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民進党結党1年 党勢回復切り札は?

3月27日で結党から1年を迎えた民進党。野党第1党の立場にありながら、NHKの世論調査では、民進党の支持率が10%を超えたのは、参議院選挙があった去年7月の一度だけ。40%前後で推移する自民党に大きく水をあけられてきました。いまだ政権交代への道筋が見通せない中、『原発ゼロ』の方針を打ち出した蓮舫代表の狙いは?また、地方から党を見つめる元議員の思いを取材しました。(政治部・花岡伸行記者、相澤祐子記者)。

なぜ『原発ゼロ』が切り札に

結党1年を目前にした3月12日。民進党として、初めてとなる定期党大会が開かれました。
大会の目玉は、『原発ゼロ基本法案』。低迷する党勢の回復に向けた切り札として、蓮舫代表肝いりで検討が進められてきた政策です。

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私たちが、蓮舫代表が『原発ゼロ』のスタンスを明確にしたと感じたのは、去年10月に行われた新潟県知事選挙でした。この選挙では、原発の再稼働に慎重な姿勢を示していた米山隆一氏を、共産、自由、社民の野党3党が推薦した一方、民進党は電力会社の労働組合を抱える最大の支持団体の連合にも配慮して、推薦を見送りました。
しかし、選挙戦終盤、蓮舫代表は、みずからの政治の師でもある野田幹事長の反対をも押し切って、米山氏の応援に入りました。これに対して、連合は強く反発し、党内でも賛否両論を巻き起こしましたが、下馬評を覆して米山氏が勝利しました。
選挙後、蓮舫代表は、記者団に「原子力をエネルギー政策の中心に据えていいのかということに、大きな疑念があることが、民意で明らかになった」と述べています。

蓮舫代表に近いある議員は、「民進党が訴えていた『同一労働・同一賃金』や、『給付型奨学金の創設』などの政策は、政府・与党に抱きつかれてしまったが、『原発ゼロ』は、自民党が逆立ちしても抱きつけない対立軸になり得る。代表はそのことに気づいたのではないか」と分析していました。

割れる党内分裂の懸念も

自民党との明確な対立軸として『原発ゼロ』に着目した蓮舫代表。3月12日の党大会で、新たな党のエネルギー政策を打ち出すことを明言しました。党執行部では、当初、「2030年代に原発稼働ゼロを目指す」としていた党の方針を改め、原発の稼働をゼロにする目標の時期を「2030年」に事実上、前倒しして法案化することや、原則として、原発を再稼働させないことを検討していました。

しかし、この野心的な目標に、連合の一部からは、強い反発が出ます。執行部内でも、「連合に臆することなく、『原発ゼロ』路線を、党大会で強く打ち出すべきだ」と主張する幹部と、「連合への配慮も必要だ」とする幹部の間で、次第に溝が生まれるようになります。

さらに党内では、電力会社や原発関連企業の労働組合の支援を受ける議員などを中心に、『原発ゼロ』に慎重な議員と、積極的に進めるべきだとする脱原発派の議員が鋭く対立し、「強引に進めれば党が割れる」という懸念も出されるようになりました。

譲れない一線『原発ゼロ基本法案』

こうした中、落としどころを探る動きが出てきます。連合側の反発が強い、「原則、再稼働させず」と「2030年」への目標前倒しには、党大会では、踏み込まない一方、蓮舫代表の強い意向を踏まえて、『原発ゼロ基本法案』を打ち出すことで、調整が図られました。ある党幹部は、「『原発ゼロ』を法案化するということは、党として後戻り出来ないという非常に重い意味合いを持つ。それが打ち出せれば大きな前進だ」と語っていました。
ただ、法案の名称をめぐっては、「原発ゼロを目指す法案」などとする案もありましたが、「目指す」が入っては本気度が伝わらないなどと蓮舫代表が拒絶し、『原発ゼロ基本法案』に落ち着くという一幕もありました。

そして迎えた3月12日の党大会。蓮舫代表は「原発依存からの脱却が前倒しで実現可能になるよう、『原発ゼロ基本法案』を作成していく。原発依存に逆戻りの現政権とは違う未来を描いていこうではないか」と訴えました。蓮舫代表は、党内の慎重派や連合にも配慮しながらも、譲れない一線は守り、『原発ゼロ』にかける強い意志を打ち出すことにこぎ着けました。

