Twitterの行き詰まりからWEBの歴史を考える
速水健朗(以下、速水) 大手への身売り話が話題になっていたTwitterだけど、ついに米企業のセールスフォースが買収を否定したことで、売却交渉はすべて頓挫。ついに、どこも引き取り手がないという事態になって、株価も急落と話題になってる。
* Twitterの株価、また暴落 セールスフォースが買収否定で
おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 当初は、アップルやマイクロソフト、Google、ディズニーといった超大手の名前が挙がっていましたが、いつの間にか立ち消えになりましたね。
速水 結局、炎上の悪いイメージが定着して広告ツールとして不適合だとか、すでに成長が止まったサービスとして見捨てられつつある、というイメージもあるみたい。優秀なエンジニアも離れていってるって。
おぐら Twitterって、短いネットの歴史を見ても、インターネット史に残る画期的かつ大成功しているサービスですよね。それが、いよいよ岐路を迎えているってことなんでしょうか。
速水 今年は、サービス開始から10年目。ネットの世界で10年といえば、普通は淘汰される期間だろうね。
おぐら パーソナルなSNSサービスのTwitterが行き詰まっている一方で、アメリカの通信大手AT&Tが、CNNやHBOといったケーブル局を所有するタイム・ワーナーを、約854億ドル(約8兆8600億円)で買収する計画を発表しました。
* AT&Tのタイム・ワーナー買収、米当局が審査へ
速水 Twitterが100億ドル強の規模って言われてたから、かなりの額だよ。
おぐら 日本国内に置き換えると、NTTが東宝を買収するくらいのインパクトありそうです。
速水 通信大手がメディア企業を買うという意味ではそんな感じなんだろうけど、両社のコメントを見ると、スマートフォン時代に対応するためだって話みたい。かつてのAOLのタイム・ワーナー買収*の失敗を思い出すと、大丈夫かって思うけど。
* 2000年に大手インターネットサービス企業のAOLと複合メディア企業タイム・ワーナーが合併。当時ITバブルで破竹の勢いだったAOLに事実上タイム・ワーナーが買収される形になった。
おぐら AOL! CD-ROM*とか懐かしいですね。AOLとタイム・ワーナーは、あの頃「世紀の大合併」って言われてましたけど、結局どうなったんでしたっけ?
* AOLは90年代から顧客獲得のために、自社オンラインサービスのインストールソフトが入ったCD-ROMを店頭や雑誌付録などを使ってばらまいていた。
速水 世紀の大失敗になった。この直後にアメリカのITバブルが崩壊したのもあるんだけど、当時打ち出していたポータル戦略が間違いだった。ポータルサイトのトップに、ニュースから映画まで、あらゆるコンテンツを並べるためにAOLはメディア企業を買収したのに、実際はポータルの時代はもう終わっていたんだよね。代わりに登場したのがGoogle。
おぐら Googleのトップ画面は基本、検索窓だけですからね。
速水 あと、合併してネット部門とメディア部門がめちゃめちゃ仲が悪くなったのも大きかった。合併の食い合わせが最悪だったんだよね。AOLから見れば、効率の悪いメディア部門の改革がやりたかったんだけど、新聞や雑誌、放送の部門は、旧弊メディア扱いされたり、無理な介入を嫌がった。そのうちに合併は解消。完全に解消するには、9年かかったけど。
おぐら 僕のまわりにも、雑誌とかの紙メディアからIT系のサービスに転職したり、異動になったりした編集者がいますけど、やっぱりルールや考え方の違いは大きそうです。
速水 俺のまわりでも多い。KPI*がどうのとか言われるようになって、うるせーなって怒ってたりする。そういう俺もKPIがなんだかよくわかってないんだけど。
* Key Performance Indicatorの略。日本語に訳すと「重要業績指標」。ネットメディアは即座に結果が見えてしまうので、数字が重視されやすく、過剰な合理化を嫌う紙メディア出身者と対立することがしばしばあるのです。
