体脂肪率一桁台の原稿を書くチカラ #01 紙媒体を学ぶ
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こんにちは、エディターのヒロアキです。
ドラマなどで脚光を浴びた 校閲 というお仕事。メディア業務においても不可欠な要素です。紙媒体の仕事に関わっていないと、「自分の原稿に赤字を入れてもらう」「赤字でのフィードバックをもらう」という機会は少ないかと思いますが、この校正戻しこそがライティングスキルを高めるうえでもっとも不可欠な作業なのです。
それは、自分の原稿を客観視し プロの読み物を生み出せる能力を高めるため 。独りよがりな記事ほど読むに耐えないものはなく、とはいえ誰もが「自分の原稿ほど出来のいいものはない」と思いがち。そんな自分の原稿を他人が書いたものとしてチェックできるようになるには、この校正力を高めねばなりません。
その校正の初歩とも言えるルールをまとめてみました。
▼目次
まずは校正における基礎中の基礎を項目化しました。編集者(編集部)は最低限備えておかねばならない能力で、ライターは その編集者からツッコまれない最低限のポイント として身につけておいた方が良いです。この程度のことをツッコまれてしまうライターは、信頼とともに仕事をも失うことにもつながりますので。
どのような記事でも もっとも警戒せねばならないのが 数字 。金額は言うに及ばず、速度、長さ、重さ、時間、電話番号などなど。印刷物で「商品の価格を間違えました」は、クライアントから訴えられても仕方ないレベルの大事故。数値で表記するものはどんなものでも疑ってかかりましょう。
物品等の販売金額は、Web 記事であれば 税抜き価格 表記として、金額の後ろに「(税抜)」と入れるようにしましょう。理由は、ウェブ記事が半永久的に残るものであること。消費税は時代によって変動するので、金額を見たユーザーにそのときの消費税に換算してもらう方が良いからです。もちろんその記事の掲載年月日が記載されていることも必須です。
電話番号は、実際にかけてみて確認するぐらい念を入れましょう。
人名、社名、建物名、商品名などなど、絶対に間違えてはならない固有名詞。漢字なのか平仮名なのか(しんさん ではなく 紳さん)、アルファベットなのかカタカナなのか(リグ or LIG )、大文字なのか小文字なのか( lig ではなく LIG のように)、すべてオフィシャルな情報ソースをもとにチェックせねばなりません。
ここをチェックする際、情報ソースを Wikipedia (ウィキペディア)にしては絶対になりません。今や調べごとをするうえで欠かせない存在となった Wikipedia ですが、不特定多数の人間による編集が可能なサイトなので、絶対的な根拠とはなりえません。個人名や社名だと、名刺などがベストですね。必ずその固有名詞の権利を有する情報ソースに基づいたチェックを行いましょう。
読み物の基本である 5W1H 。編集者にとっては常識でもある「 When (いつ)」「 Where (どこで)」「 Who (誰が)」「 What (何を)」「 Why (なぜ)」「 How (どのように / どうした)」です。
ディテールではなく文章全体を通して読んだときに「ん? この語りの主語は何?」「” そこは “の” そこ “って、どこのこと?」など、引っかかりを覚える部位は改めて読み返し、「なぜ読みづらかったのか」の要因を具体的にして書き手に疑問をぶつけましょう。
編集部を名乗っているところであれば当然整備されている表記ルール。もちろん LIG にも表記ルールは存在します(表には出しておりませんが)。最終的には各編集部の表記ルールに則って修正されてしまいますが、それ以前にライターをやっていくうえで、「私はこういう書き方をする」という自分流の表記ルールを作るようにしましょう。以下は一例です。
その他、
といったところ。もちろん他にもまだまだ出てきます。大事なのは、どんな原稿を手がける際も自分ルールに則って統一されているか否か。そのライターの文字に対する認識を推し量る物差しになると言っても過言ではありません。
わかりやすく言えば、編集部にナメられないよう自分のレベルを見せつけてやりましょう ということです。
校正を重ねていくとチラホラ出てくるのがこの「カブリ」。書き下ろした原稿ではそういう流れになっていないのが、修正を加えてみたら、実は前後の書き出し & 締め方と同じになっていた……というもの。これの対策は簡単、読み返しをきちんとすること です。それも、修正を加えた際に必ずその段落全体を読み返すことを習慣づけましょう。
何気なく書いていた一文が、読み返してみると 驚くほど長くなってしまっていた……。ライティングあるあるのひとつで、読みやすくコンパクトにまとめることもライターに求められる能力なので、ここも注意ポイントとして見ておいてください。
悪い例と正しい例をご覧ください。
悪い例は読みづらいうえに要点がはっきりしないので、読み物としては失格。短くわかりやすく がライティングの基本です。
