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東京のミュージック・バーを巡って

  • 音にこだわりをもったカフェ、バー、小型クラブが豊富にある東京は、世界で最も音楽を聴くことに最適な街かもしれない。Aaron Coultateが東京屈指の音楽バーに足を運んだ。

    富士山の方角へ向かっている電車が多摩川を超えた辺りから、気温が数度下がった。目的地は東京の最西端、八王子。夜の八王子駅に降り立つと、駅前は都心の風景をよりコンパクトにしたものに見えた。見上げるとネオンサイン。その下をせかせかと歩く人々。駅からちょっと歩いたところにあるビルの地下一階に「SHeLTeR」という店がある。1989年から野嶌義男が経営しているDJバーである。

    SHeLTeRは、オーディオ・マニアが垂涎する音響設備が整っているスポットである。Bozakのミキサー、ハイエンドなアンプ、そして大きく豪華なJBLのスピーカーを設置しており、27年間、野嶌義男はSHeLTeRの音響を完璧なものにしようと尽力し続けてきた。店のオーディオ設備を少しもいじらない日はめったにないと言う。壁や天井には、防音のための吸音材が見える。SHeLTeRでプレイするDJは、野嶌店長の友人達によるプロジェクト集団SSSPが作ったというレコードクリーニング液を使用することができるそうだ。DJブースの前には座り心地の良い椅子が4つ、ブースを背にしてメインスピーカーに向かって配置されている。音が一番良く聴こえる場所がそこだと、野嶌店長は教えてくれた。

    野嶌店長がSHeLTeRを始めた理由は単純。久しぶりに八王子に戻ったとき、友達とくつろいで話をしながら、ゆっくり音楽に耳を傾けられる場所がないことに気がついたそうだ。SHeLTeRの音の鳴りを最高なものにしようと、彼はこれまで膨大な時間をかけてきたが、居心地の良い空間づくりにも同じくらい意識を向けているように感じた。SHeLTeRの居心地の良さはまるで友人宅のラウンジ・ルームにいるかのよう。今宵のDJはChee Shimizu、東京屈指の音楽愛好家だ。バーに座り、奥さんの加奈子さん(彼女もセンスの良いDJである)や友人たちとしばらく過ごしたあと、ブースに立ち、細野晴臣の”Mercuric Dance”などを選曲。ろうそくの炎がゆらぎ、お香の香りが漂い、店内にお客さんが徐々に増えていった。

    Chee ShimizuにとってSHeLTeRは思い入れ深い特別な場所だそうだ。「レコードを買ったときは、ここに持って来てかけて、良いかどうか見極める」と彼は言う。10年ほど前から、彼は「旅路」というリスニング・イベントを開催してきた。過去にはPrins Thomas、Lovefingers、Basso、Jonny Nash、Tako Reyenga、そしてアムステルダムのRed Light RecordsのAbel NagengastといったDJたちが出演し、各々が所有しているレコード・コレクションのなかでも特異なものを選別しプレイした。「ジャズ、プログレとかエクスペリメンタル、アヴァンギャルドなど、ダンス・ミュージックじゃないものをかけるというのが当初からの考えで」とShimizuが言う。「最初は誰も理解してくれなかったけど、やり続けたんですよ。そうしたら数年後に歳下のDJたちが後に続いて、似たようなパーティーを違う箱でもやるようになったんです」。今でもSHeLTeRで「旅路」が開催されている他、幡ヶ谷にあるForestlimitでも似たリスニング・パーティーが開催されている。

    「東京でこういった実験的なパーティーができるのは、良質な小箱がたくさんあるから」と彼は言う。「最近はあまり大箱でDJする機会がなくなったんですけど、むしろそのおかげで自分らしいDJスタイルを追求することができているんで嬉しいですね。僕のDJスタイルは小箱向きかなと思うんで」



























    2台のターンテーブルを前にしたDJがレコードを選び、繋げていくというスタイルでのリスニング・パーティーは、おそらくChee Shimizu主催のイベントが先駆けだったと言えるだろうが、レコードをハイファイ・オーディオ機器で再生し、静かな場所で複数人で鑑賞するという行為は、日本ではもっと古くから行われていた。戦後、まだ輸入レコードが一般人には手の届かないような額であった時代、ジャズ喫茶やクラシックをかける名曲喫茶といったお店が人気を博した。多くの人々にとって海外の良質な音楽を聴くにはこういった喫茶店に行く以外方法がなかった。こういった喫茶店は、音楽をじっくりと鑑賞することに重きを置いていた。

