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あなたも作家に 小説投稿サイトの魅力は

「小説投稿サイト」を使ったこと、ありますか?インターネット上で誰でも自由に小説を投稿したり、読んだりすることができるサービスのことです。最近は、このサイトから数多くのヒット作が生まれ、人気を集めています。サイトに載った作品は「WEB小説」と呼ばれ、出版社にとっては新たなビジネスチャンスにもなっています。小説投稿サイトの人気の秘密を取材しました。

誰もが投稿 小説投稿サイトが花盛り

小説をインターネットで公開する小説投稿サイト。2000年代に流行した携帯電話で読む、いわゆる「ケータイ小説」も、こうしたサイトから生まれた作品です。
ケータイ小説からは、「恋空」や「赤い糸」といった作品が書籍や映画になり、若い女性を中心に人気を集めました。

その後、インターネットが普及し、スマートフォンの利用者も増えると、これまで以上に、簡単に小説を書いたり読んだりすることができるようになり、次々と新たなサイトが登場しました。

当初は恋愛ものやファンタジー作品などが多く投稿されていましたが、今では一般文芸書と一緒に並べられる作品も増えています。こうしたサイトは100を超えると言われ、まさに小説投稿サイト花盛りの時代になっています。

月に4万人が投稿 月間の読者数14億のサイトも

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なかでも最大の規模を誇るのが、大阪のヒナプロジェクトが運営する「小説家になろう」です。2004年の開設当初は個人の運営でしたが、SFやファンタジー小説が人気を集め、現在は月に4万人を超える人が小説を投稿。作品を読むためにサイトを訪れる読者らの月間アクセス数は、実に14億に上っています。

また、DeNAとドコモが出資して2010年に開設した「エブリスタ」は、投稿は無料ですが、小説を公開する際に1話につき40〜120円の値段を設定し、有料で読んでもらうこともできます。人気作家の中には、多い時で月に100万円以上の収入を得るケースも出てきています。

サイトに投稿された作品は、通勤や通学の間やちょっとした空き時間にスマホなどで手軽に読めることから、ツイッターには、「WEB小説を読みすぎだ 気づいたら4時間も経っている」「WEB小説は止められない」「休日、ひたすらWEB小説を読み続けて80万文字」などと、投稿サイトにはまっている人の書き込みが多く見られます。

エブリスタの芹川太郎取締役は「サイトには多くのジャンルで内容も多彩な作品が非常に多く載っているので、誰でも自分が読みたいと思える作品に出会うチャンスがあります。また、書き手にとっては、知り合いでもない人から、ツイッターやフェイスブックの『いいね!』ボタンのように、自分の文章や作品について反応がもらえるのが、非常に大きな魅力になっていて、趣味で文章を書いていたけれど、発表する場所がなかったという多くの人の受け皿になっています」と話しています。

ベストセラー書籍やコミック化による大ヒットも

WEB小説が書籍として出版されベストセラーになるケースも数多く出てきています。

2016年の本屋大賞で2位に選ばれた住野よるさんの「君の膵臓をたべたい」もその一つで、2015年に書籍化されてから、発行部数は70万部を超え、映画化も決まっています。

また、WEB小説はマンガやアニメに展開される作品が多いのも特徴で、金沢伸明さんの「王様ゲーム」は、コミックも合わせるとおよそ800万部の大ヒットとなりました。

主婦から作家デビュー ネットの反応が励みに

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小説投稿サイトに実際に投稿している人の多くは、学生や主婦、会社員などです。

小説投稿サイトをきっかけに作家デビューを果たした望月麻衣さん(41)。
「お嬢様・綾小路美優さんのヒミツ!」や、シリーズの発行部数が35万部を超える「京都寺町三条のホームズ」などで知られる人気作家ですが、投稿サイトに出会うまでは、ごく普通の主婦でした。

小学生のころに赤川次郎さんの「三毛猫ホームズ」を読んで、小説家を夢見るようになったという望月さん。
高校生の時には雑誌社の新人賞に応募したこともありましたが、「全然かすりもしなかった」と言うことで、一度は夢を諦めていました。

その後、結婚して主婦業に専念するようになり、家事や子育てのすきま時間に少しずつ小説を書くようになりました。そして、7年ほど前から友人に教えられた投稿サイトへの投稿を始めます。

「最初はただ、読んでもらいたいという気持ちでした」(望月さん)

投稿サイトでは、ほかの投稿者や読者と交流ができるのも特徴です。
望月さんは、サイトを通して知り合った投稿仲間たちが、次々と出版社から声がかかるなどして作家デビューするようになり、自分だけ取り残されていくような感覚を持ったと言いますが、投稿した作品を読んだ人から寄せられた「面白かった」、「続きが楽しみ」といった反応が励みになり、ほぼ毎日、作品の更新を続けてきました。