おぐら それにしても、ネットサービスにとっての10年って長いですよね。ひと昔どころか、ふた昔、三昔前っていう印象です。
速水 でも驚くことに、まだAOLのポータルサイトって残ってるんだよ。
おぐら 残ってるといえば、阿部寛さんの公式ホームページが、ニフティのホームページサービス終了に伴って、新しいアドレスへ移行したにもかかわらず、古いデザインがそのまま「歴史遺産」として採用されて話題になってました*。
* あの「阿部寛のホームページ」が移転、デザインはそのままでネットユーザーは一安心
速水 それを伝えるやじうまウォッチがまだ残ってるのもすごい。10年ぶりに見た(笑)。
おぐら ちなみに、ブロスでも芸能人のホームページ特集をやったことがあるのですが、担当いわく「キャリアが長くて個人事務所系だと遺産のまま残ってるケースが多い」と。個人的には、いとうまい子さんのホームページが好きです。小さい花柄の装飾がシールみたいで可愛い。
速水 それより、なんでプロフィールが全文英語なの?(笑)。
炎上でサービス終了した中高生向けSNS「ゴルスタ」
おぐら Twitterに話を戻すと、サービス自体が存続できない可能性もあるんですかね。唯一の告知ツールとして使ってる人もいますし、なくなると困る人は多いでしょう。
速水 すごく困る。でもTwitterを社会インフラのように思ってしまうけど、一企業が運営しているだけのものだから、いくら大勢が困ろうが、運営元が「やーめた」といったらおしまいになってしまうんだよね。
おぐら いわゆる「ツイッタラー」とか、Twitterで人生変わった人もたくさんいますし。
速水 ツイッタラーっていう言葉がもう、ひと昔前の響き。それで思い出すのは、ある日突然なくなったゴルスタね。
おぐら すっかり過去のことになってしまった感もありますが、まだTwitterのプロフィール欄に「元ゴルスタ民」って書いてるユーザーは結構います。
速水 近いうちに俺たちも「元Twitter民」になるかもしれない。それにしてもゴルスタは、今年の8月末に炎上してあっという間にサービスが終了*してしまった。
* 2016年9月5日にサービス停止を発表。公式ページで「一部の運営担当者において、明らかにふさわしくない言動があったことを確認」し、「ひいては弊社全体の問題であると重く受け止めております」との弁。現在は閲覧できないようになっている。
おぐら 大炎上だったので、運営が火消しを優先したと考えれば、サービス終了は正解だったかもしれません。Twitterなど他のSNSでゴルスタの運営批判をしたことまで監視して警告したり、停止したアカウントの復活のために反省文を提出させたり、明らかに行き過ぎた運営は問題だらけでしたけど。
* 中高生専用SNS「ゴルスタ」が完全に旧ソ連と大炎上、親のクレカ含む個人情報収集、運営批判で垢BAN→復帰には反省文提出→謝罪
速水 本業である個別指導塾の経営にも影響が出そうだって判断したんだろうね。それにしても、ゴルスタの本当の問題点って、強引な運営以上に、中高生専用のSNSで人気をランキングで競争させるシステムだったと思う。
おぐら ゴルスタでは、ツイキャスのようなライブ配信や動画配信のサービスが特に人気で、多くの人気ユーザーが生まれたりしてました。
速水 人気ランキングの上位者を、ゴルスタ発のアイドルやモデルとして売り出そうとしていたんだよね。
おぐら その中には、ゴルスタ発のグループアイドル「ゴールスターズ」の活動に専念するといって、高校を中退したメンバーもいたりして*。
* みなさん初めましてGSのひょがたんです - ひょがたん@GS LIFE
速水 彼らに罪はないわけだけど……。
おぐら 一部はその後もツイキャスとかでアイドルっぽい活動を続けてはいるんですけど、ゴルスタと同じようにはファンが増えないようで。「フォロワー数が増えない……」ってつぶやいていたりしていて、切ないです。
ゴルスタに見る権力と支配の構造
速水 ゴルスタの中では、中高生オンリーという一定の価値観のユーザーが集まるクローズドなSNSならではの親密なコミュニティがあったんだろうね。だからサービス停止時には、ゴルスタを擁護するユーザーも少なくなかった。実際、そこで人気があった人たちにとって、その場が失われたショックは大きいだろうね。
