暴力的なエヴァンゲリオン」みたいな『トリプルX:再起動』

ネットの片隅で楽しみにしていただいた江波光則さんの映画感想文、復活します!
最初に取り上げるのは『トリプルX:再起動』、SFで攻めてみました。
3月下旬新刊『屈折する星屑』(ハヤカワ文庫)も絶賛発売中。こちらはデヴィッド・ボウイオマージュです。


■感想文も再起動します(新刊発売しました!)

『トリプルX』が再起動しました。

その話題、遅くない? というのは勘弁してください。こちらにも色々事情はあるんです。とにかく『トリプルX:再起動』です。ギリギリまだ劇場公開しているのではないかと思われます。見たほうがいいですよ。脳の性能が試される作品です。 何て言うんでしょう、「暴力的なエヴァンゲリオン」みたいな。それは作中の暴力描写じゃなくて情報の暴力という意味なんですが。何言っているのか相変わらず分かりませんね。そういう感じの映画です。


■ 何て言うんでしょう、「暴力的なエヴァンゲリオン」みたいな。

 よく「考えないで見るバカ映画」みたいな言い方される映画、出てくるじゃないですか。あれとか、ほらこれとか。それとか。ユー、ユー、ユー、アーンド・ユー(指を鳴らす)ぐらいパパッと思い浮かぶと思いますけど。ちなみに今のはマッドマックスなんですけどね。あ、そういえば前回のレビュー書いたら褒美にブルーレイを賜りました。まことにありがとうございます。

 それはともかくとして、「考えないで見るバカ映画」とか言われるとカチンときちゃう人もいると思うんですよ。僕だって昔は何だこの野郎ってなってましたからね。もうそこで怒っちゃダメ、それは評価じゃなくてアドバイスなんです、これから見ようとする人への。エヴァンゲリオン見た事ない人がこれから見ますって言ったら心の底から善意で「全部真に受けて考えたらダメだよ」って言うでしょう、普通。人として。そういう意味の「考えないで見るバカ映画」なんです。

 考えてもいいですよ、そりゃ。脳のクロック数によっぽど自信があると仰るのでしたら存分に。でももう情報量の氾濫が酷すぎて一回見ただけじゃ処理しきれないと思う。そんなちんまりした事に躍起になってないで素直に絵面だけ楽しんだらいいと思います。筋肉・爆発・セクシー・爆発・筋肉・カンフー・エクストリームですよ。

人類の叡智がいかに浅く愚かなものかを知らしめるために天上より遣わされた作品、それがトリプルX:再起動。見るとインテリが死ぬ。

『トリプルX:再起動』なんか冒頭から訳わかんないですからね。サッカー選手をスパイにスカウトしてたら(相手はアベンジャーズのスカウトだと勘違いしていた)人工衛星が落ちてきて街がめちゃくちゃになるんですよ。その間も絶え間なく大量の情報が文字列で注ぎ込まれて「?」ってなる事、請け合い。

 アベンジャーズってあのアベンジャーズでいいのかな、違うのもいるのかな……あっ、お前は知ってる、お前はサミュエル・L・ジャクソン、えっ、シールドの長官お前だっけ……フリーマンとかワシントンとかじゃなくてお前でいいんだっけ……(正解:そうです)って考えているいよに人工衛星は落下して街はむちゃくちゃになり(これ言うの二度目)、ぽかんとしているうちに偉い人が集まるいかにも偉い会議になり、おっようやく世界の成り立ちを説明してくれるのかな? と思ってたら天窓突き破って現れるドニー・イェン。大暴れして好き放題殴る蹴る飛ぶ走るしてものすごくゴツい黒い何か(パンドラの箱とか言ってた)を奪って仲間たちと共に消えていく。

 ここでやっと呼吸が可能になります。これ初見で全部理解しながら楽しめるのロボ人間じゃないと無理ですよ。無理。人類の叡智がいかに浅く愚かな物かを知らしめるために天上より遣わされた作品、それがトリプルX:再起動。見るとインテリが死ぬ。

■そうこうしているうちに人工衛星が落ちてきて街がめちゃくちゃになった(三回目)

 そこでやっと主役のヴィン・ディーゼルが登場、ここからかよ本番は、一回終わってない? というか二回終わってない? 大丈夫なの? と見ているほうがハラハラしてきます。冒頭で一回終わる映画は最高、という評価基準が僕の中にあるんですけど、まあなんちゅうか、二回も終わらせるとは思ってませんでした。

