1. 朝日新聞社で記者の申請した出退勤時間を上司が改ざんし、一定の基準内に収めていた問題で、その人数が記者10人、計26ヶ月におよぶことが、BuzzFeed Newsが入手した社内文書と同社への取材でわかった。
労務管理を担う所属長によって、記者の提出した出退勤時間が改ざんされていたこの問題。1人の記者が改ざんに気づき、2016年5月、労働組合に通報した。これについては、16年11月にBuzzFeed Newsが報じている。
同社はその後、ヒアリングやログ解析を実施。今回、改ざんの実態が新たに判明した。
2. BuzzFeed Newsが入手したのは、朝日新聞社の労働組合が3月3日、メールで配信した文書だ。
それによると、改ざんが見つかったのは2015年6月から16年5月までの10人分、延べ26ヶ月分だ。関係者によると、大阪本社経済部だという。
「みなし労働制」を採用している記者職では、出退勤時間から1日あたり8時間を引いた「措置基準時間」が健康確保や労働実態把握の目安となっている。
同社によると、月100時間を超えると産業医の面談が受けられるようになり、180時間もしくは3ヶ月連続で120時間を超えると、面談が義務付けられる。
改ざんには、措置基準時間を一定以内に収める目的があったとみられる。
ただし、今回の問題は、残業代の未払いとは無関係だ。「みなし労働制」では残業代が固定で決まっているためだ。
3. 1ヶ月で計56時間30分、短く改ざんされていた社員もいた。最初に改ざんに気づいた社員のもので、今回発覚したケースの中では一番大きい。
改ざんされた延べ26ヶ月分の内訳は、以下の通りだった。
- 50時間以上:1ヶ月分
- 40時間以上:2ヶ月分
- 30時間以上:3ヶ月分
- 20時間以上:2ヶ月分
- 10時間以上:4ヶ月分
- 9時間以下:14ヶ月分
この改ざんにより、産業医面談を受ける機会を失った記者もいたという。
なぜ、こんなことをしたのか。文書によると、所属長は社内調査にこう答えている。
「当初は部員に声をかけて書き換えていたが、その後、自分が考えるあるべき働き方に基づいて無断で書き換えるようになった。100時間、120時間までに収めることは意識した」
そのうえで、「産業医面談を避けたり、管理職としての評価をよくしようとする意図ではない」と説明しているという。
4. BuzzFeed Newsの取材に、同社は「勤務記録を勝手に書き換えるやり方は論外です。時短についての認識が根本的に誤っていたと言わざるをえず、会社として容認できるものではありません」と回答した。
所属長は問題発覚時と今回の2度に渡って処分を受けているが、同社はその内容を明らかにしていない。改ざんされた社員には今後、個別に説明をするという。
また、2016年11月の社内調査では、同様の事案は他に見つからなかったという。同社では、再発防止策として、一度提出した出退勤時間を勝手に書き換えられないようにする、などの方法を検討している。
5. 長時間労働の問題は、朝日新聞社に限ったものではない。メディア業界に蔓延しているものだ。
厚生労働省が2015年、企業約1万社に実施したアンケート結果によると、残業が1年で最多の月に「過労死ライン」の80時間を超えていた企業の割合は、テレビ局、新聞、出版業を含む「情報通信業」が44.4% (平均22.7%)と一番高い。
全国紙の新聞記者として働いてきた20代女性は、BuzzFeed Newsにこう語っている。
「午前0時から飲み会をすることとかもあるし、時間の感覚が社会からズレてる感じがするんですよね。プライベートも仕事も境目がなかったし、それが良しとされている。仕事熱心=働いている時間という感覚なんですよ」
正確な残業時間はわからない。家から出て家に帰るまでの時間を計算してみれば、毎月100時間を超えるのは当たり前だという。
「ニュースを追う仕事をする限り、誰かがどこかにいないといけないなのはわかっています。でも、潤沢に人がいたり、若い記者がたくさんいたりした時代と今は違う。もう新聞社の働き方のシステムは回っていないと思います」
6. 朝日新聞社は記者職ではない社員に違法な労働をさせたとして、2016年12月、中央労働基準監督署(東京)から長時間労働での初の是正勧告を受けている。
「仕事のやり方の見直し」を最重要課題としている同社。
各部署からボトムアップでアイデアを募集するなど、全社的に労働時間削減や働き方改革を進めていくという。