【連載】及川卓也のプロダクトマネジャー探訪
昨今、日本でも注目度の高まっているプロダクトマネジャーの仕事。しかし、業界内における人数の少なさから、その職責やジョブディスクリプション、どうすればプロダクトマネジャーになれるのかetc...といった部分はまだまだ不明確だ。そこでこの連載では、MicrosoftやGoogleで長くプロダクトマネジメントのスキルに磨きをかけてきたIncrements の及川卓也氏を聞き役に迎えて、各社のプロダクトマネジャーが日々行っている業務や、愛用しているツールを紹介しながら仕事ぶりに迫る。
第一回となる今回は、資産運用を“ロボアドバイザー”にお任せできるサービス『THEO(テオ) 』の開発・運営を行うお金のデザインにお邪魔し、プロダクトマネジャーの梶田岳志氏氏に話を聞いた。
前職のクックパッドから2015年10月に同社へ転職した時から「プロダクトマネジャー」としての採用だったという同氏は、どんな経験を経て現在の仕事に臨んでいるのか。
■現在のミッション
■スタイル確立のきっかけ
■よく使うツール類
■スキルを伸ばす方法
の4つについて、梶田氏の持論を聞いた。『THEO』の立ち上げ当初からプロダクトマネジメントを担ってきた彼の流儀を紹介しよう。
株式会社お金のデザイン Head of Product
梶田岳志氏 大阪大学人間科学部を卒業後、重工業メーカーに就職。その後、家庭用ゲーム開発を手掛ける会社に転職し、開発サポートやイベント企画などに従事する。次第にデジタルなモノづくりに興味を抱くようになり、2011年にクックパッドへ。ディレクターとして主に有料会員向けサービスの開発チームリーダーを担当する。2015年10月、お金のデザインへプロダクトマネジャーとして入社
Increments株式会社 プロダクトマネージャ
及川卓也氏 早稲田大学理工学部を卒業後、日本DECに就職。営業サポート、ソフトウエア開発、研究開発に従事し、1997年からはMicrosoftでWindows製品の開発に携わる。2006年以降は、GoogleにてWeb検索のプロダクトマネジメントやChromeのエンジニアリングマネジメントなどを行う。2015年11月、技術情報共有サービス『Qiita 』などを運営するIncrementsに転職して現職に
【現在のミッション】グロースハックと新バージョンの構想、2つを同時に回す意義
「ベンチャー企業のプロダクトマネジャー」という共通項を持つ梶田氏(写真左)と及川氏(同右)
及川 まずは業務のお話から。お金のデザインにジョインされて以降、梶田さんのミッションって何なのですか?
梶田 2つあります。1つは、既存サービスである『THEO』をグロースさせること。もう1つは、まったく新しい機能やサービスをゼロから生み出すことです。
及川 既存のサービスをグロースハックしていく仕事と、新バージョンの構想を練っていく仕事って、なかなか相容れないですよね? それぞれコンテキスト(文脈)が違いますから。
梶田 そうですね。私も、直近の業務内容はグロース施策の方、つまりユーザーからのご指摘や積み残してある開発要件のうち、どれを優先して手を付けるか?を整理するのが中心になっています。
ただし、『THEO』はまだ始まったばかりのサービスなので、目先の課題だけをつぶしていっても大きく成長はしません。
それに、当社は「あらゆる人のお金の悩みを解消する」という大きな事業方針を掲げているので、データ分析やユーザーヒアリングを通じて『THEO』の守備範囲である資産運用とは異なる文脈の要望が出てきた時は、「未来の話」として頭の中の別フォルダに格納しておくようにしています。
及川 プロダクトマネジャーは、「目先の成長」と「未来の構想」の両方を仕切らなければならないという点で、スーパーマンのようなミッションを追うじゃないですか。でも、僕らは人間で、全てを完璧にこなすのは難しい。梶田さんはどうやって2つの視点を切り替えているんですか?