そして、2013年。投稿サイト主催のコンテストで受賞し、書籍化が決まりました。

「小説投稿サイトに出会うことで、一度は諦めていた夢がかないました。ネットで文章を公開することで、自分の隠れていた才能が引き出されることもあると思います。今では、読んでくれる人たちから、みこしに担がれているような感覚で書いています」(望月さん)

厳しい出版業界事情 確実に“売れる”WEB小説は希望 

書き手にとっては、作家デビューへのチャレンジの場となっている投稿サイトですが、出版社にとってもメリットがあります。

出版科学研究所によると、紙の出版物の推定販売額は、2015年が1兆5220億円で、ピークの1996年に比べると1兆円以上減りました。
このうち、小説などを含む書籍は7419億円と、ピークの1996年から3500億円余り減少していて、出版業界の市場規模は縮小を続けています。

こうした中、出版点数や売り上げを伸ばしているのが小説投稿サイトなどから生まれるWEB小説です。

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10年ほど前から投稿作品の書籍化に積極的に取り組んでいる双葉社は、WEB小説の中でもライトノベルの専門レーベルを立ち上げました。

その狙いについて、双葉社第二コミック出版部の宮澤震編集長は、「ウェブで人気がある作品は、内容からタイトルまで完成されていて、読者からも支持を集めているので、ある程度の実売率が見込める」と話します。
つまり、すでに読者がついているWEB小説は、大コケする可能性が低く、一定の売り上げが期待できるのです。
また、作品自体についても「編集者では思いつかないような作品が多い」と高く評価しています。

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双葉社はWEB発のライトノベルの新刊を毎月6冊程出していて、宮澤さんは、「雑誌の売り上げが落ち込んでいる中で、雑誌に代わって毎週、毎月に決まった点数を出版できて、きちんと稼ぎを出せるという意味で重要なコンテンツになっている。出版界全体を見ても、唯一希望が持てるジャンルだと思う」と話します。

大手出版社も「投稿サイト」を開設 “売れる書き手を発掘”

大手の出版社にも、小説投稿サイトの可能性に目をつけるところも出てきています。

KADOKAWAは、はてなと共同で小説投稿サイト、「カクヨム」を2016年2月に開設。
これまでも、グループ内には若い女性向けの作品が多く投稿される「魔法のiらんど」というサービスを持っていましたが、新たなサイトでより多くの人向けに作品を提供しようという狙いです。

自前で小説投稿サイトを運営するメリットは書き手の確保にもあります。

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KADOKAWAエンタテインメントノベル局の三坂泰二局長は「新しいコンテンツが生まれた時に、書き手にいち早く書籍化のオファーが出すことができる」と話します。

また、社内にさまざまなジャンルに特化したレーベルなどがあるため、あらゆるジャンルの書籍を出版することができるのも大手の強みです。
開設から10か月で、投稿者は1万5000人を、作品数は3万4500点を超えました。

三坂局長は「短期的には書籍化で収益を上げることが目的だが、将来的には日本中の書きものを集めて、あらゆるものがここで読むことができるように、そして、そこから派生するユニークで新しいものをどんどん書籍化していきたい」と話しています。

WEBと書籍の連携が文学の世界を深める

WEB小説に詳しい、ライターの飯田一史さんは、WEB小説は出版業界にとって大きなチャンスだと指摘します。

「WEB小説の登場によって、ニッチなテーマの作品でも一定のニーズがあることが可視化されるようになった。それによって、例えば20代の女性向けの恋愛作品など、世代や性別ごとにターゲットを細分化して、その人たちに”届く”本を出すことで、部数はそれほど多くなくても、コンスタントに売り上げることができるようになった」と話します。

また、書き手にとってのメリットについて、「小説家になれたとしても、出版社から『一般向けの作品を書いてほしい』と言われると、その作家の個性が死んでしまうこともある。しかし、WEBで人気が出て、ある層に売れるということがわかれば、その人が本当に書きたいと思う作品を書き続けることができる。今後、WEBと本が、より関係を深め、お互いに発展していくようになると思う」と話しています。

小説といえば、一昔前は出版社の新人賞でデビュー、文芸雑誌に掲載された作品が単行本で出版されるという流れが通常でしたが、小説投稿サイトの登場でその流れは大きく変化し、誰もが書き手になれる時代となりました。

実際に多くの人がそのチャンスをものにして、作家デビューするようになったことは、文学のすそ野を広げるという意味でいいことだと思います。
いつの日か、WEB小説から日本を代表するような作家が誕生する日がくるかもしれません。

管野彰彦
ネット報道部
管野彰彦 記者