バラバラになった時代を超えるために
いきものがかりのシングル曲は多くのタイアップを獲得してきた。
そのことは、自分たちの作った曲を広く届けるために大きな効果を発揮した、と水野良樹は語る。
「ただ単に、僕が曲を作って、それをレコーディングしてホームページで公開したとしても、それを聴いてくれる人は果たしてどれだけいるだろうか? って思うんです。ライブだって同じですよね。会場まで足を運んでくれた人じゃないと曲を聴いてくれない。
僕は社会に影響を与えるということに憧れて音楽をやっているので、やっぱり曲の出口を得なきゃいけないということはすごく思っているんです。そういう意味でタイアップが重要であることは確かです」
自分たちのファンやその周囲に届けることを目的にするならば、ネットで音源を公開し、ライブに足を運んでもらうことだけを考えることで事足りるかもしれない。
しかし、自分たちに興味のない人にまで伝えるためには、やはりタイアップは今も強い力を持っているという。かつてのような「ヒットの方程式」は成り立たなくなっているが、それでもCMやドラマ主題歌やアニメの主題歌は曲が広まっていくための大きなきっかけになっている。
メディアを通して繰り返し耳にすることで、自然とその曲を覚えてしまう。小室哲哉は「刷り込み」という言葉でそのことを表現したが、水野は「曲の出口」という言葉でそれを言い表す。
では、なぜ彼は「音楽が社会に影響を与える」ことに強いこだわりを持っているのか。
どうやら、そこには単に「売れたい」とか「人気者になりたい」ということとは違うモチベーションがあるようだ。
「今の時代って、皆さんの生活パターンも家庭によって全然違うし、何のメディアを見てるかも違う。みんながバラバラの価値観を持った、多種多様な時代になったと思うんです。だけど、そんな中で、卒業式とか結婚式とか、そういう人生のイベントというものは形骸化しながらも残っている。
僕らの曲で言えば、『ありがとう』や『YELL』は、そういう場所で流れる曲になっているんですね。それから、『じょいふる』は、運動会に使われたり、幼稚園児が言葉の意味もわからないのに楽しそうに歌ってる姿を何度も見たりしている。
そういうことを知ると、自分たちの曲が社会に根付いたな、影響を与えているなということを実感できる。それはすごく嬉しいことなんですね」
いきものがかりの代表曲である「ありがとう」や「YELL」や「じょいふる」は、どれも実はオリコンランキングで1位にはなっていない曲だ。
CDの売り上げから見れば、大ヒットとは言い切れないかもしれない。
しかし、リリースから数年経って、確実に「歌い継がれる曲」として定着してきている。そういうタイプの曲を作ることができたことに大きな達成感を感じていると言う。
「共通体験」がキーを握る
ここで水野良樹が「人生のイベント」という言葉を使ったのも印象的だ。
小室哲哉が「パーソン・トゥ・パーソン」という言い方で表現したように、ソーシャルメディアが普及した10年代は、一つのコンテンツに皆が一緒に熱狂するようなことは少なくなっている。
人々の興味は細分化され、セグメント化されてきている。
「月9」ドラマが社会現象化したような時代は過去のものとなった。流行は局所的に生じ、局所的に消費されるものになっている。だからこそ、「CDが売れない」という話とは全く別の、より大きな次元で「ヒットが生まれづらい」時代になっている。
そういう時代においてもなお人々の「共通体験」になりうるものとして残っているのが、卒業式や結婚式などのイベントだ。そこを介することで、世代やセグメントを超えて曲が伝わっていくことができる。
現象としてではなく、より聴き手一人ひとりの生活や人生に近いところを介して社会に影響を与えていく。それが今の時代のヒット曲のあり方と言えるかもしれない。
次回「ヒットチャートから流行が消えた」は明日更新!