環太平洋パートナーシップ協定(TPP)承認案・関連法案を担当する閣僚の一人、山本有二農相の一連の発言が批判を浴びている。民進党などの野党は山本氏に対して辞任を求めている。
国会での強行採決に言及したうえ、さらに自らの失言を「冗談」だとちゃかすような山本氏の言動は理解に苦しむ。発言を撤回、陳謝したが、非常識な言動で担当閣僚としての信用は大きく損なわれた。閣僚の資質を欠くと言わざるを得ない。
「こないだ冗談言ったらクビになりそうになりまして」。山本氏が1日、自民党議員のパーティーで自らの失言にふれながらあいさつすると、会場では笑いが起きていた。
発端は山本氏が先月18日、自民党の佐藤勉・衆院議院運営委員長のパーティーで「(TPP案件を)強行採決するかどうかは佐藤氏が決める。だから、はせ参じた」と語ったことだ。担当閣僚が強行採決をそそのかすような不適切な発言だ。安倍晋三首相らが注意し、山本氏が陳謝することで政府は沈静化を図った。
ところが「冗談」発言は山本氏が失言をまったく反省していないことを露呈したと言える。しかも、山本氏は「JAの方々が大勢いらっしゃる。明日でも農林省(農林水産省)に来ていただければ何かいいことがあるかもしれません」とも語った。利益誘導をにおわせる言動である。
農業関係者はTPPへの参加が農業や生活を直撃しかねない、と懸念を抱いている。だからこそ、政府は国会で丁寧に対策を説明して理解を求める必要がある。今回の発言は業界に対して極めて不誠実だ。
政府はTPPへの慎重論が議会に強い米国を後押しするためとして、米大統領選前に衆院を通過させ、今国会での承認や成立に道筋をつけるスケジュールを描いている。
だが、それはあくまで審議を通じて理解が広がることが前提だ。輸入牛肉や遺伝子組み換え食品など「食の安全」や、外国企業が紛争を解決するため国を提訴できる手続きなど、議論すべき点はなお多いはずだ。
TPPをめぐっては山本氏の発言に先立ち、衆院特別委員会の自民党理事も「強行採決で実現するようがんばる」と述べて批判を浴び、辞任した経緯がある。これでは、巨大与党のおごりと緩みの表れとみられても仕方あるまい。
与党はTPP承認案・関連法案の週内の衆院通過は断念したものの衆院特別委員会での可決に踏み切り、民進党などと対立を深めている。
山本氏の下で今後も議論を深め、TPPの具体像を説明していけるのか。任命権者である首相は、責任を持って事態を収拾すべきだ。