梶田 『THEO』を起点に物事を考える時と、「お金の悩み」そのものを解消する視点で考える時で、時間の使い方を切り替えるようにしています。
例えば新しいサービスの切り口は、今気付いていることの“内部”から出てくるとは限りません。自分の考えに“外部”を取り入れる方法はいろいろあると思いますが、その一つとして、今も週イチくらいのペースで「未来のこと」を考える時間を取り、ユーザーヒアリングを行ったりしています。日ごろは会わないような方々とお会いするようにして。
そうやって強制的に見える景色を変えながら、新しい課題を発掘していくというか。
及川 素晴らしいですね。僕が前職のGoogle時代に担当していたChromeのプロダクトマネジメントでは、梶田さんのようなユーザーヒアリングはあまりやっていませんでした。
梶田 なぜですか?
及川 利用対象となるユーザーの層が広過ぎることもあって、あえてユーザーの声を積極的には拾わないようにしていたんです。ノイジーマイノリティの意見に引っ張られ過ぎたりするじゃないですか(笑)。なので、どちらかというと「声なき数字」からインサイトを見いだす方に注力していました。
梶田 難しいですよね、この辺の業務の進め方は。
及川 梶田さんの仕事で、既存ユーザー向けと未来のユーザーに向けた業務ボリュームをあえて数字で比較すると、どれくらいですか?
梶田 そうですね、6対4とか7対3くらいだと思います。
【スタイル確立のきっかけ】「開発補佐」と「コンサル寄り」両方のアプローチがカギと知る
前職のクックパッドではディレクターだった梶田氏が、なぜプロダクトマネジメントを行うようになったのか?を質問する及川氏
及川 梶田さんがプロダクトマネジャーとして現在のような業務スタイルにたどり着いたのは、いつごろでしたか?
梶田 何となく自分の中で腹落ちしたのは、前職のクックパッド時代です。
及川 でも、梶田さんはクックパッドでディレクターをしていらっしゃったんですよね? 僕はこの連載でプロダクトマネジャーの職責やジョブディスクリプションを明確にしていきたいと思っていまして、その際によく出てくるのが「ディレクターとプロダクトマネジャーは何が違うのか?」という問いなんです。ズバリ、梶田さんは何が違うとお考えですか?
梶田 難しい質問ですね……。これはあくまで僕の経験則ですが、ディレクターは「開発補佐」的な役割と「コンサルタント寄り」の役割どちらかを軸足にしてやっている人が多い印象です。で、プロダクトマネジャーは、両方を担当するのが仕事というか。
及川 開発補佐とコンサル寄りで、何が違うのでしょう?
梶田 開発補佐は、文字通り開発チームの進む方向性を決めて制作の陣頭指揮を執る役割で、コンサル寄りはビジネス面を含めたプロダクトの中長期的な成長を構想する役割。開発補佐の色合いが強いディレクター職だと、コンサル寄りの役割はやりづらいんじゃないかと感じていました。
及川 なぜですか?
梶田 どうしても、担当プロダクトだけにフォーカスしてしまうからです。目先の課題解決に追われることが多くなりますし。
及川 「プロダクトを守る」という意識が強過ぎると、ビジネスサイドと対立してしまうようなことも起きますよね。
梶田 そうなんです。本来、成長し続けるために新しいサービスを構想したり、思い切ってバージョンアップしていく際には、既存サービスの延長線上にはない打ち手も必要じゃないですか。だから、プロダクトマネジャーには両方の視点が大切なんだと思っています。
及川 分かります。ただ、ここで改めて伺いますが、梶田さんはクックパッドでディレクターをしていましたよね? なぜ、そこでプロダクトマネジメントのスタイルを固めることができたんですか?
梶田 クックパッドにいた時は、主婦層をはじめとするユーザーとお付き合いしながら、有料会員事業の収益をいかに伸ばすか?というミッションにも取り組まなければなりませんでした。
ですので、一般ユーザー向けの使い勝手を追求して開発プランを考えることが求められる一方、有料会員事業ではプロデューサー的な立場でどんなビジネスのあり方が考えられるかをゼロから模索していました。この両方の視点を持てたことが、現在の私の強みになっていると思います。
及川 ちなみに、梶田さんは『THEO』における事業責任はどこまで追っているんですか?
梶田 施策を打った後の数字予測などは私が行っていますが、今のところPLまでは見ていません。