一体、トランプ氏とはどんな人物で、どう向きあっていけばいいのか?。トランプ氏に会ったことのある国会議員などを取材すると、その手がかりが。政治部・加藤雄一郎記者、根本幸太郎記者、栗原岳史記者が取材しました。
慎重なビジネスマン 日本側に“作戦ミス”
ことし5月10日。参議院外交防衛委員会では、トランプ氏をめぐって、次のようなやり取りが交わされていました。
「トランプが大統領になる可能性も日々高くなっているので、トランプが日本との関係で、どのような発言をして、背景にどのような考えがあるのか、十分情報収集して、効果的な働きかけを準備しておくことが必要だ」。
「大統領選挙はまだ継続中なので、一候補者の発言について、何か具体的に申し上げることは控える」。
質問したのは、ことし夏まで参議院議員を務めた浜田和幸氏。答弁は岸田外務大臣です。浜田氏は、いち早く、「トランプ大統領」の実現可能性を指摘し、日本の外交姿勢に警鐘を鳴らしていました。背景には、10年ほど前にトランプ氏と会った経験がありました。
ーートランプ氏と会ったいきさつは?
10年ほど前でしたが、トランプ氏がリゾート開発事業を模索するため、日本を訪れた際に、私の日本人の知り合いの紹介で、東京で会いました。私は、日米間の金融問題に関する本を執筆中で、その取材対象として話を聴いたんです。極めてフランクで、いろんな話題について、自由に意見を交わしました。私もたくさんのアメリカのビジネスマンを見てきましたが、「新鮮な驚き」の連続だったことを覚えています。
ーー「新鮮な驚き」とは?
彼は、当時、アメリカのビジネス界で、不動産、リゾート、カジノの事業を展開し、「カジノ王」と称されていたので、相当、ギャンブル色の強い人だろうと思っていました。が、実際に会うと、「極めて慎重な人物」だなという驚きが、まずありました。投資家や、ビジネスマンとの接点を通じて、日本のことをよく研究している点にも驚きました。日本のすばらしいと思う部分と、ちょっと疑問に感じる部分をふまえ、事業で、どう「ウィンウィン」の関係を築けるかを考え、日本に乗り込んできたという印象でした。具体的なところで言うと、「日本人は、意見をまとめ、集団の力で正確にモノを作る」という強みの一方で、「決定に至るまでの時間がかかる」という弱みなど、日本人の特性を分析してみせていました。
ーー大統領選挙中の発言は「慎重なビジネスマン」とはほど遠い感じもするが?
人の気持ちをつかむときの、彼独特の常とう手段じゃないんですかね。違法移民などは、アメリカでも大きな問題になっています。国民がなんとなく抱えている不満を、「ヒスパニック系の移民を追っ払うんだ」などと、あえて過激な表現で口に出すことで吸収していく。実は「用意周到に練られた作戦」だったと思います。次期大統領に決まった後のトランプ氏のふるまいや言動を見ていると、決して悪くないと思います。70年間も生きて、ビジネスマンとしての長い経験もあるわけですから、実際には、そんなに極端な行動はとらないと思います。経済界での、“きったはった”の経験で培った嗅覚が、政界で生かされることを期待したいと思います。
ーー政府に、トランプ陣営の情報収集などを求めたが、その後の対応をどう見る?
クリントン氏優勢という下馬評だったので、外務省も、そちらがくみしやすいということだったんでしょう。安倍総理大臣は、大統領選挙の期間中に、アメリカ訪問時、クリントン氏とだけ会いましたが、いろんな可能性に目配りをしておくことが大事ではないかと思っていました。選挙後の安倍総理大臣とトランプ氏との会談は、起死回生の策なのかもしれませんが、次につながる話が出来たのかどうか。TPP協定の発効に向けた協力も話題になったと思いますが、会談直後に、トランプ氏が協定離脱の意向を表明しましたよね。安倍総理大臣のメンツをつぶした形で、一連の対応は、日本外交の作戦ミスだったと言えるでしょう。
目的を共有し データで説得を
公明党の岡本三成衆議院議員は、トランプ氏と、ビジネスをともにした経験があります。政界に入る前、アメリカの投資銀行「ゴールドマン・サックス」に勤めていた際、トランプ氏が手がけるホテル経営の資金調達を担当しました。また、新政権の財務長官に起用される、ムニューチン氏も、当時、「ゴールドマン・サックス」に在籍していたということです。岡本議員は、トランプ氏を、「データや数字を重視する有能な経営者」と評します。
ーートランプ氏とは、どんな仕事をしたのか?
議員になる前ですが、アメリカの投資銀行で働いていた15年ほど前、トランプ氏の不動産会社が取引関係にあり、プロジェクトを進めていました。私も、そのプロジェクトチームのメンバーとして、会議で一緒に話をしたことがあります。私は財務アドバイザーとして、トランプ氏が所有するホテルの運営にかかる資金の調達をする仕事を担っていました。トランプ氏は、当時、ビジネス界では、「スーパースター」でしたので、気持ちが高揚した記憶があります。
ーートランプ氏の印象は?
人の話をしっかり聞く人で、あいまいな点があれば率直に質問する、典型的なビジネスリーダーという印象でした。私が会った時は、事業の大成功も、倒産も経験された後です。社交辞令など表面的な言葉は、ほとんど聞き流していたようでしたね。おそらく、倒産したときに、自分の周りから人が去っていく経験もしたからでしょうか。本当に信用できるものと、信用できないものを見極めようという姿勢が強いと感じました。また、データや数字に関しては、すごく謙虚でしたね。経営者として判断を間違えないよう、徹底してこだわっていました。決断後に、それを発信する時のトランプ氏の物言いはごう慢と感じる人もいますが、決断までは謙虚に情報収集していたと思います。
ーー日本には厳しい姿勢も示すトランプ氏にどう対応すべきか?
