去る2016年12月1日、その年、ユーザーにもっとも支持された製品を選出する「価格.comプロダクトアワード2016」の結果が発表された。本企画では、当アワードにて、各カテゴリーごとの賞を受賞した製品に着目。その製品のどういった部分がユーザーから高く支持されたのか、その理由を綿密に探りつつ、今年2016年のトレンドを振り返っていく。第3回は「カメラ編」だ(計5回連載)。
全般的に、実用的な質実剛健系の製品が多く大賞に輝いた今回のプロダクトアワードの中で、もっともサプライズが大きかったのが、この「カメラ部門」である。「デジタル一眼カメラ」「デジタルカメラ」そして「レンズ」の3カテゴリーで金賞を受賞したのは、すべて富士フイルムの製品。そして、プロダクト大賞には、同社のフラッグシップカメラである「FUJIFILM X-Pro2」が選出されている。この結果は、正直、誰も予想しなかったのではないだろうか。
富士フイルム「FUJIFILM X-Pro2」
受賞した各製品の特徴を解説する前に、今年2016年のカメラ市場全体の状況を振り返ってみたい。今年2016年のカメラ市場をひと言で総括するなら「ただただ低調な1年」ということになるだろうか。ここ数年、カメラ市場ではあまり大きな技術革新がなく、性能向上も頭打ちという状況が続いているが、ついに今年2016年はその流れが顕著になり、発売された新モデルの数も比較的少ない1年ということになってしまった。もちろん、2月に行われた「フォトキナ2016」では、いくつかの注目すべきプロダクトが発表され、それなりの期待を抱かせたのだが、4月に発生した熊本地震の影響で、カメラの心臓部であるセンサー類の出荷が止まったこともあり、今年後半はあまりこれといったプロダクトが出ずに終わってしまった。その結果として、今回カメラ本体で受賞した製品は、すべて上半期に発売されたモデルとなっている。
そうしたやや停滞感が漂うカメラ市場にあって、特異な存在として目立ったのが、「デジタル一眼カメラ」カテゴリーで金賞を受賞した富士フイルムの「FUJIFILM X-Pro2」であった。富士フイルムは、この市場ではむしろマイナーな存在であるが、フィルムメーカーらしい発色のいい絵作りと、作品として楽しめる「フィルムシミュレーション機能」で、一部ファンからは根強い人気を持つ。そのフラッグシップ機として登場した「FUJIFILM X-Pro2」は、従来やや苦手としていたAF機能や連射機能を大幅にブラッシュアップし、誰にでも使いやすいカメラとなったことで、ユーザーの間口を大きく広げた。二大メーカーであるキヤノンやニコンに、あまり大きな動きがなかったこともあって、これらのメーカーのカメラファンが購入するケースも多々見られたが、そうしたユーザーの中にも、本機の持つ、本来のカメラとしての面白さなどに魅せられた人が多く、さまざまなバックボーンを持つユーザーから高い支持を得た形だ。なお、「レンズ」カテゴリーでも、本製品と組み合わせて最適に使える「フジノンレンズ XF35mmF2 R WR」が金賞を受賞しているが、こちらも受賞の理由は、本機と組み合わせて使うことで、非常に便利ということに尽きるだろう。
富士フイルム「フジノンレンズ XF35mmF2 R WR」
なお、同カテゴリーで銀賞を受賞したペンタックス(リコー)の「PENTAX K-1」も、受賞の理由は似通っている。本製品も、ペンタックスとしては初となる35mmフルサイズのデジタル一眼レフカメラであり、ペンタックスファンからはかなり期待の高かった製品だ。実際の完成度も高く、本製品の登場を心待ちにしていたファン層はもちろんのこと、フルサイズ機としては比較的値ごろ感のある価格設定や、強力なボディ内蔵式手ぶれ補正機能などの影響もあって、他のカメラメーカーのファン層も取り込んでの人気となった。いずれの場合も、市場ではマイナーな存在のブランドのフラッグシップ機の受賞という意味で似通っているが、逆に言えば、それだけカメラ市場全体の低調さが浮かび上がる結果ともいえる。
ペンタックス(リコー)「PENTAX K-1」
ちなみに銅賞となったニコン「D500」は、本来は今年の本命カメラと目されていた製品である。APS-Cクラスの新フラッグシップとして登場した「D500」は、手ごろなサイズ感と、ニコンならではの高速かつ正確なAF、10コマ/秒の連射機能などで人気を博し、発売当初は品薄になったほどの人気を集めた。もちろん完成度も高く、ユーザーの満足度も高かったのだが、金賞、銀賞の製品に一歩及ばずという結果になった。
ニコン「D500」
富士フイルム「FUJIFILM X70」
いっぽう「デジタルカメラ」カテゴリーでは、従来からの高級路線は変わらないものの、性能面、特に、1インチセンサーや、APS-Cセンサーなどサイズの大きなイメージセンサーを搭載した高級機に人気が集まった。金賞を受賞した富士フイルムの「FUJIFILM X70」は、APS-Cサイズの大型センサーを搭載しながらも、ポケットに入るほどのコンパクトさを実現。クラシックカメラ然としたデザインも好評で、「デジタル一眼カメラ」カテゴリーで金賞を受賞した「FUJIFILM X-Pro2 」同様、独特の発色のよさに加え、AF性能などが大幅にアップしたことから「究極のスナップシューター」として、多くのユーザーの高評価を勝ち得た。
ソニー「サイバーショット DSC-RX10M3」
銀賞のソニー「サイバーショット DSC-RX10M3」は1インチという2100万画素の大型センサーと、光学25倍という高倍率ズーム機能が人気。ある意味、これ1台あればなんでも対応できるというユーティリティーのよさと、ソニーならではの画質のよさが評価された。また、銅賞のキヤノン「PowerShot G7 X Mark II」も、同様に1インチの2090万画素センサーを搭載するコンパクトカメラ。高い機動力と、定評のある写りのよさで、ユーザーから高い満足度を得ている人気シリーズの最新モデルだが、順当な形で高い評価を得た。
キヤノン「PowerShot G7 X Mark II」
ソニー「FDR-AX55」
「ビデオカメラ」カテゴリーでは、金賞と銅賞の2製品が「4Kカメラ」という結果になり、フルHDから4Kへのシフトが確実に進んでいることを印象づけた。金賞受賞のソニー「FDR-AX55」は、同社の「4Kハンディカム」シリーズの中でも最上位モデルにあたる製品。価格は10万円超と高めだが、ソニーが得意とする新開発センサー「Exmor R CMOSセンサー」を搭載し、こちらも新開発の「ZEISS バリオゾナーT*」レンズと組み合わせることで、4Kの高解像度を生かした高画質を実現。さらに、ソニー独自の「空間光学手ブレ補正」が非常に強力で、こちらも高い評価を得ている。現状手に入る4Kビデオカメラとしては、ほぼ最高峰の機能を備えているとして評価の高い製品だ。
パナソニック「HC-VX980M」
いっぽう、銅賞を受賞したパナソニック「HC-VX980M」は、小型・軽量で、比較的値ごろな価格をつけた4Kビデオカメラのエントリーモデルだ。目指す方向としては、上記「FDR-AX55」とは異なり、4Kビデオカメラの裾野を広げるための製品であるが、やはり4Kの高画質をこの価格(価格.com最安価格:54,799円。2016年12月20日時点)で実現しているという点は評価が高く、エントリーモデルとしての出来のよさと、携帯性の高さが評価されての選出となった。
価格.comの編集統括を務める総編集長。パソコン、家電、業界動向など、全般に詳しい。人呼んで「価格.comのご意見番」。自称「イタリア人」。