2010年代の音楽番組の在り方を考える--日テレ『ベストアーティスト』プロデューサー×音楽ジャーナリスト 柴那典

2016.11.29 10:00

11月29日夜7時より4時間生放送、日本テレビ系列で放送される『ベストアーティスト2016』。この番組プロデューサーの前田直敬に、1990年代〜現代における音楽産業の変化を捉えた『ヒットの崩壊』を上梓した、音楽ジャーナリスト 柴那典氏が迫った。

主なテーマは、「2010年代の音楽番組」。1990年代・2000年代と比べたアーティストの紹介の仕方、そしてテクノロジーの進化やSNSの普及によって変化した、音楽番組の在り方とは。

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日本テレビ 前田直敬(左)、音楽ジャーナリスト 柴那典氏(右)

■「テレビマンとして」「ミュージックマンとして」の狭間

柴:
1990年代から今、音楽の伝え方・広め方が変わっているということを『ヒットの崩壊』全体のテーマとして掲げているのですが、テレビの現場でもそのような変化を感じる事はありますか?
前田:
すごく感じますね。私は日本テレビの関連会社であるVAPというレコード会社に出向しA&Rを3年半やっていた時期もあり、「テレビマンとミュージックマンの狭間」というところはすごく意識します。その視点でいうと、以前よりは今の2010年代の音楽番組の在り方の方が好きですね。 かつてゴールデンタイムに歌番組は沢山ありましたが、実は"失った"部分もあるかなと思っていて...例えばアーティストさんの本業じゃない部分を掘り下げたり、時にはえぐったり。視聴率は取れても長期的に見ると失ったものもあるんじゃないかという感覚です。
一方で、ミュージックマンとしてのそのままの伝えたいこと・やりたいことをやっても、テレビマンとして数字(視聴率)を取れるとは限らない。数字が取れないなら結果的にアーティストさんを紹介出来る場を失ったり傷つけたりする事もある。
もちろんテレビマンとして数字を取らなければいけないということを前提にした上で、テレビとして数字を取っていくためにアーティストさんの何かを削っていくのは性に合っていなくて、今の時代のほうが健全に思います。
柴:
1990年代や2000年代と比べた上での2010年代の良さ、その違いはどういうところで感じますか?
前田:
LIVE MONSTER』という番組(2013〜2015年)をDREAMS COME TRUE 中村正人さんとやらせて頂いた時も、「これをテレビでやるのはドキドキするな」と、結構勝負をかけた企画をしました。例えばヴィンテージマイクを真っ向から掘り下げたり。
ただ深く掘り下げることで結果的に数字もついてくるようになりました。リスクを取って数字を取ると、アーティストさんとも信頼関係に基づくいい関係性が出来、その時だけの点ではなく線として積み重ねられるようになり、より良いものが出来上がっていくようになるんですよね。 「あの時にお互い理解して、ああいったものが生まれた」という思いがアーティストさんとの間に生まれて、次のお願いも相談しやすくなるので。
柴:
点ではなく線、という考えは以前からお持ちだったのでしょうか?
前田:
そうですね、ずっと、今も変わりません。「この音はいい」「このアーティストは来る」と思うと、出来るだけ良いタイミングでアーティストさんに「ご紹介させて頂く場を作りたい」という思いを届けたいと思っています。例えば『音龍門』という番組(2009〜2013年)でSEKAI NO OWARIさんに出て頂いた時はまだTOWER RECORDSで数千枚限定での展開をされていたような時期だったと思います。そういった思いを伝えたところからの線でのお付き合いがあるからこそ、その後特番やイベントなどの機会でコミュニケーションする時も、よりスムーズになるのだと感じます。
柴:
すでに売れている人、数字を取れる人だけではない、早い段階からの付き合いを継続的に作っていく事で新たなシーンを作っていく、ということでしょうか。
前田:
特番でも、毎週の『バズリズム』でも、アーティストさんのラインナップを通して思いを発信したいという部分はありますね。そうすると視聴者の方にも「『バズリズム』はこういうアーティストを紹介するんだ」と思って頂き、結果、番組の方に戻ってくる事になるので。
柴:
2015年より放送している『バズリズム』。こちらの番組についてはいかがですか?
前田:
結構マニアックな事もやっていますが、基本的にはアーティストさんに負荷をかけない方法を取っています。例えば、ゆかりの地と中継を結びバーチャルでお散歩する「バーチャル散歩」。アーティストさんに実際ロケに行って頂くのは様々な負荷がかかりますが、スタジオで座ったまま何年振りかの景色を主観のカメラの画で入っていくことで、中継として成立させつつ、負荷をかけないようにしています。
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音楽ジャーナリスト 柴那典氏

