きの多くは中国の人民元で行われていて、人民元の“信用”がビットコインの値動きに密接に関係しているといいます。去年秋のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利して以降、ドル高が進む一方で、人民元は値下がりが続きました。このため、手元に人民元を持つ人たちが不安に駆られ、ビットコインに交換する人が一気に増えたことが、年明けの急激なビットコインの値上がりの原因だといいます。そして、中国政府が取引の規制を強化するという情報が流れたとたん、反対にビットコインは一気に売られ、価値が急落したというわけです。
こうした激しい値動きを利用して、投機目的でビットコインを持つ人が、依然として多いのが実情だと思います。
安くてはやい!
一方で、ビットコインを支払いに使える店は、日本でも着実に増えています。
ビットコインの決済サービスを提供している会社、「レジュプレス」によりますと、支払いのできる店は、ことし1月末の時点でおよそ6000店と、1年で6倍に増えたということです。最近では、飲食店だけでなく、歯科医院や不動産会社などでも使える場所が出始めているといいます。
投機目的ではなく、ビットコインを日常的に使うことの魅力は何か。利用者に話を聞こうと、2年前からビットコインを使っているというフリーライターのかさはらよしこさんのもとを訪ねました。かさはらさんは、飲食店の支払いやスマートフォンのゲーム内通貨を購入する際に、ビットコインを使うことが多いといいます。
かさはらさんは、海外に住む友人に、ビットコインで送金する様子を見せてくれました。送ったビットコインは日本円でおよそ4000円。その送金にかかった手数料は92円でした。最近は、利用者の増加に伴ってネットワークが混雑し、手数料が上がったといいますが、それでも金融機関を通じて現金を送れば、手数料は数千円かかるため、圧倒的に安いことは変わりません。さらに、送金にかかる時間は1時間もかからない場合もあり、数日間かかるケースもある現金での送金に比べれば、その差は歴然です。利用者にとっては、送金を安くはやくできることが、仮想通貨の大きな魅力になっているようです。
また、現金に比べて「気楽に」送金ができる利点もあると、かさはらさんは指摘します。銀行口座に現金を振り込むには、口座番号や相手の名前が必要ですが、ビットコインの場合は、数字とアルファベットが羅列された「アドレス」だけ。心理的な抵抗感が少なく、知人に感謝の気持ちを示すのにビットコインを送ることができて、便利だといいます。かさはらさんは「手数料を気にせず、お礼の気持ちを表すことに、お金をあてられるのはすばらしい」と話していました。
動き出す銀行
このまま、仮想通貨による送金や決済が増え続けると困るのは、銀行です。現金の送金や決済で上げてきた収益が、仮想通貨に奪われることになるからです。さらに、アップルやグーグルが、スマートフォンで買い物の支払いができる決済システムを日本でも展開するなど、IT企業が金融サービスに乗り出す動きも加速しています。そこで、銀行の間では、仮想通貨のよい部分を取り入れようという動きが盛んになっています。
仮想通貨に使われている「ブロックチェーン」と呼ばれる技術は、取り引きの記録をインターネット上の複数のコンピューターで共有する仕組みで、データの改ざんが難しいとされています。さらに、記録を一括管理する巨大なサーバーがいらないため、低コストで素早く処理できるメリットもあるとされています。この技術を応用して、仮想通貨ではなく「現金」を、よりはやく安く送金できるサービスの実現を目指して、りそな銀行や横浜銀行、住信SBIネット銀行など国内およそ50の金融機関が共同で研究を進めてきました。その結果、3月2日に、これまでよりはやくて安く送金ができるサービスを、ことしの夏以降、準備が整った銀行から順次、始めると発表しました。
銀行が独自の仮想通貨
さらには、独自の仮想通貨を作ってしまおうという銀行も現れました。国内最大手の三菱東京UFJ銀行は、グループの略称を冠した「MUFGコイン」という仮想通貨の開発を進めています。スマホのアプリに「コイン」を取り込んで、送金や決済で使ってもらう戦略です。
たとえば、面倒な飲み会での割り勘や、自治会の会費の回収なども、スマホで手軽にできるようになり、潜在的な需要は高いと銀行では見ています。さらに、ネット通販や飲食店の支払いに対応していくことも検討しています。この「MUFGコイン」の大きな特徴は、1コイン=1円と交換レートを固定することです。信用力を何よりも大事にする銀行ならではの仮想通貨として、安定性を確保し、利用者が安心して仮想通貨を使えるようにしようという狙いです。4月以降、まず1万人の行員を対象に運用を開始し、来年の春には、行員以外の人たちにも広く利用してもらう計画です。
三菱UFJフィナンシャル・グループの村林聡執行役専務は、「現金をデジタル化しないと現代の決済手段として生き残れない。ビットコインが信用を本当に持ったり、便利なデジタル通貨が出てきたりしたら、取り引きをすべて持っていかれる懸念さえある。一方で、金融機関としての信用をもとに、デジタル通貨を出すチャンスの時でもある」と話しています。
悪質な“もうけ話”に注意を!
仮想通貨の存在感が高まるにつれて、詐欺とも言えそうな悪質なトラブルが急増しています。たとえば、「高い配当があると誘われて仮想通貨を購入したが、現金への換金に応じてもらえない」といった事例も。国民生活センターによりますと、こうした仮想通貨をめぐるトラブルの相談は、今年度は740件余りと、昨年度のおよそ1.7倍に上るということです。利用者の保護を図るため、仮想通貨の取引所を登録制にするなど規制を強化する法律が4月に施行されますが、そもそも、安易なもうけ話には注意が必要です。これから、さらに身近になりそうな仮想通貨。自分にとって、どんなメリットがあるのか十分考えたうえで、利用を検討してほしいと思います。
- 経済部
- 山田裕規 記者