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「1者応札」苦渋の容認 競争性に疑問も

岩手県発注工事の一覧表。1者応札で落札された復興工事は落札率の高さが目立つ=2017年3月8日、佐藤慶撮影(画像を一部加工しています)

 8割台だった岩手県発注の建設工事の平均落札率(予定価格に対する落札額の割合)が東日本大震災後、9割台に上昇している。同県は従来、入札に1事業者しか参加しない「1者応札」を認めていなかったが、震災後に入札不調が続出したため1者応札を認めるようになったことが一因とみられる。復興工事を急がなければならないという事情はあるが、専門家からは競争性を疑問視する声が上がる。【佐藤慶】

     岩手県は競争性確保のため2008年1月、1者応札の場合は入札を取りやめ、条件を見直して改めて実施する制度を導入した。だが震災後、人材不足や資材高騰などを背景に1者応札が急増。10年度に3%だった入札不調が、11年度には9%に跳ね上がり、「復興を進めたくても進められない状況」(県の担当者)に陥った。このため11年11月から1者応札を認めた。

     その結果、1者応札の割合は11年度に12%、12年度は21.8%と拡大し、ピークの14年度は29%となった。1者応札の平均落札率は全体の平均落札率よりも4~7ポイント高く、13~15年度は97%を超えた。県発注の建設工事の落札率は、1者応札を認めていなかった10年度は平均82.9%だったが、12年度は92.4%に上昇した。落札率の上昇と1者応札の増加は、高い相関関係がある。

     予定価格とほぼ同額の落札も目立つ。県は「電子入札は何社が入札に参加したか分からない。予定価格と同額で工事をとれれば良いと思った業者が落札した場合が考えられる」との立場だが、「応札者が自分だけだとある程度分かっていたかも」と懸念する県関係者もいる。

     五十嵐敬喜・法政大名誉教授(公共事業論)は「1者応札の落札率が90%台後半というのはかなり高い。いまだに仮設住宅に住む被災者がいる住宅関係の工事は別としても、港湾や道路などで1者応札を認めるほどの緊急性、緊迫性があるのか。入札のやり直しは2、3カ月あればできる。そのくらいは受け入れ、競争性を確保しなければならない」と指摘する。

    工事増え、履行優先

     岩手県議「3・11の前と後で、1者応札をどう捉えるのか」

     県総務部長「競争性や経済合理性からはいかがなものかという面もあるが、入札不調になって復旧・復興工事が遅れてしまうということに比べれば、まがりなりにも予定価格の範囲内で収まり、工事が履行される方が良いのではないか」

     岩手県が1者応札を認めて間もない2012年10月の県議会。1者応札の是非を問う県議に対し、県総務部長は「不十分ではあるが最低条件は満たしている」を意味する「まがりなりにも」という言葉を使って答弁した。苦渋の決断だったことがうかがえる。

     1者応札を認めざるを得なくなった背景には被災地特有の事情がある。復興工事が増えて技術者や作業員が不足し、資材や労務単価も急騰。業者の積算価格と県の予定価格がかけ離れ、入札不調や1者応札が急増した。入札やり直しに数カ月を要することも多く、復興の遅れを避けるために制度変更は必要とされた。

     10年に全国知事会がまとめた調査報告書によると、原則として1者応札を無効としている都道府県は2割だけだった。宮城県と福島県も以前から1者応札を認めている。「現在の主流に合わせた」と話す岩手県関係者もおり、同県にとって入札制度改革の「後退」に踏み切る心理的なハードルは低かった。

     1者応札容認や、労働者の交通費といった間接的な費用を2~5割増しで見積もれる「復興係数」の被災3県への適用などにより、13、14年度に21%だった入札不調は、15年度は9%に減少した。ただ、入札が適正だったか検証することは困難だ。県議会に議案として提出されるのは契約金額が5億円超に限られる。

     ある県議はこう語った。「復興工事の検証は、復興自体への批判と受けとられかねない。工事が数多く進められている中、一つ一つをチェックするのも難しい」

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