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仕事に、人生に、友情に…
賢者が勧める迷ったときに読みたい5冊

明日何が起こるか、読むことができないのが今の時代。迷ったときや、困ったとき。仕事で何か新しい切り口のアイディアが欲しいとき。アラフォー世代の男性が気軽に頼れるのは、妻や同僚など周囲の人々ではなく、一冊の本なのかもしれない。今回の特集に登場した識者たちから、おすすめの書籍をうかがった。

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7 hours ago by editors room Reporter

3 Lines Summary

  • ・友人とギクシャクしたときに気持ちを整理するための本
  • ・仕事の人間関係にモヤモヤしたときに、人間ってこんなもんと思える本
  • ・今の時代とのズレを感じながらも読むべき古典

友情に迷ったとき▶選者:熊代 亨氏

『私とは何か ―「個人」から「分人」へ』
(平野啓一郎/講談社現代新書)

「この年になると、ケンカしたからすぐに絶交、とはなりませんよね。でも、家庭や仕事や友人など、複数の人間関係が重なり合う中で、優先順位を考えなければならない場面はたくさんあります。あるいは、お互いがどれぐらい出世したのかなどによって、友人との関係が微妙に変わってくることもあります。“顔”を使い分ける必要性が、若かった頃以上に高まっていると思うんですよ。

そんなとき、この本を読むと、気持ちの整理整頓がしやすくなります。著者の平野さんは、人間が異なる人間関係ごとに“顔”を変えるのは決して不誠実なことじゃない、そうなるのが当たり前なんだということを“分人”という言葉を使って説明しています。友人と会っているとき、家族といるとき、職場にいるときと、相手や場が違ってくれば、それにあわせて言動や態度が変わるのは自然なことだし、そのおかげで救われている部分もあります。そういうものだと割り切れば、“自分らしさ”みたいなものに囚われずに生きていけるんじゃないの?というスタンスなんですよね。

私は精神科医なので、出来事は個人同士の間で起きるのではなく、“コミュニケーションの場で起こっている”と捉えています。平野さんの“分人”の話は、それに近いんです。この本に書いてあるように捉えてみると、人生ずっと生きやすくなると思います」

仕事に迷ったとき▶選者:熊代 亨氏

『新訳 ラ・ロシュフコー 賢者の言葉 世界一辛辣で毒気のある人生訓』
(ラ・ロシュフコー著・住友 進訳/日本能率協会マネジメントセンター)

「仕事がうまくいっていないときの気分転換としておすすめの一冊。17世紀のフランスの貴族、ラ・ロシュフコー伯爵が、仕事の合間にきまぐれに書いた格言集です。ちょっとシニカルな人間観察の本といいますか。たとえば、こんなフレーズがあります。

“われわれに、全く欠点がなかったら、他人の欠点をみつけて、こうも嬉しくはならないのだが”とか、“人間は、自分の希望や欲望は、なかなか見限らないが、恩義の方は、簡単に見限ってしまう”など。

仕事の人間関係でモヤモヤしているときにこれを読むと、“人間なんてまあ、こんなもんでしょう”と吹っ切れます。それは諦めであると同時に、許しでもあると思うんです。自分にも他人にも多くを望まないという穏やかで優しい生き方なんですね。コンパクトだから多忙な社会人生活の中でも読みやすい。私は枕元に置いて、ときどきぱらぱら読んでます」

仕事に迷ったとき▶選者:橋本大也氏

『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす
(マーカス バッキンガム、ドナルド・O. クリフトン 著・田口俊樹訳/日本経済新聞出版社)

「この本はネット上のテストと合わせて完結させるという、ちょっと特殊な本なんです。ベースになっているのは、アメリカの人材会社が世界中のビジネスパーソンを調査した結果をもとに作成した「ストレングスファインダー」という、5つの強み発見テスト。オンラインでテストをやった後に、この本に書かれている診断結果を読むようにつくられています。

これがすごくよくできていて“あなたにはこの5つの能力や才能があります”と、それぞれについてベタぼめしてくれるんです(笑)。「自分、すげえ!」みたいな気持ちになってモチベーションが上がるので、仕事で迷いを感じているときなどに、ぜひ試してみてください。

かつて私が会社経営者時代に、これを役員や部長に試してもらって、お互いの5つの強みを交換したことがありました。ネット上の診断を転送できるようになっているので、つい“お前、どうなってんだ”と、見せ合いたくなるんです。チームで動く際には、創造性が高いタイプ、実務家的なタイプ、あるいは人をサポートする共感能力が高いタイプであるなど、メンバー個々人の強みを覚えておくと、人に仕事を振りやすかったりします。自己理解も促進されるし、チームビルドにも役立ちます」

人生に迷ったとき▶選者:橋本大也氏

『深い河』
(遠藤周作/講談社文庫)

「切羽詰まるような人生の岐路に立たされた複数の男女が、ガンジス河を訪れて旅をすることでそれぞれの運命が変容していくという小説です。おすすめの理由は、ネット時代の今とのギャップでしょうか。今は何でもすぐに動画で見られて“ガンジス河ってこんなもんか”と思うかもしれないですけど、かつてはわざわざインドのガンジス河まで行かないと、わからないこともたくさんあったのです。

一時期、遠藤周作の本に凝っていて、全読破をした中で読みました。なにもかもが“いわゆる昔の小説”で、時間をかけて読む、小説らしい小説です。たとえば人生に迷ったとき旅で答えを探そうとしたり、男女間の一期一会などの、今の時代とは違う発想や展開。今はさまざまなツールでつながれるので一期一会など難しいし、ネット検索すれば人生指南やYahoo!知恵袋が出てきて、自分と似たケースを参考にすることができます。しかし、かつての旅人たちは自分で自分の答えを探すため、考えるためにガンジスまでやってくるのです。

そんな、自分の悩みに向き合う群像劇を追体験することで、安易に答えが見つかるネット時代に、“答えを探すプロセスこそが重要なんだ”ということを理解できる気がします。遠藤周作はこの小説で、結局何が言いたいのかをはっきりと書いてはいません。“すべてを飲み込んでいくガンジス河”、みたいな、雄大な光景で物語が締めくくられるのも、鮮やかです」

人生に迷ったとき▶選者:岸見一郎氏

『ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン』
(プラトーン/新潮文庫)

「古典というのは今の時代や社会とはズレがあるので、読んだとき、すぐに自分にぴったりくることが書いてあるとは限りません。しかし、そのズレも感じながら何度も読み直して欲しいのがこの本です。

ご存知のように、ソクラテスは青年に害を与えたと保守的な人々から告発され、死刑になります。本書には、その彼が法廷で自分の所信を演説する様子が描かれています。ソクラテスは当時70歳でしたが、まだ乳飲み子がいたので、もし“私が死刑になったらこの子たちが路頭に迷う。重い刑を課さないでくれ”と涙ながらに弁明したら、彼は無罪になったかもしれません。しかし彼は体制に迎合することなく、最後まで自身の考えを曲げずに、死刑に処されたのです。

そんなふうに、誰の顔色もみないで発言するソクラテスの姿から、今学べることは多いと思います。私たちが勇気をもらえる一冊です」

構成・文=谷畑まゆみ

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