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いのちの電話がつながらない

2万1897人。去年、みずから命を絶った人の数です。年々減少しているものの、いまだに高い水準です。全国に52か所ある「いのちの電話」は、社会福祉法人が運営し、相談員は全員ボランティアです。24時間365日、自殺を考える人たちの悩みに電話を通して向き合い、これまでに1700万件を超える相談を受けてきました。しかし今、深刻な人手不足に陥っています。なぜ、相談員が減ってしまったのか。取材を進めると、社会の変化が見えてきました。(札幌局 小椋崇広カメラマン、おはよう日本 川上雄三ディレクター)。

鳴りやまない いのちの電話

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年間の自殺者が1000人を超える北海道。
札幌にある「北海道いのちの電話」は、24時間、原則3人態勢で相談を受けています。
相談者のプライバシーを守るため、ふだん外部の人間が立ち入ることはありませんが、今回、特別に取材が許可されました。
訪れたのは深夜。6畳ほどの小さな部屋には、電話を受けるブースが3つ並んでいましたが、そこには相談員がひとりいるだけでした。
「北海道いのちの電話」によると、3つある電話すべてで24時間の相談態勢を維持するためには、250人の相談員が必要だということですが、現在60人が不足した状態で運営しているといいます。
そのため、電話を受けることができるのは、かかってくる電話のわずか4%。相談を受けている最中にも、電話が次、また次と鳴り響いていました。

相談員の男性は、「深夜は電話が鳴りやむことはなく、相談の最中も隣で鳴り響いている電話の音を聞くと心が痛む。本当はすべての電話を受けたいが、ひとりだけでは限界がある」とため息をつくように話していました。

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善意で始まった いのちの電話

そもそも「いのちの電話」はどのようにして始まったのでしょうか。

きっかけは昭和46年、ドイツ人宣教師が“誰でも悩みを相談できる窓口をつくろう”と呼びかけたことでした。
当時は高度経済成長のまっただ中。格差が広がる中、社会からこぼれ落ちる人を救うための仕組みが必要だったといいます。

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その呼びかけに、主婦を中心に学校の先生や医師など、さまざまな職業の人たちが集まりました。
設立当初から相談員の募集や育成を担当してきた「東京いのちの電話」の林義子理事(80)は、「本当の意味の隣人と言えるような人の集まりでした。やっぱりみんな何か自分が役に立ちたい、役に立てるかしらと考えながら参加した」と当時を振り返ります。

社会の変化が相談員不足に影響

しかし2001年をピークに、相談員の応募の数が減ってきてます。

林さんは「最近は皆、時間のゆとりがなく、相談員になろうとしても、時間をつくる努力や労力を考えるとなかなか応募できない状況なのでは」と話していました。

去年、内閣府が行ったボランティアに関する意識調査では、過去1年間ボランティア活動に参加したことがない人は80%に上っています。
その理由は、半数以上が「参加する時間がない」、その他に「休暇がとりにくい」、「経費が負担」という答えが多くなっています。

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「いのちの電話」やカウンセリングの研究をしている札幌学院大学臨床心理学科の村澤和多里教授も、「共働きや非正規労働の増加など社会の変化で、経済的にも時間的にも余裕を失っていることが相談員のなり手が減っている原因ではないか」と分析しています。

深刻化する相談

「ずっと死にたいと考えている、もうロープをかけているんだと話す人もいる」

相談内容も年々深刻さを増しています。

北海道いのちの電話に去年1年間に寄せられた相談のうち、自殺をほのめかす相談は2000件を超え過去最多となりました。
「いのちの電話」に頼りたいという人は後を絶たないのです。

いのちの電話に救われた人も

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鳥取県出雲市に暮らす桑原正好さん(66)は、「いのちの電話」に救われた経験があります。今から11年前、息子の大輔さんが、突然、みずから命を絶ちました。
「なぜ息子の変化に気づけなかったのか」
当時、桑原さんは、半年間家にこもり、自分を責め続けました。そんなとき、ふと目にとまったのが、「いのちの電話」の番号でした。そのまま携帯電話をとり、夢中で話し続け、気がつくと1時間が経っていたといいます。
「自分の胸の内を話す、それだけでよかったんです、アドバイスも特別くれたわけではありません、でもそのとき、本当にそれが身にしみて私にはうれしかったんです」と話す桑原さん。自分のように話を聞いてもらいたいと思う人たちのためにも、24時間眠らない「いのちの電話」であってほしいと願っています。

相談員の人員確保の取り組み

「いのちの電話」の相談員は、応募すればすぐになれるというものではありません。まず、1年8か月に及ぶ研修で、心理学の知識やコミュニケーション能力を身につける必要があります。相談員になっても交通費も支給されず、具体的な相談内容を家族にも話すことが出来ない守秘義務があります。負担は決して小さいとは言えず、相談員を集めるのは容易ではありません。

そこで北海道いのちの電話では、まず、在籍している相談員を守っていきたいと、心のケアにも力を入れています。深刻な悩みに耳を傾き続ける相談員には、心の負担がのしかかります。そうした負担を減らそうと、相談員を対象としたカウンセリングを実施しているのです。
「心の荷下ろし」と称して月4回、カウンセラーを呼び、相談員が悩みを打ち明けることができるようにしています。
北海道いのちの電話の南槇子理事長は「自殺を試みている状況の中で切迫した相談をしてくるケースもあり、そんなとき、相談員は“自分の対応はよかったのか”とどうしても引きずってしまう。さらなる人手不足をまねかないためにも相談員のカウンセリングが重要だ」と話していました。

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さらに、北海道いのちの電話では、新たな相談員を確保するための取り組みも始めました。ボランティアの申し込みを待つだけだったこれまでの方針を変え、今年度から積極的に相談員の募集をしています。市民を対象にした自殺予防の研修会を札幌市とともに始め、その場で参加者に直接募集を呼びかけました。
しかし、研修会の参加者から相談員に応募する人は今のところ現れていません。

自殺は深夜帯が最も多いと言われています。北海道いのちの電話ではなんとしても24時間態勢だけは維持し、1人でも多くの命を救えるよう相談者の声に耳を傾け続けたいとしています。

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社会全体で支える いのちの電話

今回取材をして感じたのは「いのちの電話」のような取り組みを維持していくためには、社会全体で支えていくという考え方が必要だということです。ヨーロッパにも「いのちの電話」がありますが、たとえばデンマークでは、臨床心理士の資格をとる際、一定期間、「いのちの電話」相談員になることが義務づけられている地域があり、若い人が相談員になるきっかけになっています。また、イギリスでは企業が多額の寄付金で強力な支援をするなど、「いのちの電話」は社会に浸透しています。日本も、国や地方自治体、民間が一緒になって、支援の在り方を考える時期にきているのではないかと思います。

小椋崇広
札幌局
小椋崇広 カメラマン
川上雄三
おはよう日本
川上雄三 ディレクター