    今でも、東京にはそういった時代のスピリットが残っている場所が、探せばある。渋谷にある「名曲喫茶ライオン」は、現存する数少ない名曲喫茶のひとつ。創業1926年のライオンは良質なコーヒーとクラシック音楽を長年、客に提供し続けてきた。Jポップ・スターの最新ヒット曲を大音量で撒き散らすトラックが街なかを通り過ぎ、パチンコ店から漏れる騒音が夜通し鳴り響く渋谷という騒がしい街の一角、道玄坂の細い通りにひっそりと営業を続けている。

    ライオンの店内に足を踏む入れると、そこはまるで90年前から時が止まっ���いるようだ。インテリアにはなんとも言えない威厳がある。天井からシャンデリアがつるされ、巨大な木製のサウンド・システムが威圧的にどっしりと構え、その両端には柱がそびえ立つ。スタッフはクラシックをCDやアナログでプレイし、曲が始まる前には小声で簡潔に曲紹介をする。会話はなるべく控えるのが店のルールであり、客は読書をしたり、書き物をしたり、昼寝をしたり、ただ無言で座り、音楽を楽しむ。










    音楽を楽しむことに焦点を絞った小さなカフェ、クラブやバーは、地下、裏道、そしてビルの上階など東京の至る所にある。どんなにマニアックでニッチな音楽でも、そのジャンルをメインに扱うお店は探せば見つかるだろう。例えば新宿には、スモーキーなジャズで一時代を築いた歌手、浅川マキの作品のみをかけるバーがある(店名は彼女のアルバム名でもある「裏窓」)。新宿・歌舞伎町にあるゴールデン街には、「ナイチンゲール」というバーがあり、7人程座れる店内ではドローンやエレクトロニック・ミュージックがかかる。世田谷には「バレアリック飲食店」というカフェがあり、ファンが頭上で回転し、トロピカルな植物が店内を彩り、店名に相応しい音楽がかかる。三軒茶屋のDJバー、「天狗食堂」では常にパーティーが開催されている。さらにはハウス、ディスコ、テクノなどが聴ける小さなクラブも豊富にある。こういったお店の多くは街の目立たない所にあるため見つけるまでが大変だが、その隠れ家的な存在感がこれらのスポットをより魅力的にしているのだ。

    「東京には小さなバーや酒場が本当に沢山あるんだ。音楽にフォーカスしたものも、そうでないものも」と、DJ/プロデューサーのJonny Nashが言う。彼は2000年代前半に4年程日本に住んでおり、その頃Chee Shimizu、Dr Nishimura、Zeckyと共にDiscossessionというパーティーを運営していた。「そして良い音を大事にする文化と、オーディオ好きたちがいるから、そういったことが組み合わさって素晴らしいスポットが生まれるんだ」

    東京で小箱が沢山生まれてきた理由はいくつかある。そのうちのひとつは、スペースの問題である。風営法が改正される前、ナイトクラブは風俗営業の許可を取得する必要があったが、そのためには客室面積が66㎡以上必要になり、風俗営業許可を取得しても深夜営業はできなかった。そして法制度的に警察からの指導等を受けるビジネスリスクも高く、多くの経営者は風俗店ではなくバー(法的には「深夜酒類提供飲食店」)として営業するケースが多かった。小箱を運営するということはそのぶん利益も小規模になるが、以前から風営法の改正に向けて活動を続けてきた弁護士、齋藤貴弘は、そういった法律の仕組みが結果的に「商業化されていない、音楽愛に溢れたユニークな小箱がたくさんある」状態を生んだと話している。

