キュレーションメディアのいちばんの問題とは
加藤貞顕(以下、加藤) 前回は、メルカリと『宇宙兄弟』の新しい取り組みについて聞きました。
佐渡島庸平(以下、佐渡島) すこし気になっていたのが、小泉さんが言ったように、インターネットには「個人をエンパワーメント」する作用があるとおっしゃっていたじゃないですか。それっていまあらゆるメディアで起こっていることですよね。
小泉文明(以下、小泉) ええ。
佐渡島 ちょっと前に、DeNAのキュレーションメディアが話題になりましたよね。
加藤 健康・医療系のキュレーションメディア「WELQ」を発端とする問題ですね。
佐渡島 それ以外の多くのキュレーションメディアも他媒体の記事や写真を無断で借用していたことが発覚した。それって出版業界では、「絶対にやってはいけない」と教えられることじゃないですか。
小泉 大学生がWikipediaをコピーして、論文を書いてしまうようなものですからね。
佐渡島 そうなんですよ。でも、一方で「仕方がない」と思うこともあって。
佐渡島 つまり、インターネットが「個人をエンパワーメント」する作用がある以上は、DeNAがメディア事業に参入したように、ある業界にいる人が別の業界に簡単に参入できるってことでもあると思うんです。
となると、出版社などのマスコミが今まで大事にしてきた業界の倫理観やルールを、異業種から新規参入してきた人たち全員にも守ってもらうのは簡単ではない気がするんですよね。だって、面倒くさくて非合理的な部分もあるから。
加藤 たしかに、法律を守るのは当然としても、業界の「倫理」みたいなものの共有って難しいですよね。
佐渡島 ええ。じゃあキュレーションメディアは何が問題だったかと言うと、キュレーションした記事の権利者たちに「利益を還元しなかったこと」じゃないかなって。ちゃんとPVや収益を返す仕組みを考えていたら、ここまで大きな問題にならなかったと思うんです。
小泉 たしかにキュレーションメディアと権利者の関係はアンバランスでしたよね。僕も作り手や権利者に“利益が還元されなさすぎ”なところが気になっていて。インターネットのスピード感に対して、ビジネスモデルが全然追いついていかないところに問題を感じます。
その点、ゲーム業界はうまくいっていたんですよ。ソーシャルゲームでもスマホアプリのゲームでもプラットフォーマーがちゃんと開発会社に利益を還元していたから、ゲーム市場が広がっていった。そういった仕組み作りがまだ他の業界ではできていないのかなと。
佐渡島 インターネットが普及する前はビジネスモデルができてから産業が立ち上がるのが当たり前だったじゃないですか。でも、今はインターネットによって商慣習が変わってから、それに適したビジネスモデルを考えなければいけない。
加藤 この問題は当事者の倫理の問題ももちろんあるんだけど、より根本的な原因は、デジタルメディアのビジネスモデルが、広告以外になかったというのも大きいんですよね。だから、ページビューをとにかくかせぐしかないし、もうからないから「仕入れ値」も安く抑えざるをえないからコピペをすることになる。
佐渡島 そう。だから旧メディアのひとたちが商習慣のちがうネットメディアに倫理問題だけで怒ってもすれちがいになってしまう。
加藤 旧来の出版はそこが本当によくできていて、もともと書籍の印税が10%だったのも、全国に現物の商品を届けていたから、出版社もそれなりにリスクを取っていたから合理性があったんですよね。しかも、うまくいくと作家も出版社もすごくもうかった。だからこそ100年以上続いた堅牢なビジネスモデルになったわけで。
でも、今は本が売れないから、創作者に戻る分はわずかなもので、このままだと市場は衰退していい作品がつくれなくなる。僕らの会社も、佐渡島さんの会社もそこを変えようと努力しているわけです。
コルクとメルカリが考えたバランスとは
佐渡島 それで、今回の仕組みがすごいのが、メルカリの手数料が10%、権利者の許諾料は10%、残りの80%はグッズを作った人たちがもらえるところなんですよ。
小泉 もちろん材料費などの原材料費は負担してもらいますが、それでも1万円ぐらいのグッズを月20個売ったら、それだけで生活できる可能性もあると思います。
加藤 ああ、それはすごいですね。
佐渡島 Ingressとのコラボを知ったときに、このメルカリと権利許諾者、クリエイターの1:1:8の配分を見て、すごくバランスがいいと思いました。
小泉 それぐらい返ってこないと、権利者もクリエイターもモチベーションが上がらない気がして。
佐渡島 インターネットでビジネスをやるなら、そこの利害調整をきちんとするのが大事なのかなと。問題になったキュレーションメディアも利益を独占しなければ、もっといいメディアになっていたと思う。
