東京都檜原村にある「天光寺」。体験修行として来ていた中学3年の男子生徒が、住職から暴行を受けたとして、児童相談所に訴える問題があった。
天光寺 / Via tenkou.sub.jp
事の発端は、日本テレビの11月14日付の報道。
そこでは、住職が少年を素手や布団叩きの棒で叩く映像や、暴行で受けたと見られるあざが映された。
11日、立川児童相談所が寺に立ち入り調査を行い、少年らを保護。20日、高尾聖賢住職(65)は弁護士とともに記者会見を行った。
高尾住職は棒で叩いたことを認めたうえで、「親御さんから、まっとうな人間になるため、厳しくしてくれと言われた」「教育の範囲内で叩いた」と釈明した。
また、「火災の恐れのある布団置き場で喫煙していたので叩いた。口頭注意では効果がなかった。教育の一環であり、暴行ではない」と説明した。
「体験修行」とはなにか?
公式サイトによると、天光寺は、以前から不登校やひきこもり、いじめをうける子どもたちを「体験修行」として、1日7500円で預かっていた。
また、企業研修や新人社員研修にも利用されており、ネットメディアには「白装束で自分が変わる! 天光寺修行体験」「五月病防止にも?『お寺の精神修行』を企業が導入!?」などの記事が見られる。
そもそも体験修行とはなにか? 以下は、公式サイトから一部抜粋したもの。
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この寺には、年間5000人が体験修行に訪れるという。
寺の中でなにが行われていたのか。BuzzFeed Newsは、過去に体験修行に参加した複数の人物に接触。それぞれの見解や内部の様子を聞いた。
●Aさん(23歳女性、大学院生)
Aさんは今年の8月に体験修行に参加した。住職による暴行行為などは目撃しなかった。
一連の報道を見て率直な感想を話す。
「正直、そこまで問題になることではないと思いました。あそこにいる子どもたちは学校で悪いことをして親に預けられていました。体験修行というより、駆け込み寺のようなところです。親が迎えに来てくれないと寺から出れなく、みんな親の迎えを待っていました。しかし、なかなか迎えに来てはもらえない」
「それが暴力なのかわかりませんが、子どもたちからは『強く躾けられる』と聞きました。そのせいか子どもたちはいい子ばかりで、礼儀正しく驚きました」
「寺に預けている時点で厳しい生活は想定済みだと思います。どこまでの躾けを暴力と認識するかは人それぞれですが、寺という場所は躾けが手に負えない親にとっての最終手段なのかと。なかなかそう思うのは難しいですが、本来、寺という場所はそういうところなのかなとも思います」
●Bさん(15歳男性、高校1年生)
Bさんは、今年の8月上旬から下旬まで体験修行に参加していた。「親に強制的に入れられました」と話す。
「暴力行為はかなりありました。僕にもですし、一緒に修行に来ていた子にもありました。僕はまだ叩かれたりするだけで軽い方だったんですが、ひどい子は耳に爪が食い込むくらいつねられて傷跡が残っていました。棒で叩くのは普通にありました」
日本テレビでの報道では、食べ残した食事を再度出したり、賞味期限切れの食材を提供したりする場面が映された。
会見で高尾住職は、「食べる前によそいすぎたものをタッパに戻すように指導したことはあります。これは手をつけている状況ではありません。食材を多数扱っておりますので、賞味期限が切れる食品も出てきます。それを集めて廃棄しています」と否定した。
しかし、Bさんの証言とは食い違う。
「賞味期限切れの食事はありました。1年とか過ぎてるものがあったので、すごい嫌でした」
また、修行とは関係ないと思われる寺の事務仕事をする子どもたちの様子も報道された。この件に関しては否定せず、教育の一環であることを主張した。
「修行以外では、修行に来た方に配るパンフレットのようなものを作ったり、土木工事をしたりしました」
参加してよかったか? の問いには、こう答える。
「電子機器や本などがないので夜更しもしなかったですし、生活バランスは改善できたかなと。食べ物の賞味期限が切れている点に目をつぶればですが、良い経験になったと思います。また行きたいとは思えないですが」
●Cさん(30歳男性、サービス業)
▲都内の喫茶店で話を聞いた Takumi Harimaya / BuzzFeed
Cさんは7年前に参加。きっかけは「自己鍛錬」と話す。ホームページで見つけて応募した。
「私以外に、男性3人と女性が1人いました。1人は刺青がびっしりの金融屋で、上司から定期的に行かされると。もう1人は岩手から来ている人で、不良から抜けて甘い考えを取り払うために、と言っていました」
「3人目の男性は若くて、本当に坊さんを目指している人でした。女性は20歳前半でひきこもりの子。正直、『まともな人が集まる場所ではない』とは思いました」
住職の印象について話す。
「今回のような暴行は見ていないけど、相手を選んでいるなと。自分より弱い人には強く当たるというか。実際、不良たちには優しくしていたけれど、真面目で気弱そうな子には強い口調であたっていましたから」
ほかの職員は優しく、悩み相談もできたと話す。Cさんは続ける。
「体験修行で不自由を知り、自由の有り難みを知りました。酒も飲めないし、好きな時に好きなことができないし。当たり前のことだけど、感謝の気持ちを持つようになりました。参加してよかったと思います」
「今回の件に関しては、住職が勘違いしてしまったのかと。更生させようと思ったつもりが、暴力との一線を超えてしまったのだと思います」
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あの寺は本来そのような場所と語る人。実際に暴行を受けた人。参加してよかったと過去を振り返る人。
体験修行に参加した人物から、三者三様の見解が得られた。
証言されたような事実はあったのか。BuzzFeed Newsが寺に取材をしようと数日間電話をかけても、呼び出し音が鳴るだけだ。
「暴行」と「教育」の境目とは
住職は会見で、中学生を布団たたきでたたいたことなどを認めた上で「教育の範囲内」「教育の一環」と釈明したと報じられている。
暴行と教育の境目はどこなのか。名古屋大学准教授で教育社会学者の内田良さん(@RyoUchida_RIRIS)は、BuzzFeed Newsの取材に応える。
ー今回の天光寺の件。また、体験修行を経験した人たちの証言をみて
証言からも、暴力を用いた指導があったことは確かなようです。証言者の感覚としては、総合的には「よかった」という感想なのでしょう。
しかし、「よかった」と言おうとも、客観的に見て「指導に効果があった」と評価されようとも、暴力を用いた教育そのものからの転換が必要です。
私は、暴力的指導には一定の効果があると考えています。なぜなら、暴力を受けて「効果があった」と答えている人が実際にいるからです。この事実は否定のしようがありません。
けれど、大事なのは、効果があろうとも「暴力的指導は、もうやめよう」ということです。暴力で物事を解決する時代ではありません。
ー暴行と教育の境目をどう考えるか
「暴力は教育にあらず」の一言です。恐怖で人を動かすことはできるし、人を更生させることもできるでしょう。
しかし、暴力という恐怖を用いない方法で、どのような教育が可能なのかを熟議していくことが重要です。それこそが、教育の専門家として必要な取り組みであり、必要な資質であると考えます。
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住職は会見で、「続けていきます。要望もかなりあるし」と今後も体験修行を受け入れ続けることを示した。