COLUMN:

2016年国産HIP HOP振り返り座談会(前編)

【メディアを中心にした“HIP HOPブーム”】

伊藤  毎年恒例の振り返り座談会。今年は、昨年と同じラインナップに加え、黎明期からシーンを見続け、現在も日本語ラップ・シーンをフォローし続けている荏開津広さんにも参加して頂きます。昨年の座談会と同様、シーンの大まかな傾向について語って頂くので、細々としたアーティスト単位での話は後半の個人チャートの項目でさせて頂きます。さて、2016年は“HIP HOPブーム”“ラップ・ブーム”という言葉を聞く機会が多かったし、そう捉えられる年だったと思います。特に一般メディア/マスメディア側から取り上げられることが多かったと思いますが、HIP HOPに内側から関わっている皆さんは、どう見えていましたか?

SEX山口  やっぱりブームだったと思いますね。TVを観ててラップに触れる機会が格段に増えたと思う。以前だったら、PUNPEE/ZEN-LA-ROCKのREDBULLのCMぐらいだったのが、今年は聴いたことのある声がかなり頻繁にメディアに流れるようなったし、その部分でもブームを感じましたね

DJ CELORY  ただ、現場レヴェルではどうだろう?

DJ NOBU  ブームを感じたかって言ったら……。

DJ CELORY  あまり感じないかな。イヴェントの性格による部分もあると思うけど。

DJ NOBU  だから、“HIP HOPブーム”というより“ラップ・ブーム”“MCバトル・ブーム”じゃないかな。

荏開津  僕は、美大で音楽の制作のクラスに関わってるんだけど、ほんの一部の先生にあった日本語ラップに対する態度が変わりましたね。日本語ラップっていうと、そういう人にはこれまでは“ネタ”みたいだったらしいけど — 本当に去年ぐらいまでは — 今年はガラッと変わって、ラップを揶揄するようなことは同じ人でも言わなくなった。他の仕事で会う、いわゆる社会のメインストリームで働いている女性も、ラップが好きになった人が多いという印象。『BAZOOKA!!!高校生RAP選手権』や『フリースタイルダンジョン』(以下『ダンジョン』)を通して好きになって、YouTubeなんかを駆使してもっと詳しくなっていってて。

高木  今年は、パッと思いつくだけでも『ユリイカ』『SWITCH』『サイゾー』『SPA!』という、非音楽メディアがHIP HOP特集を組んだり。僕としても、「今のラップ・ブームについて」みたいなオーダーが増えましたね。ただ、特集を組むぐらいちゃんと意識があるメディアは別ですが、「どうもラップが流行ってるらしい」ぐらいのメディアだと、「HIP HOPについて」だったはずが、結局内容としては「ラップ/MCバトルについて」だったりするんですよね。「今、無理矢理ラップさせられる“フリスタ・ハラスメント”があるようですが、どう思います?」みたいに、知らんわそんなん!みたいなオファーがあったり……と思ったら、忘年会でラップ・バトルをやる会社の話を聞いて戦慄しました(笑)。僕はバトルには詳しくないから、正社員君とかの連絡先を教えてしまうことが多いんだけど。

MC正社員  それも含めて、取材がメッチャ増えましたね。そして、今年は分かりやすいぐらい、自分の周りの人間がメッチャ優しくなったっす。

伊藤  特にどこらへんが?

MC正社員  親ですね。

DJ CELORY  大事だね(笑)。

MC正社員  今までは「『戦極MCバトル』で渋谷O-EASTを満員にした」って言っても反応なしって感じだったし、親戚からも「大丈夫なの?」って言われる感じだったのが、今年はみんな応援してくれるモードになってて。父親に、僕の運営する『株式会社戦極MCバトル』関係の荷物の郵送を頼んだとき、送り主欄に『戦極MCバトル』って書いたら、郵便局の係員が「え!もしかしてMC正社員さんのお父さんですか!」って。そこから更に優しくなりました(笑)。それから、昔の会社の人間が応援してくれたり、昔の友達がFacebookで連絡してきたり。

高木  宝くじ当てたみたいな感じっぽいね(笑)。

伊藤  この中で、このブームの恩恵を最も受けてるのは正社員君なのかな。
 
 

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