「あの辺りは古い住宅が密集していたんですが、再開発によってこんなに街がきれいになったんですよ」 平成26年4月18日、全面開業から約1カ月が過ぎた大阪市阿倍野区の商業ビル「あべのハルカス」。地上300メートルと日本一の高さを誇るこのビルの展望台で、当時市長だった橋下徹は西の眼下に広がる阿倍野再開発地区を指さしながら首相の安倍晋三に胸を張った。
◆倒産レベル
それから1年10カ月後の28年2月。就任後初の予算編成に取り組んだ大阪市長、吉村洋文は居並ぶ市の幹部らに「民間なら倒産してるレベルですよ。どうしてこれだけの赤字になったのか」と問い詰めた。
橋下をほうふつさせる強い言葉で吉村が問題視したのは、約2千億円の赤字が見込まれる「阿倍野再開発事業」だ。
市の一般会計当初予算は約1・7兆円。うち6割を人件費、生活保護などの扶助費、市債の償還といった「固定費」が占めるため、市長の裁量予算は年間わずか千数百億円にすぎない。
保育所定員の拡充による待機児童の解消、幼児教育の完全無償化…。吉村が思い描く理想の市政実現を阻むかのように、阿倍野再開発事業による赤字の穴埋めのため、年間約120億円が消えていく。吉村は「この負の遺産が今の住民サービスの足かせになっている」と悔しがる。
◆長引く完了
阿倍野再開発とは、大阪を代表する南のターミナル駅・JR天王寺駅に隣接しながら老朽家屋が密集していた28ヘクタールの土地を市が一括して買収し、高層ビルや商業施設を整備した事業だ。
昭和51年に都市計画を決定し、15年後に事業を終える予定だったが、地権者が3千人を超えたため用地買収が難航。合意を得られた地区から順次開発を始めたものの、最終的に全地域の事業計画が決まったのは着手から21年後にずれ込んだ。
この結果、市は地価がピークだったバブル期に集中して用地買収を進めることに。バブル崩壊でビルの分譲が進まず、資産価値も低下する悪循環に陥った。事業は当初の予定から27年遅れ、来年度に完了する。
用地買収や集合住宅建設などに要した事業費からビルや住宅の売却収入を差し引くと、最終的な損失額は1961億円になる見通しだ。その穴埋めのため、15年後の平成44年度まで計1082億円を市の一般会計から支出しなければならない。
◆一定の成果
無論、橋下が安倍に誇らしげに語ったように、この事業による効果も少なくない。
住宅は約900戸から約3100戸に増加。地価の上昇に加え、固定資産税収入も4倍に伸びた。また、再開発が呼び水となり、地区周辺でも26年にあべのハルカスが、27年には芝生公園「てんしば」(天王寺区)が相次いでオープン。相乗効果でにぎわいが増すなど、都市機能や防災力の強化、街の再生という観点では一定の成果を挙げたが、その代償はあまりにも大きかった。(敬称略)
◇
大阪市の阿倍野再開発事業が29年度に完了する。42年で4800億円以上がつぎこまれ、約2千億円もの損失が見込まれる事業の是非を検証する。
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