記事広告で稼げるライターになるために必要な10個のコト【ライター勉強会】

当ブログメディア「エレキホーダン」のメンバーでライターとして活躍する武者良太氏が主催となり、2016年12月3日に東京・五反田のコワーキングスペース「CONTENTZ」にて「ライターLv Up(レベルアップ)勉強会」が開催されました。

約50人ものライター・編集者が集まりました

今回の勉強会の趣旨は、利益率が高いものの、誰もが受注できるものではない「記事広告」(編集記事のような広告記事)や「オウンドメディア」(企業が独自に持つメディア)の案件。これらの仕事を得るために何をすべきかを一緒に学んでいこうというものです。

第1回のテーマは「記事広告/オウンドメディア」。2016年11月に一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が「ネイティブ広告ハンドブック 2017」を公開したこともあり、「そもそもネイティブアドってなに?」、「記事広告(記事体広告)とどう違うの?」みたいなことが話題となりました。「ハンドブックは分かりにくい」という意見に対して「あのぐらい読み込めないようじゃダメ」とダメ出しをする輩が出るなど、なかなか香ばしい状況になったものです。

それはさておき、これをきっかけに「Webメディアの広告に新しい風が吹き始めている」と感じている人も多いことでしょう。そんな中で開催されたこの勉強会では、どのような講演が繰り広げられたのでしょうか。

最初に登壇したのは、主催者である武者良太氏。「記事広告制作に重要なスキル」というタイトルで講演を行いました。

ライターの武者良太氏

1.「ネイティブアド時代の記事広告」を理解する

記事広告に重要なポイントとして「提灯記事ではない、普通の記事と同じような視点」が重要だと武者氏。

「ほめ過ぎちゃうと、いかにも広告と分かりやすくなってしまいます。あれは記事広告には価値がありません。そう思わせないことが重要です」(武者氏)

そこで登場したのが「ネイティブアド」という概念です。

「ネイティブアドというのはただの概念で、Webメディアの見え方の中で、どれだけ自然に広告を入れるかという考え方です。その思惑は悪い方を向くのではなく、いろんな人に自然と広告を見てもらうということです」(武者氏)

そういう意味では、記事広告もネイティブアドの一種です。

「通常記事と差異をなくし、自然でその媒体にそぐうものであると言われていますが、一方であまりに自然なため、ネイティブアドは『ステマ(ステルスマーケティング=それが宣伝であると消費者に知られないように宣伝すること)』じゃないかと言われ始めました。そこで今年JIAAがネイティブ広告ハンドブックを作りました。『AD』や『PR』、『スポンサード』、媒体によっては『スペシャル』や『タイアップ』などと表記されます。だいたいはタグを付けますね。あとはアイコンを付けたりしながら記事っぽくするのがネイティブアド時代の記事広告になっているのではないかと思います」(武者氏)

2.ギャラが上がる“上流”を目指せ

出版不況が長らく叫ばれる中で雑誌などの紙媒体ももちろんですが、Webメディアはさらに原稿料が安い場合が少なくありません。そんな中で、クライアント企業がスポンサードして書く記事には金銭面で大きなメリットがあります(他にもメリットはありますが)。

では、お金の面で“おいしい”記事広告にかかわれるようになるためにはどうすればいいのか。まず武者氏は記事広告の流れを解説します。

記事広告制作の流れ。これは読んで字の通りです

■一番稼げるのは「オリエン、企画立案から参画」

武者氏は、最も稼げるのは「拡散力のあるライターがたどり着ける“ガンダーラ”」だと話します。どんな夢でも叶いそうですね。

「ポイントになるのは、ライターがどこからかかわるのか。その人の名前やキャラで作り込む場合は、オリエン(オリエンテーション=クライアントの意向を確認し、進路や方針を定めること)から入ります。その人の個性、パーソナリティと商材がどうマッチングするかを作り込まないといけないので、ここから企画に入ります。そこから再校までチェックします。ある方が漫画で取材されて、記事広告の単価が10万~50万円と語っていましたが、それにあてはまるのがここだと思います」(武者氏)

■「企画立案」時点からかかわっても稼げる!

続いては、ごく一部のスターライターじゃなくてもたどり着けるところ。

「オリエンは参加しませんが、企画から入るというもの。これは企画力が必要です。媒体特性を知り尽くして、読者層を知った上で、どういう企画がいいのかを言える人です。企画力というか、編集力かもしれません。その能力を持っている人が一歩上のギャラを取れます。記事広告を作る上では重宝される存在です」(武者氏)

■スタンダードなライターでもそこそこ稼げる?

