2017-01-20
■役場の仕事の行きしなにいまさらコミック版「海賊と呼ばれた男」を読む 
去年から内閣府の「新たな情報財検討委員会」の委員になっています。
この委員会は内閣総理大臣以下全大臣をメンバーとする「知的財産戦略本部」の直下に設置され、ここでまとめられた報告書をもとに我が国の知的財産国家戦略が決定され、その後、関係各省庁に政府の基本方針として落とし込まれます。
極めて重要な会議体なので、できるだけ出席するようにしているのですが、これまで「AIにより創出される新しい情報財」に焦点が当てられていたのでわりと積極的に発言していたのですが、今回からは「データの利活用」というテーマに変化し、事前に受けたレクも「なんて退屈な話なんだ」と愕然としました。
それで、今日はあんまり気乗りしなかったのですが、国家の一大事が決まる場所ではあるので、委員としてちゃんと参加しようと自分を奮い立たせ、内閣府に向かいました。
道中、Kindleで買ったこんなマンガを読みました。
- 作者: 百田尚樹,須本壮一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/06/23
- メディア: Kindle版
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一巻がタダだったのでとりあえず読んでみようかな、くらいの軽い気持ちだったのですが、あっという間に引き込まれ、もう夢中になってしまいました。
実は活字版を買ってあったのですが、なんとなく読むヒマがなくていわゆる積ん読になっていました。改めて読んでみるとなんと血湧き肉躍る内容なんでしょう。
このマンガの主人公、国岡鐵造は60歳。
60歳が主人公のマンガなんです。
そして全編を通して描かれるこの人物の圧倒的高潔さ。
官との癒着を否定し、孤高の存在でありながら、誰よりも尊敬される大人物。
そしてこの主人公は、出光興産の創始者、出光佐三をモデルとしています。
本当にこんな人物が実在したのか、本当に出光佐三はこのような高潔な人物だったのか
その真相は僕にはわかりません。
しかしたとえ架空の物語の人物だったとしても、国岡鐵造は実に魅力的な人物に思えます。
物語は敗戦直後から始まり、1000人の店員を抱える国岡商店は稼業の石油業をすべて接収され、操業不能な状態にまで追い込まれました。
しかしそのような状況で国岡鐵造は、あえて「一人たりとも馘首(クビ)にはしない」と宣言します。
そして会社を存続させるため、漁業や農業、ラジオの修理といったそれまで経験のない事業に乗り出します。
変わった人たちの会社なので、政府さえも敵に回りますが、捨てる神あれば拾う神ありで、GHQが彼らに味方して、日本の石油行政は大きく自由市場へと前身します。
実はみんなよく理解していないことの一つだと思うのが、国家戦略、そしてそこからうまれる国家政策が人々の生活に与える影響です。
僕の実体験として語れば、たとえば、「プログラミング教育の義務教育化」は、2013年末に修正された内閣基本方針である「世界最先端IT国家宣言」に一文が追加されただけで、その一年後、二年後には文科省、総務省、経産省が連合で国家のプログラミング教育事業を共同で推進することが決まり、実際に現場の混乱をさておいても、是が非でもプログラミング教育を義務教育で導入するのだということが決まりました。
これまで僕はこの手の有識者会議は、官僚が欲しい意見を僕らに言わせて、適当なエヴィデンスを得る場所として考えていたのですが、今回の「新たな情報財検討委員会」ではAIの進歩があまりにも早すぎるため、どうも官僚側に最初から結論めいたものが存在しておらず、各委員もかなり自由に発言しているので、これまでの役所の会合にはない熱気を感じて、毎回とても刺激的な体験をさせていただいています。
でも今回は「データの利活用」がテーマだったので、まあいつものように僕が喋ることはあんまりないだろうと思っていたのですが、よく考えると中小企業、ベンチャー企業の人間はその委員会のなかで僕一人でした。
川上さんも委員なのですが、川上さんはドワンゴの会長としてではなくカドカワの社長として参加しており、やはりこの枠からは外れてしまいます。
そしてプライベートデータストレージを活用してデータの相互利用を促進しよう、みたいなことを経産省や内閣官房、総務省が推進しようとしていることはわかったのですが、そもそもプライベートデータストレージにデータを公開するというモチベーションが、ふつうに考えて大企業にはないわけです。
どうせあとで議事録が公開されるので読んでいいただきたいのですが、何人かの委員は「法規制とか新たな権利付与とかは不必要であり、民間にまかせてほしい」と口を揃えて言っていました。
そのとき僕は、「あ、僕みたいなのが来てよかったな」と思ったんです。
こんなのは詭弁だからです。
この委員会に来てるのは大会社の主に知財担当の重役がメインです。
大企業にしてみれば、余計な規制や、新しい権利が生まれたら面倒事が増えるし、データは囲い込みたい。データの水平利活用なんて酔狂なことは、面倒だからできれば関わりたくないわけです。
たとえばカルテのデータを情報銀行に預けると、お薬手帳を持ち歩かなくても、どこの薬局でも自分に必要なお薬や、薬歴がわかっていてすぐに買えるとか、そのデータがレストランに共有されていれば、アレルギー食材を避けたメニューを提案してくれるとか、いろいろなことができるのですが、そもそもなんで医者がカルテのデータを情報銀行に預けなければならないのか、そのモチベーションがないわけです。
医者としてはカルテで囲い込めば固定客を得ることが出来て仕事を守れます。
大企業、特にメーカーが工場などでセンシングした情報はどちらかというと営業秘密であり、こんなものを公開するメリットはゼロです。むしろ囲い込みたいし、そもそもどんな情報をセンシングしているかということすら知られたくないはずです。
もし本当に、情報銀行によって個人情報が適切に還流して、煩わしいことから解放される、そんな素敵な世界を作りたいと思ったら、立法によって国がデータの提供を強要するしかないんです。
マイナンバーがいい例で、国家戦略、国家政策というのは、決まってしまえばどんなに非効率的な方法でも国民に強制する強制力があります。
みなさん、マイナンバー、よくわかんないけど書いてるでしょ?