大切なのは「目的の共有」だと思います。トランプ氏の絶対ぶれない目的は、「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」です。一見、独善のように見えますが、結びつきの強い日米双方が利益を得られる目的は見出せるはずです。また、先ほど言ったように、トランプ氏の「数字への謙虚さ」に注目すべきです。不動産事業は数字そのもので、数字に基づいて、認識が間違っていると感じれば修正するはずです。例えばトランプ氏が、「アメリカの雇用を、日本から取り戻す」と言っていましたが、一番アメリカ人を雇用しているのは日本企業です。そのデータを見せれば「一緒にやったほうがいい」と理解するはずです。また、在日アメリカ軍の駐留経費をめぐる発言も、「日本を守るためのものなのに、日本は75%しか経費を負担していない」との誤解に基づいていると思います。実際は、アジア・太平洋地域の安定に貢献し、アメリカ企業にも多大な利益があるということをデータで示せば、修正する可能性があると思います。
ーーTPP協定からの離脱に関しては、データで翻すことができる余地はないのでは?
残されていると思いたいですけどね…。恩恵のある協定なのに、相手側がネガティブなことを言ったので諦めるのは責任ある態度ではない。アメリカにも批准を促すアプローチを続けていくべきです。アメリカも、実際に離脱すれば、世界での信用力をものすごく落とす危険性がある。アメリカ中心に3年もの間、12カ国が議論してきたことを、大統領が変わった瞬間にご破算にしてしまうことは、アメリカ自身のためにもあってはいけないと思っています。
“セカンドトラック”と接点を
取材を進める中で、安倍総理大臣とトランプ氏の会談の実現に一役買ったという議員にも話を聞くことができました。自民党の阿達雅志参議院議員です。阿達議員は、アメリカの弁護士事務所や商社などでの勤務経験で培った、トランプ陣営の人脈につながるパイプをいかして情報を集め、官邸に届けたということです。
ーートランプ陣営の情報はどうやって収集したのか?
共和党の有力議員に人脈を持つ、かつての仕事仲間から、「トランプ氏は、政権移行チームづくりに向けて、しっかりした人を集め始めている。しかし、その中心メンバーは外に出さないよう箝口令を敷いている」という情報が入ってきていました。トランプ氏自身が、政治の世界ではアウトサイダーだったこともありますし、陣営の人脈は、通常の外交ルートでは知りにくかったと思います。そういう中で、どういう人がトランプ政権の重要なプレイヤーになるのかという情報を集めて、官邸とも共有させてもらったんです。その後、官邸がしっかり情報収集や分析を行って、安倍総理とトランプ氏の会談に向けて、非常に早い動きにつながった面もあると思います。
ーー「通常の外交ルートでは知りにくい」とは、具体的には?
トランプ氏は、政治家よりも、ビジネスの世界や弁護士などとの関係を、非常に大事にする人です。今までの外交官による、相手国の政府高官などとの、いわゆる「ファーストトラック」より、民間などの「セカンドトラック」との接点が重要だと思います。例えば、副大統領候補に指名されたペンス氏は、インディアナ州の知事ですが、ここは日本の企業が非常に多い。ペンス氏自身も、去年、来日して経団連で講演をしているんですが、それほど、日本の経済界とは深い関係を持っているということです。こういう接点をどう生かしていけるかだと思います。
また、オバマ政権は、ホワイトハウスのスタッフ400人を核に、政治を進めてきましたが、トランプ氏は、スタッフを200人にまで減らして、閣僚らに仕事を委ねようと考えているようですので、その部分で、どれだけ接点をつくれるかがカギになると思います。
ーー「セカンドトラック」とは、どういう部分へのアプローチが重要に?
金融界、不動産、ショービジネスの業界だと思います。それから、アメリカの場合は、法律家が果たす役割が非常に大きいです。弁護士出身の大統領はもちろん、それ以外の企業や人も、弁護士といろいろな相談をしながら物事を進めるという習慣が色濃くあります。私が外交分野のさまざまな話を聞くのも、外交ルートよりは、金融界や、トランプ氏本人とも仕事をしてきた弁護士たちから入ってくるほうが圧倒的に多いんです。トランプ政権は、こうした分野とのつながりが深い、今までとは違う政権になる気がします。
ーー従来の外交のあり方を見直す必要も?
いま外交の意味が非常に変わってきています。かつては、通信手段も限られる中で、外交官が相手国と接する唯一の接点でしたが、今は通信手段も多様化し、民間も含めて、交渉ルートは増えました。外交官は、今後果たすべき役割を考えなければいけない時期に来ていると思います。例えば、アメリカとの交渉も、単に外交官としての専門知識だけではなく、金融や貿易、農業などの専門性を持たなければ「実りあるやり取り」ができません。今まで以上に求められる能力が非常に高くなり、それに対応できるしっかりした組織や陣容を整えていくことが求められていると思います。
取材を終えて
今回の取材で、トランプ氏を知る人たちが口にしたのは「慎重」、「数字に謙虚」など、テレビやネットに映る彼とは大きなギャップのある人物像でした。今後の日米関係にさまざまな不安や懸念が指摘されていますが、発信される情報に一喜一憂するのではなく、さまざまなチャンネルで情報を収集し、冷静に読み解きながら、向き合うことの重要性を痛感しました。また、予断や先入観によって、今回の大統領選挙の結果を十分予想できなかったのは、政府や専門家だけでなく、大方のメディアも同じです。
「現場で何が起きているのか」、正確につかむための教訓とし、「トランプ政権」と「日本政治」の関係について取材を続けたいと思います。
- 政治部
- 加藤雄一郎 記者
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- 根本幸太郎 記者
- 政治部
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