3番目が、いわゆる「スタンダードなライター」です。

「(企画ができあがって)アサインされてから入ります。なので、指示書に合わせて、編集者やクライアントの想像を超えるものを作るというのがライターの仕事の範囲です」(武者氏)

■ギャラはどのくらいなの?

武者氏は記事広告のギャラについても話しました。

「(いわゆるスタンダードなライターでも)10万円とかはあります。ただしめっちゃ特急……例えば取材の次の日にアップとか、動画を上げるとかが加わったものです。1週間ぐらいでアップする通常の場合は3万~5万円という肌感覚です。ただ、1本8万円という人、1現場10万円という人もいて、記事広告の単価が上がっているなと感じます。とはいえ、カメラマンのアサインなども入った場合の話です。ただ、これをやれれば、ライターは仕事が楽になります。1つの記事を作るのに1日悩んでアウトプットするということもできますので、自分の(仕事の)タイムラインが作れるのかなと思います」(武者氏)

武者氏は「上を目指せ!」とあおったわけではないですが(見出しで盛ってすみません)、自分がどこを目指したいのか、どこが自分にとって仕事をやりやすいのかを見極めるためには、同じ記事広告の仕事でもいくつかのレイヤーがあることを知っておいた方がよさそうです。

ただ、3番目のスタンダードなライターがまさに「いわゆるライター」で、それより上は「編集者」であり、「プロデューサー」であることが求められるというのが筆者の感想です。まだまだ講義は続くので紹介していきましょう。

3.「モノ」より「コト」を意識せよ

では、重宝されるライター・編集者になるためにはどうすればいいのか。いい企画を出すためには何を意識すればいいのか。それについて武者氏は「モノよりコトが求められるようになってきました」と語ります。

「モノ重視の内容から、どうやって生活に落とし込むかというのと語ってほしい。モノ系雑誌だと、折り込み部分にある見開きの記事広告などで『こんな上質な暮らし……そのためにはこんなエアコンがいいよ』みたいなのがありましたが、それと変わりません。Webで一度製品に寄ってしまった時代がありましたが、それがまた変わってきました」(武者氏)

モノよりコト。言うのは簡単ですが、実践するのは難しいです。そこに必要なのは「想像力」だそうです。

「これつまんねぇな、何に使うんだろう……という商材もあります。ただ、作り上げたエンジニアの思い、企画者の思いとかがあって、その思いをくみ取り、誰に届ければいいのかロールプレイングをすれば作れます。(それができれば)記事広告なのに、想定以上のPV(ページビュー)も上げられるし、周りやクライアントの評価も上げることができます。そこに必要なのが『モノへの観察力』、『人への観察力』です。いかに商品に惚れ込んで、いいところを見つけるかが重要です」(武者氏)

テレビ通販のジャパネットたかたのように「この商品が素晴らしい!」という売り方は「正しいし最高に優れていますが、そのパターンは記事広告では知りません」と武者氏は続けます。

「よく聞くのはまず『人』です。使い手側、消費者が先で、その人の生活の中でこういうブランドのこういう商品を買ったらいいよ……と伝えるのが仕事だと思っています。それがうまくいくと、その場で商品を買わなかった人でも、広告をポジティブに受け取ってくれます。そうなると実は広告の価値はPVなどには出なくても、いいものに育っていくのです」(武者氏)

4.「熱意のある文章」を書くこと

発注者から、「熱意のある文章を書いてくれという打診が結構ある」と武者氏は語ります。

「ライティングは誰でもできますが、興味のないことをすごく熱く語るというのは難しい技術です。ともすれば、オリエンで聞いたことや資料で見たことで埋めてしまいがちです。ここには愛が何もないですし、クライアント側も『確かに最初はそう言ったけど、これではパブ(パブリシティー=商品告知)と変わらなくない?』ということになりかねません。ライターはそういうことを乗り越えて作る“技術力”を切り売りするので、そこはきっちりやらなければなりません」(武者氏)

