最終回 SF考証になるとは

2014年、「ランドスケープと夏の定理」で第五回創元SF短編賞を受賞してデビューした作家の高島雄哉氏。その新鋭が、来る10月に上映されるサンライズのSFアニメ『ゼーガペインADP』のSF考証をすることに! 今回は最終回として、SF考証という仕事についてまとめます。

■SF考証のなりかた?

今回ぼくは、『ADP』のシナリオから美術設定そしてアフレコやプロモーションまで、SF考証としてポイントごとに、アニメ制作の一連の流れに関わることができました。

SF考証という職種は、募集されることはほとんどありません。そのため仕事内容についての情報も少なく、仕事の方法を手探りで作っていくところから、ぼくのSF考証は始まったのでした。

©サンライズ・プロジェクトゼーガ

ただ、この状況は小説を書くときと大差はありません。新しいテーマの小説を書こうとして、情報収集をしようとしても、それが本当に新しいテーマなら、これまでと同じ調べ方ではなく、まったく新しい方法をするべきなのです。

ということで依頼を受けてからしばらくは闇雲にあれこれと手を広げて調べたりもしたのですが、だんだんと未知なるものへの不安よりも、新しい出会いへの期待感のほうが強くなっていきました。むろんこれはぼくが新人SF考証ということで、スタッフのみなさんからの温かいご指導があったおかげです。

■会議室での打ち合わせ論

ぼくは普段、編集者さんとのやりとりがたまにあるだけで、基本的にいつも一人で文章を書いています。そのためサンライズの会議室での打ち合わせは非常に刺激的でした。

会議室にはWEBカメラがあり、インターネット会議もできます。シナリオや設定資料そして映像も、今はすべてデータ化されています。しかし基本的に打ち合わせはみんなで会議室に集まって行われます。ちなみにお茶は設定制作の泉さんが適宜用意します。長くなりそうな時はお菓子を用意するとのこと。


©サンライズ・プロジェクトゼーガADP カット:meta-a

さて、会議室に集まる利点ですが、これは『ADP』に参加して間もない頃から何度も体験しました。同じ時間と空間を共有しているからこそ生じる《相互作用》のようなものがあるらしく、一人で長時間考えていても出てこないような素晴らしいアイデアが打ち合わせ中にふっと生まれるのです。特に覚えているのは『ADP』冒頭のホログラム電話の会話メモ機能と、終盤の三十億人分のデータを使う展開についての打ち合わせです。これらはみんなの話の流れのなかでポンポンとアイデアが生まれて、膨らんでいきました。

■ゲンロンカフェへ!

『ADP』公開期間中の10月25日、東京は五反田のイベントスペース《ゲンロンカフェ》でトークイベントが開催されました。登壇者は、SF二大出版社である東京創元社と早川書房から小浜さんと井手さん、そして特別ゲストに海猫沢めろんさん。そして『ADP』スタッフとしてハタイケさんとぼくが参加しました。イベントタイトルは「ゼーガペインをSFから読み解く」です。客席はゼーガファンとSFファンで一杯に。

イベントは3部構成。まずはSFとしての『ゼーガペイン』について、小浜さん井手さん海猫沢さん高島の四人で話しました。冒頭で『ゼーガペインADP』が、(ここ最近上映されたSF系の映画に比べて)SFとして最も緻密に作られていると確認されました。

『ゼーガ』は量子サーバーという制限されたVR空間が舞台。特に物理的にループせざるを得ないという設定が絶妙だと指摘がありました。物語のすべての展開にSF的な理論が設定されていて、最終的にSFでしか描けない美しい情景に至ります。SF叙述トリックとしても素晴らしく、SFを書こうとする人は必見の作品であるとの意見も。まったくそのとおりだと思います。