 ヴィン・ディーゼルがまた「ザ・パワー特化型」の権化みたいになってて、一応エクストリームな動きはするんですけど、そんなもんどうでもいいぐらい「力」って感じに演出されてました。ドニー・イェンとかトニー・ジャーとかに動きで勝てる訳がないと割り切ったのか完全に万力ゆっくり締める系の動きに特化している。途中でバイクでチェイスするんですけど、密林走ってたなーと思ったら空を飛んでいて、空を飛んだなーと思ったらサーフィンしてた。全部バイクで。何を言っているのか自分でも分かりませんが、そうこうしているうちに人工衛星が落ちてきて街がめちゃくちゃになった(三回目)。

■何が起きているのかわからない。人類では理解できない。

 パンドラの箱というのは別に上位互換があって俺たちはそんなつまらない物を奪い合っていたんだ、仲良くするべえよ、という流れになり、仲の悪そうな最強チームが結成され、三百万個ぐらいある人工衛星を任意に落とせる悪の組織に立ち向かうのが最後の三十分とかそのぐらいです。

 それまでずっと何が起きているのかわからない。人類では理解できない。四次元生命体とかアンドロメダ人間とかじゃない限り絶対にわからない。とにかくすごい事をしているとしか言いようがない。  誰? 誰が敵なの? どれだっけ? って混乱する。新キャラ出るたんびに情報量がやたら多い紹介カードみたいのを表示するだけに始末が悪い。読んじゃうもんだって。あんなの表示されたら。気になっちゃうもん。

 とりあえず最後の敵はこうなってしまうと誰だっていいって感じになってました。そのぐらいスピード感がある。速度がすごい。さも伏線はちゃんと引いてあるみたいなツラで堂々と何かが現れて無根拠な確信と共に展開を思いっきり左右するとか本当になんなの。試されてる感じがする。このぐらいむちゃくちゃやれて一人前なんだ! と説教されているような。

■「映画鑑賞」という趣味は「スポーツ」のカテゴリなんじゃ疑惑

 とにかくもうこっちの負けでいいから、誰でもいいから早く倒して終わりにしてくれないとこっちが死ぬ! 見ているほうが死ぬ、考えようとしちゃうから! 助けて! ってなったので、やっぱり「考えないで見るバカ映画」ってアドバイスだと思うんですよ。人類の脳はまだそこまで進化していないと思うので。

 そういう忙しいの苦手だな~って人にはあんまりお勧めしませんが(寿命が縮むから)、とにかく楽しい時間を過ごしたい方にはお勧めです。まーなんせ、あんだけ作中で人が死んでるのに死んでる感じが全然しない。あとからノコノコ生きて出てきても全然不思議に思わない。あれっ見落としただけで説明されてたかな……って自分を疑うぐらい、この映画、やることなすことに一切のためらいがない。

 すごい速度と根拠の見えない確信が満ちている。まさにエクストリーム映画作品。「映画鑑賞」という趣味を「スポーツ」のカテゴリにぶち込んでくる、とても良いものですので、間に合えば是非、劇場でご覧ください。


新刊『屈折する星屑』好評発売中!

太陽系のどこかに浮かぶ廃棄予定の円柱型コロニーには、いまだ一定数の住人が暮らしていた。ヘイウッドとキャットもここで生まれ育ち、唯一の愉しみ—ホバーバイクで人工太陽に衝突寸前まで接近する度胸試し—を繰り返している。将来の展望も生産性もないまま、流されて生きる鬱屈した毎日。だが火星から戦争を嫌って亡命してきた元軍人ジャクリーンとの出会いから、ヘイウッドはどう生きていくのかを模索し始める。


SFマガジン

この連載について

初回を読む
江波光則映画レビュー

江波光則

6月下旬に終末SF『我もまたアルカディアにあり』を刊行した江波光則氏。 もともと映画がお好きな江波氏に、「終末」つながりで「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を見た感想をまとめていただきました。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

PONKOTSUforever 不遜な言い方かもしれないけど、シンプルにバカ面白ければ細々考える脳の機能は勝手にシャットアウトされる筈なんだよな 約5時間前 replyretweetfavorite