おぐら 人気が可視化されるっていう部分では、ユーチューバーに憧れる世代でもありますよね。そう考えると「YouTubeやLINE LIVEのような大手サイトで人気者になるのは難しい子も、ゴルスタならいけるよ」っていうハードルの下げ方はうまかったと思います。
速水 「PPAPペンパイナッポーアッポーペン」のピコ太郎みたいに、グローバルな人気者になれるのがインターネットだとすると、それはあまりに敷居が高い。それとは別に、もっと細かいローカルな単位での人気者を目指せるツールとして、ゴルスタはうまいところを突いたといえる。
おぐら クラスの人気者をネット上で作るっていう。
速水 ただ、ゴルスタのやばさは、淡い期待を抱かせる「人気ランキング」に「密告監視体制」がセットになっていたところ。運営側がアイドルとして売り出してくれるっていうのは、彼らが有無を言わさない権力装置になることとワンセットでしょ。
おぐら ゴルスタユーザーで作ったLINEグループに「運営には内緒 入りたかったら返信ちょーだい」って書いたら、それが密告されて、運営から「ずいぶんと我々も侮辱されたものですね」というメッセージが来て、アカウントが停止されたと。単純にこわいです。
速水 言葉使いがフリーザ(笑)。一方、アカウント停止に文句を言っているユーザーに対する運営からのリプライもすごい文言。「ゴルスタで待っている大切な人がいるのではないですか?」だって。
おぐら 中高生は友人関係が世界のすべてみたいなところもあるので、より切実度が増しますよね。だからこそ、友だちと連絡を取り合うためのツールとして使っていた当人にとって、アカウント停止は死活問題。そうなるともう、たとえ不本意だろうが、ユーザーは反省文を書いてアカウントを復活してもらわざるを得なかった。
速水 ネットでは皆、ゴルスタを共産主義国やカルト宗教に例えていたけど、ほんとそんな構造なんだよね。高いコミットを要求する組織は、運営者の意向を必要以上に自らに課すような状態が自然に生まれやすい。
おぐら つまり、支配の構造が作りやすい、と。
速水 クローズなコミュニティって、囲い込まれている状態だから、異常さに気付きにくいんだよ。さらにその中で「人気ランキング」みたいな競争状態を作る。これも構造だけ見ると、カルト宗教の典型だし、マルチ商法の囲い込みの手法なんかにも近いよ。
おぐら しかも、中高生限定ゆえに、大人たちに発見されないまま異常性が暴走していくという、何重にも悪い方向にうまくできているのが恐ろしいです。
速水 これは大げさでなく、ゴルスタは「カルト組織のモデルをSNSに導入したらどうなるか」っていう社会実験のようなものだったんじゃないかな。
おぐら ただ思うのは、運営が大問題だったとしても、そのアイデア自体は消滅させるにはもったいないサービスだったのかなって。
速水 中高生に特化したコミュニティとか、外部から守られていて、教育に紐付けたネットワークとか、ユーザー同士の競争原理を活かしたSNSとか、アイデアは活かせるものが多かったかもね。
おぐら うまくやればもっと成長できたネットサービスが、舵取りに失敗したせいで消滅したという見方もできます。
速水 大手通信会社とかに買収されたり。
おぐら だってゴルスタって、アプリのダウンロード数は10万以上だったんですよ。中高生の間での認知率はそこそこあったはず。
速水 その意味では、ゴルスタ発のアイドルの知名度は、俺たちなんか比べものにならないレベルだったわけで。
おぐら ケタ違いですよ。ネットメディアとして見た場合、影響力と可能性は間違いなくあった。
速水 この対談連載だって、看板ごと他のメディアから買収の引き合いが来るくらいのところまで引き上げていかないとって、常々思ってるんだけどね。
おぐら 『週刊文春』か『BRUTUS』に移籍したいって、ずっと言ってますよね。
速水 いや、今だったらTOKYO MXの『バラいろダンディ』のMC、一緒に売り込みに行かない?
おぐら 『バラいろダンディ』のプロデューサーの大川さんは、あの『5時に夢中!』も担当してますよ。
速水 いいね。いつでも移籍できる準備だけはしておこう。