昼休みに閉まる銀行窓口
松山市に本店がある伊予銀行。ことし1月4日から愛媛県内子町にある小田支店の営業時間が変わりました。午前9時から営業が始まりますが、午前11時半から午後0時半までの1時間、窓口を閉めることにしたのです。
支店で働く行員はわずか4人。午前11時半になると阿部恵介支店長が「11時半になったので、お昼休みに入ります」と、店内に声をかけました。そして女性行員が窓口の昼休みを知らせる看板を設置して、窓のブラインドを閉め始めました。
当座預金業務を営む銀行の店舗の営業時間は、銀行法施行規則で午前9時から午後3時までとすることが定められています。しかし、去年9月、利便性を損なわないことなどを条件に、地域の顧客のニーズにあわせて営業時間を柔軟に設定できるように規制が緩和されました。
小田支店の営業時間も、この規制緩和を受けたものです。窓口を1時間閉めるのは、行員が一斉に休憩を取るためです。小田支店ではこれまで、窓口を開けたまま4人の行員が順番に昼休みを取っていました。このため、窓口が手薄になる時間帯があり、一度に多くの客が訪れた場合、対応できないことがあったのです。
今回、行員全員が一斉に休憩を取るようにしたことで、休憩時間以外の時間帯は行員4人が全員そろい、客に十分に対応する余裕ができました。また、役所や取引先企業の通常の昼休みの時間とは30分ずらし、利便性に配慮しました。阿部支店長は「ATMで対応できることには限りがあります。行員が直接、対応することで、心のこもった行き届いたサービスができると思います」と話していました。
背景には人口減少と高齢化
小田支店がある地区は、人口がここ10年でおよそ3割減少しました。高齢化率は50%を超えています。小田支店の顧客も年々減り、1日に訪れる客は20人から30人ほど。このため採算が合わず、一時は支店の統廃合が検討されました。
しかし、小田地区には別の銀行や信用金庫などの支店はなく、近隣の店舗まではおよそ20キロあります。また、地域の高齢者には、ネットバンキングなどを利用したことのない人も多く、公共料金の支払いを支店の窓口でする人もいます。
伊予銀行は支店を残すことを決め、賃料が安い役場の空きスペースに移転。そのうえで一部の業務をほかの支店に移し、行員の数を8人から半分の4人に減らしました。行員が昼休みを一斉に取り、それ以外の時間は行員全員がそろうようにすることで、少ない行員でもサービスを低下させずに店舗を維持しているといいます。利用客からも「地域の中に、窓口のある銀行が1つでもないと、本当に不便になります」とか「限界集落だ、などと言われそうになっている時に、銀行の窓口を維持してもらえるのは、感謝のしようがないぐらい ありがたい」といった声が聞かれました。
伊予銀行は今後、小田支店のように、高齢化や人口減少が進んで利用客が少なくなっている地域でも、できるだけ店舗を維持していきたいと考えています。永井一平専務は「銀行経営としては、店舗の統廃合はこれからも検討していくが、基本的には、市街地の店舗が密集する地域で行う方針だ。高齢化や人口減少が進む地域では、小田支店のようなやり方で合理化を考えていく」と話していました。
実情にあわせ営業時間を前倒し
一方、福島市に本店のある東邦銀行。ことし1月4日から郡山総合卸市場支店の窓口の営業時間を30分前倒しして「午前8時半から午後2時半」までにしました。
利用客には早朝から働く市場関係者が多いため、そうした客の勤務時間にあわせました。このほかにも東邦銀行では、郡山駅前支店の窓口の営業時間を「午前9時から午後7時」までに延ばしました。ターミナル駅の近くにある支店とあって通勤客なども多く訪れますが、窓口が午後3時に閉まってしまうと、住宅ローンや資産運用の相談などのニーズに応じられないことから、営業時間を延ばすことにしたのです。最近は、長引く低金利で資産の運用先に悩む客からの問い合わせが多くなっているということです。
東邦銀行では「これからも地域の実情に合わせて営業時間を見直していく」としています。メガバンクでも営業時間を柔軟に変えるところが出ていますが、地方銀行では特に、「コストを抑えられ、統廃合を検討せざるを得ないような店舗でも維持しやすくなる」(全国地方銀行協会)という事情があります。
どうなる 今後の銀行サービス
地方では高齢化や人口減少が進み、金融機関の客も減少傾向です。地方銀行にとって特に大きな課題は、地域の支店をどう維持するかです。客が少なくなれば、コストが利益を上回って経営の足を引っ張ることになり、閉鎖も選択肢になってきます。しかし、支店の閉鎖を続けていくと経営規模全体が縮小し、利益が減っていくおそれもあります。地域からの撤退は住民からの反発も予想されるうえ、行員たちの仕事への意欲にも関わるという思いもあるようです。
日銀によるマイナス金利の導入や人口減少など、銀行を取り巻く経営環境は厳しくなっています。一方で、金融とITを結びつけるフィンテックなどによる新たなサービスの展開も広がっています。こうした中で銀行の支店は今後、どう変わっていくのか。営業時間の変化は、その始まりにすぎないのかもしれません。
- 松山局
- 山川淳平 記者
- 平成25年入局
横浜局を経て
平成28年から松山局