各局で超大型音楽番組が拡大中
フジテレビも2011年の震災直後に音楽特別番組を放送している。そのアクションはとても早かった。
3月11日から2週間後の3月27日には、チャリティ番組『FNS音楽特別番組「上を向いて歩こう」─うたでひとつになろう日本─』がフジテレビ系列の全国各局とニッポン放送を介したAMラジオにて同時放送されている。
3時間の生放送に計27組のアーティストが出演した番組について、プロデューサーのきくち伸は『TV LIFE』誌の連載「KIKCHY FACTORY」にこう記している。
アーティストがツイッターでつぶやいてるよな言葉をもっと広くテレビで生で届けよう。今届けるべきうたを生で届けよう。これが岩手出身の私がテレビで音楽でできることと思い込んで。
(中略)
帰り際、エレベーターへ向かう廊下でのスガシカオさんの言葉 「うたうことよりも前に、先ずこの場に来る覚悟を問われた」
そう。音楽もテレビも、エンタティンメントは今、覚悟を問われてる。(『TV LIFE』2011年4月29日号)
スガシカオが言うように、まだ被災地の傷跡も生々しかった当時、テレビで歌をうたうことにはある種の覚悟が必要だっただろう。番組制作者側にとっても生半可な気持ちでやれるようなものではなかったはずだ。
が、振り返ると、やはり2011年はとても大きな一年となった。『音楽の日』も含め、震災後にどうアクションを起こしたかが、テレビと音楽の歴史における一つのターニングポイントになった。
(PHOTO: Getty Images)
そして同年8月6日、フジテレビは4時間強の特番『FNS歌謡祭 うたの夏まつり2011』を放送している。この年は収録による番組制作だったが、翌2012年の『FNSうたの夏まつり』では、代々木第一体育館を舞台に4時間強にわたる生放送となり、2015年まで同様のライブ形式が続く。
2013年には、日本テレビが『THE MUSIC DAY 音楽のちから』という生放送の大型音楽番組をスタートさせた。開局60年を記念した特別番組で、総合司会は嵐の櫻井翔。幕張メッセに巨大ステージを組んでのライブ中継で、放送時間はニュースなどの中断を挟みつつ合計12時間。2011年の『音楽の日』を大きく上回り、生放送の音楽番組の歴代最長記録を更新した。
さらに2014年6月には『テレ東音楽祭』(テレビ東京系)が、2015年9月には『ミュージックステーション ウルトラFES』(テレビ朝日系)が放送された。
結果、2016年は各局で超大型音楽番組が乱立する状況となった。7月には『THE MUSIC DAY 夏のはじまり。』『音楽の日』『FNSうたの夏まつり』と、10時間を超える大型音楽番組が毎週のように放送され、9月にはやはり10時間を超える『ミュージックステーション ウルトラFES』が放送された。
11月から年末にかけても大型音楽番組は目白押しだ。フジテレビ系列では『FNS歌謡祭』が、日本テレビ系列では『ベストヒット歌謡祭』『ベストアーティスト』が、テレビ朝日系列では『ミュージックステーション スーパーライブ』が昨年までの毎年の恒例となり、そして12月30日には『輝く! 日本レコード大賞』(TBS系)が放送される。
そして大晦日の恒例は『NHK紅白歌合戦』だ。かつての歌謡曲全盛期に比べて視聴率は落ちたとはいえ、それでも毎年40%前後の平均視聴率を叩き出し、ここ数年でもサッカーW杯中継以外では毎年の年間最高視聴率を記録する「国民的番組」となっている。
こうして見ると、夏、秋、そして年末と長時間の大型音楽番組が各局で放送されていることになる。プライムタイム(19〜23時)に放送されるレギュラーの音楽番組が減少する一方、10年代は各局で生放送の超大型音楽番組が拡大する時代となったのである。
フェス文化を取り入れて進化を遂げた
なぜ生放送の大型音楽番組が増えたのか?
東日本大震災だけがその理由ではない。もう一つのキーワードが「フェス」だ。
前述したように、00年代から10年代にかけては、ライブやコンサートの動員数が大きく伸びた時代だった。
中でも拡大したのが音楽フェスだ。90年代末以降、CDの売り上げが落ち込むのと入れ替わるように、フェスが本格的に定着していった。当初は若いロックファンが中心だったフェスの客層も、徐々にバラエティに富むものになっていった。
夏には全国各地で野外フェスが行われるようになり、フジロック、サマーソニック、ロック・イン・ジャパンなどの代表的なものだけでなく、2016年には年間を通して大小100以上の音楽フェスが開催されるようになった。
こうしたフェスと、生放送の大型音楽番組には、共通するポイントが多くある。
もちろん出演陣は大きく異なる。嵐やSMAPなどジャニーズ事務所所属のグループ、AKB48や関連グループ、EXILEや三代目J Soul BrothersなどLDH所属のグループはテレビの音楽番組の常連だが、多くのフェスにはこれらの面々は登場しない。演出や構成も異なる。
ただ、共通するのは、どちらもオーディエンスの間に「生の体験の共有」を軸にした参加型の盛り上がりが生まれる、ということだ。夏の野外フェスは、たいていが午前や昼頃から始まり、夜遅くまで続く。大きなものでは1日に数十組のアーティストが出演する。そのあいだ、オーディエンスは自分が観たライブをSNSで発信し、同じ場にいる人と感想を共有する。
生放送の音楽番組にもそういう特徴がある。ただテレビを観ているだけの人も多いが、スマホを片手にテレビを観る習慣が根付いた人は、SNSを通じた参加型の視聴行動を行うことが多い。
そういった人が、同じアーティストのファンをフォローし、互いにつながっていることも珍しくない。ツイッターのタイムラインには目当てのアーティストの出演時の感想が並び、家で一人テレビを観ながらにしてライブ感を疑似体験できる。そう考えると、生放送の音楽番組は、いわばテレビの中の音楽フェスになぞらえることができる。
何より番組側がフェスのムードをアピールしている。『ミュージックステーション』の10時間スペシャルが「ウルトラFES」というタイトルであるのが象徴的だ。たとえばこれらの番組が発表するプレスリリースを元にニュースサイトに掲載される「第一弾出演アーティスト発表」などの見出しも、フェスの告知の方法論を取り入れている。
つまり、音楽番組はフェス文化を取り入れることで進化したのである。
次回につづく!