ブルームバーグの記者、ケリー・ガイガーがドイツ銀行(ティッカーシンボル:DB)とドナルド・トランプの親密な顧客関係について記事を書き、それが話題になっています。

ドイツ銀行は1998年以降、ドナルド・トランプの会社と融資関係があります。

当時ドイツ銀行の不動産関連融資担当者だったマイク・オフィットはトランプが買収し、改装しようとしている「40 Wall Street」ビルへの1.25億ドルの融資を決めます。

当時トランプは自分の経営していたカジノや航空会社「トランプ・シャトル」が次々に経営危機に瀕し、銀行からソッポを向かれていました。どん底のトランプをみて「この男は復活するかもしれない」と思ったのがドイツ銀行というわけです。

ところで「40 Wall Street」は、歴史的価値のあるアール・デコ建築で、日本人建築家松井保生が社長を務めていたF.H.デューイ建築事務所の設計です。

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(出典:ウィキペディア)

1920年代、マンハッタンは『グレート・ギャツビー』に描かれたようなブームを謳歌しており、摩天楼の建設競争が繰り広げられていました。「40 Wall Street」は1913年に建てられたウールワース・ビルティングを抜き、1930年の4月から5月27日までの間、「世界で最も高いビル」でした。その高さは293メートル、72階建てです。

しかし同時期に建設中で、「40 Wall Street」と高さを競っていたクライスラー・ビルディングがその頂点にクルマのラジエーターの形をしたステンレス・スチール製の尖塔を乗っけたので抜かれてしまったという逸話があります。

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(出典:ウィキペディア)

その後、マイク・オフィットはドイツ銀行を退社したのでエリック・シュワルツがドナルド・トランプの担当になります。「Trump World Tower」はドイツ銀行が融資した案件です。この他、ドイツ銀行はドナルド・トランプに数々の案件で融資していますが、最近ではホワイトハウスのすぐ目と鼻の先にある「トランプ・インターナショナル・ホテル」への融資を行っています。

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(出典:ウィキペディア)

ドイツ銀行はリーマンショックの際に住宅抵当証券の販売を巡って米国の司法省から罰金を科せられており、その最終的な値段を交渉中です。司法省が最初に提示した金額は140億ドルですが、たぶん最終的には減額される見込みです。

上に書いたようなドイツ銀行のドナルド・トランプに対する一連の融資は、トランプが大統領に当選するずっと以前に実行されたものであり、融資の内容も物件を担保としたストレートなものとなっており、変則的ではありません。つまり不適切な部分は無いのです。

ただドイツ銀行の将来は司法省からの罰金の金額によりある程度左右される可能性があり、そのドイツ銀行が大統領と親密な関係にある(=実際にはトランプのビジネスは長女イヴァンカに移されます)ので、「手心が加えられるのではないか?」と勘繰られても仕方ありません。

なお1月20日が大統領就任式ですので、その前に司法省との示談が成立すれば、「痛くもない腹を探られる」心配はありません。