柴:
今、テレビというメディアはSNSで話題になったものをいち早く発見して広める装置になっていますよね。昔はお茶の間に国民的娯楽を届けにいくのがテレビでしたが、今の若者から見たらテレビにそういうイメージを持っている人は少数。でも自分たちが盛り上がっているものを取り上げられることには肯定的です。『バズリスム』は「バズ」という言葉を使ったり、バカリズムやマギーさんが紹介することで間口を広げたりする、このようなスタンスは今までの音楽番組の作り方とは矢印の向きが違って、現代におけるテレビのメディア観に自覚的な作りだと思います。
前田:
昔は『歌のトップテン』などゴールデンタイムの歌番組を見て家族みんなが同じ曲を口ずさんだり、1990年代も、放送後に翌朝CDのバックオーダーが大きな単位で生まれたりした、ただ今はそうではないですよね。今のテレビに対しての感覚は「てこの原理」です。テレビに仮に出ても視聴者にまだ響かないだろうなというアーティストさんとはご一緒しません。それは結果的にアーティストさんに傷をつける可能性もあるので。むしろ今、ザワザワ・ふつふつと来ていて「この今のタイミングを逃したらいけないな」というタイミングでご一緒させて頂いて、ブレイクのお手伝いをする、その上で有効なのがテレビ、特に地上波なのではと思っています。
柴:
近年SNSをどう使うかという話はよく挙がりますが、同時に、地上波に出るということの強さ、地上波の持つ力というものを10年前よりアーティスト側が肯定的に捉えているように感じます。それは大きな変化ですよね。
前田:
今、例えば2016年11月のこのタイミングでそのアーティストさんが「視聴者にどういうメッセージを伝えたら良いか。我々はこう思っています。それを伝えられたら我々も喜びです」と伝えた上で、話し合っていきますね。

■「見逃しちゃいけない感じ」をどう注入していくか

柴:
(2001年からスタートした特番)『ベストアーティスト』など、番組を見ているということをSNSで拡散したり、番組発信の企画にデータ放送などを通して参加したり、ただコンテンツを受動的に見るというより、能動的に、いわばフェスのオーディエンスのように参加する。そういった音楽番組の楽しみ方が見出されてきたのがここ数年という印象があります。
前田:
データ放送などの企画でワクワクするものを生み出せたらいいなという気持ちもありますし、テレビマンとしてちゃんと数字を出す為に、リアルタイムで見てもらえる、生で見てもらえる理由を作っていかないといけないという面もあります。今のテレビは「見逃しちゃいけない感じ」「事件が起きている感じ」、そんな良い違和感をどう注入していくか、考えていかないとダメなんだろうなと思っています。
柴:
『バズリズム』のようなレギュラー番組と、特番の関係性のようなものも意識されているのでしょうか?
前田:
あります。「特番のタイミングで盛り上がりを作る為に、レギュラーで新曲ぶちかましときましょうよ」と話したり。ただ、特番のためにレギュラーがあるわけではないので都度バランスではありますが、全部、頭の中はつながっています。