    東京の小箱全てに素晴らしいサウンド・システムがあると言ったら嘘になるが、日本で16年間暮らしているDJ SprinklesことTerre Thaemlitzは、良い音への執着心が多くの小箱の共通点だと指摘する。「プレイしたことがある小箱はどこも、私からしてみると、完璧に近い音質を一貫して安定的に提供できているとは思わなかった」と、Thaemlitzは言う。「でも音の不安定さに柔軟に対応しようとする姿勢、そこが素敵だと感じた。技術的な柔軟性ももちろんだけど、何より、サウンド・システムを管理している人々の個人的な柔軟性。彼らは、自分たちのシステムは完璧ではないことを知っていて、それを楽しそうに、ちょっとオタクっぽく話してくれる。それに比べて大箱だと大抵の場合、PAはサウンド・システムを作った人、あるいは設置した人とは違う人で、サウンドチェックのときはシステムの弱点を認めようとしないし、バランスを変えたがらない。全く姿勢が違う。小箱の人は弱点を笑って教えてくれるだけじゃなく、場合によっては一緒になって対策してくれる。大箱の場合、何かを言うと面倒くさがるし、ただ早くイベントが終わってほしいって思ってるのが顔に出てることがよくある」



























    「Oath」、「Bonobo」と「Koara」はエレクトロニック・ミュージックに特化した小さなヴェニューとして人気だ。Oathは来日ツアーで訪れる海外のDJの間で特に人気なスポット。暖かい季節には店の外で煙草を吸ったり、会話しながら店内から聴こえる音楽を楽しむ人も多い。天井は赤く、壁は石造りで、朝日が差し込んでくる頃にはベルベットのカーテンが閉められる。ドリンクは全て500円という良心的な値段設定であり、近所に住んでる人だけじゃなく観光客も多く訪れる。

    Koaraは渋谷区神南の地下にあるDJバー。コンクリート壁のバーエリアの奥には照明の落とされたフロアが。Ureiのミキサー、McIntoshのアンプ、そして天井まで届くEAWのスピーカーが設置されている。筆者が訪れた夜には、DJたちが朝5時までハウスやテクノをかけていた。音には迫力がありながら、細部までしっかり聴こえる。フロアで音を楽しむ人々もいれば、バーで煙草をくゆらせ、ウィスキーを飲む人たちもいた。

    Bonoboは築55年の建物に入っている店。東京の建物のなかではかなり古いほうだ。フロアのキャパは50人、頑張っても60人ほどだろう。もともと白であったが煙草の煙で黄色味がかかった壁は湾曲し、まるで洞窟の中にいるような気分にさせる。DJブースには大きなAltecのスピーカーが2台、まるでセキュリティーガードのように仁王立ちし、フロアを見守っている。唯一の窓は小さく、まるで船の丸窓のようだ。「たいていのクラブって四角い部屋で、壁は黒じゃないですか」と、Bonoboのオーナー、成浩一が言う。「うちではカーブを描いた白い壁が欲しかったんです。何か違う雰囲気にしたくて」

    今年、DJ SprinklesがBonoboでDJするのを見る機会があった。このような親密な空間でThaemlitzを見ることができたのはラッキーなことだと感じた。彼女がスピンする感情的で心のこもったハウス・チューンはフロアをなんともいえない多幸感で満たした。成店長はただ音の鳴りを気にしていただけでなく、空調設備や、照明にも微調整を加えていたのが印象的であった。筆者が店に着いた時点ですでに店内が客でパンパンであり、その状態が朝まで続いた。成と目が会ったとき、彼はこちらに歩いてきて、フロアを指差し、「小さすぎる」と笑った。

    12年前にBonoboをオープンした成浩一は、よく笑うフレンドリーな人だ。1989年から1999年までニューヨークに住んでいた経験があり、その後半にはThe Loftによく足を運んだと言う。David Mancusoが主催する伝説のパーティーに感化され、彼は日本に戻ったあと、ある人物との出会いにより自身の店を始めることを決心した。Bonoboが入っている建物の以前のオーナーはスピーカー職人であり、防音室を作っていた。「彼は年をとっていたのもあり、そのスペースを使ってくれる人を探していて。僕が使うことを申し出たんです」と成は言う。「当時、オーディオのことはあまり解っていなかったんだけど、The Loftの音の鳴り方はよく覚えていて、あそこのような音にしたいと考えたんです。そうするうちに、音質というものにのめり込んでいって」











