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若き天才プログラマー・矢倉大夢はいかにして誕生したのか

特集「子供とデジタル」第7回

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Feb 28, 2017 by editors room Reporter

3 Lines Summary

  • ・子どもは子どもらしく育つべきである
  • ・親や学校から自由な環境を与えられた
  • ・外に向いて活動していくことの大切さ

一体、矢倉くんはどんな少年だったのか?

弱冠16歳にして、朝日新聞社とテレビ朝日が主催する、高校生を対象にした科学技術の自由コンテスト「高校生科学技術チャレンジ(JSEC)」で文部科学大臣賞と富士通賞というダブル受賞を果たし、ITの本場アメリカで開催される国際大会「Intel ISEF」でも、並みいる外国勢ライバルを押さえて、賞を獲得した若き天才プログラマー・矢倉大夢くん。

10代の頃から数々の情報系コンテストを総なめにし、大臣賞を5つも保持しているというから驚く。20歳となった現在は、筑波大学に通いながら、自身が取締役を務めるITベンチャー「TEAMBOX」で、大企業の幹部クラスを対象とした人材育成システムの開発・提供を行っている。

彼がプログラマーとしての道を歩み始めたのは、中学1年生の頃。そこから、たった3年ちょっとでプログラミングの腕を磨き上げ、賞を獲得した。本来持ち合わせていた才能もあるだろうが、彼を取り巻くさまざまな環境が、プログラミングの道へひた走らせたのである。その華麗なる軌跡を追った。

子どもの頃は、子どもらしい体験をたくさんした

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初めてデジタル機器に触れたのは、幼少の頃。マウスで絵を描くおもちゃとして、PCを親に与えられた。小学生の頃までは、家で簡単なインターネット検索をするくらいしか使わず、学校でもPCに触れるのは授業で年に1、2回程度。プログラミングなど、まったくやったことはなかったという。

「中学校に入るまでは、農業体験や能楽体験、ゲルマニウムラジオといった電子工作など、デジタルとはほとんど無縁の子どもらしい経験をたくさんしました。あと、文学から情報系まで、いろいろなジャンルの本や新聞を乱読していましたね」

その後、進学校で知られる兵庫県神戸市の灘中学校に入学。なんとなくパソコン研究部に入った。もともともの作りが好きだった矢倉くん。電子工作のように道具や部品がなくても、ゼロの状態から思った通りのものが作れるプログラミングの魅力を知り、勉強もそっちのけで没頭したのだとか。

「自分の技術で何でも作り出せるのが楽しくてしかたなかったんです。毎日、一晩中PCの前に座ってプログラミングに没頭して、授業中に居眠りしてしまうことも(笑)。2年くらいはそういう日々を送っていました」

それでも親御さんは矢倉くんを叱らず、「自分の人生は自分の責任だから好きにすればいい」と見守ってくれたという。

「今思えば、すごく助けられていたと思いますね。子どもの頃から好きなことは自由にやらせてくれる親でした。灘校が中高一貫で高校受験をする必要がなかったことや、自由な校風で勉強以外のことに没頭している人が多かったという環境も、短期間で成長できた理由のひとつだと思います」

パソコン研究部の先輩たちは、体系的に技術を教えてくれるというわけではなかったが、読むべき本を教えてくれたり、プログラミングで壁にぶち当たった時に助けてくれたりした。挫折することなく、モチベーションを失わずに没頭できたのは、部の環境も大きかったという。

しかし、何より矢倉くんのレベルを高めたのは、外の世界に触れることだった。

「中学2年生の頃、部の先輩に誘われて『セキュリティー&プログラミング キャンプ』という独立行政法人が主催する人材育成の合宿に参加しました。そこで大勢に向けて自分の取り組みの成果を発表し、評価されるという体験をして、大きな刺激を受けたんです。それから、賞が取れそうな大会やコンテストを選んで出場するようになりました。本格的に評価してもらえることが楽しかったですね」

内にこもって没頭するイメージの強いプログラミングの世界だが、実は外に向けて発信していくことこそ、大切だったのだ。彼の場合、自分の実力や周囲の実情を知ることで刺激を受け、モチベーションはより上がっていった。

「なぜ?」を考えて自分で解決していく力が大切

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無数に並ぶシステムコードを確認している矢倉くん

これからますますデジタル化が進み、デジタル領域の仕事につく若者も増えていくだろう。優秀なデジタル人材になるには、一体どのような力が必要なのだろうか。

「基本的にコンピューターは自分が作った通りにしか動きません。だから、システムの動作にトラブルが起きたら、自分が並べたコード(記号の文字列の連続)を一つずつ確認していくことになります」

無限に続く記号の連続の中から、間違いを見つけ出すことは至難の技に思える。とても根気のいる作業のため、粘り強く自力で解決していく力が大切になるのだ。

「ネットでの検索、日本語や英語の文献を通じて解決できることもありますが、それでも解決できないことが多々あるんです。自力でコードと向き合って解決しなくてはいけない時、心が折れてしまったらダメ。僕は昔からいろんな物事に対して『なぜこうなるのか?』を考えるクセがついていて、そのクセがシステム構築に役立っていると思っています」

そんな矢倉くんも、コードに行き詰まることはあるという。その時は寝たり、外に散歩に出たり、シャワーを浴びたりして、一度頭の中を整理するのだとか。

「トラブル解決などで大変なこともありますが、プログラミングの魅力は、誰でも“作る側”になれることだと思います。テレビやラジオといったメディアを自分の力で作り出すことは難しいですよね。でも、デジタルの世界で普段利用しているゲームやアプリなら、すぐに自分一人でも作れてしまう。そういうものって他にないですよね」

すでに大企業向けのシステムを提供し、本格的にプログラマーとして活躍し始めているが、今後はプログラマーとして、経営者として、どのような未来を目指していくのか。

「これまでIT化が進んでこなかった領域のシステムを作っていきたいと思っています。今開発している企業役員向けの人材育成システムも、その一つです。今後は、音楽など芸術分野にもシステムを導入していきたいです」

子どもの頃、デジタル以外の体験や読書からさまざまな知識や経験を得たからこそ、広い視野を持つことができたという矢倉くん。彼の活躍はまだ始まったばかり。日本のデジタル領域を牽引していくであろう天才プログラマーの今後に期待したい。

文=井上真規子(verb)
撮影=片桐圭

【特集「子どもとデジタル」】

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