©サンライズ・プロジェクトゼーガ

つづく2部では『ゼーガ』のデザインディレクターのハタイケ・ヒロユキさんが登壇! 発想の原点をうかがいつつ、さらなる読み解きが行われました。キョウとシズノは水泳部でVR内の身体性を追求し、カミナギは映画研究部でどちらが現実でどちらが虚構なのかという「胡蝶の夢」を表現しているのではないか。『ADP』の少しずつズレながらのループは演劇的なものに繋がるのではないかなど、改めてゼーガの世界の深遠さに気付かされました。

3部からはAI研究者の三宅陽一郎さんも登壇されました。三宅さんはぼくとハタイケさんを繋いでくださった方であり、2006年TV放映時からの『ゼーガ』ファンなのでした。ゼーガ世界ではAIは平面で表現されます。ではAIたちが持たず、VR内の情報体である主人公たちが持っているものとは何なのか。それは痛みを感じ取れる肉体に他ならないのだと、三宅さんから鋭い指摘があり、トークは現代科学論へと深まっていきました。



©サンライズ・プロジェクトゼーガ

最後はVRイベントでお世話になったクラスター社や『ゼーガ』のオープニングとエンディングの映像で参加したダンスカンパニーのニブロールという、最先端の技術と芸術についての議論となり、いつまでも話は尽きなかったのですが、あっという間に時間は過ぎて、終了となりました。今回の主催は2017年の日本SF大会。静岡で2017年8月26、27日開催です。来年の夏も何かできればと勝手に思ったりしています。日本SF大会についてはこちら

そしてゲンロンカフェ会場で発売されていたSFマガジンは完売! もちろん全国の書店では絶賛発売中です。VR/AR特集号で、ゼーガ特集としてハタイケさんのインタビュウ記事とぼくの評論記事があります。VR元年の締めくくりにぜひお読みください。

SFマガジン2016年12月号

■十ヶ月を振り返って

もしもう一度『ADP』のSF考証ができるなら、もっと色々とできるはず、と思わないでもありません。特に初めの頃は、アニメーションとしての完成形をイメージせずに、映像化しにくいアイデアや音として長過ぎる単語を提案してしまいました。

でも、ここはループのない現実世界です。2016年の夏のぼくは、すべてのスタッフ同様、SF考証としてベストを尽くしたのは間違いありません。いくつものミスはぼくの糧になり、その一部はより良いアイデアの叩き台となって、『ADP』に組み込まれていきました。

実は『ゼーガペインADP』の仕事が一段落した後、つづいて『機動戦士ガンダム THE ORIGIN IV 運命の前夜』のSF協力をすることに! まったく違う方向性の作品ですが、『ADP』での経験を十分に活かしていきますので、どうぞこちらもよろしくお願いします。作品詳細はこちら

■また夏が来る

TVシリーズ『ゼーガペイン』が放映された2006年から十年目の今年、ファンがみんな待っていた新展開として『ゼーガペインADP』が劇場公開されました。BDやDVDに加えて、デジタル配信でもご覧になれますので、ぜひ何度も見ていただければ幸いです。

そして、ぼくが矢立文庫で連載しています『エンタングル:ガール 舞浜南高校映画研究部』は、次の夏へと続いていく企画として、ゼーガファンにもゼーガ未経験の方にも是非楽しんでいただきたいと思います。



©サンライズ・プロジェクトゼーガ

■ルーパとぼくからのひとまず最後の御挨拶

『ゼーガペインADP』の上映も終わり、今日はひさしぶりの上井草です。

「『エンタングル:ガール 舞浜南高校映画研究部』の打ち合わせかナ」

「ルーパ! ひさしぶり。そう、今日は第5話の件で。きみは?」

「アタクシはもう少し先に行きます。またね」

ルーパがいたところには光の粒子が風に舞っています。ぼくもルーパとみなさんへ御挨拶を。それではまた次の夏に。


(終)


ゼーガペインADP PREMIUM EDITION(初回限定生産商品/Blu-ray)


SFマガジン

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世界を設定する SFアニメ現場レポート

高島雄哉

SF作家による、サンライズのSFロボットアニメ『ゼーガペインADP』の製作現場レポート!

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hilbert_d 【はてブ新着ゲーム・アニメ】 21分前 replyretweetfavorite