    6年前にBonoboで火事があり保険金が出たため、彼は建物の1階に小さなレストランや、チルアウト・スペースも造っている。「ハウス・パーティーの雰囲気を再現したいんですよ」と、彼は言う。「東京だと自分たちの家で実際にハウス・パーティーをやるスペースがない。Bonoboはそんなハウス・パーティーの空気が楽しめる場所として存在してるんです」。音楽はハウスやテクノがメインだが、成によると最近4ピースのジャズ・バンドがライブを行っており、たまにノイズやハードコア系のバンドもライブを披露するそうだ。

    この店では音量よりも音質を重視しているそうだ。「そうしたほうがパーティーが長く続く」とSeiは言う。「人が長いこと居たくなるような場所にするには、サウンド・システムの質が高い必要があるんです。そうすれば会話ができるし、ダンスができるし、近隣からクレームがくることもない」

    これは風営法がもたらした考え方でもある。「警察が来ると、スタッフがベースを下げているところを良く見かける。音楽がそれほどうるさくない、ダンサブルじゃないと思わせるために」と、風営法についてこれまで多くの文章を綴ってきたThaemlitzは言う。「大抵の人は音の変化に気が付かないと思う。小箱だったら、低音をある程度切っても音質に問題がないことが多い。でもそれは結局、サウンドシステムの本来の音ではない。これは風営法がダンスを規制していること、そして近隣からのクレームで警察が来ることを避けたいことから行われてる。一番大変なのは、箱のオーナーやスタッフが常にリスクを背負って仕事していることだと思うね。そんなストレスは最悪だし、健康的ではない」

    風営法の改正により、クラブシーンの法的にグレーゾーンだった一部が適法化したが、それが東京の小さなバーや音楽カフェにどういう影響をもたらすかはまだ定かではない。ライオンのようなクラシック音楽をかける喫茶店などは鑑賞型と言われる営業形態のため、もともと法規制の対象とはならない。対象となるのは音楽等によって客にダンスをさせるなど、お店の働きかけで客に「遊び興じさせる」営業形態であるとき。その場合営業許可を取得する必要がある。

    「ただ、その区別は曖昧で」と、齋藤弁護士は言う。「いわゆる良い音響での音楽を提供するDJバーのような店舗がどちらの営業形態に属するかは、今回の法改正でも明確に示されていません」。齋藤弁護士が言うとおり、「遊び興じさせる」という表現は曖昧であり、小箱の多くは法的にグレーゾーンにいるままだ。「これまで法改正に対して要望を出してきたのは大箱がメインであり、必ずしも小箱の利益は反映されてはいません」と、彼は言う。「今後、法改正がどのような影響を与えるかは、小規模なヴェニューが今後どのようなシーン形成を望み、どのように動くのか、によると思います」



























    素晴らしいRey Audioのシステムを装備したDJバー、「Bridge」はビルの10階に店を構えており、窓からは渋谷のスクランブル交差点が見下ろせる。同店の店長、有泉正明は風営法に直接悩まされてきたひとりだ。彼はかれこれ30年に渡って東京のナイトライフ・シーンに携わってきた。1986年、西麻布のP. Picassoというクラブで店長をしていたときに摘発があり、彼は20日間留置所に入れられた。2000年、青山Mixで働いていたときも同じ目にあった。このときの体験は実に奇妙なものであったそうだ。「この時はたまたま俺が休みの時に立ち入りがあり、部下のマネージャーが20日間拘留された」と、有泉が話す。「店長は俺だから交代させろと毎日警察署に出向いたが、無理だった」

    風営法が最近改正されたことについて、彼は喜びを露わにした。「やっと日本もビクビクせずに踊れる国になったので良かったと思います」。改正が小箱にどういう影響を及ぼすかはまだ「様子を見ている状況」と話した。











    東京で小さな音楽ヴェニューを経営していると降りかかる様々なプレッシャーにも負けず、日常の喧騒から乖離され、まるで周りとは時の流れが違うと錯覚してしまうほど特種な空気を醸すことができているお店もある。例えば、渋谷のとある無個性のビルの2階に入っている「JBS」というお店がそのうちのひとつ。木製の壁��はOld Grand-Dad、Old Crowなど、ウィスキーやバーボンのボトルと共に、1万枚を超えるレコードが並んでいる。JBSのオーナー、小林カズヒロが思い切って脱サラをし、このジャズ・バーをオープンしたという経緯はまるで村上春樹の小説に出てきそうなエピソードだ。

