「家族を大切にしてる男の人って素敵」「親を大事にしない人は最低」と言う女性は多い。「親への態度は未来の奥さんへの態度だ」という考えは世間にかなり浸透しているし、今の家族(親)を大事にできない人は自分で作った家族も大事にできるはずがない、というのが一般論なのだと思う。
私はこの件について、何を言ってるんだろうこの人たちは、と常に思っていた。
私は、結婚相手は絶対に親を大事にしない人がいいし、親をないがしろにする人が好みの男性のタイプだ。
親を大事にする人は、親しか大事にしない人
そもそも、どんな計算の仕方をしたら、「親への態度は未来の奥さんへの態度だ」という理屈になるんだろう、と思う。
親を大事にする人は、親しか大事にしない人だ。だって、親を大事にする、ということは、奥さんは後回しになるということだし、親を大事にした上で、余った時間やお金しかコチラには使ってくれない男の人、ということだ。
でも、そんなのは当然だ。精一杯に何かを大事にしようと思ったら、普通に考えて他まで手が回らない。人の身体は1人1つしかない以上、使える時間は限られていて、稼げるお金も個人個人ある程度決まっていて、つまり、超大事にしようと思ったら、大事にできる相手なんて、1枠までだ、と思う。
よほどの有能な人なら話は少し変わるけれど(すごく生産性が高くて、その結果として稼働時間が極端に短くて、ほぼ休みみたいな生活で高収入であれば、持ち時間と使えるお金が大幅に変わるから、大事にできる枠は増えるかもしれない)、普通の人であれば、その人のキャパで大事にできるのは、1枠が限度だ。
親を大事にする人は、親しか大事にできない。実力の問題として、2枠も幸せにする力を持っていないのだから。
子どもが親へ恩返しする必要なんてない
それに、そもそも論として、子どもが親を大事にする必要などない。
親は自分の意志で子どもを産む。「自分の子どもに会ってみたい」だとか「この人との子どもを作りたい」だとか「孫の顔を見せてあげたい」だとか「この子に兄弟を作ってあげたい」だとか、完全に、そっち側の都合だけで、新しい命を作っては産む。子作りというのは、少しも生まれてくる子のためではなく、100%自分(たち)のためにすることであり、自分たちの趣味に巻きこむ形で子どもを産む。
だから、全ての人は、生まれてきた時点で役目を果たしていて、生きてるだけで親からは大感謝される存在であり、育ててもらうのは当然で(そっちの都合で勝手に産んだのだから)、ここまで大きくするのにどれだけ手間暇がかかっていようが、特に恩返しが必要になってくるような関係性では一切ない。
世の中には「育ててもらって感謝しなさい」「大人になったら親孝行をするべき」というスタンスのバカ親がたくさんいるけれど、「いや、そっちが私に会いたくて、この世に呼んだんだよね」「このポジションに誰かいて欲しいから作ったんだよね」「そっちの趣味に、こちらは、付き合わされたんだよね?」という、その経緯の部分を見落とされても困るし、「ここまで育ててやった」だなんて、どんな言いがかりだよ、という話。
そもそも、育てる作業がしたいから作ってるわけで、そんな我が子が大きくなったら「長い間、育てさせてくれてありがとう。すごく楽しかった。巣立っちゃうの寂しい。ずっと育てたい」と思うのが筋なのでは、とも思うし、全ての親は「自分の子ども」役を担ってくれた我が子に感謝をするべきで「ここまで育ててやったんだから、今度は面倒を見なさいよ」なんて、当たり屋さながらにタチが悪い。
大前提として、親は子どもをアテにしてはいけないし、子どもは親の面倒を見る義務を背負ってはいない。そういう関係値じゃないでしょ、と思う。
親への態度と自分の女への態度は反比例する
それは置いておいても、親への態度は未来の奥さんへの態度、というのは、どんな勘違いなのだろうと思う。そこの部分が比例している男性を、そもそも見たことがない。そこはむしろ、親を大事にする分だけ、そっちに持ってかれるシステムに見える。10の大事にできる力があったとして、お母さんを大切にする人は、「8をお母さん、2を奥さん」とかになるから、親を大切にするレベルが高いほど奥さんにはヒドい態度になっている。
これはイメージではなく、具体的に多くの男性を側で見てきた結果のデータとして、そう思っている。お父さん、弟、親戚、元カレ、男友達、知人男性、誰の女関係を覗いても、親への態度と自分の女への態度は反比例している。親にしてあげた分だけ、女にはしてあげられなくなっている。
