それは、ちょっとした驚きの結末を迎えるビデオだ。
Don't Normalize Hate / Via youtube.com
メガネをかけて椅子に座るハル・クロミヤさん(89)。静かな口調で、ニワトリ農場での幸せな子ども時代を振り返る。だが、75年前にそれは暗転する。
突然、警察が父親を連れ去った。一家は、台帳に登録された。ネームタグと番号を渡され、身につけるように言われた。
マンザナー強制収容所跡に建つ記念館に並ぶ収容された人たちの番号札=2015年12月、カリフォルニア州 Justin Sullivan / Getty Images
列車に乗せられ、到着した先は強制収容所だった。仕事も、家も、家財道具も、ペットも失った。
マンザナー強制収容所の様子を再現した記念館=2015年12月、カリフォルニア州 Justin Sullivan / Getty Images
クロミヤさんが語るのは、アメリカで起きた日系人の強制収容の物語だ。フランクリン・ルーズベルト大統領(当時)は1942年2月19日、大統領令に署名。国家防衛の名のもとに、日系アメリカ人12万人を強制収容所へ送り込んだ。
6割以上はアメリカ生まれのアメリカ人だった。敵国・日本の血が流れているというだけで、差別・排除され、財産を失った。レーガン大統領(当時)が1988年になって、正式に謝罪している。
マンザナー強制収容所=1942年7月、カリフォルニア州 Hulton Archive / Getty Images
「全ては恐怖心とデマから始まった。そして日系アメリカ人の登録制度へと発展し、番号札がつけられ、最終的には強制収容へとつながった」
クロミヤさんはビデオで淡々と語り続ける。メガネをそっと外し、顔を覆う。そして、次の瞬間・・・。
このビデオが現代アメリカ社会に訴えかけるのは、ここからだ。
クロミヤさんは白髪をゴッソリ取り外す。カツラだった。特殊メイクを破って、ムスリムの女性が中から姿を現した。
実在するクロミヤさんを演じていたのは、パキスタン系の女優ヒナ・カーンさん。
「歴史を繰り返してはならない」。そう訴えて、ビデオは終わる。
日系アメリカ人とイスラム教徒と
日本の血を引くという理由だけで敵視された日系アメリカ人。それは、トランプ次期大統領が宗教だけを理由に敵視するイスラム教徒のいまと交錯する。
トランプ氏は日系人の強制収容について、米タイム誌に対し、「そのときその場にいてみないと(賛否に)適切な答えはできない」と話し、物議を醸した。
一方、トランプ氏の側近たちは、イスラム教徒をデータベース化することを提案している。トランプ氏自身は「イスラム教徒のアメリカ入国を禁止する」と宣言した。データベースについては、示唆と否定を繰り返している。
Andrew Renneisen / Getty Images
だからビデオのエグゼクティブ・プロデューサーを務めた歌手ケイティ・ペリーさんは「歴史は繰り返しているのだろうか・・・?」とツイートした。
Chip Somodevilla / Getty Images
ビデオを制作したのは映画監督のアヤ・タニムラさんとティム・ナカシさんだ。日本人とオーストラリア人の血を引くタニムラさんはワシントンポストの取材に、ビデオを配信して数日間で、ビデオメッセージに感謝する声と、強制収容所とトランプ氏の反イスラム発言を結びつけるのを疑問視する声の両方があったと答えている。
そのタニムラさんは、こうツイートした。
「芸術的で、感情に訴え、リアルで誠実な声を上げるという唯一の目標のもと、わたしたちは一つに集まりました。現在の政治環境下で、人々の間に議論を巻き起こし、結束することの大切さをはっきりさせるためです」
マンザナー強制収容所の跡地に建つ慰霊塔=2015年12月 Justin Sullivan / Getty Images
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