    筆者はJBSに足を運び、小林オーナーの仕事ぶりを眺めることができた。(この特集のためにインタビューを試みたが、残念ながら断られてしまった)10人程度のお客さんにドリンクを出す合間、彼はバーカウンターから出てきてレコードを棚から引っ張り出しては、プレイヤーにのせていた。まずはReuben Wilsonの1972年のLP 『The Sweet Life』、それからJames Brownの『Hell』。彼はLPを棚から取ると、バーに戻り、針を落とし、しばらくAltecのスピーカーを睨んだあと、そっと音量を調節する。そしてLPジャケットをカウンターの角のライトで照らされている所に飾り、今かかっているレコードがひと目でわかるようにしていた。

    JBSとは音楽性が異なるが、同等にディープな体験をさせてくれるのがナイチンゲール。見つけにくいお店が多数ある東京のなかでも、群を抜いて発見することが困難なお店だ。新宿のゴールデン街という、小さなバーが密集した迷路に潜んでおり、Oneohtrix Point Neverのステッカーが貼ってあるドアが目印。店内には7つのシート、ソファ、ピアノ、バー、JBLのスピーカーとMcIntoshのアンプがある。ナイチンゲールの壁や天井には様々なものが飾られており、見ていて実に飽きない。ワニのおもちゃ、家畜の骸骨や骨、ネオン色の造花。バーカウンターの奥の小さなテレビには、1920年代のムーディーな映画が静かに再生されている。筆者が訪れた夜には、SoftwareからリリースされたCo Laのアルバム『No No』や、Mika VainioのGagarin Kombinaatti名義の『83-85』といった絶妙にヘンな音楽がチョイスされていた。











    Grassrootsはナイチンゲール並にエキセントリックなインテリアを擁するお店。東高円寺の静かな裏通りにあり、入り口は目立たないドア。カウンターの向こうのコルクボードの小さな無数の穴から日が差し込むと、まるで星が瞬く銀河のよう。ドアやスピーカーはびっしりとステッカーで覆われている。DJブースは木や竹に隠れ、フロアの端にある大きな丸太が椅子の代わりをしている。筆者がGrassrootsに訪れた夜、DJは1930年代のラブソングをかけており、JBLのスピーカーから流れる暖かいアナログの音が店内を満たしていた。木の根っこがライトで照らされ、魔法にかけられた森にDJブースが存在しているかのようであった。

    Grassrootsをフェイバリット・スポットに挙げる日本のDJは多い。ディスコ、ハウスやテクノ作品をリリースしてきた日本人プロデューサー/DJのGonnoは、GrassrootsがOath、Bonobo、Tunnelと並んで東京で一番好きなお店だそうだ。「純粋に音楽を聴くこと、踊ることが好きな人が集まる場所だから好きですね」と、彼は言う。「そのときの雰囲気で求められてると思ったら、小箱でもがんがんテクノをかけます。小箱でプレイするのは大箱ではかけられないようなものをかける良い機会でもあると思います。例えばジャズやファンク、現代音楽とか、いわゆるクラブ・ミュージックじゃないスローなものとか。僕自身はGrassrootsでは数回しかプレイしてませんが、遊びに行く側としてもGrassrootsや他の小さなお店の魅力はそういった、良い音楽なら何でも掛けられるし聴くことができるところだと思います。」

    幅広い音楽性を持つが、特にディープでヒプノティックなテクノで知られるDJ Nobuは、Grassrootsで印象的なDJプレイを披露してきたうちのひとり。彼が出演したパーティーが、20時間以上もぶっ通しで続いたこともあるという。「2年前のアニバーサリーは、翌日の夜8時までDJしていました」と、彼が言う。「GrassrootsでDJする時は、特定のジャンルじゃなく好きな音楽をかけています。Grassrootsのような小箱は大箱と違って、距離感が近いから濃密な空気感が生まれやすいのかな」



