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”切り札”にするには

果たして、蓮舫代表の狙い通り『原発ゼロ』は低迷する党勢回復の切り札になるのでしょうか。それは、『原発ゼロ基本法案』の中身しだいではないでしょうか。『原発ゼロ』に向けて避けては通れない再稼働の在り方に、どこまで踏み込むのか、建設途中の原発や、放射性廃棄物の最終処分に、どう対応していくのか、そして、何より法案が実現可能性があるものなのかを見る必要があります。さらに、党内では、依然として原発政策について意見は割れていて、党内対立の火種はくすぶっています。こうした党内の意見が割れる重要政策で、どのように意見集約を進めるのか。民主党政権の時にも、消費税率の引き上げをめぐって党が分裂し、国民の信頼を失っていった苦い経験があるだけに、民進党にとっては、最大の課題だとも言えます。衆議院選挙までの大きな宿題となった『原発ゼロ基本法案』のとりまとめを、どのように進めるのか。法案の内容とともに、意見集約の在り方そのものも、民進党が本当に政権の選択肢となり得るのかどうか、国民が判断する際の重要な要素となると思います。

捲土重来を期す元議員は…

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党勢回復に、もがき苦しむ党の状況を、捲土重来(けんどじゅうらい)を期す元衆議院議員は、どう見ているのでしょうか?
19ある小選挙区で民進党が1議席しか確保できていない大阪府で返り咲きを目指す、森山浩行さん。大阪府議などを経て、2009年の衆議院選挙で民主党から立候補して初当選し、民主党政権時代の1期3年間、衆議院議員を務めました。
森山さんは、2大政党制を実現するためにも、民進党が役割を果たす役割は大きいと考えています。

「2つの政党が、きちんと両方とも政権取れますよという状態を作り、政治のインフラを整備することが必要だと思っています。2012年、それぞれが自分の主張を先鋭化することで民主党がバラバラになり、負けました。民主党から民進党になる時に、一度離れた人たちも、新しい人たちも含めて、また一緒にやろうとなった。民進党という形で、ウイングを広げつつあることに関しては評価できると思います。議院内閣制は、政権交代がなければ機能しない。森友学園の件もそうですが、いろいろな不祥事が起こるのも、政権交代しないだろうと思われているから。もうひとつの選択肢を、ちゃんとわれわれが作り上げるので、ぜひ中身を見てほしい」。

また、森山さんは、蓮舫代表をもり立てる党の結束が必要だと指摘しました。

「2010年の参議院選挙で負けてから、ずっと低空飛行、墜落寸前で、『そんな党あったっけ?』というところまできていたので、蓮舫代表が、文句も含めて、注目をされているのはプラスだと思う。あとは、『だから総理大臣になってほしいよね』という雰囲気を、どうやってみんなで作っていくかだ」。

新たな道を歩み始めた元議員は…

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一方、民主党の衆議院議員から新たな道に進んだ人は、今の民進党をどう見ているのでしょうか?
徳島県議会議員を務める高井美穂さん。2003年の衆議院選挙で民主党から立候補し初当選。それから3期連続して当選し、民主党政権時は、文部科学副大臣などを務めました。
高井さんは、2012年の衆議院選挙で落選したあと、県政へ転身しました。

「色々な人にこれまでお世話になりましたが、今までの経験というのは、現職にならなければ生かしようがない。そうした中で、身近な人たちから、県議会議員選挙に立候補してほしいという要請があり、考えた末、それはひとつの道だろうと思いました」。

そして、今の蓮舫民進党について、支持率に一喜一憂せず、今の路線を貫くべきだとエールを送りました。

「ぶれずに、地味に、頑張ってほしい。支持率回復に躍起にならずに、すべての人を包摂し、中道左派的な、教育や福祉などに重きを置く社会を目指すという基本理念を貫き通してほしい。マスコミ受けすること狙って、浮ついてしまってはいけないと思う」。

政治決戦の年

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ことしを政治決戦の年と位置づける民進党。7月に控える東京都議会議員選挙に加え、年内の衆議院の解散・総選挙も視野に党の立て直しを進めたい考えです。
しかし、東京都議会議員選挙に擁立を決めた公認候補者の中からは、離党届の提出が相次いでいます。なかなか党勢が上向かず、党の求心力も弱まるという負のスパイラルに陥いりつつあるという懸念も党内からで始めています。
これから抜け出すためにも、まずは、国会審議で存在感を示すことが不可欠です。
民進党は、大阪・豊中市の国有地が、学校法人「森友学園」に鑑定価格より低く売却されたことや、南スーダンのPKO部隊の日報を陸上自衛隊が保管していた問題、それに、文部科学省の天下り問題などは、安倍政権の緩みや驕(おご)りの現れだとして追及を強め、政権を揺さぶりたい考えです。
また、後半国会の焦点となる、「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案についても、成立阻止に向けて徹底抗戦し、政府・与党との対決姿勢を鮮明にする方針です。

党が結束して、巨大与党に立ち向かうことが出来るのか。また、国民の共感を得て、党に対する信頼を取り戻すことが出来るのか。再び、政権を目指す政党によみがえらせるためにも、蓮舫代表には、着実に、そして目に見える形で結果を出していくことが求められていると思います。

花岡伸行
政治部
花岡伸行 記者
相澤祐子
政治部
相澤祐子 記者