武者氏はお酒の広告を例に挙げて語りました。

「角ハイ濃いめ(『サントリー角ハイボール〈濃いめ〉』)というのがありますが、じゃあ今までの角ハイと何が違うのか。今までの角ハイより濃いから、じゃあ何ができるのか。濃いだけで、買う年齢層が上がるんですよ。じゃあその人が何を求めて、普段何を呑んでいて、(そのいつも呑んでいる酒から)リプレースさせるにはどうすればいいのか。そういうことをライターが考えなければなりません。そういうことができる人が、記事広告の仕事を取っているんです。クライアントや広告代理店、編集者が思いついていない、オリエンシートにも入り込んでいないこと。それ(商材)を愛して、(クライアントの)条件を満たしながら、彼らの想像を超えることをやっていかないとならないのです」(武者氏)

もともと、クラウドソーシングサービスなどで仕事を取っている低賃金ライターがステップアップするための講座……という触れ込みでしたが、この講座はかなりハイレベルでした。筆者自身、長年たくさんの編集記事を書き、たまに記事広告やオウンドメディアへの執筆などにもかかわっていますが、筆者はここまでできたという自信はほとんどありません。ただ、これができれば次のステップ、より上位レイヤーに進めるということはよく理解できます。

武者氏の話の中で、とても気になるのが「リリースやスペック数値だけじゃなくて、体温の高い、筆圧の高い文章を感じてもらうためには、誰かのペルソナをまとうこと……」という部分でした。ある意味、“ひょう依”ですね。

自分語りになりますが、筆者が初めてWebサイトで自分の連載企画をいただいたときに何をやったかというと、やはり心がけたのは「熱意」でした。あるモノを徹底的に楽しもう……つまりモノを紹介するのではなく、それを基点にしたコトを紹介しようというのが筆者の考えでした。

何のしがらみもなく選んだモノが、思ったよりも面白くない、面白く展開できない……そんな場合もあります。でもそれをそのまま出しても仕方がない。じゃあ、その中にあるちょっとした面白さでも、「これすげぇ! 面白れぇ!」って興奮できれば、それが伝えられれば、読者も興味を持ってくれるのではないかと考えました。これもある意味、「デジモノ、ガジェットが大好きでたまらない兄ちゃん」のペルソナをまとっていたのかもしれません。

これがどこまでうまくいったかは分かりませんが、編集部サイドや当時の某社の局長からも「面白い」と言ってもらい、自信を深めたというのは今でも記憶に残っています。熱意、重要なんですよ。

ただし、武者氏はこうも言います。

「例えばノートPCが薄いとか、どうでもいいんですよ。褒めて褒めて伸ばさないといけない。でもそれを意識するとわざとらしくなって、全然ネイティブじゃなくなります。ライティングの技術力も、ただ情報をまとめて書くだけでなく、それにプラスしてステップアップしたところに行かないと、長く続けるのが難しいです。というか、あまり記事広告を受けないライターになった方がストレスを受けないかもしれません」

記事広告を書く人は「いい意味で嘘つきなんですよ」と武者氏は続けます。

「(フィクションのストーリーを紡ぐ)小説家などもそうです。ああいうことができる人がいい広告を作るんです。開高健(サントリー(当時・壽屋)でトリスウイスキーなどの広告を手がけ、後に小説家に転身)の文章など、1960年代とは思えないセンスあふれるテキストを書いていました。自然に見えて愛があふれていて、クライアントが求めるモノをしっかりと説明できているのがポイントだと思います」(武者氏)

5.カメラの機材や技術もモノを言う!

ここで、武者氏から勉強会の参加者に向けて質問が投げかけられました。「記事広告に掲載する写真は誰が撮るべきだと思いますか?」というものです。

まあ、当然「カメラマン」ですよね。

「基本はカメラマンです。写真の質は、キャッチコピーの質よりも下手したら効きます。ビジュアルを作り込むのには記事広告としてコストをかけるべきです。だけど編集の予算がない場合、編集者が撮るしかありません」

予算の都合などでカメラマンを手配できない場合、編集者が編集部のカメラで撮影するというパターンはよくあります。しかし「ある人が、ライターが撮影した方がいいのではないかという話をしていました」と武者氏は語ります。

「原稿が完成していない段階でここを撮ってほしいと説明できるライターは多くありません。それは才能がないとできなません」(武者氏)

これは筆者自身も経験があってよく分かります。筆者はあまり文章を組み立てずに、書き出しから順番に書いていくやり方をしています(褒められたものではありませんが)。すると原稿を進めていくうちに、あの写真が必要、この写真が必要というシーンが数多く出てきます。例えばモノの写真で全体のカットや各部のカットなどは押さえていたとしても、「あるボタンを押そうとしているカットがほしい」などというニーズが後から出てきてしまうのです。それを事前に察知していれば押さえられますが、カメラマンに依頼して写真が納品された後ならもう後の祭りです。

