グーグルで「オバマがクーデター」拡散
インターネットの検索結果は間違うことがある。残念だが事実だ。
ネット時代の検索エンジンの影響力は大きい。時には、そうした「フェイク(偽)ニュース」が、まるで真実の情報のように、拡散されてしまうこともある。
先週、米国のSNSで「オバマ米前大統領が共産主義クーデターを計画していた」という情報がグーグルの検索結果で目立つかたちで表示された、と話題になった。
もちろん、根拠のないフェイクニュースだ。
これが、普通の検索結果の一つとして表示されただけだったら、利用者は、検索結果に表示された見出しとリンク先記事の一部の抜粋(スニペット)を見て、「(数多くある検索結果の)情報の一つで、正しいとは限らない」と、適切に判断できるものだったのかもしれない。
問題が大きくなったのは、この偽情報が、他の検索結果よりも目立つ特殊なスタイルで表示されていたからだ。
この仕組みは「強調スニペット」と呼ばれる。質問形式で検索された場合に、検索エンジンが特定の情報ソースを「答え」として選び、枠で囲んだり、写真を付けたりして目立つように表示するスタイルだ。
今回の件では、グーグルの検索窓で「オバマはクーデターを計画しているのか」と打ち込んで検索すると、検索結果の上部に、「『ジャーナリズムのためのウェスタンセンター』の独占ビデオで明らかにされた情報によると、オバマは、中国共産党と親密な関係にある可能性があるだけでなく、(大統領)任期の終わりの2016年に共産主義クーデターを計画していた可能性がある」という文章が、リンク先記事の一部を引用するかたちで表示された。
この記事は「Secrets of the Fed(シークレット・オブ・ザ・フェッド、米連邦準備制度の秘密)」というサイトに掲載されたもので、同サイトの運営者の直接取材ではなく、「ジャーナリズムのためのウェスタンセンター」という団体がユーチューブで公表したビデオの内容を紹介しているものだ。
確かに、検索をした人が、強調スニペット内の見出しをクリックすれば、シークレット・オブ・ザ・フェッドのサイトで元記事を読むことができる。そうすれば同サイトに掲載されている記事の傾向から情報の信ぴょう性を推測することもできるだろう。
だが、すべての人がそれをするとは限らない。なかには強調スニペットの文章だけで満足する人もいるだろう。その短い文章からは、「シークレット・オブ・ザ・フェッド」や「ジャーナリズムのためのウェスタンセンター」の情報の信用度や、これらのサイトや団体にどのような政治的背景や志向があるかをうかがい知ることはできない。
この問題をさらに広げたのが、グーグルが開発・販売している音声認識機能付きの高機能スピーカーの「グーグル・ホーム」。利用者がこのスピーカーに質問すると、それに対する「答え」として選ばれる「強調スニペット」の内容を読み上げてくれるものだ。
つまり、今回、グーグル・ホームに「OK、グーグル。オバマはクーデターを計画しているのかい?」と聞くと、さきほどの「クーデターを計画している」という「答え」が音声で流れ出す、という事態が生じたわけだ。加えて、読み上げるのは、ほぼ強調スニペット部分だけ。文字と同じように、リンク先に飛んで全文を調べる人ばかりとは限らない。(https://twitter.com/ruskin147/status/838445095410106368)
人は何かを知りたくて検索する。さまざまな検索結果を同列に並べるのではなく、「これが適切な答えです」と強調してくれるのは、効率的で便利だ。グーグルの狙いも、利用者の利便性向上にあるのだろう。だが、短く、シンプルな「答え」からは、そのソースであるサイトの信頼性など重要な情報が抜け落ちてしまう。
こうもフェイクニュースが横行し、誤った情報を、検索結果を決める規則であるアルゴリズムで技術的にすべて排除することが極めて難しい中では、こうした問題は、今後も起こりうる。
この問題を最初に報じた米サイト(Search Engine Land)は、この「オバマ大統領によるクーデター計画」のほか、米歴代大統領と白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」の関係を聞く質問に対し、何ら決定的証拠がないにもかかわらず、4人の大統領がリストアップされた例を挙げている。
ネット上の情報には、必ずしも真偽がはっきりとしないものも多い。しかし、オバマ大統領の件は、あまりにも間違いが明らかな情報だったためだろう。米グーグルは以下のようなはっきりとした謝罪のコメントを出した。
「(強調スニペットでは)不幸なことに、不適切だったり、誤解を招いたりするようなコンテンツを強調してしまう事例があります。我々は、強調スニペットが、我々の(サービス運営)ポリシーに違反していると指摘されたときは、すぐに削除しており、今回も、そのように対応しました。この件でご迷惑をおかけしたことを謝罪いたします」【尾村洋介/デジタル報道センター】