凡人の器で大事にできるのは1枠しかないのだ、ということを踏まえると、全ての人は、自分で選んだ結婚相手(と自分がこの世に招いた子ども)のことをとにかく大事にするべきだ、と思う。(親に関しては、むしろ自分が選ばれた側なので、とことん頼って甘えていいし、大事にしてもらい続ければいい間柄と言える。)
親よりも私の気分を優先してくれた旦那さん
旦那さんは、自分の親に結婚の許可を取るよりも前に、結婚式の日取りを決めてしまった。
結婚式場の見学に行った日、まだ彼のご両親に許可取りもできていない状況だったので、私としては「結婚式とはどんな感じなのかをだいたい把握するための見学の巻」というつもりでいたのだけど、「でも、美咲ちゃん、ここ気に入った感じだよね? 今日決めないと年内は取れないと思うし、うちの親のことは、どうにでもするから気にしなくていいよ」と言い切って、親への筋よりも、私の気分を優先して、彼はその日に式場と契約していた。
そもそも、結婚の許可取りが遅れていた理由は、彼が両親から借金をしていたことだった。プロポーズから3日目に結婚の挨拶へ行った際、その話が出て「美咲ちゃんとの結婚を反対してるわけじゃなくて、お前がまだ結婚できるような男じゃないだろ。まず、俺たちに借りてる金を返してからにしろ。そんなだらしないままで、結婚とか言ってるんじゃねえ。こんな息子のままじゃ、俺たちは、自信を持って美咲ちゃんの親御さんにご挨拶に行けない。まず、お前はしっかりしろ。その後、もう一度、2人で挨拶に来なさい」ということで、まとまっていた。
私としても結婚と同時に本を出版する計画があったため、まだ執筆から発売までの仕込み期間があるから「じゃ、その両親からの条件に関しては、発売日まで片付けといてね」と話していて、それから半年以上が経過していたので、こまめに返済しているものだと思っていた。
式場で契約書にサインをする段階になった時に、そういえばと思い「ていうか、あの借金は、返したの?」と、はじめて訊いた。すると彼は「いや、全く」と、少しも気にしていない様子で答え、「そんなのいいっしょ」と言い切った。
普通の男の人なら「まずは親に借金を返さなくちゃいけないから」と、仮に入籍は強行したとしても、結婚式とか結婚指輪のような贅沢品は「ちょっと待ってて。まず、親に対してやることをやってからにしたいから」と後回しになりそうなものだけど、彼は、給料が入るたび「美咲ちゃん、婚約指輪を買いに行こー」「美咲ちゃん、結婚指輪を買いに行こー」と、私との結婚を楽しい思い出にすることを優先していた。
「約束守らなくてごめんなさい。でも、結婚させてください」
「親への借金なんかいつでもいいけど、美咲ちゃんとの結婚にまつわることは今やるべきでしょ」というスタンスだった。(彼は私ほど「親は子にしてやって当然なのだから、貸し借りという概念を持ちこむこと自体がおかしい。全部あげるべき。返せって何?」という価値観ではないので、一生返す気がないというよりは、お金が余った時でいいっしょ、結婚して出世して余裕ができてからでいいっしょ、と考えているように見受けられる。)
そして「でも、もう結婚式の日取り決めちゃったし。内金払っちゃったし。美咲ちゃんの本発売しちゃうし。約束守らなくてごめんなさい。でも、結婚させてください」という、両親への筋を一切通さずの、先に既成事実を作り、なし崩しで許可を出させるような形で入籍した今も、「美咲ちゃん、ボーナス入ったよ。何が欲しい?」と、一向に借金を返す気配はなく、私のことを最優先している。
良い息子は別に良い旦那にならない(むしろ、なれない)と思うし、親の言うことを全然聞かないバカ息子の方が自分の女を大事にする良い旦那になると思うけどな、という価値観は、前々から私の中にあったものだけど、彼との結婚を通して、よりそう思っている。
だけど。
それでも彼は、結婚披露宴において、男性としては珍しく両親への手紙を読んでいて、泣きながらお母さんに「俺は一生お母さんっ子です」と伝えていて、両親のことが大好きだと普段から照れもせず言っているし、とても大事なんだと思う。
育ててもらった恩返しをしようなんて思ったことがないし、子どもは親に対して頼る甘えるの一方通行でいい存在だ、という価値観で私は生きているけれど、大好きだから、喜ぶ顔が見たいし不幸な姿は見たくないから、私たちの両親に何かあった時にはいくらでも何か手配をしたいと思うし、それができる力のある人になりたいと私は常々思っている。責任ではなく、愛情として。
(なので、何も起きないように、しっかりと生きて欲しいと願う。子どもに迷惑かけないよう人生設計をするのは親の責任。)
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