ある程度の撮影機材があれば、物撮りなどを自分でやることも可能といえば可能です。

「ここで撮影費を取ることができます。カメラマンに依頼したら半日拘束で3万~5万円とかかかりますから、撮影費込みで(原稿料に)1万~2万円プラスというのもあります。プロカメラマンと匹敵する機材をそろえるのはまあ無理ですし、持っていても腕時計のように反射が大きい物撮りはまず撮れません。でもフェティッシュなコンテンツにしてほしいと言われた場合、ライターが何気なく撮った写真の方がいいと判断される場合もあります。それを選ぶ代理店やクライアントが少しずつ増えています」(武者氏)

6.演出家としてのスキルがこれから重要

どんどんと、我々が元々イメージしている「ライター」像とはかけ離れてきました。まあ、それも当然のことです。最近は一部のスターブロガーがさまざまな企業に重用されているのを筆者も目の当たりにしていますが、それはなぜかというと「プロデュース力」に長けているから。自分の好きなことだけを追い求めているのに、そのフェティッシュさが多くの読者の心をつかんでいるのは、単に文章を書く力だけでなく、見出しの立て方、写真や動画の撮り方や見せ方、SNSなどでの拡散の仕方なども含めて“魅せる力”を持っているからです。

武者氏はこう提案します。

「ビジュアル……これはカメラだけじゃなく動画の撮影・編集能力、イラストなどもまとめて、自分でコーディネートする立場になった方がいいんじゃないかと思います。ライター自身が出る記事広告はすごく増えています。そこには『パーソナリティー』が出ます。製品を楽しそうに使っているとか、慈しみながら使っているとか。そういう中でライターが写真を撮る。つまり、書くだけじゃないやり方があるのではないかと思います」

さらに続けます。もう、このままでは席が埋まってしまう……いや、すでに席は埋まっているのだとか。

「専門の職人でいるのも素敵です。でも予算もあるので、“熱気”や“体温”の部分を伝えるにはトータルで手がけた方がいいのではないかと考えています。逆に言うと、ライターだけで食っていくという人は、たぶん席がもう空いてないと思います。紙(雑誌)はすでに埋まっていますが、Webでもそうです。Webも一歩上を作れる人に仕事が来るようになります」(武者氏)

文章を書いて、写真を撮って……。イラストも手がけるというライターの方もいます。

そうなると「演出家としてのスキルを磨いた方がいいのではないかという気がします」と武者氏。

「通常の記事では、その製品に興味がある人がググったり新着記事から見たり、それをシェアしているSNSから見たりといった導線があります。でも記事広告はそうではありません。関心がない人、本来お客さんではない人。コアである『すぐ買う層』の周りにいる『後押しをしたら買う層』です。広告が狙うのはさらに外です。ググったりリンクからたどって来ない人に、どう関心を持ってもらうのかが仕事です」

ここで「演出家のスキルというのをもう少し詳しく聞きたい」という要望が参加者から出た。

「例えば(読者に)どうポジティブに感じてもらえるのかを演出するとして、どの位置にどういう写真を配置するか。文章の全体のトーンについてもそうです。ブロガーなどは、意外とそういうのを最初から持っているんです」(武者氏)

その部分が紙の文化に慣れたライターには難しいと武者氏は指摘します。

「紙の場合は、上がったレイアウトに文章を付けるのに慣れています。ラフレイアウトをきっちり作り込んで、ユーザーに届くものまでできる人はそうそういません。通常の記事でラフは切っている人は多いと思いますが、(紙の)記事広告のラフを切らせてくれるのは僕の知る限りいません。ただ、Webはそこまで細かくないから、ライターでも演出の部分をいくらでも学べると思います」

ここで動画の需要についての質問が上がりました。

「案件によりますが、動画を撮れるなら撮りたいというのは増えています。専門スタッフにお願いすると10万~20万円かかるから難しいですが、内々で撮れるなら……というのは増えています。それはライターよりもブロガーやYouTuberですね。YouTuberなどはスマホだけで編集やアフレコしたりするので、ああいうスキルを持っている人が入ってきたらコストダウンにもなり、全部が変わる気がします」(武者氏)

クライアントとの“握り”の件についての質問も出ました。雑誌などでは広告を出稿する代わりに「編集記事でも配慮してね」というパターンがあると質問者は語ります。そういう“握り”はWebでもあるのか……という質問です。当然これは記事広告の話ではなく、編集記事の話です。