それでは実際に校正をする際、覚えておきたい基本的な赤字の入れ方 & 校正記号についてご紹介しましょう。
まず どこからどこまで を どう修正するのか がわかる書き方を心がけましょう。受け取る側に意図がきちんと伝わることが大事で、それさえできていれば書き方に厳格なルールはありません。
その項目そのものが不要な際は、その部位を指定して トル と記載します。専門用語に「トルツメ」(その文字を取ったうえで前後を詰める)や「トルアキ」(その文字を取ったら、その箇所は一文字空いたままに)などがありますが、Web で用いることはないので トル だけ覚えておきましょう。
「ここは改行した方がいいかも」「ここは前後をつなげた方がいい」というときの指示がこちら。紙媒体だと文頭を一文字下げるのでその指示法もありますが、こちらも Web では不要なので改行とつなぎだけ。
「ここは前後の文字を入れ替えよう」というときの入れ替え指示がこちら。この記述は専門性の高い書き方なので、2 箇所を丸囲みして「入れ替え」と書いても OK です。
校正の指示出しにおいて、明らかな誤りを指摘する赤字ではないけど「こうした方がベターじゃない?」という提案型の修正を入れる際は、シャーペンやエンピツで書く or 付箋を貼ってそこに書く という手法を用います。これは、明確な赤字のみを校正紙(デザイナーに戻す校正紙)に残す際のやり方で、Web であればそのまま書いちゃってもいいかも、ですね。
「じゃあ、その校正力を高めるにはどうしたらいいのさ?」。その方法としては以下のような内容があります。
一番は何と言ってもこれ。私は昔勤務していた編集プロダクションで、とてつもなくシビアな校閲チームや文学センスの高い上司に鍛え抜かれました。些細な誤りすら見逃さない、とまではいきませんが、その編プロに勤める前と後とでは まるで別物。基礎能力の大切さを学ばせていただいたと、今でも感謝しております。
「じゃあ、そのレベルの高い編集者や校閲者がいるところって どこだよ?」と言われると、やはり新聞社、そして大手出版社などが選択肢として浮かび上がってくるかと思います。とはいえ、いずれも簡単に入り込めるところではないので(すごいコネを持っていれば別ですが)、数字の間違いが絶対にあってはならない製作物を請け負っている編集プロダクションや広告代理店 などが候補となるかと思います。
こちらは毎日新聞の校閲チーム 公式 Facebook で、校正・校閲に関するナレッジが満載で勉強になります。よろしければご覧ください。
どこにも頼らずに校正力を高めるなら、専門学校に通うか通信講座を受ける、という選択肢が出てきます。以前はユーキャンにも校正の通信講座があったんですが、今はなくなっている模様。ライター & エディターの基礎能力を高めることにも繋がりますし、フリーランスとして生計を立てることも不可能ではありません。
専門スキルを高めるというよりは、基本的な日本語能力を維持することが目的です。大手出版社の校閲をくぐり抜けてきた作品は日本語の流れも美しいので、そうした美しい文章に触れる機会を日常化しましょう。そうすると、妙な流れの文章を読んだときに「ん?」と違和感を覚えるようになります。これを自分原稿の読み返し時に活かせられれば、言うことなしです。
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こちらは、現在私が LIG 内で催している「ライター講習会」で参加者に出した課題 第 2 弾です。グランドキャニオン、アンテロープキャニオン、モニュメントバレー、セドナといったアメリカを代表するパワー溢れる大峡谷の魅力を伝える企画で、前回の「中国の世界遺産 九寨溝・黄龍」で出た課題を克服する意味を込めてのトライアル的課題としました。
その課題に、トラップ満載の原稿を入れ込んでみました。もちろん同講習会の参加者にもこの課題にチャレンジしてもらいます。ご興味がある方も挑戦してみてください。来週、回答を出します!
原稿を書くうえでもっとも求められる要素は熱量ですが、どんな案件にも同様の熱量が込められるかと言われれば 答えは否。それでも自身の原稿を冷静にチェックし、過不足ない成果物として納品できる能力を兼ね備えておけば、クライアントからの信頼を失わずにいられます。そのうえで自身ならではのルールを上乗せできれば、その原稿は間違いなくオンリーワンと言えるもの。
ライター講習会の参加者から「こうした校正の機会を持ったことがない」と聞くのですが、今後はますます校正してもらう場は減っていくのだと思います。しかしながら、原稿というのは他人の目を通してチェックされてこそレベルアップできるもの。今以上のライティングスキルを身につけたい方は、ぜひそうした場 or 人との出会いを探ってみてください。
では!
体脂肪率一桁台の原稿を書くチカラ #01 紙媒体を学ぶ
体脂肪率一桁台の原稿を書くチカラ #02 紙媒体での原稿の書き方
体脂肪率一桁台の原稿を書くチカラ #03 インタビューの作法 & 記事の書き方