一億総中流なんてウソ!ネットでは見えない階級社会

『あのこは貴族』を上梓した山内マリコさんとの鼎談。今回は山内さんが取材で出会った「上流階級」の人々について。あらゆる情報が存在していると思いがちなインターネットですが、見ることができないのが「お金持ちの暮らし」。上流階級の人たちはどのように生活しているのでしょうか。

山内マリコが実際に出会った上流階級

速水健朗(以下、速水) 『あのこは貴族』でお金持ちをテーマにするって決まって、取材先はどうやって見つけたの?


あのこは貴族(集英社)

山内マリコ(以下、山内) お二人はわかると思うんですけど、編集者さんの中に、たまにすごい良家の方っているじゃないですか。

速水 いるいる!

おぐらりゅうじ(以下、おぐら) とくに大手出版社の社員にいる!

山内 今回はそういう上流階級の人をたくさん取材して書いたんですが、取材先のほとんどは、編集者さんがあの手この手で人脈をたどって見つけてくれたんです。

速水  取材した中で、この人は群を抜いてすごかったっていうのは?

山内 某グループの御曹司は本当にすごかった! ただ、ガードがめっちゃ堅い……。

速水 「我が一族のことを書いたら、末代まで祟るぞ」的な?

おぐら そういう脅迫的なニュアンスじゃないでしょ! 金持ちっぷりについて聞くと、恥ずかしがっちゃうってこと?

山内 これまでの人生で、自分が金持ちであることについて、腹を割って話したことがないんだと思います。服装も普通のスーツで、ちょっとだけ見せてもらった一人暮らしのマンションは、テレビドラマに出てくる独身男性の部屋って感じで、真ん中に腹筋を鍛える器具が置いてありました。

おぐら 本棚とか、部屋の細かい部分は?

山内 いや、玄関から先には上がらなかった。

速水 え~。取材なんだし、そこまで行ったら見ようよ!

山内 もう雰囲気的に上がれないぐらい、閉じている方で。その方に限らず、今まで家がお金持ちであることは誰にも話したことがないっていう人が多かったですね。

おぐら 本当のお金持ちはひけらかさないし、むしろ隠しますよね。

山内 本当にそう! 隠すって習性はネットだと特に顕著で。ネット上では、いかに自分が下であるかっていう話ほど喝采を浴びるけど、上流の話は少しでも見せれば叩かれるから、まったく出てこない。

速水 前に僕らの連載でも話題にしたけど、本当の金持ちが日常的に食べてるものとか、着ているものを正直にネットに書いたら、全部嫌味になっちゃうんだよね。たとえばモデルの人たちがそういう生活をSNSにアップするのは、ビジネスの一部だからいいんだけど。

おぐら だから、優雅な暮らしをインスタにアップしているのは、本物の金持ちじゃないってことなんですよね。ビジネスか、成り上がりか、人生でたまたまバブリーな時期なのか、もしくは偽装か。いずれにせよ、生粋の良家はSNSなんてやってない。

山内 だから、ネットを見ているだけだと、世の中には自分と同じか、自分以下の人しかいないと思い込んじゃう。でも実際は、いまの社会にも歴然としたヒエラルキーはあって、世界は重層的にできているんだって、取材しながら気づきました。この時代、ネットで見つからない情報はここにあった!って。

一億総中流なんてウソ

速水 たまにいるんだよね。大財閥の末裔で、親戚みんなWikipediaに載ってるような人がさ。

山内 バラエティ番組でも「この人、実は徳川家の末裔なんです」みたいな人が出てくることあるけど、それは別に特殊な例ではなくて、歴史上の人物はみんな末裔がいるんですよね。なぜなら、金持ちは絶対に自分の血を絶やさないから。

おぐら 結婚がはやい傾向もある。家同士のお見合いもごく普通にやってるし。

山内 めっちゃやってる。どんな手段を使っても、家系を途絶えないようにするから、絶対に滅びない。

おぐら そして100パーセント就活に失敗しないので、困窮して滅びることもない。大学時代、親のコネで就職先が決まってるって言ってた同級生がいて、町工場とかそういう感じかなと思って聞いてみたら、思いっきり超一流の大企業でびっくりした。

山内 戦後に財閥が解体されて、日本から階級がなくなって、みんなゼロから裸一貫で復興しましたって聞いていたけど、そんなことなかったんですよ。

おぐら 一億総中流って、あれウソだよね。

山内 そう! ウソなの! 子供の頃に、この国は一億総中流なんだって刷り込まれて、クラスにもそこまで貧乏な子はいなかったし、逆にすごい金持ちの子もいなかったけど、東京に来てみたら、上流階級いるじゃん!って思った。

