(広島放送局 大石理恵記者)
結び目ないのが技
12月9日、日本の宇宙輸送船「こうのとり」の6号機を載せたH2Bロケットが鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。「こうのとり」は、地球の上空400キロ付近の国際宇宙ステーションに物資を補給する日本の無人の宇宙輸送船で、今回の6号機は、水や食料などの生活物資をはじめ、実験機器など、合わせておよそ6トン分の荷物を運びます。
今回の「こうのとり」で、国際宇宙ステーションの新たな主電源に採用された日本製のリチウムイオン電池が送り届けられるほか、宇宙エレベーターなど将来の夢の技術につなげる実験用の超小型衛星なども搭載されています。さらに、JAXA=宇宙航空研究開発機構は今回の「こうのとり」では、深刻化する「宇宙ごみ」を取り除くための実験を行います。
「宇宙ごみ」とは、地球の軌道を回っている役割を終えた人工衛星やロケットの破片などのことで、各国の人工衛星と衝突する危険性が増していて、国際的な課題となっています。
JAXAは、宇宙ごみを衛星でとらえ金属製のひもを取り付けて電流を流し、宇宙ごみを取り除く計画を立ち上げています。金属製のひもに電流を流すと、地球の磁場との作用で軌道を回っていた宇宙ごみを減速させる力が働き、宇宙ごみは衛星と一緒に地球の重力に引き寄せられ大気圏に突入して燃え尽きると考えているのです。今回の実験では、宇宙空間で700メートルの金属製のひもに電流を流し、実際に電気が流れるかなどを確認します。
この実験に使われるひもをJAXAと共同開発したのが広島県福山市で100年以上にわたって漁業用の網を製造している「日東製網」です。定置網や巻き網など1日5トンもの網を製造しています。
この会社で作る網の最大の特徴は結び目がないことです。ひもを結び合わせて網を作ると結び目に力が集中して破れやすくなります。この会社ではひもどうしをそれぞれの間に通して編み込むことによって、結び目をなくし、網の強度を3割ほど高めました。
網には凹凸がほとんどないため魚を傷つけにくく、潮の影響を受けにくいのも特徴です。網を編む際に結び目を作らないことで力が集中するのを防ぎ、強度を高めるという伝統の技術がJAXAの担当者の目にとまり、共同開発にこぎ着けました。
自前の製造技術が武器に
しかし、開発には一筋縄では行かない苦労もありました。
地球から宇宙まで運ぶものですから、軽さは欠かせない条件です。このため、直径1ミリという細さが求められましたが、それだけに機械で編む途中に切れやすいのが課題でした。開発担当の鈴木勝也さんは「既存の機械で編むと数メートルですぐ切れてしまうということが続いて、当初思っていたより難しいと感じた」と振り返ります。
そこで発揮されたのが、この会社の技術力でした。この会社は漁網の製造だけでなく、長年、製造する機械の開発も自社で行っていました。私が取材した福山市の工場でも自前の巨大な機械が何台も同時に稼働していました。パイプから次々にひもが送り出され、高速で漁網が編みこまれていくそのスピードと量に圧倒されるようでした。
この漁網用の機械を設計し直し、従来の6倍から7倍の時間をかけてゆっくりと精密に編む技術を新たに開発。これにより、軽さと強度の両方を兼ね備えた金属製のひもの製造が可能となったのです。自前で製造機械を開発するにはコストも人材もより多く必要ですが、独自の技術力を長年にわたって培ってきたことが、全く異なる分野に応用する際に生きた形となりました。
小林宏明社長は「海中であれ宇宙であれ、これまで継承してきた技術を使いたいという要望があるかぎり、挑戦していきたい」と意欲を話していました。
2020年代半ばの実用化目指す
このひもを使った技術は、燃料や大きな電力を使わずに宇宙ごみを処理できる有力な方法として期待されています。JAXAでは、この技術を2020年代半ばまでに実用化したいとしています。
100年以上にわたって日本の漁業を支えてきた伝統の網の技術が、宇宙ごみの除去という最先端の分野で生かされるのか。今後も注目していきたいと思います。
- 広島放送局
- 大石理恵 記者