「いろいろな形があると思いますが、Webはばれやすいので、やっているところもだんだんやらなくなるだろうと思います。もしやって何かネガティブなことが起きて、クライアントに対するヘイトがたまる方がまずいということです。個人的に、僕にとってのクライアント媒体からの依頼じゃないと、僕は一切受けません。『これあげるから拡散してよ』みたいなことを言われると、『じゃあ自分のブログでもらったといって上げますよ』と。そういう形にしたいから、チームブログをやっているんです」(武者氏)

これは筆者にとってあまり経験のないことですが、ユーザーとの距離が近いブログメディアで記事を書いているライターの場合、何か原稿に不備(もしくは不備と思われる箇所)があると“刺される”のだとか。例えば製品発表会で製品が配られることがたまにありますが、それを明記しないと「ステマだ」と言われるようなケースです。ネットユーザーが過敏に反応する場合もなくはないのですが、武者氏は「刺されないように振る舞うのは重要」と語っていました。

記事広告やブログメディアの最前線で仕事をしている武者氏の肌感覚は、古いメディア(という言い方もあれですが)で働いている筆者にはまだまだ実感として感じられないもの。しかしステマ騒動で多数の芸能人が表舞台から姿を消したのを見ても分かるように、一度信頼を失うと浮かび上がるのは困難です。これはクライアント企業の信用問題にもつながるため、ライターだけでなく編集者、代理店、クライアントすべてがしっかりと身に着けなければならない感覚だと改めて感じました。

7.人間力を養え!

ここまで話を聞いていると、「バランス感覚」が重要だということがよく分かります。編集記事のライターというのは、ある意味見ている方向は「編集者」だけです。もちろん編集者だけ見て、その編集者に気に入られるような記事を書くだけではダメで、その先にいる読者を意識しながら書かなければいけないわけですが、見る方向は多くありません。

しかし記事広告となるとそうは行きません。当然編集者がいて読者がいるというのは同じですが、広告としてお金を出すクライアントがいて、その間に広告代理店も入ってきます。それらの人々が満足する企画、もしくは文章内での演出を出しつつ、読者にも満足してもらえる記事を書くというのは並大抵のことではありません。

そこで大事になるのが「人間力」なのだと武者氏は語ります。

「編集からもクライアントからも頼られる立場になることです。いわゆる『先生』になると、抜かされた(他に台頭する人が出てきた)ときにダメになったりします。そうではなく、精度や完成度の高さ、人としていいか(魅力的か)とか。例えばこんなこともあります。オリエンシートにないことをクライアントが思いつき、そのアイデアを実現させようとします。でも編集者はその媒体にそぐわないということで、険悪なムードになる。そんな場合もあります。このときに、ライターがそのクライアントの思いを『こういうことですか?』と翻訳してうまく伝われば、お互い納得しますし、意識の統一が図れます。そうすると、その次から『あの人ね』と指名が来るようになるんです」(武者氏)

これは自戒を込めて言いますが、編集畑で長く仕事をしているライターは、「書き手側が主体」という考えを持ちがちなのではないかと思います。取材対象には当然感謝しますし配慮もしますが、あくまでも記事のコンセプトは書き手側がコントロールするもの。しかし記事広告の主体はクライアントであり、書き手側ではありません。編集記事と記事広告(記事体広告)は形こそほぼ同じ(というか、PRなどの表記以外は全く同じ)ですが、立ち位置が違うというか、そもそも立っている地面が違うわけです。そこをはき違えると、記事広告の世界でいい仕事をすることは難しいと、改めて感じました。

すべての関係者が満足するということはなかなか困難ですが、編集者の役割の一つは「調整役」です。しかし媒体に所属する編集者は媒体の利害関係者でもあります。そういう中でライターも調整役に回れること。これが何度も呼ばれるライターになれる重要なポイントなのだということですね。私が呼ばれなくなる理由が分かりました(笑)。

8.テンプレートは常にアップデートせよ

さて、いよいよ終盤にさしかかってきました。

武者氏は「記事広告にテンプレート(ひな型)を作るのは危険だと考えています」と語ります。

テンプレートというのは、どのようなボケがあってツッコミがあり、場面転換からラストで締める……みたいな一連の流れのことです。

「テンションを上げて、ツッコミやボケなどの流れが楽しいと考えている人もいます。でも普通のライターが作る記事広告でやったりすると、飽きられたときに一発アウトな気がします。テンプレートを作った方が生産効率を上げられるのであれば作った方がいいですが、毎回変えていくうちに洗練させていった方がいいような気がします」(武者氏)