■テレビの新しい活かし方

柴:
近年、テレビが「ふつふつと来ているものをさらに発火させる」装置として有効になっている一方、昔でいう『ASAYAN』や、海外でいう『アメリカン・アイドル』などと比べると今の日本の課題としては「テレビで新しいスターをゼロから生み出せるか」ということがありますよね。 前田さんが携わられた(二次元のキャラクターの現実世界でのデビューを目指す)『アイキャラ』にはテレビ発のスターを生むという志を感じたのですが、いかがでしたか?
前田:
VAPにいたときはアーティストを育てる、届ける側でしたが、世の中に受け入れられていくまでの過程の当事者でいられることは楽しかったですし、テレビに元々いた時に羨ましいとも思っていたことです。番組というフィルターを通して世の中に知って頂くというのは喜びでありながらも、一方で最初からそのアーティストさんの悩みや苦しみをご一緒しているわけじゃないという寂しさもありました。でも『アイキャラ』という番組をやり、「アイキャラFes」というイベントをShibuya O-EASTでやって世に出ていく過程を作るということは、いわば事務所やレーベル側に近い感覚でした。
柴:
『アイキャラ』では(音楽や音声を投稿するアプリ)「nana」とコラボしてキャラクターの声優を募集する企画もありましたが、最新のアプリやサービスといったところにも、アンテナを張られているのでしょうか?
前田:
いざこういった募集する企画で陥りがちなのが「テレビで募集した方が(広く告知出来て)集まるんじゃないか」ということです。ただすでに(数々の投稿が行われていて)にぎわっている外部の環境があるならば、リーチは地上波で告知するより少なくとも、そことコラボレーションさせて頂く方が結果的にはwin-winになるのではと判断しました。番組でただ告知するだけでは「nana」さんを通して実際にあった応募の1/10程度だったのでは、と振り返っています。
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日本テレビ 前田直敬

柴:
今のテクノロジーの状況に応じて新しい番組の在り方を、ということですね。Huluでも『TOKYO BEAT FLICK』というオリジナル(配信限定)の音楽番組を制作されていますね。
前田:
MCもゲストもいない、楽曲もフルサイズでやってくださいという番組で、アーティストさんへの真摯な気持ちを表現する場になっています。アーティストさんの立場で考えると、志に基づいて制作した楽曲、例えばフルコーラスの4分なら4分をテレビサイズに短くするという作業が嬉しくないことというのは我々もわかっていて...フルサイズで表現する場を用意するということが、アーティストさんへの愛を表現する場にもなると思いますし、ここでの信頼関係が、また地上波での番組にも繋がっていくこともあると思います。
柴:
テレビの役割が、テクノロジーやメディア環境の広がりによって変わってきた、その変化をある種ポジティブに捉えて番組を作られていますよね。この先はどんな見通しや変化を見据えていますか?
前田:
地上波はやはり最大級の拡散装置でなければいけないなと思います。今後、疑似体験としてVRでフェスのように『ベストアーティスト』を楽しんでもらえることもあるかもしれません。そのような「拡散」を考えて何百万をわくわくさせる器でありたいと同時に、数字としてはマイノリティに見られる音楽の存在価値も理解していきたい。音楽産業自体も評価される土壌も分かれていくのではと思っています。
柴:
まさに『ヒットの崩壊』でも、今の世界的な潮流としてモンスターヘッドが席巻しつつ、一方でマイノリティはマイノリティで居場所を確保している、そのせめぎ合いが続いていくだろうということを綴っていますが、そのような動きが予測されるだろうということですね。
前田:
そうですね、地上波の人間としては、両方ちゃんとアンテナが張れている事が一番大事と思っています。

今回の対談に登場頂いた柴那典氏による『ヒットの崩壊』(講談社)は、小室哲哉、いきものがかり・水野良樹をはじめミュージシャン、レーベル、プロダクション等各方面における音楽業界のキーパーソンへの取材を通して、現在の音楽シーンを解き明かした一冊となっている。
また、『ベストアーティスト2016』(前田直敬がプロデューサーを務める)では、画面に現れた「♪」をリモコンの青ボタンで「♪」をゲット、「♪」がデータ放送の楽譜に埋まり完成すると、ひとつの曲となって再生。また「♪」を集める事で番組オリジナルタンブラーやすき焼きセットに応募出来るデータ放送企画や、AKB48、SKE48、NMB48、HKT48、乃木坂46の楽曲パフォーマンス中、画面にQRコードが出現。読み込むと抽選で番組オリジナルグッズが当たる特設サイトへジャンプ出来るというQRコード企画も用意されている。企画の詳細は、番組サイト(http://www.ntv.co.jp/best-artist/)にて。

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ベストアーティスト2016』番組サイトより

構成:市來孝人

SENSORS Web副編集長
PR会社勤務を経てフリーランスのWebエディター・PRプランナー・ナレーターなどとして活動中。「音楽×テクノロジー」の分野は特に関心あり。1985年生まれ。
Twitter:@takato_ichiki / Instagram:@takatoichiki

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