面倒くさいなあと思うでしょ。
これだって、政策によって決められているからこそ、いま我々が強制されていることなわけです。
そしてマイナンバーの真の目的は脱税を防ぐことです。税収が上がるからあれほどのモチベーションを持って導入されているわけです。
私企業の自助努力でなんでもかんでもうまくいくなら、政府はいらないわけです。
そして、データ流通による素敵な世界というのは、過去何度も、いろんな私企業が挑んで、そして失敗してきた分野です。これに成功している国家は世界中探してもありません。
データ流通をさせたければ、立法化してデータを収集した業者はなんらかの方法で情報銀行に情報を預託するとか、情報蓄積に関する日本銀行に相当する組織を作って全ての情報を政府がコントロールできるようにするべきです。
こうしたことは、これまでさまざまな企業が挑戦して独力でできた企業はひとつもないので、もう国家がかなり積極的にやるしかないんです。
これが仮に実現するとすると、日本は世界最先端の情報活用国家になります。
今はブロックチェーンのような改ざんや不公正を防ぐ技術もあるので、うまく設計すれば政府がコントロールしながらも各々のプライバシーの保護は国民一人ひとりが自由に制御できるような世界が作れるのではないかと思います。
たとえば、「引越し前の病院のカルテを、引っ越し後の病院に引き継ぐ」ことに同意すれば、カルテが自動的に移管されるような仕組みです。
個人的な話になりますが、僕は先天性両眼緑内障でした。
失明した状態で生まれてきたのです。
生後3ヶ月で異変に気づいた両親が、大学病院で開発されたばかりの新手術法を試すことに同意し、僕の目は40年経った今でもしっかりと見えています。
ただし前例のない手術だったため、僕は18歳になるまでほぼ毎月、電車で一時間かかる新潟大学病院に通って定期検査を受けていました。本当は成人したあとも年に一回くらいは来て欲しいと言われていたのですが、さすがに上京したりアメリカに住んだりしてしまったのでそれから一度も行っていません。
でもこれも本当は、もっと簡単にカルテの移行ができたり、僕が自分の健康診断の結果を、新潟大学にフィードバックするパーミッションを与えたりできたら、先天性両眼緑内障という不治の病と言われた病気に対する手術の有効性も確認できたはずですし、これは国家、人類全体にとって貢献できる情報になるはずです。
他にも僕は世界で30例程度しか確認されていない遺伝子異常であるBHD症候群に該当しており、手術によって取り出した僕の細胞は東大病院から順天堂大学病院に共有されているのですが、本当はそうして得られたデータはもっと共有されるような仕組みがあったほうが研究は進むはずです。
でも、今の仕組み、私企業が自分の権益のために各自発展を模索するという方向性を追認するだけでは、こうした意義のある医療情報の共有は永久に成されません。
僕は東大から順天堂に僕の検体細胞が移る時にパーミッションをとられましたが、それ以降パーミッションの連絡がこないので順天堂大学病院でとまってるのだと思います。でも本当はこういうデータは興味のある人、たとえばBHD症候群を研究したい人にはいつでもアクセスできるべきだと僕は考えています。
本来は、BHD症候群の情報が健康診断センターや健康保険にも共有され、健康診断の内容自体もそれにあわせて変化するべきです。今のところは、僕が自分で調べて、自分に最適な予防措置や検査を設計しなければならないのですが、こんなことからは人々は解放されるべきではないかと思います*1
要するに、たとえば医療データの相互運用性が高まると、我々は死にづらくなるのです。
ところが医療データの相互運用性を高めるモチベーションを私企業は持っていません。
だから国家が推進する必要があるのです。
積極的に癌に掛かって死にたい、という人はあまりいないでしょうから、これは利用者にとっては大きなモチベーションになります。
国家、政府の役割というのは、こういう問題を解決することです。
そういうことが大企業の論理でいつもなあなあで流されて決められてしまうかもしれない場に、一人くらい、僕みたいな雑魚が混ざっていたことも意味はあったかもしれない、と思いました。
帰り道、再び「海賊と呼ばれた男」の続きを読んで、出光がいかに政府や既得権益を持つ大企業と戦っていったかということが描かれていました。
僕なんか、出光佐三に比べればぜんぜん、甘やかされているし、大企業の人たちには普段は感謝しかないんですが、なんだか、背筋をのばしてシャンとしよう、という気分になりました。
企業を経営するとはどういうことか
それを知る資料として、非常に面白い本だと思いました。
オススメです。
一巻は無料なのでぜひ一巻だけでも
- 作者: 百田尚樹,須本壮一
- 出版社/メーカー: 講談社
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*1:ちなみにご心配をかけてはいけないので読者の皆様に蛇足ながら説明すると、BHD症候群とは、DNAの中で「細胞分裂のブレーキをかける」遺伝子が欠落する現象です。つまりどんな細胞も分裂しすぎるのです。その結果、肺胞が過剰に分裂しすぎて破れやすくなったり、上半身に腫れ物ができたり、直腸がんにかかりやすくなったりします。僕の家系はBHD症候群を持っている家系のなかでも珍しく、本来はできるはずの上半身の腫れ物がだれも出ていません。また、家系の中でBHD症候群に該当すると思われる父、叔父、祖母(90歳)は未だ健在で、BHD症候群に該当しない祖父、祖母、祖父はもう鬼籍に入っています。つまり、BHD症候群であることは、僕の寿命を縮める原因にはなりません
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