おぐら あと、伝統的な良家のお金持ちは、だいたい顔がいい。

山内 そうそう(笑)! お金持ちの男性って、だいたい美人を娶るから。それで、どんどん良い遺伝子が配合されていった結果、すっごい背も高くて綺麗な輪郭をした本当に美しい顔の子どもが生まれて、将来は俳優になったりする。

おぐら ミュージシャンとかね。

速水 料理研究家とかね。ちなみにイギリスでは、身長とかの見た目で本当の貴族かどうかわかるって。

おぐら 過重労働で心がくさくさしたりもしてないし、だから肌ツヤもいいし、お金にも心にも余裕がある。

速水 ただ、東京もそうだけど、地方の金持ち度合いもすごいからね。ここの小学校の学区は、もともと全部◯◯君のお家の土地でした、みたいな。

おぐら でも地方の金持ちって、普段から偉そうにしてるし、小学生時代に駄菓子屋でみんなにおごったりしますよね。ああいうの、東京の上流階級はやらないんですよ。

百貨店との付き合い方から見える階層

速水 金持ちといえば、百貨店の外商。デパートの商売って、実は一般客相手ではなく、富裕層を相手にした外商が売上げの多くを占めている。実際いくらつぎ込めば外商のお客になれるかというと、目安は年間最低でも200万円くらい使ってないとだめって聞いたことがある。

山内 私が取材させてもらった上流階級のお嬢様方も、みんな百貨店の外商を使ってました。家に持って来てくれるだけじゃなくて、例えば商品をレジに持って行って「外商の〇〇に言っておいてください」と伝えるだけでOKとか。外商って言えばなんでも対応してくれるみたいですね。

速水 『あのこは貴族』の設定で重要だなと思ったのは、松濤に住んでいる主人公の華子が買い物に行くのが、東急本店っていうところ。現実でも、松濤に家がある富裕層は、東急本店の顧客なんだよね。一方、渋谷といえば西武のお膝元でもあるんだけど、こっちはニューリッチ層、芸能人とか、サッカー選手の奥さん、モデルや女優みたいなセレブを相手にしているらしい。

山内 でも、実は私の中では、東急に高級なイメージはあんまり良くなくて……。

速水 デパートだと新宿伊勢丹以外はピンとこないっていうのはわかる。世代差がはっきりあるね。

山内 取材のときに、なんで東急本店を使うのか理由を聞いたら、東急本店は、地下の明治屋で買ったものも含めて、店に頼めば商品を全部地下の駐車場にある車に運んでくれるからだって。その答えを聞いても全然納得できなかったんだけど、東京の金持ちにとって、買い物は電車ではなく、絶対に車で行くものらしくて。だから、このサービスはすごく大事らしいです。

おぐら 都心には電車もバスもあるから車は必要ないっていうのは、庶民の発想なんですよね。

山内 お金持ちは、みんな車で生活してる。

速水 土日の伊勢丹の駐車場とか、もう高級車でいっぱいだよ。

おぐら よく言われている「中央線はサブカルで、東急沿線はしゃらくさい」みたいな話って、本物のお金持ちには一切通じないから。

速水 高円寺の隣がどこの駅とか、基本わかってないもんね。

山内 あるお金持ちのお家に招かれたとき、駅からすごく遠くて、タクシーでしか行けなくて不便だなと思ったけど、そもそも彼らは電車に乗らないから、駅とは本当に無縁なんだなと痛感しました……。

(次回へ続く)


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おぐらりゅうじさんが構成・監督を務める映画『みうらじゅん&いとうせいこう 20th anniversary ザ・スライドショーがやってくる!「レジェンド仲良し」の秘密』が、2/18(土)より新宿ピカデリーほか全国公開されます。

あのこは貴族

山内 マリコ
集英社
2016-11-25

この連載について

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すべてのニュースは賞味期限切れである

おぐらりゅうじ /速水健朗

政治、経済、文化、食など、さまざまジャンルを独特な視線で切り取る速水健朗さんと、『TVブロス』編集部員としてとがった企画を打ち出し、テレビの放送作家としても活躍するおぐらりゅうじさん。この気鋭のふたりのライターが、世の中のニュースを好...もっと読む

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