ここまで武者氏の話を聞いてきて、「なかなか難しいぞ……」と思った人も多いのではないでしょうか。もちろん、全部をこなすのは難しいでしょう。でも「なんだかんだ、楽しいですよ」と武者氏は語ります。

「(編集記事より)制作予算があって、写真にこだわれたり、好きなモデルを呼んでわいわいやれたりもありますし、カッコいいところ、きれいどころとやればより魅力をアピールできたりもします。本当に楽しいですよ。じゃあどこで仕事を取るかというと、記事広告を多く扱っている媒体に入り込むのがごくごく自然な形です。あとは紹介ですね」(武者氏)

記事広告だから編集記事よりずば抜けて原稿料が高いとは言い切れない部分もありますが、原稿料以外の自由度が高いのも確かです。もし多くの記事広告を扱っている編集部とのつきあいがないのであれば、それまでの実績を持って売り込んでみる、もしくはつながりのある編集者などに紹介してもらうといった動きをしてみるのもいいのかもしれません。

9.SNSに漏らすな! SNSでは自らを演出せよ!

最後に、どういう人に頼みたいか、どういう人に頼みたくないかという話になりました。

●主観を交えること

「主観でいいので、スペック以外に『何でそう思ったか』を書いてほしい。記事は公平なもので中立なもの、記事広告ですら必要以上に提灯を上げないようにと言いました。でもそこを意識した上で、これだけこだわって書いているというのが分かるといいです。個人の主観がある方がいいですね。中立性の担保と個人の主観のバランスが取れている人です」(武者氏)

●SNSにいろいろ漏らさない人

「SNSにいろいろ漏らす人はきついです。感情の吐露って大事だし、いろんな情報発信はいいんです。でも漏らす内容がネガティブなことだと、そういうことを言っている人と仕事はしたくないという人は多いです。SNSはTwitterもFacebookも、特にFacebookは(仕事関係や友人関係なども見える)オフィシャルな場ですから、とことん演出してポジティブに行った方がいいです。これは複数の編集や代理店の方から言われているので、演出した方がいいです」(武者氏)

●“レシーブ力”のある人

これは質疑応答の中から出てきた言葉ですが、ここで紹介しましょう。

「ライターは『アタッカー』なんです。でも記事広告で求められているのは、どれだけ拾うかという『レシーブ力』です。どれだけうまくレシーブして、トスを上げて、アタックするか。仕事は『記事を作るところ』から始まるのではなく、全部のところをスムーズに進められることが重要です。人間力というか、ビジネス力ですね」

10.セルフブランディングは重要!

質疑応答の最後の最後に、セルフブランディングについての質問が出ましたので紹介しましょう。ライターとして頭角を現すためには、「○×に強いライター」のようなブランディングが必要です。それをどうするかという話です。

「僕はどんなに安くても、自分のプロモーションになるのなら1000円でも2000円でも受けてきました。自分が好きな原稿を書けるのは自分がコストを払っているという考え方です。僕はそういうやり方をやってきました。また、自分の価値を高めるのにグループブログもやっています。友だちとやっている『オジ旅』というのは、観光せずに飲み歩くだけのものですが、自分たちはすごく楽しんでやっています。去年4月から始めたのですが、6月にはプロモーションの打診が来ました。それに価値を感じてくれる人がいるということです。そういうのはやり方としてありじゃないかと思います。自分の名前や、自分が興味を持つものを、いかにネットで拡散するか。その努力が必要だと思います」

筆者などのいわゆる「職業ライター」が最も苦手なものの一つがブログなどを用いたアピールです。自分がどのようなモノやコトに強くて、どのようなものに興味を持っているのか。それを一つの形として表現するものの一つがブログでしょう。しかしお金をもらって記事を書くことに慣れている(というか職業にしている)ライターはそれを続けるのが困難です。その大きな理由の一つがモチベーションの維持でしょう。しかし「オジ旅」のようなグループブログ(ブログメディア)が早いうちに一部の企業に刺さり、記事広告につながっているのも確かです。ブロガーが台頭する中で、職業ライターはどのようにプレゼンスを上げていけばいいのか。何度も何度も考えて考え抜く必要がありそうです。