    “Qさん”こと鈴木寿之は、かれこれ19年Grassrootsを運営してきた(Grassrootsをオープンする前は6年間、同じ場所にあったレゲエ・バーを手伝っていた)。鈴木店長によると、JBLのスピーカー、手作りのアンプ、1点モノのスーパーツイーターなどを装備したGrassrootsのサウンドシステムでは、ジャズが一番良く鳴るらしい。「インターネットやフライヤーの情報がない時代の、普通の日の方が面白かったなっていうのは正直ある」と、彼は言う。Grassrootsの元レジデントDJ、DJ Hikaruが5、6時間のセットを平日にプレイしていたときのことを懐かしそうに語る。「パーティーじゃない、すごく日常な日の方が、面白いことがたくさん起こっていた気がするし、今もそう思っている」。Grassrootsには、若いお客さんが沢山足を運んでいるわけではなく、そもそも日本の少子化問題はクラブシーンにおいても深刻な問題なってきているが、実際に訪れる人々はこのお店の「まるで家にいるような居心地の良さを楽しみに来ている」のだと言う。

    「まるで家にいるよう」。東京の音楽好き向けの小規模ヴェニューは、音の良さだけでなくアットホームな雰囲気づくりもとても重要視している。ひとりの時間を味わいたい人であっても、他人と会話がしたい人であっても、ここに来ればぽっかりと心に空いた穴を満たすことができる。その暖かさはSHeLTeRにも、Grassrootsにもあった。そして、三軒茶屋の「Orbit」もまたしかり。ここではお客さんは靴を脱いで上がる。筆者が行った日にはテーブルを囲み、カセットコンロで鍋をやっている人たちがいた(一杯いただいてしまった)。壁には白熊やオウム、キリン、シマウマなどの絵が飾られていた。2015年に店長になった石丸貴久によると、Orbitは以前、照明が落とされたフロアがありクラブのような雰囲気であったそうだが、2008年頃からはより人間味のある空間になったという。ダンスパーティーは行われるが、アンビエント、レゲエ、ヒップホップなど、かかる音楽はテンポが遅めのものが多い。

    Bridgeの有泉は、「サードプレイス」という考え方に触発されたと語る。アメリカの社会学者Ray Oldenburgが提唱したこの概念は、自宅、職場以外で人々が時間を過ごす場所のことを指す。「文明が発達していく中で、人は家と職場の往復ばかりになっている」と、有泉が言う。「サード・プレイスとは、家でも職場でもない3番目の場所。誰でもリラックスできるコミュニティであり、歓迎されて、でも緊張感もあるっていう場所が、人間には大事なんじゃないかっていう考え方。この店をオープンする時に、その“サード・プレイス”について書かれた本を紹介されて、“俺がやりたいのは正しくそれだな”と。仕事の話をしてもいいし、愛を語っててもいいし、踊っていてもいい。人間にはそういう場所が必要だと思う」

    SHeLTeRの野嶌は、東京の人々にとって現実から逃避できる場所を提供したかったのだと言う。「DJやお客さんたちには、喋って飲んで聴いて、ゆるく。身体を揺らしたり、全然自由にしてほしい」と彼は言う。「日々の生活に疲れた人たちが、ここで淀んで、疲れを癒してくれればいいかなって。普通のことだよね」






    店舗所在地 /
    バレアリック飲食店
    〒156-0051 東京都世田谷区宮坂1-38-19

    Bonobo
    〒150-0001 東京都渋谷区神宮前2-23-4

    DJ Bar Bridge
    〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1-25-6 パークサイド共同ビル10F

    DJバー天狗食堂
    〒154-0004 東京都世田谷区太子堂5-15-11 ケーテー三軒茶屋3F

    Forestlimit
    〒151-0072 東京都渋谷区幡ヶ谷2-8-15 幡ヶ谷KODAビルB1F

    Grassroots
    〒166-0003 東京都杉並区高円寺南1-6-12

    Koara
    〒150-0041 東京都渋谷区神南1-13-15 光立ビルB1F

    名曲喫茶ライオン
    〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂2-19-13

    Oath
    〒150-0002 東京都渋谷区渋谷4-5-9 青山ビル1F

    Orbit
    〒154-0004 東京都世田谷区太子堂5-28-9 B1F

    SHeLTeR
    〒192-0071 東京都八王子市八日町1-1 NKビルB1F

    裏窓
    〒160-0021 東京都新宿区歌舞伎町1-1-7
    • 文 /
      Aaron Coultate
    • 掲載日 /
      Wed, 19 Oct 2016
    • 翻訳 /
      Danny Masao Winston
    • Photo credits /
      Ryu Kasai
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