2016年10月25日

ジェネラリスト偏重によって国際競争力を下げ続ける日本と、その対策

電通の過労死問題を機にちょっとだけ盛り上がっている労働問題だが、いつも言っているようにほとんどの人が本質に切り込めず、また分かってはいても言及できずにいる。だいたい、ちょっと思いついて語る意見、いわゆるjust ideaに傾聴する価値があるものが多いはずがない。

そんな中、以下のコンテンツは、一年前に発表されているのだが、かなり良くまとまっている。

日本人はなぜ学力が高いのに生産性は低いのか
https://www.nagaitoshiya.com/ja/2015/japanese-labor-productivity-levels/

ただ、ところどころで言葉が足りない感じがするので、「この視点が欲しかった」ということを書いておきたい。それは、社会で求められている人材の質がジェネラリストからスペシャリストへと変移しつつある中、日本は相変わらずジェネラリストの育成に終始している点である。

例えば、生物系研究者のキャリアを見てみても、若いうちはテクニカルスタッフのような働きを任され、やがて自分で研究するようになり、そしてマネージメントや教育へと立ち位置が変わっていく。研究という意味では一本軸が通っているのだが、「技術者」、「研究者」、「教育者」あるいは「管理者」と役割が変わっていき、同時にそれに求められるものは「労働力」、「思考力」、「指導力」あるいは「政治力」と変わっていく。日本ではテクニシャンの評価が非常に低いので、ほとんどの人が研究者を目指すのだが、精力的に研究できる期間は結構短くて、偉くなっても研究室のマネージメントに忙殺される、という話も珍しくない。日本が特異的なのは、このキャリアパスをほぼ全員に適用する点である。つまり、生涯テクニシャンとか、研究一本で教育にはノータッチといったスペシャリストのキャリアパスがほとんど存在しない。理研時代に榊さん、林崎さん、横山さんという三人のプロジェクトリーダーたちをそばで見てきたけれど、彼らが試験管を持つところを見たことがなかった。プロジェクトリーダーとは、お金を取ってきて、研究者たちを差配するだけの存在だった。おそらく、この先、彼らが試験管を手にすることはないだろう。

全ての研究者たちがこういったキャリアパスを希望しているなら構わないのだが、生涯技術だけに特化したいとか、教育に専念したいというタイプも当然存在するはずで、そういう人がスペシャリストに育つはずなのに、実際はジェネラリストばかりが量産されている。

実はこれは終身雇用、年功序列の日本社会にはとてもフィットした手法だった。ジェネラリストなら、いつ、どんな配置転換があっても、すぐに適応できる。誰かが死んだとか、誰かが退職したという事態に簡単に対応できる。草野球チームでみんなが全てのポジションをこなせるなら、ピッチャーが急用で参加できなくなっても、誰かが代わりにピッチャーをやれば良い。

ところが、時代は変わり、各人に要求されるスキルのレベルがアップした。草野球なら良かったけれど、プロ野球だと、付け焼き刃のピッチャーなど通用しない。どのポジションにも相応のスペシャリストが必要になってくる。そうしたとき、ジェネラリスト集団は決して一流になることができない。

では、一流のスペシャリストを揃えれば良いではないか、となるのだが、ここで障害になってくるのが「終身雇用」という制度である。よそのチームに凄く良い内野手がいるのに、自分のチームの内野手のクビを切れなければ、誰かを飼い殺しにする必要が出てくる。現実的にはそれは難しいので、優秀な選手の獲得を諦めざるを得なくなる。

あるいは、もっとドラスティックに、「野球は斜陽なので、みんなでサッカーやろうぜ」となった時にも、野球選手たちはお荷物になる。お荷物はクビにできたら良いのに、それができない。

こうした事態の具体例がカネボウである。繊維産業はすっかり斜陽で全く採算が取れなくなってしまった。せっかく化粧品部門が堅調なのに、トータルで見ると経営は悪化の一途。それでも大規模なリストラには踏み切れず、社内では対応不能に陥り、最終的には外部の協力を得て解体された。

労働者たちは、労働力の流動化そのものには反対しないのだが、それとセットで語られる解雇規制の緩和には非常にナーバスだ。そのせいで、日本の労働環境は一向に改善されず、企業の国際競争力は低下する一方である。解雇規制という目の前の毒を恐れて、結果的に自分の立っている地盤そのものが急速に弱体化していることから目を背けている。これは浸水が進んで沈没しそうな大型客船で、自分の部屋にだけは水が入ってこないように土嚢を積んでいるようなもので、事態は全く改善せず、むしろ死期を早めているだけである。そのことについてはOECDも再三勧告を出しているのだが、事態は一向に改善しない。世界経済フォーラムの2012年のリポートでは、社員の雇用・解雇のやりやすさに関するランキングでは、日本は144カ国中134位と最低レベルである。
出典:「アングル:道険しい安倍政権の雇用改革、際立つ日本の硬直性」
http://jp.reuters.com/article/l4n0fh2fk-angle-japan-employment-idJPTYE96B01G20130712?sp=true

こういうことを僕は10年ぐらいこのブログで書いてきているのだが、多分、10年後も日本は今のままの硬直した労働市場を維持しているだろう。それは、解雇規制の緩和を忌避する人たちが大勢いるのだから仕方がない。そこで、特に若い人に言っておきたいのは、職場は日本だけではないということだ。日本よりも環境の良い国は他にある。だから、「あっちの方が良いな」と思った時、それがきちんと選択肢になる必要がある。その時に要求されるのが英語力である。英語だけはちゃんと勉強しておくと良い。特に、リスニング能力は磨いておけ。英語ができないから日本を脱出できない、という事態だけは避けるべきだ。

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