小泉 メルカリでは、ユーザーやクリエイターたちにもっと利益を還元できる仕組みを作ることで、一緒に共存繁栄できるんじゃないかなと考えています。
佐渡島 今年1月から始まる『宇宙兄弟』のケースが成功すれば、他のコンテンツでもやりたいという声が出てくるはず。
1つの作品を本だけで売ろうとすると、作家や出版社、書店、印刷、流通の人しか関わりません。でも、作品の売り方を多角化することで、より関係者が増えて、作品の価値が向上すると思うんですよ。トヨタがいい例で、なぜあそこまでブランド力があるかと言うと、それで食っている人が世界中にいるから。だから、トヨタの車を残したいという欲求が強くなるんじゃないかな。
加藤 関係者が多いほど、ブランドやコンテンツは強くなると。
佐渡島 そう。関係者が多ければ、より『宇宙兄弟』も生き残ってほしいと思う人は増えるはず。だから、発信する人と楽しむ人だけじゃなくて、「生活する人」を増やしていくのが今回のプロジェクトのもう1つの目的です。
小泉 あと実はもっと作家さんにお金を払いたいファンも多いんですよね。今までは同じ商品を複数買いするしか方法がなくて。
加藤 作品以外に払う方法が他にないということですね。
小泉 はい。そういう受け皿にもなってほしいんですよ。メルカリに超クオリティの高い1点物のフィギュアを出したら売れたみたいなケースも出てくるのかと。どうせなら高くてプレミアムなものを買いたいファンもいるでしょうから。
加藤 いいですね。ますますグッズのクオリティも高まっていきそうです。
ネットで支持されるサービスはどれも原始的
小泉 cakesやnoteは、クリエイターをサポートするメディアとして、これからどう進化していくんですか?
加藤 cakesは仕組みとして、雑誌に近いんですね。今はcakesは社内で作成しているオリジナルのコンテンツが半分以上あるんですが、その比率は減っていったほうがいいと思っています。つまり、社外の出版社やコルクなどのクリエイターを組織する団体のつくったコンテンツをもっと増やしていきたい。いま以上に他の会社や作家さんを巻き込んでみんなが勝手に儲かる場所にできればいいなと。
noteは、個人のクリエイターを応援するためのしくみですなんですよね。その延長で、独自ドメイン対応など、プロのクリエイターや法人利用なども広げていきます。それこそ、グッズなど物販の販売機能もつけていくつもりです。
小泉 なるほど。
加藤 結局、広告も大事なんですが、それ以外の収益化の方法を増やすと、業界全体のコンテンツの質も高まっていくと思います。
佐渡島 Googleもどんどんコンテンツの価値を理解しながら、検索するようなシステムに改良しているじゃないですか。結局、良いコンテンツを作ったほうが上位に検索されるんですよね。いろんなメディアが出てきたけど、結局はやることは昔と変わらない。
小泉 また一周戻ってきたと。
佐渡島 そう。戻ってきて今は過渡期なんだと思います。
小泉 そうですね。結局、インターネットの進化って、人間の原始的な仕組みに戻っていくんですよ。僕らのサービスも「物々交換」ですから。他だとAirbnbだって、昔は日本でも使っていない軒先を旅人に貸していましたし。
加藤 ゲンロンカフェを経営している東浩紀さんも、みんなを巻き込む仕組みを作っていて、「結局、昔ながらの大学に近い形になった」と言っていました。きっとそういうものなんですね。テクノロジーは変わっても、人間は変わらないから。
佐渡島 で、ネットについては記事を大量生産するよりも、手数をかけて丁寧に良質なコンテンツを作っていくのが最も効率的だと思います。
「バーグハンバーグバーグ」が作った「バカ株」なんていい例ですよね。「株」でググると3位...…。
小泉 メルカリはそういう人たちをサポートしてくサービスにできたらなと。
加藤 最終的には、すごく普通の話ですが、人のために役に立つものをつくって、届ける、そしてそれを続ける、という普通の話に落ち着きそうな気がしますね。今日はありがとうございました。
小泉文明(こいずみ・ふみあき)
1980年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券SMBC株式会社に入社。投資銀行部門にて、DeNAをはじめとする数多くのネット企業のIPOを担当。2007年に株式会社ミクシィに入社し、社長室長、経営管理本部長を歴任し取締役執行役員CFOに就任。2012年に同職を退任後、IT系ベンチャーやスタートアップ企業の取締役、監査役などの経営サポートを務める。2013年に株式会社メルカリに入社後、取締役に就任。